ツイノベ倉庫〜1000文字程度の短編集

兎騎かなで

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32.乙女ゲームの世界に生まれ変わった可哀想な従者の話

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気がついたら生まれ変わっていて、乙女ゲームの世界の中にいた。
どうやら自分はモブっぽいが、うちのお嬢様はめちゃくちゃ煌びやか。そして顔も性格もキツイ。
これはあれだ、成長したら悪役令嬢になる……!
残念ながらモブもお嬢様の親戚筋のようだ。このままでは巻き込まれて処刑されてしまう。
勇気を出して、誰もなりたがらないお嬢様の従者に立候補した。
当然のようにいびられて、こんちくしょうと思いながらも、お嬢様に真っ当な道を説き続ける。
「いいですかお嬢様、酷い行いをすると必ず報いが返ってくるんですからね!」
「お前はいつも口ばっかりね。私を止められる人なんて、誰もいないわ!」
ある日お嬢様の見合い相手の屋敷へ出掛けたが、嫌がらせで置き去りにされてしまう。
しょうがない、自分の足で帰るかと待ちぼうけていた部屋から出ると、お嬢様の婚約者の弟と出くわす。
「あれ、君は兄の婚約者の従者じゃないか? なぜこんなところに」
モブは閃いた。お嬢様の性格の悪さをこの人にバラして、今のうちに婚約を破棄させれば、一族ごと破滅させられることはなくなるのでは?
いかにお嬢様の性格が悪いか熱弁したが、自分より背の低い弟くんには首を傾げられる。
「でもそういう跳ねっ返りで元気なところが屈服させたくなるからいいって、お兄様は言っていたよ?」
なんと、あの性格の悪さを現時点では気に入っていたなんて! 衝撃を受けて固まっていると、弟は企むように笑う。
「君、面白いね。そんなにお嬢様が嫌なら僕の従者にならない?」
「え、私には大切な使命があるので結構です」
「なってくれないなら、君の言っていたことをお嬢様とその親にバラすよ?」
「ぴぇ!?」
食わせ者の兄の弟もイイ性格だった。読み間違えた従者はそのまま弟の従者になる。
弱味を握られたままでは言いなりになるしかなくて、昼も夜もオモチャにされてしまう。
「君ってほんとにいい反応するよねえ、僕の理想だ」
「ひ、やめて、もう♡  おかしくなるっ!」
「なってよ、僕のことだけ考えてて!」
「やぁっ!♡ 」
体は言いなりにできても、心はなかなか屈服しなくて。そんな従者を弟は本気で愛するようになり、従者の方もだんだん態度に愛おしさが滲み出す弟に、絆されていく物語。
余談だけど、お嬢様はモブの影響で少しは人の気持ちを考えられるようになり、そのまま兄の婚約者の座に収まり続ける。
いざ婚姻し屋敷に移り住むと、監禁同然の扱いを受けながらも、めちゃくちゃ弟に可愛がられている従者と再会する。
「貴方、もしかして私が置き去りにしてから、ずっと屋敷にいたの!?」
「うえぇんお嬢様~! 助けてください!」
「駄目だよ、君は僕のお嫁さんなんだから。泣き真似をしたって許してあげないよ? 君だって僕に虐められるの嫌いじゃないって、わかってるんだから」
「や、やだ、こんなところで♡ 」
「あら、相思相愛なのね」
「違っ……くは……ない、です」
「そうだよね、違わないよね」
「……はい」
結局、お嬢様と従者はお互いによき相談相手となりましたとさ。めでたしめでたし。
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