王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
36 / 37
第二章

21話

しおりを挟む

 ミカエルは満足いくまで俺の髪を指先ですいた後、クリストバルを揶揄するような口調で告げた。

「兄さん、水臭いなあ。ユールを呼ぶなら俺も一緒に呼んでくれればいいのに」
「なぜお前を呼ぶ必要がある」

 ギロリと眼光鋭く弟を睨むクリストバルだったが、当の本人はヘラヘラ笑って怯む様子もない。

「前にも言ったけど、兄弟仲良くしたいじゃん」
「前にも言ったと思うが、執務に影響がなければ仲がよかろうが悪かろうが関係ない」

 クリストバルは両腕を組んでミカエルに言い返す。

「またまた、素直じゃないなあ。この前のガレル達の婚約祝いの席だって、ぜーんぶ兄さんがセッティングしてくれたじゃん? 内心ユールと仲良くしたくてたまらないんだろ、このこのっ」
「やめろ」

 クリストバルの背後に回り、肩の上から肘をもたれさせようとしたミカエルだったが、その前にクリストバルに体を逸らされ肘は空を切った。

「あっ、避けるなよ」
「ユール、ミカエルは調子に乗るとろくなことをしない。今度からは困難なことがあれば私に相談しなさい」
「は、はい」

 代わりにソファーに肘をついたミカエルが、クリストバル相手にぶー垂れている。

「あー、兄さんばっかりいいとこ取りしようとしてる」
「お前が頼りにならないからだ。わざわざ心労の種を王宮に招きいれるなど」
「だってかわいいユールのお願いだよ? 聞いてやるのが兄心ってもんでしょ」
「その気持ち自体咎めはしないが、やり方が問題だと言っている」

 クリストバルの説教がはじまった。ミカエルはまあまあと笑ってクリストバルをいなすと、話を逸らそうとしてか俺に矛先を向けてきた。

「そーんな怒んなくてもいいじゃん。ていうかさ、ユールこの前下町の少年みたいな話し方してなかった? 君のお綺麗な顔であの口調だとクセになるっていうか、もっかい聞きたいからなんか言ってよ」
「えっ」
「下町の少年? なんの話だ」

 やっば、そういやミカエルにはフォルテオとのやりとりを聞かれてたんだった! 王族らしく振る舞うぞって気合いれたばっかなのに、こんなところで挫折してたまるかよ!

 俺は普段より数段気合の入った、きらめき王子スマイルを顔にはりつける。

「えーと、なんの話でしょう? 僕そんな王族らしくない話し方しませんよ、ミカエル兄様の聞き間違いではないですか?」
「そうだっけ? ……いや、絶対言ってたって!」

 うぐっ、ごまかすのは無理そうか……?
 俺が焦って返事を言いあぐねていると、ガレルまで執務室にやってきた。期せずして四兄弟揃ったな。

「なんの騒ぎだ……ユール!」
「ガレル兄様!」

 俺はこれ幸いとばかりにガレルの元まで飛んでいく。ガレルは俺を腕の中に抱きとめると、ミカエルを睨んだ。

「ミカ、またユールにちょっかいをかけているのか」
「ここで偶然会って話をしてただけだって。なあユール?」
「……はい」

 ここでさっきの話を蒸し返すとまたつっこまれそうだからな、肯定しとこ。
 しかしガレルは警戒が解けないのか、俺を抱きこんだまま追求の手を緩めない。

「いや、ユールは困っていたぞ。クリス兄上、ミカはユールに何を言っていた?」
「ユールに下町の少年のような話し方をしてほしいとねだっていた」

 あーっ! せっかくごまかせると思ったのに! 言うなよクリストバル!!

 ガレルは興味深そうに、冷や汗を垂らす俺と、期待に満ちた目をしているミカエルを見比べた。

「ほう? それはまた……」
「悪趣味な。ユールにそのような話し方は似合わない」

 クリストバルは俺に幻想でも抱いているのかそんなことを言いはじめた。ガレルもなぜか追従する。

「そうだな。ユールにそのようなギャップがあるのも面白いかもしれないが、そのような気やすい話し方をすればよからぬ誤解をする輩が増えるかもしれん」
「いや、別にここで話してみせるだけなら関係ないじゃん?」

 なおも食い下がるミカエルに見せつけるようにして、ガレルは俺の顎をくいっと上げて至近距離で俺の顔を見つめた。金の瞳にとらえられる。
 ひぇ……な、なんだよ!?

「ユールはそのような話し方をしない。そうだな?」
「は、はいぃ」

 金の瞳にまっすぐに射抜かれて、その恐ろしいくらいに美しい瞳に呑まれているうちに返答がこぼれでていた。
 ガレルは俺の返事に満足そうに頷く。

「そういうことだ。そうだクリス兄上、婚約祝いの品への礼がまだだったな。あれはとてもいい物だな、ユールも気に入っていたぞ。礼を言う」
「ああ」

 クリストバルは眉間に皺を寄せたまま、ニコリともせずに首肯した。代わりにクリストバルの背後にいるリリアの笑みが深まる。
 ……だんだんリリアがぶっきらぼうな弟クリストバルを見守る姉のように見えてきたんだが、気のせいか?

「実はまだグラスを使用していないんだ、ユールの為に取り寄せていた酒がやっと届いたところでな。今晩使わせてもらう」
「飲酒は程々にな」
「心得ている」

 長男と三男が固い口調で和やかな会話を繰り広げていると、次男が手を上げて口を割って入ってきた。

「なあなあ、俺の渡した結婚祝いの品は? 流石にもう使ってくれたよな?」
「ミカ。それに関しては俺から個人的に話したいことがある。また二人で会った時に話そう」
「ああ、そうする? いいよーそれでも」

 ミカエルはニヤニヤと俺を見つめた。ガレルはすかさず彼の様子に気づき、ミカエルの視線を遮るようにして俺の顔を胸元に押しつけた。
 固い胸板を頬に押しつけられて、普段なら文句を言うところだが今回ばかりはありがたい。

「では俺はこれで失礼させてもらう。クリス兄上、ユールへの話は終わったのか?」
「ああ」
「ではユールと共に退出しよう。失礼する」
「じゃあな、またねー」

 クリストバルは相変わらずの仏頂面で、ミカエルはにこにこと笑いながら俺達を見送った。

 ガレルは俺の腰を抱きエスコートするようにして部屋から出る。
 ガレルはこの後自分の執務室へ戻るんだよな? 俺は結界編みに行くから反対方向だ。

「ガレルは執務室だよな、ならここで別れるか」
「まあ待て……ユール、俺はお前の話し方が好きだぞ。お前の素直な言葉は耳に心地よい」

 ガレルは俺の耳に吹きこむようにして囁いてくる。低い声が直接耳元で流しこまれてドキッとする。

「だが、それを他のやつにわざわざ聞かせてやる必要もあるまい。ユールの可愛さは俺が知っていればいい話だ」
「ごめん、俺フォルテオとフレンにもこの口調だわ」
「なに?」

 ガレルは少し悩んだ後、仕方なさそうに口にした。

「……フレンとは今後会うことがないから不問としよう。フォルテオは……」
「俺が匡の口調でも王子口調でも、なんも気にしないと思うぞアイツは」
「……そうだな。やつは俺のライバルにはなり得ない。フォルテオは婚約者を溺愛しているからな。腹の底まで黒い彼が、婚約者の前ではまるで純真な青年のように振る舞っているともっぱらの噂だ」

 マジで!? 俺、貴族のする噂話にはロクなもんがないと思ってたけど、そういう噂ならもっと聞いてみたい!

「なんだそれ、想像できないんだけど。フォルテオが婚約者と一緒にデートしてるトコめっちゃ見てみたいんだが」
「一度城の庭で茶会をしていたが、フォルテオは見ているこちらが恥ずかしくなるほどのだらしない笑顔だったぞ」
「へー、今度からかってやろっと」
「やめておけ。馬に蹴られるばかりか何十倍にもなって口撃が返ってくるぞ」

 ……フォルテオならやりそうだな。
 前に俺に冗談でつきあってみるか聞いてきたことをネタにして、からかってやろうかと思ったけど、十倍返しはされたくないしそっとしておくか。

「まあ、フォルテオ相手ならば致し方あるまい。ではまた今晩会おう」
「ああ、俺この体では初めて酒飲むんじゃね? 楽しみだな!」
「俺も楽しみだ。ではな」

 ガレルは俺にさっとキスをして去っていった。やった、今夜は飲み会だ!

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...