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73.推しを拾った

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一目で恋に落ちた。

彼は駆け出しのアイドルグループの一人で、ステージの一番隅でとんでもなく楽しそうに笑っていた。

なぜあんなに楽しそうに踊るのか気になって、輝く笑顔から目が離せない。

気がつけば受けは推しのグッズを部屋が溢れるくらいに揃え、握手会があれば西へ東へ奔走し、誰よりも彼を推す筆頭ファンとなっていた。

「推しくん、応援してます!」
「今日も来てくれたんだファンさん、いつもありがとう!」

周りのファンはほぼ女子ばかりで浮いているのに、アイドルくんは男だからって対応に差をつけたりせず嬉しそうに手を振ってくれる。

もう一生推すつもりで推し活に励んだ。

ある夏の日に推しの誕生日だからと、一ヶ月かけて用意した大量の天幕や飾りを抱えて、握手会の会場に出向く。

しかし、なんと推しは体調不良で欠席していた。

とぼとぼ荷物を抱えて辿る帰り道、行き倒れでいる人を見つける。

「お……おおおおおっ、推しくん!?」
「僕、どうしても行かないと……」

彼はプロ根性で握手会に向かうところだったらしい。

「無理ですよ! 触っただけでめちゃくちゃ熱いのに」

事務所にも病院にも連絡しないでくれと言われて、困り果てたファンくんは家に連れ帰った。

推しくんは次の日の昼まで寝ていた。

起きるとすぐ窓の外を見て叫ぶ。

「握手会は!?」
「終わっちゃいました」
「ああ……」

がっくりと項垂れる推しくん。

「どうしても会いたい人がいたのに……ファンさん、ごめん……」
「えっ、俺?」

自分の名前が出てきて面食らう。

呟きを聞いて振り向いた推しくんは、目を見開き驚く。

「あれ? ファンさん? ひょっとして助けてくれたのって」
「俺です」

推しくんはファンくんの顔を見てから部屋を見回し、誕生日グッズの山を愕然としながら眺める。

「うわああ、ごめん! こんなに用意してくれてたのに介抱させちゃって、ダブルでごめん!」
「いえ! いいんです。推しくんが元気になってよかった」
「それじゃ俺の気が済まないよ! 何かお詫びをさせて!」

後日、変装した推しくんと街で買い物をすることになった。

「晴れてよかったね」

屈託なく笑う推しくんの隣で、ファンくんは内心忙しくてしょうがない。

推しが隣にいる、息をして動いてて話しかけてくれる!

私服姿きゅんすぎて召されそうだと鼻血を耐えていると手まで握られた。

「へへ、デートみたいだね」
「……!」

数秒呼吸を忘れていた、死ぬかと思った。
心臓にドキバク負荷をかけまくっているファンくんは、推しくんの心臓が、同じようにドンドコうるさく鳴っていることを知らない。

(ファンくんの本気の推しっぷりに僕の方が惚れちゃったんですって、いつ伝えよう……そもそも恋愛感情はないかもしれないし、どうしたら好きになってもらえるかな)

両片思いのままデートを重ねて、アイドルメンバーからいつくっつくのかと、ヤキモキされればいい。
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