王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない

兎騎かなで

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番外編

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 ここは王城の執務室。焦茶の髪に金色の瞳の厳めしい貴公子、王太子クリストバルが書類に判を押していると来客があった。

「やあ兄さん、追加で仕事持ってきたよ」
「持ってくるな」
「まあまあ。俺も手伝うしさ、そんな冷たいこと言うなよ」

 華やかな赤毛に金の瞳の第二王子ミカエルが、にこーっとわざとらしく笑いながら書類を携えて入室してくれる。王太子は仕方なくお茶を淹れるようメイドに申しつけた。

「お、今日は催促しなくてもお茶がでてきた!」
「それを飲んだら帰れ。私は暇じゃないんだ」
「俺だって暇じゃないけどさー。兄さんは気にならないわけ? うちのかわいい末っ子ちゃん、ついにガレルの婚約者になったわけじゃん」

 ミカエルは慣れた様子で勝手にソファーに腰掛けている。

「ユールか、ついにガレルの方もユールの瞳の色の衣装を身につけていたな」
「そうそれ! めっちゃめでたいじゃん。俺達からも個人的にお祝いしてやんない?」
「嫌がられるぞ。ガレルは独占欲の塊だからな」
「そうだけどさ。せっかく兄弟になったんだし、仲良くしたいじゃん。今まではガレルにさりげなーくユールに会うの邪魔されまくって、あーこいつこんなにもユールに会ってほしくないの? って遠慮してきたけどさー」

 ミカエルは砂糖をくるくるお茶にかきまぜながら首を傾げた。そんな何気ない仕草も、貴族のお嬢様方が見たらキャーキャー言いそうな完璧な美男子っぷりだ。

「もう婚約したんだからよくね? 流石にそろそろ兄弟仲良くしてもいいじゃん。てか俺がしたい」
「別に執務に影響がなければ、仲がいい悪いなどどうでもいい」
「そんなつれないこと言わずにさあ! 俺だってユールのこと可愛がってやりたいのに! だってかわいくない? ちっちゃくて色白で健気そうでさあ。あ、別に変な意味はないよ? 弟として仲良くしてみたいってだけで」

 クリストバルは眉間の皺を指先で揉んだ。

「厄介ごとを無闇に増やしにいくんじゃない。今の関係で俺は満足している」
「そう? でもさ、この前ガレルの贈った夜会服着てないときあったじゃん? 大丈夫かなーって様子見てたら、しばらくして姿が見えなくなってて焦ったけど、動けない時あったじゃん」
「ああ、あれか」
「そうそう。幸いガレルがどうにかしたっぽいけど、俺らももうちょい仲良くしといたら、ああいう時声かけやすいじゃん?」

 クリストバルは考える素振りを見せた後、しかしペンは置かずに仕事を再開した。

「ねえー兄さんー、無視はちょっと酷くない?」
「働け。時間を作らないとユールに会う会わない以前にここから動くに動けないだろう」

 ミカエルはいじけてソファーにだらしなくもたれていた上体を、ガバッと起こした。

「お! それってユールに会いにいくってこと!? わーお、それなら俺、張り切って仕事しちゃう。あ、でもガレルにまず話通さないとやばいっしょ? 俺後であいつに睨まれんのやだよ」
「心得ている。いいから早く帰って仕事しろ、話はそれからだ」
「はいはーい。じゃ、お邪魔しましたー。あ、リリアちゃん美味しいお茶ありがとうね!」
「早く帰れ」

 騒々しいミカエルはやっと部屋を出ていった。はあ、とため息を一つついたクリストバルは、ユールの姿を脳裏に思い描く。
 王妃として完璧に育てあげられた妻とは違い、隙だらけで感情表現もそのままで、そして誰よりもガレルが好きだと慕っていたその姿を。

 かわいいと思っていたに決まっている。ただ、クリストバルの周囲にはいないタイプの人間だったので、どう接すればいいか戸惑っているうちに、気がつけばガレルに囲いこまれて接触が難しくなっていた。

「今更会いにいっても驚かせるだけだろうか……」
「王太子殿下、お言葉ですがユール様は、きっと貴方のことを歓迎すると私は思います」

 長年仕えてくれているメイドのリリアが、にこやかにそう告げてくる。

「そう思うか」
「ええ。ユール様は最近ご友人を増やしたがっているご様子。きっとお兄様であらせられる殿下とも、親しくしたいと思っておられるでしょう」
「まあ、別にどちらでもいいのだがな私は。しかしガレルの独占欲には困ったものだ」
「ガレル様も、最近はようやくユール様のご意向を汲むことが増えたそうですよ」
「リリア、お前詳しいな」
「恐れいります。私もかわいらしい方には目がないたちでございまして」

 そう言って若々しい顔を緩めてうふふと笑うリリア。これで子供が二人もいるのだから、人は見た目によらない。

「まあ、時間が空いて気が向けば、会ってやってもいい」
「ええ、ぜひそうなさいませ」

 あの妖精のような見た目のユールが、どのような顔で私と話すのか……ガレルと話している時のように、無邪気に笑いかけてくれるのだろうか?

 クリストバルは、ユールが五歳だった初対面の時から彼と随分と会っていない。ソワソワと落ち着かない心地ながらも猛然と仕事を片付けはじめた。

 ミカエルが仕事を終える前に私が先に終わらせて、ユールと会ってやるのも面白いかもしれない。

 そんなクリストバルが、あの無邪気な様子は対ガレル特別用だと知り、さらに今は内面と見た目のギャップがありすぎる口調になっていると知る日はいつ来るのだろうか。神のみぞ知る話だった。





「っくしゅ! うえー、くしゃみ出た」

 執務の間に俺の部屋に寄ってくれたガレルと茶をしばいていると、突然くしゃみが出た。
 なんだ? 誰かに噂でもされたかな?

「大丈夫かユール……しかし、俺も寒気がするな。一緒にベッドに籠もって体を温めるか?」
「こんな昼間っからしねえよ! ガレルはこの後仕事あんだろ」
「そうか、残念だ…‥ユール、今日この後の予定は?」

 ガレルは本当に残念そうに眉根を下げた。俺がベッドに行こうって言えば、本当に連れこむ気だったんだな? 
 まったく、油断ならねえな……俺だってヤリたくねえわけじゃねーけど、今日は予定があるんだ!

「ザガリアスの友達に会ってくる。そいつ、背ちっちゃくて体格もひょろいんだけど、その割にすげえ強いんだって。俺の体力増強のコツとか教えてもらえるかも」
「そうか……その、ザスの友達とやらは誰かいい相手はいるのか?」
「知らねーよ、はじめて会うし」

 ガレルは無言で茶器を机に置くと、おもむろに俺の側まで歩み寄り抱きしめた。

「ユール、愛している」
「な、なんだよいきなり……俺も、好きだよ」

 ガレルは俺の顔中にキスを落とし、肩から尻までをゆっくり撫でた。口の中にまで侵入してきた舌を押し返してみるも、すぐにとろとろにされて抵抗の意志が削がれてしまった。

「ふぅ……んん……」

 ガレルは長いキスの後、ようやく体を離した。

「い、いきなりなんだよ……」
「ユールを補給していた。はあ、このままベッドの中でユールを堪能できたらどんなによいか」
「いや、だから俺は出かけるって!」
「そうだな、今は見送ろう。だが、夜にまた来る。俺のために時間を空けておいてくれるな?」

 熱視線に焼かれそうになりながらも、俺は顔を赤くして頷いた。

「……ん。待ってる」
「楽しみにしている。では、また後でな」
「じゃあな、仕事さっさと終わらせてこいよな」
「ああ」

 最後に触れるだけのキスを落とすと、ガレルは去っていった。

「はあああぁ……溶けそう」

 俺はしばらくティーテーブルの上に突っ伏したままでいて、お出かけの時間ですと呼びにきたマシェリーに急かされるまで動けなかった。



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