57 / 57
終章 旅の終わりと新たな決意
これから ヘルムート編
しおりを挟む
宿に戻って、食堂で夕食を食べた。隆臣さんやアルトさん、それにレオの話はするものの、この先のことについては誰もが触れずに食事を終える。
どうやら日本には帰れないみたいってこともサラッと話したのに、不自然なくらい何も聞かれない……きっと三人とも船で話したことを覚えていて、俺が告白の返事をどうするのか待ってくれているんだね。
緊張しているのか珍しく食が進まず、まだご飯は残っているけど木のさじを置いた。チラリと気になる彼を窺う。
ヘルは黙々とご飯を口にかきこんでいた。こんなに食べるのが早いのに、粗野に見えないのは不思議だなあ……ふと隣から視線を感じて振り向くと、クロノスと視線が交錯する。
「クロノス……この後話があるんだけど、時間もらっていいかな?」
クロノスは、慣れ親しんだ優しげな微笑を口元に乗せて頷いた。
「ええ、もちろん構いません」
「待てよ、スバル!」
クロノスが応えると間髪入れずにヘルが立ち上がって叫ぶ。メレがヘルの肩を掴んで、まあまあまあと宥めながら椅子に戻らせた。
「アンタにはこれから、アタシのヤケ酒につきあってもらうんだから。アンタだって飲みたい気分でしょ?」
「誰が……っ、離せ! 俺はテメーじゃなくてスバルに用があんだよ!!」
「あ、俺もクロノスと話が終わった後は、ヘルに話したいことがあったんだけど……!」
告白の返事をするからには、クロノスとずっと一緒にいられなくなるかもだし、主従契約を解いた方がよさそうだから。
だからその話をしてから、ずっと待たせていたヘルに返事をしたいと思ってるんだ。
「は? 俺に? 何の話だ」
ヘルは本当にわからないって顔をしていたが、クロノスはなにかを察した様子だった。
「……スバル、私への話は後で構いません。ヘルムートに伝えたいことがあるのでしょう? 私が望むのは、貴方が幸せでいることですから」
あ、クロノスにはわかっちゃったみたいだ。俺がこれからヘルに何を話すのか。
「えっと、ごめんねクロノス」
「いえ、私のことは本当に気にしないでください」
「じゃあ、お言葉に甘えて……ヘル、できれば二人っきりで聞いてほしいんだけど、ダメかな?」
そこでやっと何かを察したのか、ヘルはハッと表情を変えると勢いよく首を横に振った。
「ダメなわけあるかよ! 今すぐ部屋に戻ろうぜ!」
バッと俺の手を掴んで階段を登りはじめるヘルについていく。背後からメレの声が聞こえてきた。
「あーあ、フラれちゃったんじゃない? アタシ達。一杯つきあいなさいよ……って、アンタ酒飲めないじゃないの、使えないわねえ」
「貴方にどのように思われようと毛ほども痒くありませんが、ヤケ酒ですか、いいでしょう。つきあいますよ」
「アンタ自棄になってるわね!? ダメよ! 飲ませないから!」
「何故です? 自棄酒でしょう? 私も傷心……というのに、……不公平……」
バタンと扉が閉まり、階下の音は完全に聞こえなくなった。
急に静かになって緊張しながらも、クルリと振り向いたヘルの真剣な瞳と向きあう。
「なあ、話ってもしかして、告白の返事をくれるってことでいいのか? 俺で、いいってことか?」
「う、うん。そ……」
「ぃよっしゃ!!!」
最後まで伝える間もなく、痛いくらいに抱きしめられて、踵がちょっと浮いてしまう。
「ヤベェ、マジで嬉しい……スバル……!!」
それ以上言葉が出てこないようで、更に力を込めようとしてくるので慌てて胸板を押した。
「ちょっと待って! 痛いよヘル」
「あ、すまねえ!」
ヘルは俺の言葉を聞くなりパッと体を離してくれる。
普段は好き勝手して突っ走るのに、俺のことは気遣ってくれて一番に考えてくれるところ、やっぱり好きだなあって思った。
不器用だしツンデレだし、目のこともあって大変だっただろうに、それでも俺のためにってしてくれる行動を受け取っていたら、いつのまにか心の中で一番大きな存在になっていた。
首を絞められた時だって、俺のことじゃなくてヘルが傷ついていないかばかり気になってしまった。
こんなにも好きになってたんだって、自分でも愕然としたくらいだ。
もう日本に帰れないってわかって、迷いが吹っきれた。これからはヘルの側にいて、彼を支えていきたい。
想いを込めて抱きしめ返すと、また力をこめそうになって慌てて引っこめる気配を感じた。
思わずくす、と笑ってしまう。
俺の反応に勇気をもらったのか、ヘルは内心を吐露した。
「スバル、俺、ぜってーお前のこと大切にする」
「うん」
「前みたいに傷つけたりは、もう二度としない」
「うん、信じてるよ」
「おう……だから、抱いていいか?」
ドキ、と鼓動が跳ねる。いつかはそうなると思ってたけど、え、今日? 今?
「そ、そんな急に?」
「急じゃねえよ、俺はスバルのこと十分に待っただろ? ……マジで気が狂うくらい我慢して、夜暴れて酒飲んで誤魔化して、もう一秒だって待てねえよ」
俺の肩を掴んだヘルの海色の目と視線が交錯する。ゆらりゆらりと揺蕩う水が、複雑な模様を描いている。
「なあ、お願いだ……スバルに触れたくてたまんねえんだ」
そう言ったきり、首筋に顔を埋めて動かなくなったヘルの銀色の頭を、おずおずと撫でてみた。
普段はクールでかっこいいのに、時々ツンデレを発動したりこんな風に可愛くお願いごとをしてくるから、つい応えたくなってしまう。
今までは俺だって、応えるのを我慢してたんだよね。今日からは、我慢しなくていいんだ。
「あの……」
「なんだ?」
「痛くしないなら、その、いいよ……っうわあ!」
答えると同時に抱き抱えられて、ベッドの上に連れ去られた。
ぼすりと音を立ててのしかかられ、唇に熱いものが触れた。
「ん、んうぅ!?」
びっくりして半開きになった唇から、熱い舌が潜りこんでくる。
ちゅぱ、くちゅ、と恥ずかしい音がしたり、舌先から口蓋まで無遠慮に舐めまわされたりして、俺の頭はだんだん熱に浮かされていく。
気づいた時には全ての服を取り去られ、半裸のヘルが熱心に後腔を解していた。
刃物を手入れするためのオイルをたっぷりと塗され、ドロドロになった俺の後ろの穴は、すでにヘルを迎えいれる準備が整っている。
「あ、はあ、ふう……っ!」
「くっそ、エロ……、なあ、そろそろいいか?」
「ん、たぶん、んぅっ!」
はあはあと息を荒げながら、一度指を抜いて前をくつろげるヘルの姿を月の光で確認しながら、俺はたくましい体についた無数の傷をそっとなぞった。
途端にピクリと身をすくませて動かなくなるヘル。
「ね、ヘルも、全部脱いで、よ」
「スバル……」
バツが悪そうに目を背けるヘルの顔をこちらに向かせて、眼帯の紐も引っ張った。
「これも、とって」
「いや、これは……こんな汚ねえもん、できれば見せたくねえんだ」
俺の手を押さえるようにして目を隠すヘルに、俺はなおも言いつのる。
「汚くなんて、ない。俺は、傷だらけになって、がんばってきた、ヘルが好きだよ。それに……この目だって」
俺が眼帯を解こうとすると、大した抵抗もなくしゅるりとそれは外れた。
赤い瞳の中には、轟々と濁流のように荒れ狂う魔力の流れが見える。
「この目も、ヘルの一部なんだよ。ヘルと一緒に、今までがんばってきたんだよ」
力の入らない体を気合いで起こして、右の瞼の傷跡にキスをする。
目を見開いて俺を見つめるヘルに笑いかけると、ヘルの両目の海が波打って、じわりと水滴が滲みだした。
つう、と頬に流れた涙はぽたり、ぽた、と俺の腹を濡らす。
呆然とそれを見ていると、ヘルは突然顔を背けて瞳を腕で隠した。
「ばっ、お前……! なんでんなこと、今言うんだよ……!」
「え、え? ダメだった?」
「ダメじゃねえよ! ダメじゃねえけど、クソ……カッコわりい」
ぐし、と鼻を啜る音が聞こえてくる。
擦られて赤くなった鼻を見つめて、なんてかわいい人なんだろうと、こんな状況だって言うのに笑ってしまう。
「ヘル、好きだよ」
「俺の方が、好きだっ! クッソ!! せっかく優しくしてやろうと思ってるのに!」
「ふふ、ふっ、ん! あっ!!」
乱暴にシャツを脱ぎ捨てたヘルは、大きく反りかえった肉棒を俺の孔に押し当てた。
グリ、と一番太いところが入った後は、ゴリゴリと中を擦られながらどんどん奥に進んでくる。
「あ、あ、あっ!」
「く、キッツ……痛くねえよな!?」
「だ、だいじょ、ぶっ、あん!」
一度引き抜かれて、ぱちゅん! と音が立つほど勢いよく突かれる。もうその後は、容赦のない抽送に嵐のように翻弄されるばかり。
「んあぁっ! あ、あぁ!!」
「スバル、スバル……!」
我も忘れて喘いでいると、腹の中に熱いものが注ぎこまれる。
「うっ……」
「っ、はあ、はあ……あぁ……あ、ん!?」
やっと止まった、と息を落ち着けているそばからまた中を擦られる。
雑に拭ったせいで赤くなったヘルの目元よりも俺の頬は火照ってしまって、まるで治まりそうにない。
「ま、待ってぇ、ヘルぅ!」
「止まんねえよ、こんな……! スバル、明日は責任とって全部世話すっから、つきあえ!」
「あ、あぁ! やあぁ!!」
そうして俺は喉が枯れるまで声を上げつづけることになった。
そんなことがあってから、俺はヘルと二人でイエルトに家を借りて暮らしはじめた。
しばらくはヘルが働きに出て、夜になると抱きつぶされ、俺が寝込んでいる間にまたどこかに稼ぎに行っている……という生活が続いたんだけど。
様子を見にきたクロノスとメレ……メヴィに笑顔でメチャクチャキレられて、俺からもヘルの目を治すために日中動ける体力を残してほしいと伝えると反省したらしく、手加減してくれるようになった。
時々我を忘れて抱きつぶされる日もあるけどね。
それでやっと動けるようになった俺は、隆臣さんの研究所の力を借りて本格的にヘルの目の研究に取り組んだ。
そしたらね、なんと! 紆余曲折あって、ヘルの目は無事に赤から青に戻ったんだよ!
これはすごい! と隆臣さんも興奮して、魔獣にも効くかどうか実験してみると、魔獣化してそう時間の経っていない、少しでも理性が残っている個体には効果があることがわかったんだ。
俺はその功績で王家から表彰されそうになったけど、騒がれるのを嫌ったヘルの力技により、一研究員として今も平和に隆臣さんの研究所に勤められている。
それでまた魔力が使えるようになったヘルは、日雇いだったり裏の危険な仕事から脱却して、なんと今は公共治水事業の筆頭技術者として日々腕を奮っている。
いつかクロノスとメヴィの視力も回復させて、魔法を自分で使えるようになってほしいなあというのが今の俺の研究課題だ。
なので、隆臣さんの研究所で、時々二人とも交流している。ヘルはいい顔しないけど、仕事だから渋々許してくれている。
クロノスは主従関係を解いた後、どうやらレオの執事として雇われたみたい。自由なレオに振り回されつつも、やっぱり執事の仕事が性に合ってるみたい。
メヴィも新しい事業を立ちあげて、服屋と眼鏡屋が一緒くたになったファッションストアを楽しそうに経営してるよ。
今日も今日とて研究所での仕事を終えて家にたどり着く。
食材の入った袋からカラフルな野菜を取りだし、慣れた手つきでそれを切って鍋に入れて煮こむ。
最近のヘルは仕事一筋でがんばってるから、もっぱら料理は俺の仕事だ。
「ふんふんふふーん」
俺もずいぶん料理が上手くなったよね、と自画自賛しながら、スープの味見をしていると。
ガチャガチャ、と扉の鍵が回り、背の高いシルエットが銀の髪を翻して、部屋の中にスルリと入ってくる。
「スバル! 帰ったぞ」
「ヘル! おかえり!!」
お玉をキッチンに置いて、急いで玄関に駆けていく。
部屋の中は、美味しそうで幸せな香りに満ちていた。
たくさんの困難と波乱の毎日を乗り越えて、俺はこれからもヘル共に暮らしていく。
きっとこれから先も、ずっと。
どうやら日本には帰れないみたいってこともサラッと話したのに、不自然なくらい何も聞かれない……きっと三人とも船で話したことを覚えていて、俺が告白の返事をどうするのか待ってくれているんだね。
緊張しているのか珍しく食が進まず、まだご飯は残っているけど木のさじを置いた。チラリと気になる彼を窺う。
ヘルは黙々とご飯を口にかきこんでいた。こんなに食べるのが早いのに、粗野に見えないのは不思議だなあ……ふと隣から視線を感じて振り向くと、クロノスと視線が交錯する。
「クロノス……この後話があるんだけど、時間もらっていいかな?」
クロノスは、慣れ親しんだ優しげな微笑を口元に乗せて頷いた。
「ええ、もちろん構いません」
「待てよ、スバル!」
クロノスが応えると間髪入れずにヘルが立ち上がって叫ぶ。メレがヘルの肩を掴んで、まあまあまあと宥めながら椅子に戻らせた。
「アンタにはこれから、アタシのヤケ酒につきあってもらうんだから。アンタだって飲みたい気分でしょ?」
「誰が……っ、離せ! 俺はテメーじゃなくてスバルに用があんだよ!!」
「あ、俺もクロノスと話が終わった後は、ヘルに話したいことがあったんだけど……!」
告白の返事をするからには、クロノスとずっと一緒にいられなくなるかもだし、主従契約を解いた方がよさそうだから。
だからその話をしてから、ずっと待たせていたヘルに返事をしたいと思ってるんだ。
「は? 俺に? 何の話だ」
ヘルは本当にわからないって顔をしていたが、クロノスはなにかを察した様子だった。
「……スバル、私への話は後で構いません。ヘルムートに伝えたいことがあるのでしょう? 私が望むのは、貴方が幸せでいることですから」
あ、クロノスにはわかっちゃったみたいだ。俺がこれからヘルに何を話すのか。
「えっと、ごめんねクロノス」
「いえ、私のことは本当に気にしないでください」
「じゃあ、お言葉に甘えて……ヘル、できれば二人っきりで聞いてほしいんだけど、ダメかな?」
そこでやっと何かを察したのか、ヘルはハッと表情を変えると勢いよく首を横に振った。
「ダメなわけあるかよ! 今すぐ部屋に戻ろうぜ!」
バッと俺の手を掴んで階段を登りはじめるヘルについていく。背後からメレの声が聞こえてきた。
「あーあ、フラれちゃったんじゃない? アタシ達。一杯つきあいなさいよ……って、アンタ酒飲めないじゃないの、使えないわねえ」
「貴方にどのように思われようと毛ほども痒くありませんが、ヤケ酒ですか、いいでしょう。つきあいますよ」
「アンタ自棄になってるわね!? ダメよ! 飲ませないから!」
「何故です? 自棄酒でしょう? 私も傷心……というのに、……不公平……」
バタンと扉が閉まり、階下の音は完全に聞こえなくなった。
急に静かになって緊張しながらも、クルリと振り向いたヘルの真剣な瞳と向きあう。
「なあ、話ってもしかして、告白の返事をくれるってことでいいのか? 俺で、いいってことか?」
「う、うん。そ……」
「ぃよっしゃ!!!」
最後まで伝える間もなく、痛いくらいに抱きしめられて、踵がちょっと浮いてしまう。
「ヤベェ、マジで嬉しい……スバル……!!」
それ以上言葉が出てこないようで、更に力を込めようとしてくるので慌てて胸板を押した。
「ちょっと待って! 痛いよヘル」
「あ、すまねえ!」
ヘルは俺の言葉を聞くなりパッと体を離してくれる。
普段は好き勝手して突っ走るのに、俺のことは気遣ってくれて一番に考えてくれるところ、やっぱり好きだなあって思った。
不器用だしツンデレだし、目のこともあって大変だっただろうに、それでも俺のためにってしてくれる行動を受け取っていたら、いつのまにか心の中で一番大きな存在になっていた。
首を絞められた時だって、俺のことじゃなくてヘルが傷ついていないかばかり気になってしまった。
こんなにも好きになってたんだって、自分でも愕然としたくらいだ。
もう日本に帰れないってわかって、迷いが吹っきれた。これからはヘルの側にいて、彼を支えていきたい。
想いを込めて抱きしめ返すと、また力をこめそうになって慌てて引っこめる気配を感じた。
思わずくす、と笑ってしまう。
俺の反応に勇気をもらったのか、ヘルは内心を吐露した。
「スバル、俺、ぜってーお前のこと大切にする」
「うん」
「前みたいに傷つけたりは、もう二度としない」
「うん、信じてるよ」
「おう……だから、抱いていいか?」
ドキ、と鼓動が跳ねる。いつかはそうなると思ってたけど、え、今日? 今?
「そ、そんな急に?」
「急じゃねえよ、俺はスバルのこと十分に待っただろ? ……マジで気が狂うくらい我慢して、夜暴れて酒飲んで誤魔化して、もう一秒だって待てねえよ」
俺の肩を掴んだヘルの海色の目と視線が交錯する。ゆらりゆらりと揺蕩う水が、複雑な模様を描いている。
「なあ、お願いだ……スバルに触れたくてたまんねえんだ」
そう言ったきり、首筋に顔を埋めて動かなくなったヘルの銀色の頭を、おずおずと撫でてみた。
普段はクールでかっこいいのに、時々ツンデレを発動したりこんな風に可愛くお願いごとをしてくるから、つい応えたくなってしまう。
今までは俺だって、応えるのを我慢してたんだよね。今日からは、我慢しなくていいんだ。
「あの……」
「なんだ?」
「痛くしないなら、その、いいよ……っうわあ!」
答えると同時に抱き抱えられて、ベッドの上に連れ去られた。
ぼすりと音を立ててのしかかられ、唇に熱いものが触れた。
「ん、んうぅ!?」
びっくりして半開きになった唇から、熱い舌が潜りこんでくる。
ちゅぱ、くちゅ、と恥ずかしい音がしたり、舌先から口蓋まで無遠慮に舐めまわされたりして、俺の頭はだんだん熱に浮かされていく。
気づいた時には全ての服を取り去られ、半裸のヘルが熱心に後腔を解していた。
刃物を手入れするためのオイルをたっぷりと塗され、ドロドロになった俺の後ろの穴は、すでにヘルを迎えいれる準備が整っている。
「あ、はあ、ふう……っ!」
「くっそ、エロ……、なあ、そろそろいいか?」
「ん、たぶん、んぅっ!」
はあはあと息を荒げながら、一度指を抜いて前をくつろげるヘルの姿を月の光で確認しながら、俺はたくましい体についた無数の傷をそっとなぞった。
途端にピクリと身をすくませて動かなくなるヘル。
「ね、ヘルも、全部脱いで、よ」
「スバル……」
バツが悪そうに目を背けるヘルの顔をこちらに向かせて、眼帯の紐も引っ張った。
「これも、とって」
「いや、これは……こんな汚ねえもん、できれば見せたくねえんだ」
俺の手を押さえるようにして目を隠すヘルに、俺はなおも言いつのる。
「汚くなんて、ない。俺は、傷だらけになって、がんばってきた、ヘルが好きだよ。それに……この目だって」
俺が眼帯を解こうとすると、大した抵抗もなくしゅるりとそれは外れた。
赤い瞳の中には、轟々と濁流のように荒れ狂う魔力の流れが見える。
「この目も、ヘルの一部なんだよ。ヘルと一緒に、今までがんばってきたんだよ」
力の入らない体を気合いで起こして、右の瞼の傷跡にキスをする。
目を見開いて俺を見つめるヘルに笑いかけると、ヘルの両目の海が波打って、じわりと水滴が滲みだした。
つう、と頬に流れた涙はぽたり、ぽた、と俺の腹を濡らす。
呆然とそれを見ていると、ヘルは突然顔を背けて瞳を腕で隠した。
「ばっ、お前……! なんでんなこと、今言うんだよ……!」
「え、え? ダメだった?」
「ダメじゃねえよ! ダメじゃねえけど、クソ……カッコわりい」
ぐし、と鼻を啜る音が聞こえてくる。
擦られて赤くなった鼻を見つめて、なんてかわいい人なんだろうと、こんな状況だって言うのに笑ってしまう。
「ヘル、好きだよ」
「俺の方が、好きだっ! クッソ!! せっかく優しくしてやろうと思ってるのに!」
「ふふ、ふっ、ん! あっ!!」
乱暴にシャツを脱ぎ捨てたヘルは、大きく反りかえった肉棒を俺の孔に押し当てた。
グリ、と一番太いところが入った後は、ゴリゴリと中を擦られながらどんどん奥に進んでくる。
「あ、あ、あっ!」
「く、キッツ……痛くねえよな!?」
「だ、だいじょ、ぶっ、あん!」
一度引き抜かれて、ぱちゅん! と音が立つほど勢いよく突かれる。もうその後は、容赦のない抽送に嵐のように翻弄されるばかり。
「んあぁっ! あ、あぁ!!」
「スバル、スバル……!」
我も忘れて喘いでいると、腹の中に熱いものが注ぎこまれる。
「うっ……」
「っ、はあ、はあ……あぁ……あ、ん!?」
やっと止まった、と息を落ち着けているそばからまた中を擦られる。
雑に拭ったせいで赤くなったヘルの目元よりも俺の頬は火照ってしまって、まるで治まりそうにない。
「ま、待ってぇ、ヘルぅ!」
「止まんねえよ、こんな……! スバル、明日は責任とって全部世話すっから、つきあえ!」
「あ、あぁ! やあぁ!!」
そうして俺は喉が枯れるまで声を上げつづけることになった。
そんなことがあってから、俺はヘルと二人でイエルトに家を借りて暮らしはじめた。
しばらくはヘルが働きに出て、夜になると抱きつぶされ、俺が寝込んでいる間にまたどこかに稼ぎに行っている……という生活が続いたんだけど。
様子を見にきたクロノスとメレ……メヴィに笑顔でメチャクチャキレられて、俺からもヘルの目を治すために日中動ける体力を残してほしいと伝えると反省したらしく、手加減してくれるようになった。
時々我を忘れて抱きつぶされる日もあるけどね。
それでやっと動けるようになった俺は、隆臣さんの研究所の力を借りて本格的にヘルの目の研究に取り組んだ。
そしたらね、なんと! 紆余曲折あって、ヘルの目は無事に赤から青に戻ったんだよ!
これはすごい! と隆臣さんも興奮して、魔獣にも効くかどうか実験してみると、魔獣化してそう時間の経っていない、少しでも理性が残っている個体には効果があることがわかったんだ。
俺はその功績で王家から表彰されそうになったけど、騒がれるのを嫌ったヘルの力技により、一研究員として今も平和に隆臣さんの研究所に勤められている。
それでまた魔力が使えるようになったヘルは、日雇いだったり裏の危険な仕事から脱却して、なんと今は公共治水事業の筆頭技術者として日々腕を奮っている。
いつかクロノスとメヴィの視力も回復させて、魔法を自分で使えるようになってほしいなあというのが今の俺の研究課題だ。
なので、隆臣さんの研究所で、時々二人とも交流している。ヘルはいい顔しないけど、仕事だから渋々許してくれている。
クロノスは主従関係を解いた後、どうやらレオの執事として雇われたみたい。自由なレオに振り回されつつも、やっぱり執事の仕事が性に合ってるみたい。
メヴィも新しい事業を立ちあげて、服屋と眼鏡屋が一緒くたになったファッションストアを楽しそうに経営してるよ。
今日も今日とて研究所での仕事を終えて家にたどり着く。
食材の入った袋からカラフルな野菜を取りだし、慣れた手つきでそれを切って鍋に入れて煮こむ。
最近のヘルは仕事一筋でがんばってるから、もっぱら料理は俺の仕事だ。
「ふんふんふふーん」
俺もずいぶん料理が上手くなったよね、と自画自賛しながら、スープの味見をしていると。
ガチャガチャ、と扉の鍵が回り、背の高いシルエットが銀の髪を翻して、部屋の中にスルリと入ってくる。
「スバル! 帰ったぞ」
「ヘル! おかえり!!」
お玉をキッチンに置いて、急いで玄関に駆けていく。
部屋の中は、美味しそうで幸せな香りに満ちていた。
たくさんの困難と波乱の毎日を乗り越えて、俺はこれからもヘル共に暮らしていく。
きっとこれから先も、ずっと。
22
お気に入りに追加
557
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お読みいただきありがとうございました!
三人一緒まとめてエンドも書きたい気持ちはあったのですが、
私の中では三人ともヤンデレになってしまうイメージがありやめてしまいました……
もしまた三人仲良しエンドが思い浮かんだら形にするかもしれません。最後まで読んでいただきありがとうございました。