王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
10 / 37

10話

しおりを挟む

 俺の名前は招待客に含まれていないから、いくらなんでも普通に行って入れるとは思っていない。

 確か、ユールとはあんまり関わりのない王太子がこのパーティに参加してる……らしい。
 その辺の招待客が噂してた、王太子様のなんちゃら祝いがなんちゃらって。

 ほとんど聞けてないじゃないかって? 細けえことはいいんだよ!

 とにかく、兄様にお祝いの品を渡しにきた設定にして潜りこむことにしようと思う。
 大丈夫だって、堂々としてればいけるだろ!

 ツェリンに借りた薄紫色の夜会服の袖を引っ張り (ちょっと俺には小さかった)気合いを入れ直してから衛兵の元に突撃した。

「君、少しいいかい」
「貴方は……? も、もしかして第四王子殿下!?」

 衛兵が大きな声を上げるのを、シーッと制して小声で話す。

「大事にしたくないんだ、声を抑えてくれ」
「はっ、失礼しました」
「実は、兄上に預かり物があってね。入れてくれないか」
「それは……」

 チラリと衛兵が隣の兵士に視線を寄越す。ん?
 あ! ザスじゃないか!?

 ヤッベ、こいつがいたのか……!!
 気づかないで声をかけるとか、俺相当テンパってんな!

「ユール! どうしたんだ、ガレル様におつかいでも頼まれたのか!?」
「おつかい……まあ、そのようなものだよ、うん」
「ガレル様は王太子殿下と仲がいいからな! いいぞ、渡したらすぐ戻ってこいよ!!」

 ザスは快く夜会会場に入れてくれた。……こんなんで大丈夫なのか、警備。

 まあ入れたからよしとするか……気をとりなおして辺りを見渡す。
 ドレスを着たご令嬢方がたくさんいるな、狙い通り。

 そう、俺は決意した。ガレルから逃れる方法はもはやただひとつ。
 どっかの貴族のご令嬢を押し倒して既成事実を作るしか、俺に活路はない!

 ……でも本当にそんなことするとかわいそうだし、俺ビビリなんで。
 悲鳴とか上げられたらそれだけで体が固まっちゃって、ご令嬢の護衛とかに速攻で捕らえられることだろう。
 それはもう、そうなる自信がめっちゃある。

 なので、そういうフリをしてくれそうなノリのいいご令嬢を探してだな……そんな子いるか?

 親の決めた婚約者とかガレルの意向に逆らってまで、俺と両思いのフリをしてくれる子……いや、絶望的でもなんとかするしかないんだって!

 壁側に寄りつつ、目ぼしい顔を物色する。

「……あ、あれは確かモーリア公爵家のご令嬢……男つきか。あっちは侯爵家の……だめだ、親がピッタリ張りついて離れそうにないぞ」

 だよな、嫁入り前の大事なご令嬢なんて、変な男が近づかないように当然ガードしてるわな。

 ……ていうか、王子って肩書きはもうちょいご令嬢ホイホイだと思っていた時期が俺にもあったんだが。
 来ねえよ! 俺んとこには一人も来ねえ!

 現在人だかりの中心にいるのは、王太子とその妻、それとあそこのモテ男……あ、第二王子じゃんあれ。

 ……王子はご令嬢ホイホイであってたわ。俺にその効果が付属してないだけだった。

 せっかくガレルのもの主張が激しい金糸刺繍の服じゃなく、ツェリンの夜会服を借りて来たのにな……

 急になにもする気が起きなくなって、壁際に寄りかかる。
 まあそうだよな、わかってたさ。俺が足掻いたって今更どうにもならないことだって。

 というより、なんでガレルから逃げる必要あったんだっけって思えてきた。

 いやまあ、昨日のことが恥ずかしすぎてさ……男の嫁になるってのも、現実を認められなかったっていうかさ。

 まあでもアイツかっこいいし、いいやつだし、それに好き……だし。
 アイツが結婚相手でも、案外悪くないんじゃねぇの?

 ふわ、と口から出てきた欠伸を噛み殺す。気が抜けたら眠くなってきた。

 もう撤退するか、とぼんやり考えていると、知らない顔が声をかけてきた。

「もし、そこのお方。具合が悪いのでは?」
「なんともないよ、少し寝不足が祟っただけだ」

 ニコリと王子スマイルをプレゼントすると、目の前の中年男も笑顔を返してくる。
 んー、見たことない顔、どこの誰だろう。着ている物の質を見るに、中流貴族っぽいけど。

「さようですか、眠いのであれば中庭の散策などされては? 外の風に当たれば目が覚めることでしょう、よろしければ私も同行致します」
「ああ、それはいいな。だが行くとしても僕一人で行くから、君はこの会場でもう少し夜会を楽しむといい」
「いえいえ、貴方のような顔色の悪いお方を一人にするなんて、私にはできません」

 ああ、顔色が悪いから身分差とか気にせず声をかけてくれたのか?
 って、そうだ。俺は今、ツェリンの服を借りてるから第四王子って認識されてないのかも?
 うーん、わからん。

 眠気を自覚すると同時にいろいろ考えるのも話をするのも面倒になってきたので、いとまを告げる。

「そんなに顔色が悪く見えるのなら、そろそろ帰るよ」
「では、入口までご一緒しましょう」

 腰に手を添えられエスコートをされて、違和感を覚える。
 ガレルの手じゃない、なんか歩きにくい。

「足元が不安定だ、大丈夫ですか? そうだ、そこの者、水をくれないか」

 いや、足元が揺れるのはアンタの歩き方にあわせようとしたらそうなっただけだから。

 中年男は給仕から水を受けとり、俺に差しだした。

「どうぞ」
「ああ、ありがとう」

 水をもらうと同時に、そういえば喉が乾いていたなと自覚する。

 知らない人からもらったものは口にするな、とガレルのお小言が頭の中をよぎったが……そんな注意を受けるような子どもじゃないという反抗心から、グラスに口をつける。

 ゴクゴクと飲み干してグラスを中年男に返す。中年男は目尻の皺を深くしながら、グラスを受けとった。

「いい飲みっぷりでございました」
「喉が乾いていたんだ。ああ、これ以上僕に付き添わなくても知りあいがいるから、お前はここに残っていい」
「まあまあ、心配ですし最後までつきあわせて下さいよ」

 急に馴れ馴れしくなった中年男を怪訝な顔で見上げる。なんなんだ?
 まあいいや、なんかこいつ胡散くさいし、会場の入口にいたザスに追い払ってもらってとっとと帰ろう、そうしよう。

 しかし会場の入口にはザスがいなかった。

「あれ?」
「どうなさいました?」
「いや……」

 あいつどこ行きやがった……もう一人の見張り番が一人で仕事してるぞ、トイレか?

 んー、しゃあねえなあ、だったらここから近いガレルの部屋に行くか。もう部屋までもちそうにないくらい眠い……

「ふわあ……」
「眠たいのですね? そこに休憩室がありますから、寄っていきましょう」
「いや、いいってば。僕に構うな……」
「まあまあ」

 まあまあじゃねえんだよ。
 だけど手を引かれると眠気で力の入らない体は簡単に引かれて、中年男についていってしまう。

 その手が腰を撫でまわすように動いて、俺の背筋は凍った。

 あ、これついてったらダメなやつ。

「離せ……!」
「ほら、ここですよ。入りましょう」

 手を振り払おうとした俺のなけなしの抵抗はアッサリ封じられて、男に部屋の中に連れこまれそうになる。
 俺は閉まるドアに足を捻じこむと、精一杯叫んだ。

「助けて! ガレル兄様、ガレル!!」
「チッ! 大人しくしろ!!」
「もがっ!」

 口を塞がれてグッと部屋の中に引き寄せられる。
 ヤツの足で俺の足を蹴飛ばされ、強引にドアの隙間を閉められそうになった、その時。

「ユール!」
「んむ!!!」
「なっ!?」

 ライオンのたてがみのような朱金の髪を持つ男が俺の元にかけつけ、中年男の腕を捕らえて捩じりあげた。

「痛い痛い痛い! ヒィ!!」
「貴様、ユールになにをしようとした!?」
「ごごご、誤解です! ただ私は、おおお王子殿下を保護して差しあげただけで」
「ユールの腕を拘束し、足を蹴っていたのを見たが?」
「ぐっ……」

 言い訳は厳しいと踏んだのか、中年男が押し黙る。
 厳しい顔をしたガレルは、背後についてきていた騎士に告げる。

「独房へ連れていけ」
「ハッ」
「な!? そ、そんな無体な……私は無実です!!」
「無実かどうかは牢の中でじっくり聞かせてもらおう。行け」

 騎士達が中年男を連れていくと、あたりは急に静かになる。
 気が抜けた俺はもはや立っていられなくて、床にへたりこんだ。

「ユール! どうした、なにをされた!?」
「なにもない、けど、眠い……眠いよ、ガレル……にい、さま……」

 ガレルがしゃがんでくれたので、俺は遠慮なく彼の腕に縋りつく。
 ガレルは素早く俺の様子を観察し、ひょいと俺のことをお姫様抱っこした。

「手首にアザがついている、かわいそうに。それに顔が妙に赤いな、なにか口にしたか?」
「ごめんなさい……」
「ユール……お前になにかされる前で本当によかった……」

 ガレルは泣きたいような笑いたいような、複雑な表情で俺のことを見つめていたが、その顔がだんだんぼやけてくる。

 なにか話しかけてきているのはわかるが、意味を理解する前に急速に俺は眠りの中に落ちた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...