王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
3 / 37

3話

しおりを挟む

 部屋に帰った俺は、メイドに部屋から出てもらって一人になるとベッドに突っ伏した。

『マジであいつ、ぜってーヤバいって……降ろされる時さりげなく尻を触られた。絶対狙われてるわ俺』

 日本語で呟いて、盛大にため息をつく。

 今までのことを前世の記憶に当てはめてみると、ユールお前今までよく貞操無事だったなってくらいに、ガレルにツバつけられまくっていた。

 まず基本的に俺が誰かに興味を持つと、ガレルから自分といる方が楽しいぞって誘導するかのように遊びに誘われて、気がつくとその誰かはなぜかユールの視界に入らなくなっている。

 図書館や中庭の散策は自由にできるけど、城下町に行く時は基本ガレルと一緒だ。
 他の兄弟は護衛を連れて身軽に出かけていくのに。

 今まではそれを、自分は王家の血が繋がっていないから護衛が少ないと思っていた訳だが。
 考えてみれば貴重な結界術師に護衛をつけないはずがないので、町に行きたいと言えば護衛を手配して出かけられたはずである。

 なんでだかガレルと一緒じゃなきゃいけないってなっていて、小さい頃からそれが普通だった訳だが。

「やべえよ今までのユール、のほほんとしすぎだろ! 囲いこまれてんじゃん!」

 匡の意識が強いユールは、これはどうにかして逃げだすべきと考えた。だって逃げねえと俺の尻の危機じゃん、コレ。

 この世界、世継ぎ以外は同性愛に寛容っていうか、むしろ世継ぎ以外は男の嫁を持つことを推奨されるまであるのだ。

 特に王族なんて子どもが多ければ多いほど世継ぎ争いが面倒くさくなるし、国庫から金は出ていくわけで。
 二百年ほど前に子どもが多すぎて国が荒れて以来、三男以降は基本男を娶るのが今までの慣例だ。

 だから第三王子が血の繋がらない第四王子を嫁にしたところで、世間からは祝福されて終わるだろうとユールの記憶がそう言っている。

「いやだからって俺は諦めつかねえよ! 男の胸より女の子のおっぱいに顔を埋めたいの俺は!!」
「ユール様? なにかおっしゃられましたか?」
「うん!? な、なんでもねぇ……ないよ?」

 あ、危なかった。いつの間にかマシェリーが扉の外にいたようだ。

 ちなみにマシェリーはユールの専属メイドで、毎日の予定の調整から届いた手紙の代筆、贈り物の選別までなにくれと世話を焼いてくれている。

 着替えは別のメイドが手伝うので、マシェリーはもはやメイドというより専属秘書であるが、衣装も所作もメイドそのものなので、一応はユールの専属メイドという括りになっている。

 入っていいか聞かれたので許可すると、両手で箱を持って入室してきた。

「ガレル様より贈り物を預かっております。今開けますか?」
「また……いや、なんでもない。開けてくれ」

 マシェリーが箱を開けると、綺麗にラッピングされた純白のサーコートが出てきた。これまた金糸で豪奢な刺繍がされている。

 白に合わせるにしては主張の激しい金色の刺繍を見て、ユールはガレルの瞳の色を思いだし顔を引き攣らせる。

「見事な刺繍ですね、ユール様の怜悧な美貌をより一層引き立てることと存じます。一月後の誕生祭で身につけられてはいかがでしょうか」
「……そうだね、そうするよ……」

 ……こいつは俺のもの主張がヤベェぜガレルさんよぉ。
 めっちゃ服送ってくるけど、今考えるとそいつらぜーんぶ金色の刺繍がされてんじゃねえか!

 自分の髪や瞳の色が含まれた衣装を贈ることは、その相手に求婚中であることを表す。
 ちなみに身につけている時点でかなり脈アリと見られる。
 そして晴れて両思いになったら、それぞれが相手の色を身につけることになる。

 一般常識として今までののほほんユールも知ってはいたが、まさか義理とはいえ慕っている兄から下心込みで衣装を贈られていたとは思ってもみなかった。

 兄様は僕を気遣っていろいろ服を贈ってくれてるんだ、僕には王族が夜会で着るべき服などはわからないから助かるな、というようなふんわりとした感謝の気持ちしか抱いていなかった。
 鈍すぎるぜユールよ。

 王子の身分だからと特別に成人前に参加させられた夜会でも、もちろんガレル印の金色刺繍服を着用させられた。

 なんなら隣でエスコートもバッチリされていたことを思いだしたユールは、再び一人になった部屋のベッドでがくりと項垂れた。

 ダメじゃんユール、もう詰んでるわ……! 
 こんだけガレルに周り固められてちゃ、かわいい貴族の令嬢とかに今更求婚しても即刻拒否られるわ!!

「うわぁー嫌だ!! 俺はかわいいくて胸のでっかい女の子と愛を育んで、男の子と女の子一人ずつ産んでもらってあったかい家庭を築くんじゃーい! 男は嫌だ!!!」

 ガレルのことは人として嫌いじゃないが、なーんか怖いし、尻を差しだせるほど愛しちゃいない。

(いやでもこれ、マジでどうすりゃこの状況から逃げだせるわけ? ガッチガチに周り固められてっし、だからといってこの城から抜けだして生きていけるとは思えねえ)

 へっぽこ剣術に低身長女顔じゃ苦労するのは目に見えている。
 てかぶっちゃけ買い物もまともにしたことないから貨幣価値もわからん。ザ・箱入り。

 そもそもユールがいないと結界の維持のために周りに多大な迷惑をかける上に、結界が緩んで自分の身も危険になると思い至り、渋々ながらここから逃げだす案は却下した。

(誰か味方を巻き込む……幼馴染ーズはガレルに懐柔され済みっぽいし、なんか他に……ないのか……)

 日課の結界編みをチマチマこなしながら、ユールの脳内会議はその日一日中続いた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...