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8話

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 ユールは幼馴染から借りた夜会服を前にして悩んでいた。

「うーん。ツェリンに借りたのは失敗だったかな……」

 げんなりとしながらベッドに並べた服を見下ろす。だって見てみろよ、このきらびやかなデザインをさ。
 俺の夜会服のフリルと比じゃないくらいに盛られている。

 王子より派手でいいのかよと思ったが、夜会の光景を思い出してみるに多分俺が控えめすぎるんだろうな。
 兄王子達も成人前はもうちょいフリフリしたの着てたわ、そういえば。

 なんだろう、俺が養子だから目立ちすぎないように差をつけてんのかな?

 ガレルの瞳色の金糸が派手派手すぎるのを除けば、結構落ち着いたデザインの夜会服を貢がれていたみたいだ。

 うわーガレルってばセンスいい、なんて見直してやったりはしないがな!

 もう一度、フリルてんこ盛りの夜会服に視線を向けてみる。
 いや、着る気が湧いてこねえわ……とりあえず、この一番フリルが控えめな薄紫の服だけ手元に置いておくか。

 変装用に私服と趣の違う服があればと思ったが、そもそも夜会服を借りたのが間違いだったな。

 まあでも、ないよりはある方がいいだろうという結論に達したので、小さく畳んで、いざという時に着れるように机の引き出しに隠しておく。

 他の服は着るのを諦めてツェリンに返すようメイドに指示をしていると、部屋に来客があったとマシェリーが伝えにきた。

「ユール様、ガレル様がお越しです」
「こんな夜遅くに? いや、通してくれ」

 ガレルがこんな、夕食もとうに終わった時間にユールのもとに来るのは初めてのことではなかろうか。

 マシェリーはしばしの間思案して、夜食が必要でしたらお申しつけください、部屋の外で控えておりますと伝えて水差しを置いて退出した。
 入れ替わりにガレルが部屋に入ってくる。

「すまんなユール、いろいろと用を済ませていたら、お前を訪ねるのがこんな遅い時間になってしまった。眠くはないか?」
「いえ、大丈夫です。なにか急ぎの用でしたか?」

 ていうか半ば反射的に入れてしまったけど、眠いから今日は無理って追い返せばよかったな。
 来客用の椅子に座るよう勧めるが、ガレルは首を振って会話を続けた。一体なんなんだ。

「急ぎと言うほどではないが、確かめておきたいことがあってな」
「はあ、なんでしょう。僕眠いので、時間がかかるなら明日にしてもらっていいですか?」

 今からでも追いかえすつもり満々で言い返すと、ガレルはフッと微笑んだ。
 なんとなく嫌な予感がする。

「お前に協力してもらえればすぐに事は済むだろう。協力してくれるか?」
「内容によります」
「はははっ! ユール、お前も成長したようだ、喜ばしいことだな。だが……」

 あれ? と思った時にはベッドの方に追い詰められていた。ドサリ、と押し倒されて、金朱の髪が真上に見える。

「そもそもこの時間に男を部屋に招きいれることが、どういう意味かは理解していなかったようだな?」
「それは、どういう……え、兄様!?」

 プチプチと胸元のボタンを外されて、戸惑いの声をあげる。薄く心許ない夜着はあっという間に剥ぎ取られ、上半身裸にされてしまった。

「ふむ、特に変わりはないか……ユール、下も脱がすぞ」
「ちょっと待って兄様! なんでこんな急に、せめて理由を説明してください!!」

 婚約まで手を出さないんじゃなかったのかよ!?
 いや、俺がそう思いこんでただけで、婚前交渉はこの国ではフツーのことなのか? だとしたら俺、今貞操のピンチじゃん!

 遅ればせながら抵抗しはじめるが、ガレルは簡単に俺の両手を片手で縫いとめてしまった。

「まあ待て、あまり暴れると傷になるぞ。それに何事かとマシェリーか護衛が顔を出すかもしれんな。ああ、それもいいか。こんなところを第三者に見られれば、結婚式の予定も早まることだろう」

 なんだって? まじか……ひょっとして俺、既に詰んでいる?
 スルスルと脱がされて下半身の衣服も取り去られ、内心半泣きでガレルを見上げる。

「綺麗だな、ユール……背中も見せてくれ」

 簡単にひっくり返され、後ろから検分される。……俺は今なにをされてるんだ? 身体検査か?

 ひょっとして、俺の思うような展開にはならないのではとわずかに期待を抱いたところで、ツウッと背中を硬い指でなぞられた。

「ひっ!? く、くすぐったいからやめて兄様」
「はは、くすぐったかったか。ではここは?」
「んっ!」

 胸の突起を触られて声が漏れてしまう。いや、やっぱりこれ貞操の危機じゃんか!!

 身を捩ってガレルの腕から抜け出そうとするが、後ろから抱きこまれて阻止される。

「離して、離して!!」
「どうした、刺激が強かったか?」
「やめろって言ってんだろ!」

 俺の必死の抵抗なんてものともせず、ガレルは俺をひっくり返して、抜けだそうもがく両手を改めて頭上に縫いとめた。

「そのような言葉遣いをどこで覚えた?」
「んなこたどうでもいいだろ、離せってば!」
「どうやら躾が必要なようだな」

 もうユールのフリなんてしていられなくなった俺の言葉使いを耳敏く咎められながら、下半身に手が伸ばされる。
 縮こまった俺自身に、ガレルの剣だこがある指が触れ、握りこまれた。

「あ、やっ、いや!」
「嫌か? 本当に?」
「うっ、ん、あっ!」

 絶妙な力加減で上下にさすられて、声が出てしまう。やばい、こいつ上手いぞ!?

「いや、嫌だってば!」
「そうか……では止めてほしくば、先ほどの問いに正直に答えてくれ」

 金色の目が俺のアメジストの瞳と交錯する。真剣な瞳に背が震える。
 まるで肉食獣に捕らえられた獲物の気分だ。

「さっきの、って……」
「お前が知らないはずの言葉や、反抗的な態度、最近の行動の原因はなんだと聞いている。他で調べてわからないことなら、お前に聞くしかなかろう」
「も、ちょっと、聞き方ってもんがあんだろ!?」
「それで素直に答えたか?」
「答えるわけねーだろバーカ」
「ははは! では答えたくなるまで続けよう」

 ガレルは獰猛に笑うと、再び俺への刺激を再開した。

「えぅ、く……っ!」

 芯を持ちはじめた俺のちんこをさすさす擦られると、なすすべもなく硬くなっていく。
 腕を拘束している手を外そうとしてもビクともしない。
 お前筋力ありすぎだろ、いつもデスクワークしてるイメージなのに、どっからきたんだその筋肉!

「痛えよ! 腕を離せ!!」

 そう訴えると案外スッと手を外してくれたが、俺のちんこを人質にとられている身としては迂闊に動けない。
 裏筋をなぞられて背筋に電流が走る。

「うっ、あっ!」

 苦し紛れにガレルの胸板を叩くが、硬い感触が返ってきただけだった。

 俺の抵抗虚しく、高められては焦らされ、イキたいのにイケないを繰り返され、だんだん頭が沸騰したかのように熱に浮かされてきた。

「あ、ああ! ううっ」
「そろそろ言いたくなったか?」
「だ、れが……あっ!」

 あと少しの刺激でいけそうなのに、何度も指の輪でき止められて、じわりと目尻から涙が溢れてきた。

「えぐっ、も、や、嫌だぁ」
「ならば話すか?」
「それも、いやぁ」

 もう取り繕う気力もなくしゃくり上げて泣きだすと、ガレルは心底困ったという顔になった。

「お前をいじめたいわけではないのだが……結果的に泣かせてしまったな、すまない」
「ひくっ、えっく……っ」

 うあー、俺かっこわりい、ガチ泣きが止まらねえ。

 そんな俺をガレルは包みこむように抱きしめた。
 やめろ、優しくすんな! 余計涙が止まらなくなるだろうが!

 しばらく泣いていると少し気分も落ち着いてきた。
 バツが悪くなってもぞりと体を動かすと、ガレルの股間に膝があたる。頭上で息を詰める気配がした。

「……っ!」

 俺もギクリと体を強ばらせる。やっべ、めっちゃ硬くなってるこいつ。
 そりゃそうか、こいつにとっちゃ、目の前で好きな子の痴態を見せつけられてる状態なわけだ。

 ちらりと見上げた顔には、自嘲の笑みが浮かんでいた。

「今日はここまでにするか。事を急いてしまったようだな、すまなかった。お前のこととなると、どうも加減が効かないな」

 自身の欲を無視して俺を解放する手をぼんやりと見つめる。
 さっきのやりとりで半勃ちにまで落ち着いたちんこを、ガレルがそっと指先で触れた。

「っ!」
「これはどうする、抜いておくか?」
「いい! いらない!」

 反射的にそう答えたものの、ちょっともったいないと思ってしまった。だって本気でめっちゃ気持ちよくて、あとちょっとでイケそうだったのに……

「……ユール、手を離してくれ、お前の服を直せない」
「あ、これは、その……」

 ガレルの手がちんこから離れていくのを止めてしまった。
 そのままガレルの手ごと俺の手で握りこむと、また気持ちいいのが背筋を走り抜けた。

「ん……んっ」

 ガレルの手を使って自慰をはじめた俺に、ゴクリと唾を飲みこむガレル。
 その手が意志をもって動きはじめると、巧みな手捌きに翻弄されて俺はあっという間に昇りつめた。

「あぁ、あっ! も、イク……っ! あああぁぁっ!!」

 ぴゅ、ぴゅと白濁液が吐き出され、ガレルの手のひらを汚す。

 はあ、はあ、と俺の息遣いだけが部屋の中で聞こえる。
 やっちまった……気がついたら手が動いていたぜ、怖え……

 だってずっと待ち望んでいたから……自分の中に過ぎった思考に疑問が浮かぶが、ガレルが体を離しながら問うてきたため、考えは停止した。

「ユール、気持ちよかったか?」
「それは、その……まあ、うん」

 今更だがもぞもぞとベッドの上掛けを引っ張り体を隠すと、ガレルはクシャリと綺麗な方の手で俺の頭を撫でて、懐から取りだした高級そうなハンカチで手を拭った。

「あ、そのハンカチ……」
「そうだ、昔ユールが刺繍してくれたものだ。……ユールの匂いがついたな」

 ガレルが精液のついたハンカチを鼻に近づけようとするので、俺は慌ててそれをひったくった。

「おっまえ!! やめろそういうの!」
「ははは、気に触ったか? では止めるから、お前の隠していることを教えておくれ」

 まだ言うかコイツは。じろりと睨みつけても、ガレルは涼しい顔をしている。まだ勃ってるくせに。

「そんなに気になるのか?」
「ああ、気になるな。他ならぬユールのことなれば」

 ガレルが大きな手のひらで俺の背を撫でる。

「愛しいお前がなにか悩んでいるのなら力になりたいと思う。今までであれば、悩みの原因ごと排除してしまえば事足りたが、今のお前はそれでは嫌なのだろう。俺にもお前の問題を、一緒に考えさせてはくれないか」

 シーツごと抱きこんでくるガレルの腕の力強さに、真摯な声音に、心臓がことりと跳ねる。頬が火照って熱くなる。

 ああ、どうしちまったんだ俺の体よ。
 ちょっと性的に触られて優しくされたくらいで、ちょろすぎるだろ。
 これじゃまるで、ガレルのことが好きみたいじゃねーか。

「…‥言っても信じられないかもしれないぞ」
「では、信じられるまでじっくり話を聞かせてもらうこととしよう」

 顔の火照りと鼓動が落ちつくまで、俺は沈黙を貫いた。
 やっと落ちついた頃、俺はこれ以上隠し事を続ける気には、もはやなれなかった。

「あのさ……前世の記憶って、信じるか?」

 ガレルは俺としっかり目線をあわせて、続きを促した。
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