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52.勇者と羊飼いの話

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突然王から世界を救えと命じられた羊飼い、実は勇者の血筋だったらしい。

「冗談じゃねえ、可愛いナタリー(羊)が待ってんだ、帰らないと!」
「使命を終えたら帰れるよ。羊は王宮で預かってもらえるから一緒に頑張ろう」

旅に同行予定の王子に愛想よく笑いかけられる。どうしてこんなことに。

とにかく魔王を倒さなきゃ帰れないので、牧羊犬と力をあわせて魔物と戦う。

「お前も戦えよ!」
「僕白魔導士なんで」

息のあった人と犬の主従は怪我なんてせず、王子はいるだけの状態。

「今回の勇者は羊飼いって聞いたからどうなるかと思ったけど、君強いね」

優雅に微笑むだけの無能王子なんか知らんと、羊飼いは猛然と旅路を進む。愛しのナタリー(羊)に会うために。

しかし急ぎ過ぎたようで、ついに怪我を負ってしまう。

足に痺れが残りそうな怪我もちょいちょいっと治してくれて、王子やればできるじゃんって見直す。

「もうちょっと無茶しても大丈夫そうだな」
「やめてよ、君の美しい肌に無駄に傷跡を残さないで」
「どこが綺麗なんだよ」

日に焼けて、細かな傷で薄汚れた風体をしているのに。王子は首を横に振って微笑む。

「綺麗だよ、君が今まで頑張ってきた証拠が身体に刻まれているんだ」

その声音や眼差しの強さにどきりとして、そこから羊飼いは王子を意識するようになる。

彼はどこまでも優雅で余裕があって、勢いで乗り切ろうとする羊飼いの行く先をさりげなくフォローしてくれて。

羊飼いが旅の道中に崖崩れや盗賊被害、物取りなどに会わずにすんだのは彼のお陰だと気づく。

いつからなんてきっかけはなく、気づいたらその横顔にキスをしたいと思うようになっていて。

だけどこれは報われない恋だ。

彼は王族で、自分は羊飼い。勇者として華々しい功績をあげても、平民である自分とは相容れない。

恋心を押し殺して旅を続ける。ついに魔王を倒して王都に帰る日、王子は思い詰めた目で言った。

「君が好きだ。ああ、もちろん返事は期待していない、故郷に愛しい者が待っているだろうからね」
「は? あ、ナタリーのことか?」

頷く王子の熱のこもった瞳からは、切ないほどの恋情が読み取れて。羊飼いは王子の胸に飛び込んだ。

「えっ⁉︎ 心に決めた人がいるのでは?」
「そんな人いないよ、俺が好きなのはアンタだ!」
「なっ、ナタリーは?」
「羊の名前だ」

真面目な顔でお互いの顔を見合った二人は、次の瞬間ぷっと吹き出した。

「なんだ、そうなのか……安心した」
「でもいいのかよ、俺は羊飼いだぞ?」
「世界を救った英雄だ。誰にも文句は言わせないよ。幸せになろうね」

ギュッと大切そうに手を握られて、羊飼いも力強く握り返した。

「ああ、お前とならどこに行ったって幸せになれるさ!」

そうして英雄となった羊飼いと王子は、末長く幸せに暮らしました。
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