ツイノベ倉庫〜1000文字程度の短編集

兎騎かなで

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42.ベータに恋したオメガの話

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絶世の美人に生まれたオメガの美少年は、可愛い綺麗って愛でられて育ち、自尊心が天より高かった。

家柄もいいから、アルファからの結婚申し込みもわんさか来て選び放題。

人生ちょろいと余裕ぶっこいてたのに、恋に落ちた相手はまさかのベータだった。

初めて会ったのは高校の校舎裏で、花壇に花を植えている地味な姿だった。

地味男には興味ないけど、花は綺麗だから好きだ。戯れに話しかけた。

「なんの花を植えてるの?」
「ああ、これはクレチマスです」

自分の顔を見てもやたら見惚れたりしてこないし、花の知識が豊富で話していて楽しい。

気がつくと足しげく地味男の元に通っていた。

見合い相手から、聞き飽きた言葉で容姿を褒め称えられるより、彼の淡々としているのに花への愛情を感じさせる言葉の方が、よほど好きだ。

冬の雨の日、まさか今日はいないだろうと思ったのに、彼は花壇の前でしゃがみ込んでいた。

「傘も差さずに何してるのさ、風邪引くよ?」
「忘れてきたんだ。それよりも見てよ、そろそろ芽が出そうだ」

その時の彼の横顔が、造形ではなく笑顔の優しさが、とても美しくて。

本当に綺麗なものは心に宿るんだと、ストンと腑に落ちた。

次の日から、彼の落ち着いた声や勤勉な手に、なぜか心が騒ぐようになって。

それなのに、彼は自分に見向きもしない。

「ねえ、花じゃなくて僕の方が綺麗じゃない?」
「……あまり人の美醜に興味はないんだ」

彼は美少年の顔を無感動に眺めた後、若芽を慈しむように見る。

(その花の方が、僕より大事だって言うのか)

悔しくなったオメガは父に頼んで、園芸部の彼を婚約者にしたいと告げた。

子どもに甘い父だったが、流石にベータとの婚約は認められないと首を振る。

ぶすくれながら花壇にやってくると、彼が満面の笑みで話しかけてきた。

「見てくれ、花が咲いたんだ」

こんなもの、と思いながら見た花は悔しいけれど綺麗で。それを見つめる地味顔の彼も美しくて。

気がつくと頬が自然と綻んでいた。

美少年の顔を見て、初めて気づいたみたいに彼が言う。

「君って、すごく綺麗な人だったんだね」

普段言われ慣れている言葉なのに、彼に言われるとこんなにも嬉しい。

ああ、どうしようもなく恋をしている。

真っ赤になった顔を不思議そうに見つめた地味くんは、美少年に尋ねる。

「そういえば君、名前は?」

前途多難すぎる恋の、始まりのお話。

この後ツンデレと化した美少年に、距離をジリジリ詰められながら、気がついたら外堀を埋められてる地味くん。

珍しい花の種とか融通してくれるし、花の話を興味深く聞いてくれるから、まあいいかと流される。

美少年の粘り勝ちでつきあいはじめたと知った彼のパパから、ベータなど認めん! と引き離された後、ぽっかり胸に穴が空いた気分になる地味くん。

きっとその時初めて、自分も美少年を愛していたことに気づくんだろうな。
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