王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない

兎騎かなで

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第二章

エピローグ

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 今晩は早めに仕事を切り上げて帰ってきたガレルと共に夕食を食べた後、俺の部屋に戻っていそいそとクリストバルにもらったグラスを用意した。
 メイドに適当につまみも頼んだし、準備万端だ。

「では、俺達の婚約を祝して」
「かんぱーい!!」

 婚約したのは春で今はもはや夏だけど、めでたいことだし何度祝ったっていいよな!

 俺のためにわざわざガレルが取り寄せたという酒は、飲みやすいと評判の酒らしい。見た目は白ワインみたいだ。
 一口含んでみると、アルコール特有の熱が喉を通過していく。

 ……うん、白ワインだな! えぐみも雑味も少なくて美味しいワインだ。

「どうだ?」
「飲みやすいし、美味しい。これならどんどん飲めそう」
「あまり飛ばしすぎるな、お前がどの程度飲めるかまだわからんのだからな」
「わかってるって」

 チビチビと飲んでいるとさっそく頬が火照ってくる感じがした。この体はもしかしたら匡よりアルコールに弱いのかもしれない。
 匡だった時は白ワインなんて余裕で一本飲み干せたもんだが、同じ感覚でいると危険だな。

 ガレルも俺の頬の赤みに気づいて指摘してくる。

「赤くなっているな、体質的に酒が合わないのか? 気分はどうだ」
「悪くないよ、ふわふわする。あんま強くないっぽいから、そんなに飲まないようにするな」
「ああ」

 テーブルの向こうの椅子に腰掛けるガレルはラフなシャツ姿だ。酔った頭のフィルターで見てもやっぱりカッコいい。

「なんかさ、ガレルってかっこいいよな」
「ほう、そう思われていたとは光栄だ」
「いつも思ってるってー」

 ケラケラと笑う俺を前にして、ガレルも嬉しそうに頬を緩めている。
 あれ、言ったことなかったっけか?

「そうだったのか。他には?」
「んー、目が怖い」

 ガレルは弾かれたように笑った。

「ハハハッ!」
「でも綺麗。怖いけど見ちゃう。そういう感じだ」
「そうか。俺はユールの紫の瞳はとても神秘的で綺麗だと思う。お前の美しさをより引き立てているな」
「あー俺も鏡でユールを見た時、なにこの美少年って思った」
「人ごとか? 今のお前はタダシではなくてユールなのだろう?」
「あー、そうだったわ。俺ってば美少年。いや、成人迎えたし美青年? でも見た目は少年のままなんだよなー、くっそー」
「ククク……」

 ガレルが笑いを堪えている。楽しそうでいいなー。なんか俺まで楽しくなってきた。
 俺は立ち上がってガレルに声をかけた。

「ガレル、そっち行っていいー?」
「ん?」

 一人がけの椅子に座るガレルの膝の上によじ登り、膝の上に座る。ガレルはフッと楽しそうに笑った。

「もう酔っているな?」
「そだなー、楽しい」
「それはなによりだ」
「ははっ、ガレルーぅ」

 俺はスリスリとガレルの厚い胸板に頬を擦り寄せた。ガレルは力強い腕でそんな俺を抱きとめた。優しい声が頭上から降ってくる。

「なんだ?」
「ふふふ、楽しいー」
「さっきも聞いたぞ? この酔っぱらいめ」
「そうだっけ? ははっ……ふわぁ」

 ガレルは筋肉が多いからか俺より体温が高い。抱きあっているとポカポカして眠くなってきた。

「……なんか眠いんだけど」
「ユールは酔うと眠くなるのか? こんなに可愛らしい上に眠くなってしまうとは、たいそう危険だな。俺の側以外では決して酒を飲まないでくれ」
「うんうん、わかったぁ……」

 あー、安心するわー……酔ったらエッチな展開になるかもって思ってたけど、普通に寝落ちしそうだなこれ。やば、目蓋が重い……

 そっと髪を撫でられて、俺はアッサリと眠りの淵に転げ落ちてしまう。愛情に満ちた声が意識の端で聞こえた。

「おやすみユール、よい夢を」

 大好きな人に抱かれて眠るのは、酷く心地がよかった。





 眠ったユールを腕に抱えた俺は、小さな体を慈しむように頬に口づける。淡く色づく頬は滑らかで、いつまでも触っていたくなる。

 神秘的で美しい容姿の我が婚約者殿を、手中に収めたいと願う者は後を絶たない。
 今回も何事もなく腕の中に戻ってきてくれたと安堵の息を吐く。

 安全な鳥籠から自由な世界に飛び立ったばかりの彼は警戒心がなく、ガレルはハラハラさせられ通しだ。

 しかしそれでも、小鳥は自らガレルの元に帰ってこようとする。そして笑顔で今日はこんなことがあったと話すのだ。

 この笑顔を守るためならば、多少の冒険心は許容しようではないか。

「ん……」
「起きたか?」

 声をかけると、ユールはむずがるように額を胸にすりつけてくる。

「んにゃ……ガレル……」
「なんだ?」
「好き……」

 蚊のなくような小声で呟いたユールのかわいさに、ガレルはうめいた。

「くっ……いかん、また手を出してしまうところだった」

 寝込みを襲うと高確率で次の日に同衾を拒否されると気づいてからは、ガレルはできる限り起きている時に同意をとってから事に及ぶように配慮していた。

 だがこんなにかわいいところを見せつけられては、決心が揺らぐではないか……!
 ぐらつく理性と戦うガレルを他所に、ユールは呑気にすうすうと寝息をたてている。

「……今日のところは我慢するが、明日は覚えておくといい」
「うむぅ……」

 寝言を同意と捉えたガレルは、明日はどんな風にユールを鳴かせてやろうかと悶々としながら夜を明かした。
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感想 8

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みんなの感想(8件)

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

あっという間に第一章を読み終えました。テンポの良い文章ですいすい読めて、主人公のモノローグに笑わせられながら、うっかり第二章に進むところでした。今日はここまでとして、最後まで読みたいのでお気に入りにします。

兎騎かなで
2022.04.28 兎騎かなで

笑わせられたなら本望です。
お気に入り登録ありがとうございます、またお時間ある時に、第二章もお楽しみくださいませ^ ^

解除
藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

一話を読みました。最初はよくありがちな転移ものだと思ったのですが、単純に憑依して人格崩壊とかではないんだな、二人分の記憶がひとつの身体に入っていて日本人の記憶に引っ張られる。これから、身体の主の生活に影響を及ぼすのだな。成る程、成る程。この設定パクりたい。面白そうなので続きもよませていただきますね。☺️

兎騎かなで
2022.04.28 兎騎かなで

設定気に入っていただけたようで、ありがとうございます。パクリたいは最高の褒め言葉ですね。
この後作者も書いていて、主人公は今どっちの意識が強いんだ……? と混乱しながらも、何とか話をまとめました。
楽しんでいただけると幸いです^ ^

解除
しんちゃんまま
ネタバレ含む
兎騎かなで
2022.03.21 兎騎かなで

引き続き読んでいただけて感激です〜o(>◡<)o

無自覚小悪魔ちゃんには敵わないですね笑
ミカエルもなかなか楽しいキャラに仕上がったと思います^ ^

リリアちゃんは気がついたらお姉ちゃんになってました……笑
きっとクリストバルは気恥ずかしく思いながらも多いに助けられていると思いますw

第三章もいい展開を思いつけたらまた書きますね〜(*´∀`*)

解除

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