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第二章
3話
しおりを挟むそして迎えた二日後。ガレルも実は呼ばれていたらしく、一緒に行くことになっていた。
よくよく読み直すと手紙にもガレルと一緒に来いって書いてあったわ。テンパってよく確認してなかったんだ、お陰で無駄に緊張してしまったぜ。
仮にも王太子と会うということなので、しっかりと正装を着こんだ。よっし、気合い入れていくぞ!
……もしも怒られたら潔く謝ろう、そうしよう。
ガレルも金色交じりの赤い髪をひき立てるような、落ち着いたネイビーのジャケットを身に着けている。
相変わらず正装が悔しいくらいに似合う。やっぱ肩幅あるとこういうカッチリとした服をカッコよく着こなせるんだよなあ。
「兄上から近々ユールと会って話をしたいとは聞いていたが、随分と急だな」
「あ、そうなんだ? なんの用事って言ってた?」
「婚約祝いの品を渡したいと言っていた」
そこはガレルにも同じ用件を伝えてるのか。怒られるかもってのは俺の勝手な想像なのかも? 本気で結婚祝いとやらを渡したいだけのような気もしてきた。
ランチをとりつつ歓談しようってことなので、王族専用のダイニングルームに移動する。
ちなみに俺もガレルもここで夕飯を食べることが多いんだが、ガレルが俺を夕飯に誘う時間帯に他の兄二人とバッティングした試しはない。生活の時間帯がズレてるのかもな。
煌めくシャンデリアの下、長テーブルの向こう側に座る長身二人を見つけてガレルは手を振った。
「クリス兄上、ミカ。このようにして会うのは久しぶりだな」
ん? クリストバルに対しては兄上をつけるのに、ミカエルにはずいぶんざっくばらんに呼びかけるんだな。
ミカエルは気にした様子もなく、金の目を細めてにこやかにヒラヒラ手を振っている。
「ガレル、よく来たな。それにユールも」
クリストバルはジロリと俺に視線を寄越した。こっわ。別に睨まれたわけでもないのにその顔こっわ。眉間の皺は標準装備なんかなこの人。
「ようガレル、元気にしてた? 最近つきあい悪いじゃん、もうちっと兄弟仲良くしようぜ、な? ユールも含めてさ」
バチコーン、とウインクを決めるミカエル。やめろ、こっち見んな。どういうリアクションを返せばいいのか困るだろ。
困った末に、俺は曖昧に笑っておくことにした。
「クリストバル兄様、ミカエル兄様。本日はお呼びいただき恐縮です」
あ、恐縮ってあんまいい意味じゃないな。やっべ俺緊張してっぞ。
心なしかクリストバルの眉間の皺が深くなった気がするし、ミカエルの表情もしょんぼりしている。
ヤベェな、フォローしねえと。
「……会えて嬉しいです」
俺が苦し紛れにそうつけ足すと、長兄の眉間の皺は和らぎ、次兄はパッと笑顔になった。代わりにガレルが何故か眉を顰めている。おいおい、兄にまで嫉妬すんなってば。
「聞いた? 兄さん。会えて嬉しいってさ」
「いちいち繰り返さずとも聞こえている。二人とも、席に着いてくれ。食事を運ばせよう」
クリストバルの一言で俺達はランチをご一緒した。
兄二人、特にミカエルの方が俺にやたらと話しかけてくるため、それに返事を返すのに精一杯で正直味はよくわからなかった。
「ユール、毎日結界に魔力を注いでるんだろ? すごいよなあ、俺毎日仕事なんてとても真似できないわ」
「お前はもう少しユールを見習った方がいい」
ミカエルの不真面目な発言にクリストバルがすかさずツッコミを入れている。
「あ、いえ。最近は僕もお休みをいただいているんです」
「聞いた兄さん? それが普通だって! 休みがないと仕事をする気になれないもんなんだよ」
「問題をすり替えるな、お前の場合は休み過ぎだ」
「ちぇー、でもやるべきことはちゃーんとやってるだろう? なあガレル」
話を振られたガレルは鷹揚に頷く。
「そうだな、ミカは大事な仕事はきちんとこなしているな。どうでもいいと判断された事に関してはいつまでも返答がないが」
「どうでもいいことには別に返事しなくたって構わないだろ?」
ミカエルが肩を竦めると、クリストバルは眉間に指を添えた。
「そういうところがいまいち信頼感に欠けるんだ」
「兄さんは厳しすぎるよ、もっと気楽に楽しく人生を謳歌しようよ」
……この兄弟、驚くほど似てないな。いや、若干クリストバルとガレルは似ているか? ガレルも真面目な方だと思う、クリストバルほど厳しくはないけどな。
しっかしこの美形長身兄弟を見てると、俺の低身長っぷりが際立つな……! 魔力さえ潤沢になければもっと背が伸びていたかもしれないのに……っ!
でも魔力がなかったりしたら、ガレルの義弟として王家に引き取られることもなかったんだよな。そう思うと、魔力があってよかったんだろうが……やっぱ男としては複雑な気分だ。
今は十七歳、残り数年の成長に望みをかけるしかない。
俺が内心悩んでいる横で、ミカエルは優雅にワインの入ったグラスを傾けた。
「やっぱさ、たまにはこうやって交流を持った方がいいよ俺達。厳しい兄さんとばっかり話してるとへこむしさー、兄弟みんなで仲良くしようよ。特にユールなんて見てるだけで癒されるしさあ」
「あ、ありがとうございます?」
にっこりと微笑むミカエルになんとか返事をする。
見てるだけで癒されるってどういう評価だよ、俺はマスコットか何かか。
ガレルは不機嫌そうにミカエルに噛みつく。
「ユールは俺のものだ」
「知ってるって、別にガレルの邪魔をしようなんて思っちゃいないさ。ただ、最近ユールも活動的になってきたじゃん? だからもう少し見守る人間が増えた方が、ガレルとしても安心できるんじゃないかなー?」
ガレルはグッと押し黙った。ミカエルの言葉を正論だと思ったらしい。
「……ミカの言葉は胸に留めておこう。しかし必要以上に干渉されるのも歓迎できないがな」
「なんでよ、俺別にユールに悪い遊びを教えたりしないけど?」
悪い遊びってなんだよ……ミカエル以外の全員がそう思ったのか、彼に厳しい視線がグサグサと突き刺さる。ミカエルはみんなの視線に気づいて、わざとらしく自らの肩を抱いてみせた。
「やだなあ、みんな目が怖いって。やらないって言ってるだろ?」
「当たり前だ」
「もし実現されたら例えミカ相手といえど容赦はせんぞ」
「だからマジになるなよ! な、ユールも別に悪い遊びになんて興味ないだろ!?」
ミカエルが俺に話を振ってくる。
ここであるって答えたら面白いことになりそうだな……と一瞬考えたけれど、ガレルに抱き潰される未来が垣間見えたので、鉄壁の王子スマイルで乗りきることにした。
「興味ありません」
「ほらな? ユールもこう言ってるし大丈夫だって」
「そうだな、ユールは悪い遊びよりも俺への興味の方が大きいはずだな。そうだろうユール?」
おま、惚気話に俺を巻きこむんじゃねーよ! ここでうんって言うのは恥ずかしいが、否定したら否定したでめんどくせぇことになるのがわかりきってるじゃねえか!
俺は内心ぐぬぬと歯軋りをしながらも、ガレルの思惑に乗ってやった。
「え、ええ……そうですね」
「ははっ、かわいいやつだ」
上機嫌に俺の白金の髪をサラリと撫でるガレル。くっそお前今夜は覚えてろよ、ガレルの帰りを待たずにフテ寝してやるからな!
ミカエル、お前はお前で羨ましそうな顔すんなよ。お前にはかわいい婚約者のご令嬢がいるはずだろ。よく知らんけど。
やっとデザートを食べ終えて解放された時には、表情筋が疲労困憊しきって引きつっていた。渡された婚約祝いとやらの包みを抱えたガレルも、心なしか疲れた顔をしている。
「ユール、今後もし兄上達に呼びだされても、行きたくなければ行かずともよい。俺から断りを入れる。特にミカは相手にしなくていいぞ」
「いや、そういうわけにはいかないだろ……」
ガレルは半ば本気で兄達に会ってほしくなさそうだが、あれは一応俺達を歓迎してくれてたわけだろ?
権力者に逆らってもいいことはないからな。また呼びだされたら俺は大人しくついていくさ。
俺の部屋に入ったガレルは、早速二人からの贈り物の包みを開いた。
クリストバルからはペアのグラスをもらった。背が高くてシンプルなデザインで、透明度の高いガラスでできている。この世界じゃ貴重な薄いグラスだ。
お高そうだが、大人っぽくていいな。酒を飲む時はぜひこれを使いたい。
まだ成人したばっかりだからちゃんと飲んだことないんだよなー、今日もガレルが過保護だったせいでジュースを飲む羽目になったし。
「ふむ、さすがクリス兄上だ。趣味がいい」
続いてガレルはミカエルからもらった包みを開いた。そして、しばらく中身を見て固まっていたかと思えば、そっと包み紙を元に戻した。
「ん? どした?」
「いや……これはしかるべき時に使うべきものだな」
「しかるべき時って?」
「直にわかる」
なんだそりゃ? ガレルは俺の問いに答えることなく、包みを懐に抱えて自分の部屋に入っていった。
結局何が入ってたんだよ……気になるじゃんか。
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