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第二章
11話
しおりを挟む俺は孤児院の応接室で、フレンと向き合っていた。フレンは緊張した面持ちで俺に手を差しだす。
「ユール様、お願いする、です」
「ああ、任せてくれ」
ザスとレオが見守る中、俺はフレンの手を取る。緊張で冷えた手を握って魔力を流してみた。
「……これは」
「どうでした、か?」
フレンに魔力を流すと、しっかりと突っかかる感じというか、かなりの抵抗があった。他の結界術師に引けをとらないくらいに魔力量がありそうだ。
俺はフレンにニッコリと微笑んだ。緊張のせいなのか、ギュッとフレンが俺を掴む手の力が強くなる。
「フレン、君には大量の魔力がある。王宮で結界術師として働かないか?」
「……っ喜んで!」
フレンは満面の笑みで、居酒屋の店員みたいな威勢のいい返事をした。やめてくれ、変に噴きだしちゃうだろ。
「なんという、まるで奇跡だな! 孤児に宮廷結界術師が務まる程の魔力が秘められていたとは!」
ザスは素直に喜んでくれた。レオも最初は信じられないといった様子だったが、やがてポンとフレンの背を叩いた。
「よかったなフレン! どうなることかとお前の行く末を心配していたけど、まさかこんな特技があったなんて」
「ありがとうレオ様、俺もびっくりしてるよ。ユール様と会えて本当によかった」
フレンは素朴な顔に心からの笑顔を浮かべている。よかったな、俺も隼人の記憶を持つお前が王宮にいてくれたら心強いわ。
俺は早速フレンを王宮に連れ帰り、ミカエル兄様と対面してもらった。
ミカエルはフレンを穴が開く程見つめた後、手を叩いて喜んだ。
「へえ、すごいじゃないか! おめでとう、いやあ、まさか本当にこんなことがあり得るなんて。言ってみるものだな、ハハッ」
……そんなにひっくい可能性の話だったのか、高魔力を持つ孤児って。
とにかく魔力があるにはあったんだ、それでよしとしよう。
ミカエルは後日水晶玉でしっかりフレンの魔力量を測り直す手配をしてくれた。このまま王宮で暮らせるように取り計らってくれるというので、全面的に任せることにした。
「ふんふふんふーん」
部屋に戻り、つい出てしまう鼻歌をそのままにしているとガレルが帰ってきた。今日は早いんだな、一緒に夕飯を食べれる時間じゃん。
「お帰りガレル、飯食いにいこう!」
「ああ、もちろんいいとも。なんだ、ずいぶんと機嫌がいいようだな」
俺はガレルにフレンの話をした。ガレルは純粋に驚いていたが、フッと俺に笑いかけた。
「そうか、そのようなことがあったとは。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだな」
「なんかみんなに驚かれたんだけど、そんなに珍しいもんなのか? 孤児が高い魔力を持つのって」
「俺の知る限りでははじめての事例だな。平民にも魔力を持つものは探せばいるだろうが、高魔力であればある程体力はなく、子どもの頃は虚弱だ。結果大人になることなく儚くなってしまう者も多いのだろうな」
「マジかよ。保護しねえの?」
ガレルは無念そうに首を横に振った。
「保護したくとも子どもの数が多すぎる。乳幼児のうちに死んでしまいそうな子どもを全て保護するのは、あまり現実的な話ではない」
あー、そっか……俺に医療の知識があれば、予防接種とかそういうの広められたかも知れねえのにな。
いやあ、そう考えるとユールは貴族に産まれてよかったな。俺の元々の両親は公爵家らしいんだが、俺の魔力量を水晶玉で測ってからは、高魔力持ちとして大事に大事に庭にすらろくに出さずに育てられたらしい。
まあ俺はその頃の記憶はそんなに覚えてないからよく知らんけども。
*
そんなこんなで、俺の日常にはフレンという新しい顔ぶれが加わった。
フレンは結界術師として働く前に、最低限王宮でのマナーや言葉遣いなどを学ぶ必要があるそうだ。
まだまだ表には出せないっていうんで、俺は暇を見つけてはフレンに会いにいった。といっても俺には結界術師としての仕事以外、ろくに仕事がないから暇はいくらでもある。
……成人したらもうちょい仕事増えるかと思ってたけど、そうでもなかったんだよなー。
ガレルの執務室で書類整理の仕事を試しに任せてもらったこともあるんだけど、ちょっと疲れたそぶりを見せただけで部屋で休んでいろと締め出しを食らった。
いやいや、ここまで育ったんだから丈夫になってるだろ、ガレルと馬に乗って遠乗りに行けるじゃん! って自分では思うんだけどな……体力があるかないかって言われたらそりゃない方だけどさ。
五歳以降は毎日休まず結界編んでたんだぞ? 時々風邪引いたりすることあってもそれなりに体力ついてるじゃん? って主張しても、どうやら高魔力持ちは大切に保護すべきって風潮でもあるらしく、特にやるべき仕事は増えなかった。
子どもの頃にいっぱい病気すると丈夫になるってのを体現してるのになー。ちっこくて華奢で体力ないもんだから説得力がないんだな……
まあそんなわけで暇を持て余している俺なので、実のところフレンの部屋には日参していた。
ミカエルはフレンの部屋として王宮に一室用意してくれた。結界部屋から近くて通いやすいので助かっている。
『よう隼人、今日もきたぜ!』
『ああ、いらっしゃい匡。今日も言葉の勉強につきあってくれるか?』
「いいよ」
フレンは早く俺とこっちの言葉で敬語を話せるようになりたいってことで、俺もそれにつきあってこっちの言葉で話すようにしている。
「ユール様、昨日は何を食べたですか?」
「そこは食べましたか? だな。えーと、何食ったかな? ステーキだっけか」
「その顔でその口調はかなり違和感があります」
「うるせー、ほっとけよ」
俺は気兼ねなく話せる友人が増えて毎日が楽しい。
「お前は昨日なにしてた?」
「昨日は習ったマナーの復習と、言葉の再確認と、結界編みの紋章について習いました。結界は細かくて、難しいです」
「お前手先器用じゃなかったっけ?」
俺はフレンの手を取る。キーボードを弾いていた隼人は長くて綺麗な指をしていたものだが、フレンの指はガサガサ乾燥していて固かった。
彼はピクリと反応してパッと手を引っ込める。フレンは俺に触られた手をギュッと握り、少し頬を赤く染めた。なんだ、今世の手にコンプレックスでもあったのか?
『匡さ、そういうのやめろよな。お前の今の顔でそういう気安い態度とったら誤解をうむぞ』
『は? 誤解ってなんだよ。俺に欲情するような奇特なやつ、ガレルくらいしかいないだろ』
動揺して日本語に戻ったフレンに、俺は怪訝な表情を向けた。その時扉の外から足音が聞こえてくる。
許可もなく扉を開け放ち、軽薄そうな笑顔でヘラリと手を振ったのはミカエルだった。
「やあユール、それにフレンも。元気でやってる?」
「ミカエル兄様! 僕は元気いっぱいですよ、今日もお仕事ください」
『うわあ、また出たその猫被り。その口調、顔には似合うけど中身が匡かと思うとすごい違和感あるよ』
スッと顔色を戻してボソッと俺にしか聞こえない音量で呟くフレン。うるせー知っとるわ。
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