【全57話完結】美醜反転世界では俺は超絶美人だそうです

兎騎かなで

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終章 旅の終わりと新たな決意

これから クロノス編

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 宿に戻って、食堂で夕食を食べた。隆臣さんやアルトさん、それにレオの話はするものの、この先のことについては誰もが触れずに食事を終える。

 どうやら日本には帰れないみたいってこともサラッと話したのに、不自然なくらい何も聞かれない……きっと三人とも船で話したことを覚えていて、俺が告白の返事をどうするのか待ってくれているんだね。

 俺が最後に食べ終えたみたいで、空になった食器の上に木のさじを置いた。……気になる彼を見上げると、彼もこちらを見つめていた。視線が交錯する。

「クロノス……この後話があるんだけど、時間もらっていいかな?」

 クロノスは軽く目を見開いて、優しげな微笑を口元に乗せて頷いた。

「ええ、もちろん構いません」
「待てよ、スバル!」

 クロノスが応えると間髪入れずにヘルが立ち上がって叫ぶ。メレがヘルの肩を掴んで、まあまあまあと宥めながら椅子に戻らせた。

「アンタにはこれから、アタシのヤケ酒につきあってもらうんだから。アンタだって飲みたい気分でしょ?」
「誰が……っ、離せ! 俺はテメーじゃなくてスバルに用があんだよ!!」
「スバルちゃん、ちゃっちゃと行っちゃって! ほら、ヘルも場所変えるわよ」
「スバル、行きましょう」

 メレは暴れるヘルを抑えながら、後でどうなったか教えなさいよと立ち去るクロノスに声をかけていたが、その声もすぐに聞こえなくなった。

 クロノスに背を抱かれエスコートされたまま、二室借りているうちの一室に二人で入る。
 扉を閉じると、さっきまでの食堂の賑わいが嘘のように静寂が耳に迫ってきた。

 クロノスは俺を椅子に座らせ、俺の促しを待ってから椅子に姿勢よく着席した。

 ゴクリと唾を飲み込む俺の喉音が、やけに大きく響いた気がする。これから告げようとしていることを考えると緊張が止まらない。ううっ、静まれ、心臓。

「……お話とは、一体どういった内容でしょうか」

 クロノスは神妙な様子で尋ねてくる。いつもと同じポーカーフェイスに見えるが、心なしか顔つきが固いような気もする。

 俺は大きく息を吐きだしてから、やっとのことで話をはじめた。

「……クロノス、俺、隆臣さんに会えた。きっとクロノスがいなかったら途中で挫けちゃってたと思う。クロノスが、俺に心を砕いてくれていつも側にいてくれたから、今まで安心して旅をしてこれたんだ。本当にありがとう」
「いいえ、勿体ないお言葉です。私の方こそ、この旅の道中スバルに仕えることができて幸せでした」

 クロノスは柔らかな微笑を湛えている。俺はそれに勇気をもらって、言葉を続けた。

「それでね……それで、もしもクロノスさえよかったらだけど、これからも、俺の側にいてほしいと思っていて」
「それは……どの様な意味で仰っているのでしょう?」

 俺はそろそろと窺うようにクロノスの瞳を見上げた。眼鏡越しの灰銀の瞳は、キラキラと仄かに光を瞬かせながら揺れている。

「で、できれば……クロノスが嫌じゃなければ、その……こっ、恋人……として」

 ああ、ついに言っちゃった! 恥ずかしくて顔を伏せると、クロノスが椅子から立ち上がり俺の目の前に膝をついた。
 壊れ物でも扱うかのような手つきで、そっと手を取られる。

「スバル、ああ、スバル……私も同じ気持ちです。貴方と共に、これからも未来永劫歩いていきたい。心からお慕いしております」
「うん……俺も、クロノスのこと好きだよ」

 よ、よかった……ちゃんと言えた。ずっと考えないように気持ちに蓋をしていたけれど、きっともう日本には帰れないんだってわかったから、俺もクロノスの気持ちに応える覚悟を決めたんだ。

 クロノスは包み込むようなさりげない優しさで、俺を安心させてくれる。
 俺のためになるならって自分の気持ちを押し殺してしまうクロノスの、その隠された熱い想いを聞いた時。その時に、彼に惹かれている自分の気持ちに気づいてしまった。

 その想いを我慢しないで俺に向けてほしい、従者としてでなく、恋人として俺の側にいてほしいんだって。

 日々の細やかな気遣いで少しづつクロノスに惹かれていた俺の気持ちは、もうあの時には固まっていたみたいだ。

 クロノスは恭しく俺の肉づきのいい手を捧げ持ち、甲に口づけを落とした。指先までキスの雨を降らせて、チラリと見上げてくる。

「抱きしめてもいいですか? もっと貴方に触れたい」
「う、うん、いいよ。俺もクロノスに触ってほしい……」

 クロノスは立ち上がると、長身を屈めて俺を抱きしめた。着痩せして見えるけれど、しっかりと筋肉のついた胸筋が頬に当たってドキドキする。心なしか、クロノスの鼓動の音も忙しない。

「スバル……幸せです」
「うん……俺も、幸せ……」

 ギュッと俺からも背中に手を回して抱きしめる。熱いくらいの体温が腕ごしに伝わってきた。

「キスをしても?」

 クロノスの言葉に一瞬戸惑ったけど、俺は了承の代わりに静かに瞼を下ろした。

 フワリと吐息が頬にかかり、次の瞬間には柔らかいものが唇に降りてきていた。くっついたり離れたりしながら、チュ、チュと音を立てて啄ばまれる。

 くすぐったさと、胸の中がキュンとするようなトキメキがうまれて微かに唇を開くと、熱い舌がそっと差し込まれた。

 俺はビクリと触れた舌を引っこめてしまったけれど、クロノスは俺の反応を窺いながら軽いキスを続ける。
 やがてまたおずおずと口を開くと、舌が進入してきた。今度は逃げたりしなかった。

 クチュ、クチュリと控えめな水音が触れ合った舌先から聞こえる。俺は口を閉じないようにするので精一杯で、クロノスのキスをされるがままに受け止めた。

「ん、ん……っはぁ」

 長いキスの後、ようやく解放された。クロノスの唇と俺の唇の間に銀色の糸がつながる。トロンとした瞳で見上げると、クロノスは上気した頬をしていた。

「スバル、とても愛らしいです。……このままでいると、最後まで抱いてしまいたくなる」

 そう告げてスッと離れていこうとするクロノスの背を、ギュッと力をこめて引きとめた。

「えっと、クロノスがしたいんだったら、いいよ。俺、クロノスにはいっぱい我慢させちゃったと思うし、それに……俺も、クロノスとひとつになりたい」

 俺にできる精一杯の言葉で誘うと、クロノスは俺を抱き上げてベッドの上に慎重に押し倒した。麗しい顔が視界一杯に広がる。

「よろしいので? 途中でやっぱり嫌だと仰られても、スバルが魅力的すぎて止めてさしあげられないかもしれませんよ」
「い、痛くなかったら大丈夫だと思う……だから、優しくしてね?」

 クロノスは灰銀の瞳にキラキラと星を灯しながら、うっとりと微笑んだ。

「ええ、我が君。スバルの願う通りに致しましょう」

 クロノスは再びバードキスを俺の唇に落としてから、俺の服の裾から手を入れて肌を撫でた。
 羽根でも触るかのような繊細な手つきで脇腹を撫でられて、身体がピクリと反応する。

 クロノスは腹側から順に、ゆっくりと俺のシャツのボタンを外した。腕から丁寧に引き抜くと、自身の着ていたジャケットも脱いで机の上にかけてしまう。

「スバル……とても綺麗です」
「や、やめてよそういうの、恥ずかしいよ……」
「恥ずかしがる必要がどこにあるのです? こんなにも美しい身体をしているのに。本当に、まるで美の化身がごとく完璧な美しさですよ……今、私の腕の中にいるのが信じられないくらいに」

 クロノスには俺のぷよぷよのお腹も、太ましい二の腕もちょうどよく見えるんだろうね。そうとわかっていてもあんまり見ないでって思っちゃうよ!

 昼間よりは見えにくいとはいえ、外から射し込む月明かりで、けっこうクッキリシルエットとかわかっちゃうんだからね!?

「あ、俺汗臭いかも……」
「そうでしょうか? 気になりません」

 俺は気にするよ! お風呂に入りたい……ああでも、この宿には残念ながらついてないんだった。

 俺が悩んでいるうちにクロノスは俺の胸元に顔を近づけ、そのままペロリと胸の突起を舐めた。

「うひゃ!?」
「問題ありませんよ、スバル。無臭ではありませんがいい匂いがしますし、それに美味しいです」

 お、美味しいって、乳首が??
 予想だにしない返答に呆気にとられていると、クロノスがまた俺の胸の尖に唇を寄せた。そのままパクリと口内に収められてしまう。

「ひゃ、う、ぁ」

 熱い舌で突起をなぞられると、何かぞわりとした感覚が腰に広がる。自分の高い声にびっくりして思わず口を抑えた。
 な、なにこれなにこれ、気持ちいいような、むず痒いような変な感じ。

 クロノスの紅い髪が、俺の剥きだしの肌に滑る。ちょっと展開についていけなくて紅い髪に手を差し入れると、クロノスが顔を上げてアーモンド型の形のよい瞳を細めた。

「スバル、どうか素直に声を聞かせて下さい。貴方の気持ちいいところが知りたいのです」

 そ、それはなんともハードルの高いお願いですね……!?
 だけどクロノスがあくまでも真摯に、俺に気持ちよくなってもらいたい一心でお願いしていると気づいてしまったからには、無下にはできない。

「な、なるだけ我慢しないようにがんばる……」
「ええ、お願いします」

 クロノスはネクタイを引き抜き、自分のシャツのボタンも三つほど外す。
 普段キッチリと着込んでいる人がはだけるのって、すごいセクシーに感じちゃうよね……思わず素肌をマジマジと見つめていると、クロノスは頬を染めて目線を逸らしつつ、俺のズボンを脱がしにかかった。

 スルスルと脱がされて、気がついたら一糸纏わぬ姿にされていた。は、恥ずかしい……!!
 せめてもの抵抗として、膝を擦りあわせて大事なところを隠す。

「スバル……」

 感嘆のため息と共に俺の名前を囁くクロノス。たぶん綺麗だなって思ってくれてるんだろうけど、頼むからなにも言わないでー!

「クロノス! クロノスも脱いでよ」
「ええ、貴方がそう望むのでしたら」

 体を丸めたまま、クロノスが脱いでいくのを横目で見てしまう。
 ふわあ、腹筋が引き締まっててかっこいいよお……! あ、よく見たら小さな傷が腕とか肩にちょいちょいついてる。

 気になって視線で追っていると、クロノスは苦笑して傷跡を手で覆い隠した。

「お目汚しをしてしまい申し訳ありません」
「そんなことないよ! ないけど、それはもう痛くないの?」
「ええ、ずいぶん昔のことですしね」

 魔法なしであれだけ強くなるためには、きっと並々ならぬ努力をしたんだろうなあ。
 クロノスに改めて尊敬の念を抱いていると、同じく全裸になったクロノスが俺に覆い被さって抱きしめてくる。

 心臓の鼓動がうるさいけれど、なんとか手を動かして抱きしめかえした。

「……あったかいね」
「そうですね、ふう……一度落ち着かないと、吐精してしまいそうです」
「えっ?」

 お、俺まだなにもしてないけど??
 その言葉を聞くと同時に、太腿に硬いものが当たっているのがわかって、顔が真っ赤に茹であがる。

 カチンコチンに固まったまま抱きしめられたままで耐えていると、クロノスがやっと体を離してくれた。
 はにかんで、目を逸らしながらも事情を教えてくれる。

「すみません、余裕がなくて……今までこういったことに興味がなく、相手もいなかったため私も初めてですから。書物で予習はしましたが、もし至らないところがあれば遠慮なく申しつけてくださいね」
「そ、そうなんだね? わかった」

 こんなにすんごいイケメンなのに、はじめてって聞くと違和感があるよね。この世界は美醜反転してるから、これで普通なのかもしれないけど。

 それから俺はとにかく丁寧に全身を愛撫され、もう嫌ってくらい丁寧に髪用のオイルであそこを解されて、いよいよ一つになれそうってなった頃には指先を動かすのも億劫になっていた。

「う、うぅ……クロノスぅ」
「スバル、もう流石に、大丈夫でしょうか」
「もういいよ、もう挿れてよぉ……」

 すでに二回もイッてしまいグズグズになった俺とちがって、カチカチのままほおっておかれているクロノス自身が、やっと後腔に押し当てられる。

「痛かったらすぐに教えてくださいね……」
「大丈夫、大丈夫だから、早く……う、あ」

 入ってきた、クロノスの、人より長いソレが俺の中を押し広げて進んでくる。

「う、う、んっ」
「スバル?痛みは?」
「ない、だい、じょぶ……っん!」

 俺の背がピクリと跳ねると、クロノスは一度進むのをやめた。そのまま俺の息が整うまで待っていてくれる。

「はあ、はあ……も、全部入った?」
「いえ、まだですが……はあ、気持ちよすぎますスバル……そろそろ動いても大丈夫ですか?」
「いいよ……あ、あっ」

 ずるり、と軽く抜かれてオイルがもう一度足されて、また長いモノが俺の中を割り開いて奥に進んでくる。
 ゆっくりと抽送が繰り返されると、だんだん声が高くなって大きくなってしまう。
 慌てて口を抑えようとするが、クロノスにベッドの上に恋人繋ぎで縫いとめられてしまった。

「や、やっ! 声、聞こえちゃう」
「大丈夫ですよスバル、ここは角部屋ですし、隣も借りている部屋で、今は無人です」
「でも、もし、誰かに聞かれたら……あん! や、クロノス以外に、聞かれるの、やぁ……んん!!」

 すかさずクロノスのキスが降ってくる。口内を掻きまわす舌に甘く痺れながら、急に遠慮のなくなったピストン運動を必死で受けとめる。

「ふぁ、んっ、うぅうー!」
「っ、ふ」

 あ、あ、またイっちゃう……! 堪え性のない俺はクロノスの余裕ない抽送に翻弄されて、すぐに昇りつめてしまった。
 背を震わせながら後腔を無意識に締めつけてしまい、その直後クロノスが出ていき、お尻に熱いものがかかった。

「あ、あぁ……」
「はあ、ああ……申し訳、ありません……間にあわず、少し、中に注いでしまいました」

 クロノスが俺をぎゅうっと抱きしめた。俺はフラフラになりながらもポンポンとその背中を抱きかえす。

「ん、いいよ別に……中に、出したって」
「え、よろしいので?」

 ガバッと起きあがったクロノスは、銀色の目を輝かせて俺を見つめている。
 あれ? これはちょっと、早まったかな??

「あ、その、今日はもうやめてね! 俺、これ以上は体力もたないよ」
「……そうですね。わかりました。では湯を持って参りますので、スバルは休んでいてください。少量とはいえ腹の中に注いでしまいましたし、しっかりと掻きだしませんと」
「そ、そんなのいいからクロノスも休んで?」
「いえ、お腹を下してはいけませんから。少々お待ちくださいね、我が君」

 さっと布でデロデロな体を拭き、素早く身支度するとチュ、と頬にキスを落とし、颯爽と部屋を出ていくクロノス。

 その後の後始末で感じてしまい、また燃えあがってキリがなくなった話はここでは割愛しておこうと思う。
 だって、顔から湯気が出るほど恥ずかしかったしね!!





 そんな出来事があってから、俺達はイエルトに定住することを決めて一緒に暮らしはじめた。

 それでなんとレオが、クロノスは有能そうだし親戚であるアルトさんも推薦してくれたからってことで、クロノスを王宮の役人として取りたててくれたんだ!

 それでクロノスが仕事に行っている間、俺は隆臣さんの助手として研究所に通っている。

 発明品を爆発させたり暴発させたりすることもあって大変だけど、おおむね楽しく仕事させてもらってるよ。

 ヘルの目のことを隆臣さんに話をしたら、ぜひ研究したいって言ってくれて、最近は主に目に関する魔道具とか、魔力の流れをスムーズにするリラックス商品とかを開発してるんだ。

 そうそう、目の魔道具を開発してるうちに、メレ……メヴィもその仕事に絡んできてね。
 今ではオシャレで実用的なメガネを一緒に開発したりもしてるよ。

 もっとも、メヴィは仕事の話がまとまるとすぐ旅に出て商品リサーチに行っちゃうし、ヘルは……いったいなにしてるんだろうね?
 この前銀髪の忍者が屋根の上を走っているのを見たって噂を聞いたけど……まさかね?

 それでも時々みんなで集まって、ご飯を食べたりしているよ。
 ……告白を断った時はもちろんがっかりされたけど、変に拗れたりしなくてよかった。

 そして今日はなにも爆発させずに平和に仕事を終わらせて、隆臣さん達と仕事終わりにお茶を飲んでいると。

「ただいま迎えにあがりました」
「クロノス! お疲れ様!」

 隆臣さんが繋いだインターフォンから流れた音声に、俺は玄関にすっ飛んでいく。
整えられた紅い髪が乱れるのにもかまわず、俺はクロノスの腕に飛びこむ。
 アルトは苦笑しながら新しいお茶を淹れに席を立った。

 悲しい過去を乗り越えて見つけた安住の地で、これからもクロノスと共に一緒に生きていく。
 きっとこれから先も、ずっと。
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