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第二章
16話
しおりを挟むフレンはガレルの一喝に肩をビクリと跳ねさせて、フォルテオの背後に隠れたそうな素振りを見せた。
フォルテオはそれを許さずフレンの両肩をガッチリ後ろから固定する。おお、容赦ないな。
フレンは蛇に睨まれたカエルのように固まっていた。
フォルテオは心臓に毛でも生えているのか、ニコニコと笑みを浮かべながら怒れる獅子に応対した。
「ご機嫌麗しゅうガレル様。訳あってお部屋にお邪魔させていただいております」
「護衛はどうした」
「ああ、俺が無理言って通してもらったんだ。叱らないでやってくれよ」
とりなしたミカエルを、ガレルはギロリと睨む。ミカエルは大袈裟に身震いしてみせた。
「怖いなあ、そんな睨むなよ。元はといえばガレルがユールを閉じこめたりするから、俺が様子を見にくるハメになったんじゃないか」
「お前が様子を見にくるのは百歩譲って事情を理解できるとしても、なぜこやつまでここにいる」
ガレルがフレンを指差すと、フレンはヒェッと情けない声をあげた。
「彼はユールを助けたくてここまで来たんだってさ。俺は少し手助けをしてあげただけ」
「ほう? この男がユールに劣情を抱いていると知った上でか?」
ガレルの目がギラリと光る。フォルテオといいガレルといい、お前ら本当にその情報どっから仕入れてきてるわけ?
俺はフレンの話をお前らにしたことはあれど、ガレルとかフレンと会うのすら今日が初対面のはずなのにな?
嫉妬深いとそういう感情まで話を聞いただけでピンとくるのか?
それにしてもガレルは相当頭にきてるっぽいな、とてもじゃないが手錠を外してくれって口を挟める雰囲気じゃない。
仕方ない、もうちょい大人しくしてるか……とばっちりを受けたくはないしな。
ミカエルもガレルの様子にビビることなく、軽く笑みすら浮かべている。
「いやあ、それについては考えがあったんだ。なあフォルテオ?」
話を振られたフォルテオは鷹揚に頷く。
「そうですよガレル様。私はガレル様の味方です。今回のこともユールに貴方の行動を納得してもらうためにやったことです」
「そうそう、ユールの姿は確かに扇情的……ごほんごほん、とにかく、別に百合っぽい男子二人の絡みが見たいとか思ってないからさ。ほんとほんと。ちゃーんとフレンも止めたから。そうだよなフレン?」
ミカエルは実にツッコミ所満載の怪しい言い訳をしているが、話を振られたフレンはピンと背筋を伸ばして真面目に弁解した。
「は、はい。ユール様には、指一本触れていません!」
そんなフレンをガレルはジッと注視する。フレンの顔色がだんだん白くなってる……大丈夫か? 倒れたりしないよな?
「フォルテオ」
「彼の言っていることは本当です」
「ならばよい。しかし未遂といえどユールに触れようとしたのだろう? もはや王宮には居場所はないと思え」
腕を組んで言い捨てたガレルの言葉をミカエルが拾う。
「ああ、そのことだけど、彼の身柄は俺が責任を持って預かるよ。今後ユールに近づけることはないと約束するから」
「どこへだ」
ミカエルはガレルの端的な問いに流暢に返事を返す。性格はアレだけど頭の回転は速いんだよな、こいつ。
「南の神殿に送ろうと思ってるよ。彼は不器用だし結界編みは得意じゃなさそうだから、直接地方で魔力だけ放出して結界強化に努める方が性に合ってそうなんだよ」
ミカエルがフレンに視線を送ると、フレンは張り切って答えた。
「挽回の機会を与えてくださりありがとうございます、がんばります!」
「だってさ。君真面目そうだし期待してるよ」
ミカエルはフレンの方をポンと叩く。フレンの耳元に顔を近づけるミカエル。
「そうだ。この際だし、何か言っておきたいことがあれば聞いてあげるよ? 今回君の恋心をユールの教育に利用しちゃったわけだしさ。ちょっと君には悪いことしたなーって思ってるわけ」
ミカエルは肩を竦めながらフレンに笑いかけた。
「ユールに伝えておきたいこととか、なんかないの?」
ミカエルの問いかけに、フレンは一呼吸置いてから答えた。
「……二度とユール様に会えないのは寂しいですが、俺はもう近づかないようにします。遠くからユール様の幸せを願います……手紙は、書いてもいいですか?」
フレンがミカエルをチラリと窺う。ミカエルは腕を組みながら肩をすくめた。
「どうだろうガレル、それくらいなら許可してやったら?」
「……ユールはこやつともう関わりたくないのではないか?」
フレンと関わりたくないってことはない。だって唯一日本の話ができる仲間だ。
「俺はフレンと文通したい」
ガレルは眉間に皺を寄せて考えこんだ。じっくり沈黙した後、重々しい声で告げる。
「……今後はもう少し他者の感情に敏感に気づいて、自衛できるようになると誓ってくれるか?」
「できる限りがんばるし、ちゃんとガレルやフォルテオの忠告も聞くようにする」
ほんと、今回のことは晴天の霹靂だった。俺がモテるって自覚は全然なかったけど、王子だし美少年だし、狙われることもあるんだなってちゃんと考えるようにするよ。
「ならば、許可しよう」
「ありがとうガレル!」
「あ、ありがとうございます!!」
「よかったなー二人とも。フレン、間違っても愛の告白とか書くなよ? 王族への手紙は検閲めっちゃ入るからな。なんなら俺も読んじゃう」
「か、書きませんよ!」
ふー、これで一件落着ってか? フレンが酷い罰を受けたりしなさそうでよかった。ところで、俺はいつまで裸シーツで手錠のままなわけ?
居心地が悪くって体勢を変えようとした拍子に、ジャラリと手錠の音が鳴る。
その音に気づいたミカエルが半眼で俺の手首の辺りを見ながら、ガレルの肩に腕を乗せた。
「なあガレル、お前ももうちょっとユールと話しあったほうがいいよ。最近余裕なさすぎだしさ?」
「……っ、言われるまでもない」
珍しい、ガレルがミカエルに追いこまれてる。
フォルテオは礼儀正しく、お邪魔致しましたと声をかけて退室する。ミカエルもガレルの肩をポンと叩いた後、フレンを連れて部屋を出ていった。
残された俺は遠慮がちにガレルに声をかける。
「……手錠、いい加減とってくれねえ? もう逃げないしさ」
ガレルは俺の元に歩み寄ると、手錠の鍵穴に小さな鍵を入れる。ガチャリと手錠が外れて、やっと俺は手首の自由を取り返すことができた。
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