王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない

兎騎かなで

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3話

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 部屋に帰った俺は、メイドに部屋から出てもらって一人になるとベッドに突っ伏した。

『マジであいつ、ぜってーヤバいって……降ろされる時さりげなく尻を触られた。絶対狙われてるわ俺』

 日本語で呟いて、盛大にため息をつく。

 今までのことを前世の記憶に当てはめてみると、ユールお前今までよく貞操無事だったなってくらいに、ガレルにツバつけられまくっていた。

 まず基本的に俺が誰かに興味を持つと、ガレルから自分といる方が楽しいぞって誘導するかのように遊びに誘われて、気がつくとその誰かはなぜかユールの視界に入らなくなっている。

 図書館や中庭の散策は自由にできるけど、城下町に行く時は基本ガレルと一緒だ。
 他の兄弟は護衛を連れて身軽に出かけていくのに。

 今まではそれを、自分は王家の血が繋がっていないから護衛が少ないと思っていた訳だが。
 考えてみれば貴重な結界術師に護衛をつけないはずがないので、町に行きたいと言えば護衛を手配して出かけられたはずである。

 なんでだかガレルと一緒じゃなきゃいけないってなっていて、小さい頃からそれが普通だった訳だが。

「やべえよ今までのユール、のほほんとしすぎだろ! 囲いこまれてんじゃん!」

 匡の意識が強いユールは、これはどうにかして逃げだすべきと考えた。だって逃げねえと俺の尻の危機じゃん、コレ。

 この世界、世継ぎ以外は同性愛に寛容っていうか、むしろ世継ぎ以外は男の嫁を持つことを推奨されるまであるのだ。

 特に王族なんて子どもが多ければ多いほど世継ぎ争いが面倒くさくなるし、国庫から金は出ていくわけで。
 二百年ほど前に子どもが多すぎて国が荒れて以来、三男以降は基本男を娶るのが今までの慣例だ。

 だから第三王子が血の繋がらない第四王子を嫁にしたところで、世間からは祝福されて終わるだろうとユールの記憶がそう言っている。

「いやだからって俺は諦めつかねえよ! 男の胸より女の子のおっぱいに顔を埋めたいの俺は!!」
「ユール様? なにかおっしゃられましたか?」
「うん!? な、なんでもねぇ……ないよ?」

 あ、危なかった。いつの間にかマシェリーが扉の外にいたようだ。

 ちなみにマシェリーはユールの専属メイドで、毎日の予定の調整から届いた手紙の代筆、贈り物の選別までなにくれと世話を焼いてくれている。

 着替えは別のメイドが手伝うので、マシェリーはもはやメイドというより専属秘書であるが、衣装も所作もメイドそのものなので、一応はユールの専属メイドという括りになっている。

 入っていいか聞かれたので許可すると、両手で箱を持って入室してきた。

「ガレル様より贈り物を預かっております。今開けますか?」
「また……いや、なんでもない。開けてくれ」

 マシェリーが箱を開けると、綺麗にラッピングされた純白のサーコートが出てきた。これまた金糸で豪奢な刺繍がされている。

 白に合わせるにしては主張の激しい金色の刺繍を見て、ユールはガレルの瞳の色を思いだし顔を引き攣らせる。

「見事な刺繍ですね、ユール様の怜悧な美貌をより一層引き立てることと存じます。一月後の誕生祭で身につけられてはいかがでしょうか」
「……そうだね、そうするよ……」

 ……こいつは俺のもの主張がヤベェぜガレルさんよぉ。
 めっちゃ服送ってくるけど、今考えるとそいつらぜーんぶ金色の刺繍がされてんじゃねえか!

 自分の髪や瞳の色が含まれた衣装を贈ることは、その相手に求婚中であることを表す。
 ちなみに身につけている時点でかなり脈アリと見られる。
 そして晴れて両思いになったら、それぞれが相手の色を身につけることになる。

 一般常識として今までののほほんユールも知ってはいたが、まさか義理とはいえ慕っている兄から下心込みで衣装を贈られていたとは思ってもみなかった。

 兄様は僕を気遣っていろいろ服を贈ってくれてるんだ、僕には王族が夜会で着るべき服などはわからないから助かるな、というようなふんわりとした感謝の気持ちしか抱いていなかった。
 鈍すぎるぜユールよ。

 王子の身分だからと特別に成人前に参加させられた夜会でも、もちろんガレル印の金色刺繍服を着用させられた。

 なんなら隣でエスコートもバッチリされていたことを思いだしたユールは、再び一人になった部屋のベッドでがくりと項垂れた。

 ダメじゃんユール、もう詰んでるわ……! 
 こんだけガレルに周り固められてちゃ、かわいい貴族の令嬢とかに今更求婚しても即刻拒否られるわ!!

「うわぁー嫌だ!! 俺はかわいいくて胸のでっかい女の子と愛を育んで、男の子と女の子一人ずつ産んでもらってあったかい家庭を築くんじゃーい! 男は嫌だ!!!」

 ガレルのことは人として嫌いじゃないが、なーんか怖いし、尻を差しだせるほど愛しちゃいない。

(いやでもこれ、マジでどうすりゃこの状況から逃げだせるわけ? ガッチガチに周り固められてっし、だからといってこの城から抜けだして生きていけるとは思えねえ)

 へっぽこ剣術に低身長女顔じゃ苦労するのは目に見えている。
 てかぶっちゃけ買い物もまともにしたことないから貨幣価値もわからん。ザ・箱入り。

 そもそもユールがいないと結界の維持のために周りに多大な迷惑をかける上に、結界が緩んで自分の身も危険になると思い至り、渋々ながらここから逃げだす案は却下した。

(誰か味方を巻き込む……幼馴染ーズはガレルに懐柔され済みっぽいし、なんか他に……ないのか……)

 日課の結界編みをチマチマこなしながら、ユールの脳内会議はその日一日中続いた。
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