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84.運命の番に惹かれたくないオメガ

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オメガだと色眼鏡で見られるのが嫌で、ベータのフリをして生きてきた。

誰よりも努力をして、やっとみんなと同等レベルの仕事しかできないが、自立した生活を送ることに誇りを持っていた。

なのに運命の番と出会い、状況が一変してしまう。

理性では認めたくないのに、本能で強烈に惹かれて、気がつくと腕の中にいて抵抗できなかった。

アルファはオメガを情熱的に口説き、なし崩しに番にしてしまう。

こんなはずじゃなかった。誰とも恋愛する気はなかったし、ましてや番を作るなんて考えたこともなかった。

抱かれながら頸に牙を立てられ、あまりのことに泣き出したオメガを、アルファは気遣わしげに見つめる。

「どうした? 痛かったのか?」
「違う……! なんで、勝手に番にした……!」
「だって運命の番だよ? 出会った瞬間、君以外の人は考えられないと思った。君だってそうだろう?」

言葉に詰まる。ここまで流されてしまったのは、確かにアルファに惹かれたからだ。

「愛してるよ」
「俺は……っ、お前のことなんて……!」

嫌いだと言ってしまいたかった。
勝手に番にするなんて許せない、人生計画が滅茶苦茶だ。

そう思うのに言葉が出てこない。

嫌いだと言いきれないほど、肌をあわせるのが心地がいい。

大切な失くし物を見つけた時のような、心の底から安心できるような感覚を、アルファに対して感じている。

「お前の、ことなんて……」
「愛してるよ」
「う……っ」
いいとも嫌とも言えないまま、運命の番と出会ったことで起きた発情期の熱に流された。

発情期が終わってもアルファはオメガの元に通い、誠心誠意尽くしてくれる。

こんなに優しくされたら絆されてしまう、一人で立てなくなると恐怖し突っぱねると、アルファは悲しそうに呟く。

「僕が君を愛するのは、迷惑なのかな」
「……」

今すぐに抱きつきたい本能と、平穏を乱す敵を排除しろと叫ぶ理性が入り乱れて、一言すら話せない。

「そんなに嫌なら、普段は会わないようにするから。悪いけれど、発情期の時だけは抱かれてね? でないと君が辛い思いをする……」

言葉の途中で彼の腕を掴み引き留めた。
普段は会わないようにする? そんなのは無理だ、耐えられない。

もうとっくに一人でいるのが不可能になっていると、改めて気づいて涙した。

「君は泣き虫だね」
「煩い、ひぐっ……お前のせいだ」
「そうだね、僕のせいだ。責任をとらせてね」

グッと肩を引き寄せ抱きしめられて、心から安堵した。

これからどうなるのか、番のいる人生なんて想像すらしたことがない。

けれど彼が側にいてくれるのなら、これまで思い描いていた幸せを捨てたっていいと思えた。

悲壮な覚悟で同棲し始めると、想像以上に幸せで。

いつしか眉間に常に居座っていた皺もなくなった。

泣くのはもっぱら感動映画を見た時か、ベッドの中だけになったらしい。
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