1 / 37
1話
しおりを挟む
起きたら見慣れない、やけに豪奢な部屋だった。
金糸が織り込まれた重そうなカーテンから、朝の光が差し込んでいる。
どことなくアールヌーボーな雰囲気の、白と金色を基調とした部屋。
「……は? いやまて俺。落ち着こう。確かゼミのやつらと酒飲んで、馬鹿騒ぎして……それからどうなった? ここどこだ」
これまたずっしりした濃い緑の上掛けをまくると、ガチャリと音がして扉からメイドが出てきた。
メイド喫茶にいるようなやつじゃなくて、長い紺色のスカートで装飾もほとんどない本格的な方のメイドだ。
茶色の髪を引っ詰めていて、いかにも真面目そう。
「おはようございます、ユール様。朝のお茶をお持ちしました」
楚々とした所作で隙なく動き、ベッドの横にあった装飾過多の真っ白なサイドテーブルに、紅茶らしきものを注いでくれる。
意味もわからず固まっていると、メイドは一礼して一歩さがった。
「本日は天候に恵まれましたので、ガレル様との遠乗りは予定通り行われるということでよろしいでしょうか」
よろしいでしょうかって、なにもよろしくないが!?
不安を吐きだすように思いのまま話そうとすると、キンと耳鳴りと頭痛が一気に襲ってきた。
「……っ!」
「ユール様? どうなさいましたか、ご体調が優れませんか? すぐに主治医を……」
メイドが踵を返そうとするのを、手を挙げて止めるジェスチャーをする。
「いや、心配には及ばないマシェリー。体調はいいよ、ガレル兄様との遠乗りはもちろん行こう」
「そうでございますか……かしこまりました。ではそのように手配します」
メイド……マシェリーが部屋から下がると、はあっとため息を吐きだした。
「えーっと、つまりどういうことだ……俺は塔野匡だけど、ユール・エレド・ラ・リーファウスでもあるわけで……んー?」
ベッドから降りて、唐草模様の主張が激しい姿見の前に立ってみた。
プラチナブロンドの髪に、アメジストの瞳の十四才くらいの見た目の美少年が、困惑した顔で見返してくる。
いや、自分で言うのもなんだけどすっごい美少年。
女顔だけど眉が凛々しいからちゃんと男ってわかる。
顔の輪郭を撫でると、鏡の中の人物も同じ動きをした。
やっぱ俺、あれだわ。ユールで間違いない。
「けど昨日まで匡の記憶なんてなかったし、こんな下町の平民みたいな喋り方、できなかったはずだけどな……」
今度はユールの方の昨日の記憶を思いだしてみる。
確か昨日は才能のない剣の稽古を内心涙目になりながら頑張った後、日課である結界への魔力譲渡をこなした。
昼食後に勉強をして、その後癒しの図書館にこもって本を読んでいたら、通りがかったガレル兄様に今日の予定である遠乗りに誘われたんだっけかな。
それから兄様と夕食を共にして、部屋に戻って湯浴みをして寝た。
特別変わったことはなかったし、ベッドから落ちて頭打ったりとかもなかった。
魔法をかけられたら誰かの魔力を感じるはずだが、自分の魔力しか感じとれない。
「ということは、なんだろうな……まあでも、順当に考えるといわゆる前世の記憶ってやつか?」
匡の記憶は鮮烈で色鮮やかで、正直自分はユールであるというよりも匡であると思った方がしっくりくる。
大学に通いながら、日々ジャズサークルに入り浸り青春を謳歌する大学二年生。
正直勉強なんて単位が取れれば問題ないとばかりに、バイトがない日は頻繁に友達と飲み歩いている。
人格もそちらに引っ張られているようで、訳のわからない事態に白金の髪をボリボリと掻きむしった。
ユールだった時はそんな仕草をしたことないのに、気がついたら自然としていた。
「これはちょっと気をつけないとな。第四王子が急にガサツになったなんて噂になったら、ガレル兄様になんと言われるか……」
めちゃくちゃ心配されてしばらく軟禁されそうだ。うん、隠そう。
今まで通り、なにもなかったかのように過ごすんだ。
ユールの記憶を辿ってガレルのことを思いだそうとすると、なにやら違和感を感じたが、それを言語化する前にメイドが三人部屋に入ってきた。
「失礼しますユール様。お召し替えを手伝わせていただきます」
「いや、結構だ」
姉ちゃんぐらいの年の女性に着替えを手伝われるなんて、どんな羞恥プレイだよ! と内心ツッコミながら、持ちこまれた着替えの中から無難な上下セットを見つけて手にとる。
「出ていていいよ、自分で着替えるから」
「それは……かしこまりました、そのように致します」
メイド達は戸惑いながらも部屋を出ていく。
ユールはその背中を見送りながら、あちゃーと心の中で呟いた。
「ついやっちまった……ま、このくらいいいだろ。王族でも、軍に所属してたりしたら自分で着替えることもあるような……俺入ってないから知らんけど」
うっかり匡の感覚で物を言わないようにもうちょい気をつけないとな、とユールは頷きながら、着替えを開始した。
金糸が織り込まれた重そうなカーテンから、朝の光が差し込んでいる。
どことなくアールヌーボーな雰囲気の、白と金色を基調とした部屋。
「……は? いやまて俺。落ち着こう。確かゼミのやつらと酒飲んで、馬鹿騒ぎして……それからどうなった? ここどこだ」
これまたずっしりした濃い緑の上掛けをまくると、ガチャリと音がして扉からメイドが出てきた。
メイド喫茶にいるようなやつじゃなくて、長い紺色のスカートで装飾もほとんどない本格的な方のメイドだ。
茶色の髪を引っ詰めていて、いかにも真面目そう。
「おはようございます、ユール様。朝のお茶をお持ちしました」
楚々とした所作で隙なく動き、ベッドの横にあった装飾過多の真っ白なサイドテーブルに、紅茶らしきものを注いでくれる。
意味もわからず固まっていると、メイドは一礼して一歩さがった。
「本日は天候に恵まれましたので、ガレル様との遠乗りは予定通り行われるということでよろしいでしょうか」
よろしいでしょうかって、なにもよろしくないが!?
不安を吐きだすように思いのまま話そうとすると、キンと耳鳴りと頭痛が一気に襲ってきた。
「……っ!」
「ユール様? どうなさいましたか、ご体調が優れませんか? すぐに主治医を……」
メイドが踵を返そうとするのを、手を挙げて止めるジェスチャーをする。
「いや、心配には及ばないマシェリー。体調はいいよ、ガレル兄様との遠乗りはもちろん行こう」
「そうでございますか……かしこまりました。ではそのように手配します」
メイド……マシェリーが部屋から下がると、はあっとため息を吐きだした。
「えーっと、つまりどういうことだ……俺は塔野匡だけど、ユール・エレド・ラ・リーファウスでもあるわけで……んー?」
ベッドから降りて、唐草模様の主張が激しい姿見の前に立ってみた。
プラチナブロンドの髪に、アメジストの瞳の十四才くらいの見た目の美少年が、困惑した顔で見返してくる。
いや、自分で言うのもなんだけどすっごい美少年。
女顔だけど眉が凛々しいからちゃんと男ってわかる。
顔の輪郭を撫でると、鏡の中の人物も同じ動きをした。
やっぱ俺、あれだわ。ユールで間違いない。
「けど昨日まで匡の記憶なんてなかったし、こんな下町の平民みたいな喋り方、できなかったはずだけどな……」
今度はユールの方の昨日の記憶を思いだしてみる。
確か昨日は才能のない剣の稽古を内心涙目になりながら頑張った後、日課である結界への魔力譲渡をこなした。
昼食後に勉強をして、その後癒しの図書館にこもって本を読んでいたら、通りがかったガレル兄様に今日の予定である遠乗りに誘われたんだっけかな。
それから兄様と夕食を共にして、部屋に戻って湯浴みをして寝た。
特別変わったことはなかったし、ベッドから落ちて頭打ったりとかもなかった。
魔法をかけられたら誰かの魔力を感じるはずだが、自分の魔力しか感じとれない。
「ということは、なんだろうな……まあでも、順当に考えるといわゆる前世の記憶ってやつか?」
匡の記憶は鮮烈で色鮮やかで、正直自分はユールであるというよりも匡であると思った方がしっくりくる。
大学に通いながら、日々ジャズサークルに入り浸り青春を謳歌する大学二年生。
正直勉強なんて単位が取れれば問題ないとばかりに、バイトがない日は頻繁に友達と飲み歩いている。
人格もそちらに引っ張られているようで、訳のわからない事態に白金の髪をボリボリと掻きむしった。
ユールだった時はそんな仕草をしたことないのに、気がついたら自然としていた。
「これはちょっと気をつけないとな。第四王子が急にガサツになったなんて噂になったら、ガレル兄様になんと言われるか……」
めちゃくちゃ心配されてしばらく軟禁されそうだ。うん、隠そう。
今まで通り、なにもなかったかのように過ごすんだ。
ユールの記憶を辿ってガレルのことを思いだそうとすると、なにやら違和感を感じたが、それを言語化する前にメイドが三人部屋に入ってきた。
「失礼しますユール様。お召し替えを手伝わせていただきます」
「いや、結構だ」
姉ちゃんぐらいの年の女性に着替えを手伝われるなんて、どんな羞恥プレイだよ! と内心ツッコミながら、持ちこまれた着替えの中から無難な上下セットを見つけて手にとる。
「出ていていいよ、自分で着替えるから」
「それは……かしこまりました、そのように致します」
メイド達は戸惑いながらも部屋を出ていく。
ユールはその背中を見送りながら、あちゃーと心の中で呟いた。
「ついやっちまった……ま、このくらいいいだろ。王族でも、軍に所属してたりしたら自分で着替えることもあるような……俺入ってないから知らんけど」
うっかり匡の感覚で物を言わないようにもうちょい気をつけないとな、とユールは頷きながら、着替えを開始した。
82
お気に入りに追加
1,514
あなたにおすすめの小説
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる