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85.悪役令息になってしまった話

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最近婚約者である殿下が冷たい。成り上がりの男爵子息とばかり仲良くしている。

男爵子息に身分を弁えろと諭したら、逆に殿下から説教され睨まれてしまった。

このままでは生家の侯爵家すら軽んじられてしまう……秘密裏に男爵子息を暗殺する依頼を出したところで、気づいた。

「あれ、僕って悪役令息じゃん」

男爵子息を殺そうとして殿下に阻止され、身一つで国外追放(実質死刑)されるところまでが脳裏に浮かび、青ざめた。

やばい。何がやばいって、もうすでに暗殺依頼を出してしまったことだ。

依頼を取り消すと裏社会から睨まれる。

後ろ暗いことを成し遂げるからこそ、共犯関係のように秘密が守られるのに、一方的に契約を破棄したら、こちらが暗殺されてもおかしくない。

「男爵子息に暗殺者が向かわないようにしないと……」

かくして、暗殺依頼した相手を更に秘密裏に守るという、謎のミッションが発動した。

腹心の部下と共に、暗殺者が近づく前に犯行を阻止する。

毒を入れられた飲み物は給仕に化けて(部下が)すり替え、車輪を細工した馬車には、偶然通りがかった整備士のフリをして(部下が)直し、

薄氷を踏むような毎日を過ごしていたところ、殿下に見咎められた。

「最近押しかけてこないが、こそこそと何をやっているんだ?」
「大切なことなのです、殿下相手であっても言えません」
「ほう……?」

関わりを絶っていた殿下に興味を持たれてしまい、冷や汗をかく。

なぜかまた好意的に接してくれる殿下。

きっと秘密を暴こうとしているんだと避けようとするが、回り込まれてお茶会やら夜会にパートナーとして連れ回される。

ダンスの最中熱心に見つめられると、恐ろしさと共にときめきも感じるのだから始末に終えない。

殿下の目を掻い潜りながら、男爵子息を守る日々が続いた。

「なんで僕が、嫌いなアイツのためにこんな面倒なことを続けなきゃならないんだ……」

自分のしたことを棚に上げて文句を言いながら、何度目かに押収した毒入りワインを廃棄しようとしたところ、殿下に見つかった。

「待て。それを見せろ」
「で、殿下……! あの、これはですね決してやましいものではなくて」

わたわた手を振って隠そうとするも取り上げられ、ワインの匂いを嗅がれる。

ほとんど無臭だがわずかに毒の匂いを感じたのだろう、殿下の眉が寄った。

(終わった……)

「そうか。やはりお前が……助かったぞ、さすが私の婚約者だ」

「へ?」

「男爵子息に差し向けられた暗殺者の襲撃を、未然に防いでくれていたのだろう? 私の仕事に配慮し行動してくれて礼を言う」

実は男爵子息は新しい技術を開発した、国にとっての要人で、それをよく思わない複数の者から暗殺者を手配されていたらしい。

「最初はお前も暗殺者を差し向けた一人かと思っていたんだが、実際には私を助けてくれていたんだな」
「ええっと、はい、あの、そのようなもので……」

冷や汗を垂らしながらぶんぶん首を縦に振ると、勢いよく抱きしめられた。

「で、殿下!?」
「ありがとう、最近冷たい態度をとっていたのに信じてくれて。これからはまた一緒にいられるぞ」
「え、殿下は男爵子息が好きなんじゃ?」
「なぜそんな誤解をした」

実は男爵子息が余りにも危うい立場なため、殿下自ら人を近づけないよう牽制していたらしい。

「そうか、最初はお前のことも疑っていたから、冷たい態度をとってしまったな。申し訳なかった、お前は私を助けてくれていたのに」

いえ自分も暗殺者を手配した一人ですとは、死んでも言えない。全力で言葉尻に乗っかることにした。

「殿下のお役に立てて光栄です」
「やはり私にはお前しかいない。愛している」

うわーと内心叫びながら抱擁を受け入れた。

嬉しいけど心臓に悪いと、やはり婚約者を辞退しようとするが、避けるとますます殿下が追ってくる。

最終的には情熱的な殿下に絆され、一緒になりましたとさ。
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