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終章 旅の終わりと新たな決意
54 思いがけない出会い
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家の中は庭と同じように殺風景だったけど、多少生活感がある分まだ庭よりは居心地がよかった。
アルトは俺達を客間に招くと、タカオミを呼んでくると言って部屋を出て行った。
レオはまるで我が家のようなリラックスぶりで簡素なソファに腰掛けると、面白そうに俺達に笑いかける。
「君達、タカオミを見たら驚くだろうな。とっても色っぽい美人だからさ。ああ、でも美人はスバルで見慣れているのかな、ニホンジンってのは美男美女が多いみたいだ」
「そ、そんなことはないと思うよ!?」
「ああ、それ。ニホンジンによくある謙遜ってやつだろ? タカオミもよくやるんだ」
いや、井口さんは本心から美人ってことを否定してるんだと思うよ?もちろん俺もそうだけど。
近くに転がっている椅子に座りながらそんな話をしていると、カチャリと音がして扉が開き、廊下からアルトが戻ってきた。その後ろに一人、小柄な男の人がついてきている。
俺はハッとして立ち上がった。小柄な人は黒髪で、少しよれたシャツを着ていて、贅肉がズボンの上に乗っかっていた。
顔立ちは素朴な感じで鼻が低く、丸眼鏡の向こうにある、一重のタレ目の奥からつぶらな瞳が覗いている。
眉は整えられておらず、自然な感じに広くたくさん生えていて、全体的な印象を一言で述べるなら、くたびれた小太りのおじさんだ。
でも、こういう感じが色気のある美人にあたるんだね……この世界の人達の美的感覚って本当にどうなってるんだろうと思ったけど、初対面の人に失礼すぎる感想だし、俺にもブーメランがつき刺さるからそれ以上は考えないようにした。
少なくとも俺は、穏やかそうな瞳に好感を持ったし、変に綺麗すぎるよりは親しみやすくて安心感がある。
井口さんの方も部屋の中の客人を見渡して、俺の連れの美形三人に驚いた顔をしてからレオにおずおずと会釈し、そして俺を見た。
丸眼鏡をかけ直しながら俺の方を見つめて、彼は駆け寄ってきた。
「君、君はもしかして、日本から来たのかい!?」
つぶらな目を瞬かせながら、井口さんは俺に問いかけた。
「はい、そうです。貴方の噂を聞いて会いにきました、井口隆臣さんですよね? 俺は、田中昴と言います。昴って呼んで下さい」
「そう、か……そうか! いやあ、まさか再び日本の方に会える日が来るなんて! 僕の事も隆臣でいいよ。昴くんはいつからここに?」
手を取り合って盛り上がる俺達に、レオがゴホンと咳払いをした。
「まあ待ちたまえよ。感動の出会いをプロデュースしたのはこの私なんだからね? 私を無視して二人で話すのはなしだよ」
「こ、これは失礼しました。レオ様が連れてきてくれたんですか? ありがとうございます」
「スバルはうちのご先祖様の友人の姿によく似ているだろう? これは絶対にニホンジンだろうと思って、声をかけたんだ」
鼻高々に自分の功績をひけらかすレオ。井口さん……隆臣さんはペコペコと頭を下げた。
「ありがとうございます、本当に」
「ははは、いいよ。俺と君の仲じゃないか。では先に仕事の話をしてしまおう」
「あ、前に受けていたお仕事はまだ開発途中でして」
「ふむ。どこまで進んだ?」
二人は話しながら廊下の外へ出ていってしまう。途中でレオが「君達はお茶でも飲んで適当に待っていてくれたまえ! アルト、任せたぞ」と叫ぶのが聞こえた。
客である俺達の相手を任されたアルトは、言葉少なに謝罪を口にした。
「……すまないな、客人。急に連れてこられたのでは」
「あ、大丈夫です。俺達、隆臣さんを探してこの国まで来たので、連れてきてもらえてよかったです」
「そうか。どこから来た?」
アルトは訥々と、静かに会話を続ける。俺が代表してしばらく話をしていると、アルトはクロノスさんにスッと視線をずらした。
「……俺に何か?」
「いえ、すみません。知り合いの顔によく似ていたせいか、不躾に見つめてしまいました」
どうやら俺の後ろから、クロノスはアルトを凝視していたらしい。
アルトはクロノスの灰銀の瞳をじっと見つめ返した。灰銀の瞳同士が交錯する。
しばらく沈黙が続いた後、アルトはクロノスから視線を逸らさずに問いかけた。
「……先程、知り合いがいると言ったな。その知り合い、名前はなんというんだ」
「アルスです」
「アルス=シエログリフか」
「……アルスという名しか存じ上げません。緑の髪に、貴方のような瞳の色をしていました。右目の目元に黒子が二つあります」
「背丈は俺よりやや低く、年上で、粗野な笑い方をするくせして、自然体なのに妙な気品があるような男か」
やけに具体的な特徴を並べるアレスに、クロノスは表情を引き締めながら「そうです」と肯定する。
「そうか……それはきっと、私の兄だ」
クロノスが息を詰める。アルトはその様子をつぶさに観察した後、おもむろに切りだした。
「その瞳……兄によく似ている」
「そうでしょうね……アルスは私の父です」
まさかのご親戚との遭遇に、俺も驚きを隠せない。
メレも一緒になって目を見張り、ヘルも興味がなさそうなフリして、チラリと二人を一瞥している。
沈黙に支配されてしまった部屋に、足音が二つ近づいてくる。元気よく挨拶をしながら部屋に入ってきたレオは、俺達を見渡して首を傾げた。
「やあ、待たせたな! 君達の話を聞こうじゃないか……どうしたんだい?」
レオがアルトに問いかけると、彼はやってきた二人を椅子に誘導しながら答えた。
「紹介しよう。私の甥だ」
「わお! それは……運命的だね?」
本当に、すごい運命的だ。隆臣さんに会えたと思ったら、ついでにクロノスのおじさんにも会えるだなんて。
でもよかったね、クロノスは天涯孤独じゃなかったみたいだ。……もしこの先、俺が日本に帰れるなんてことになってもちょっと安心できるね。
日本に、帰る……本当に、帰ることができるんだろうか。そもそも俺は帰りたいって思ってるのかな。でも、帰らないとなると二度と父さん母さんにも会えないってことになるし……
旅がいよいよ終わりに近づいてきた今、改めて突きつけられた問いから、俺はまだ逃げたがっていた。
……いや、まだ隆臣さんから何も聞いていないし。考えるのは、帰れるかどうかをハッキリ聞いてからでいいよね。
俺は自分の思考から浮上する。レオはぎこちない態度のアルトとクロノスを茶化しながら、二人をもっと会話させようとしていた。
なんかそれ、二人とも恥ずかしがっちゃって逆効果になるような気がするよ?
案の定黙りこんでしまった二人をとりなすように、隆臣さんがレオを諌める。そして改めて俺に向き直った。
「待たせてしまってごめんよ、昴くん。僕に会いたかったって聞いたけど、何か用事があるのかな?」
「その、用事というか。ある魔道具の作者が井口って名前だと聞いて、きっと日本人だろうと思って会いにきたんです」
「ああ、それは僕のことだね。この世界は日本に比べてまだまだ不便なことが多くてね、あちらの世界の電化製品を魔道具として普及させようと日々開発しているんだ。幸い王家からのバックアップもあるし、毎日充実した暮らしをさせてもらっているよ」
そう言ってヘニャリと笑った隆臣さんは、全然日本に戻ることなんて考えてなさそうだった。
「不便なんだったら尚更、日本に戻ろうとは思わなかったんですか」
「うーん、そうだねえ…戻りたいと思ったこともあったけど、なにせ方法がわからないんじゃ戻りようもないし。それに、僕にはアルトがいたから」
そう言って、アルトの方を向いて照れたように笑う隆臣さん。アルトは無言で彼の肩を抱いた。
あ、お二人ってそういう関係なんだ? 驚いて目を白黒させていると、隆臣さんはおや、という顔つきでヒソヒソ話をしてきた。
「昴くんは絶対に男の人がダメな人? こんなに素敵な人達を連れてるんだから、絶対誰かが恋人なんだと思ってたよ」
「だ、ダメというかなんというか……今までは日本に帰れるかもって思ってて、考えないようにしていたんです」
「そっか、僕も世界中旅してまわって、相当日本についての情報を集めたけど、帰れた事例は残念ながら見当たらなかったんだよ。それどころか僕以外の異世界人のことなんて、今の王家が関わりがあるって情報しか出てこなかった。さっき殿下も言ってただろう? ご先祖様の友人が日本人だったって」
薄々感付いていたけど、やっぱり簡単には帰れないのか……呆然としながらも頷いたところで、隆臣さんとの間に入ったレオに、バリッと肩を引き離されてしまう。
レオは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「さっきから言っているだろう、私を無視して二人で話さないでおくれと」
「ああ、すみませんレオ様」
「スバル、タカオミとばかり話さず私にもニホンの話を聞かせておくれ。君はニホンではどんな仕事をしていたんだい?」
俺は請われるままにレオにニホンのことを話した。
学生であったこと、隆臣さんが日本にいた時代より先の技術なんかを話すと、大変興味深そうに相槌を打ってくれる。
気をよくしたレオは、今度城に呼んで俺にご先祖様とその友人であるニホンジンの肖像画を見せてやろうと言ってくれた。
ありがとうございます、お城とか緊張するけど、ぜひ見てみたい。
一通り俺達と話をすると満足したのか、レオはいとまを告げて家を出ていった。
気がつけばもう夕方だったので、俺達も再会の約束だけして宿に戻ることにする。
「昴くん、それに他のみんなも。また遊びにきておくれ」
「はい、近いうちに絶対行きます!」
クロノスとアルトは一瞬見つめ合い、アルトは片腕を上げた。
「……また来い」
「……はい」
クロノスは会釈をすると、俺の側にいつものように控えた。
「クロノス、もう少し話したいことがあったんじゃない? 大丈夫?」
「問題ありませんよ、我が君。私の居場所は貴方の隣ですから」
そう言って涼しげな雰囲気を緩めてフワリと笑うので、つられて笑い返した。俺を見つめる瞳が優しく揺れていて、温かさが伝わってくるかのようだ。
そうだね、俺もまだまだ隆臣さんと話し足りないし、またクロノスも一緒に隆臣さん宅を訪ねたらいいか。
「……行くぞ」
ヘルが俺の背を軽く叩いて前へと促す。さりげなく俺を気にかけて見守ってくれていることが、その手のひらから感じられた。
先を歩いていたメレが、夕日色に髪を染めながら振り向く。
「スバルちゃんよかったわね、無事にイグチと会えたじゃない。宿に戻って、これからのことをゆっくり考えましょうか」
メレはいつもの柔らかな笑みをたたえている。甘やかなその瞳には、俺への好意が雄弁に乗せられていた。
これから……そうだね、隆臣さんにも会えたし、俺は先延ばしにしていた答えを出さなくちゃならない。いつまでもみんなを待たせているのも心苦しいし。
メレに頷き返した俺は『これから』のことを思い描きながら、夕陽に向けて一歩踏みだした。
アルトは俺達を客間に招くと、タカオミを呼んでくると言って部屋を出て行った。
レオはまるで我が家のようなリラックスぶりで簡素なソファに腰掛けると、面白そうに俺達に笑いかける。
「君達、タカオミを見たら驚くだろうな。とっても色っぽい美人だからさ。ああ、でも美人はスバルで見慣れているのかな、ニホンジンってのは美男美女が多いみたいだ」
「そ、そんなことはないと思うよ!?」
「ああ、それ。ニホンジンによくある謙遜ってやつだろ? タカオミもよくやるんだ」
いや、井口さんは本心から美人ってことを否定してるんだと思うよ?もちろん俺もそうだけど。
近くに転がっている椅子に座りながらそんな話をしていると、カチャリと音がして扉が開き、廊下からアルトが戻ってきた。その後ろに一人、小柄な男の人がついてきている。
俺はハッとして立ち上がった。小柄な人は黒髪で、少しよれたシャツを着ていて、贅肉がズボンの上に乗っかっていた。
顔立ちは素朴な感じで鼻が低く、丸眼鏡の向こうにある、一重のタレ目の奥からつぶらな瞳が覗いている。
眉は整えられておらず、自然な感じに広くたくさん生えていて、全体的な印象を一言で述べるなら、くたびれた小太りのおじさんだ。
でも、こういう感じが色気のある美人にあたるんだね……この世界の人達の美的感覚って本当にどうなってるんだろうと思ったけど、初対面の人に失礼すぎる感想だし、俺にもブーメランがつき刺さるからそれ以上は考えないようにした。
少なくとも俺は、穏やかそうな瞳に好感を持ったし、変に綺麗すぎるよりは親しみやすくて安心感がある。
井口さんの方も部屋の中の客人を見渡して、俺の連れの美形三人に驚いた顔をしてからレオにおずおずと会釈し、そして俺を見た。
丸眼鏡をかけ直しながら俺の方を見つめて、彼は駆け寄ってきた。
「君、君はもしかして、日本から来たのかい!?」
つぶらな目を瞬かせながら、井口さんは俺に問いかけた。
「はい、そうです。貴方の噂を聞いて会いにきました、井口隆臣さんですよね? 俺は、田中昴と言います。昴って呼んで下さい」
「そう、か……そうか! いやあ、まさか再び日本の方に会える日が来るなんて! 僕の事も隆臣でいいよ。昴くんはいつからここに?」
手を取り合って盛り上がる俺達に、レオがゴホンと咳払いをした。
「まあ待ちたまえよ。感動の出会いをプロデュースしたのはこの私なんだからね? 私を無視して二人で話すのはなしだよ」
「こ、これは失礼しました。レオ様が連れてきてくれたんですか? ありがとうございます」
「スバルはうちのご先祖様の友人の姿によく似ているだろう? これは絶対にニホンジンだろうと思って、声をかけたんだ」
鼻高々に自分の功績をひけらかすレオ。井口さん……隆臣さんはペコペコと頭を下げた。
「ありがとうございます、本当に」
「ははは、いいよ。俺と君の仲じゃないか。では先に仕事の話をしてしまおう」
「あ、前に受けていたお仕事はまだ開発途中でして」
「ふむ。どこまで進んだ?」
二人は話しながら廊下の外へ出ていってしまう。途中でレオが「君達はお茶でも飲んで適当に待っていてくれたまえ! アルト、任せたぞ」と叫ぶのが聞こえた。
客である俺達の相手を任されたアルトは、言葉少なに謝罪を口にした。
「……すまないな、客人。急に連れてこられたのでは」
「あ、大丈夫です。俺達、隆臣さんを探してこの国まで来たので、連れてきてもらえてよかったです」
「そうか。どこから来た?」
アルトは訥々と、静かに会話を続ける。俺が代表してしばらく話をしていると、アルトはクロノスさんにスッと視線をずらした。
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「いえ、すみません。知り合いの顔によく似ていたせいか、不躾に見つめてしまいました」
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アルトはクロノスの灰銀の瞳をじっと見つめ返した。灰銀の瞳同士が交錯する。
しばらく沈黙が続いた後、アルトはクロノスから視線を逸らさずに問いかけた。
「……先程、知り合いがいると言ったな。その知り合い、名前はなんというんだ」
「アルスです」
「アルス=シエログリフか」
「……アルスという名しか存じ上げません。緑の髪に、貴方のような瞳の色をしていました。右目の目元に黒子が二つあります」
「背丈は俺よりやや低く、年上で、粗野な笑い方をするくせして、自然体なのに妙な気品があるような男か」
やけに具体的な特徴を並べるアレスに、クロノスは表情を引き締めながら「そうです」と肯定する。
「そうか……それはきっと、私の兄だ」
クロノスが息を詰める。アルトはその様子をつぶさに観察した後、おもむろに切りだした。
「その瞳……兄によく似ている」
「そうでしょうね……アルスは私の父です」
まさかのご親戚との遭遇に、俺も驚きを隠せない。
メレも一緒になって目を見張り、ヘルも興味がなさそうなフリして、チラリと二人を一瞥している。
沈黙に支配されてしまった部屋に、足音が二つ近づいてくる。元気よく挨拶をしながら部屋に入ってきたレオは、俺達を見渡して首を傾げた。
「やあ、待たせたな! 君達の話を聞こうじゃないか……どうしたんだい?」
レオがアルトに問いかけると、彼はやってきた二人を椅子に誘導しながら答えた。
「紹介しよう。私の甥だ」
「わお! それは……運命的だね?」
本当に、すごい運命的だ。隆臣さんに会えたと思ったら、ついでにクロノスのおじさんにも会えるだなんて。
でもよかったね、クロノスは天涯孤独じゃなかったみたいだ。……もしこの先、俺が日本に帰れるなんてことになってもちょっと安心できるね。
日本に、帰る……本当に、帰ることができるんだろうか。そもそも俺は帰りたいって思ってるのかな。でも、帰らないとなると二度と父さん母さんにも会えないってことになるし……
旅がいよいよ終わりに近づいてきた今、改めて突きつけられた問いから、俺はまだ逃げたがっていた。
……いや、まだ隆臣さんから何も聞いていないし。考えるのは、帰れるかどうかをハッキリ聞いてからでいいよね。
俺は自分の思考から浮上する。レオはぎこちない態度のアルトとクロノスを茶化しながら、二人をもっと会話させようとしていた。
なんかそれ、二人とも恥ずかしがっちゃって逆効果になるような気がするよ?
案の定黙りこんでしまった二人をとりなすように、隆臣さんがレオを諌める。そして改めて俺に向き直った。
「待たせてしまってごめんよ、昴くん。僕に会いたかったって聞いたけど、何か用事があるのかな?」
「その、用事というか。ある魔道具の作者が井口って名前だと聞いて、きっと日本人だろうと思って会いにきたんです」
「ああ、それは僕のことだね。この世界は日本に比べてまだまだ不便なことが多くてね、あちらの世界の電化製品を魔道具として普及させようと日々開発しているんだ。幸い王家からのバックアップもあるし、毎日充実した暮らしをさせてもらっているよ」
そう言ってヘニャリと笑った隆臣さんは、全然日本に戻ることなんて考えてなさそうだった。
「不便なんだったら尚更、日本に戻ろうとは思わなかったんですか」
「うーん、そうだねえ…戻りたいと思ったこともあったけど、なにせ方法がわからないんじゃ戻りようもないし。それに、僕にはアルトがいたから」
そう言って、アルトの方を向いて照れたように笑う隆臣さん。アルトは無言で彼の肩を抱いた。
あ、お二人ってそういう関係なんだ? 驚いて目を白黒させていると、隆臣さんはおや、という顔つきでヒソヒソ話をしてきた。
「昴くんは絶対に男の人がダメな人? こんなに素敵な人達を連れてるんだから、絶対誰かが恋人なんだと思ってたよ」
「だ、ダメというかなんというか……今までは日本に帰れるかもって思ってて、考えないようにしていたんです」
「そっか、僕も世界中旅してまわって、相当日本についての情報を集めたけど、帰れた事例は残念ながら見当たらなかったんだよ。それどころか僕以外の異世界人のことなんて、今の王家が関わりがあるって情報しか出てこなかった。さっき殿下も言ってただろう? ご先祖様の友人が日本人だったって」
薄々感付いていたけど、やっぱり簡単には帰れないのか……呆然としながらも頷いたところで、隆臣さんとの間に入ったレオに、バリッと肩を引き離されてしまう。
レオは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「さっきから言っているだろう、私を無視して二人で話さないでおくれと」
「ああ、すみませんレオ様」
「スバル、タカオミとばかり話さず私にもニホンの話を聞かせておくれ。君はニホンではどんな仕事をしていたんだい?」
俺は請われるままにレオにニホンのことを話した。
学生であったこと、隆臣さんが日本にいた時代より先の技術なんかを話すと、大変興味深そうに相槌を打ってくれる。
気をよくしたレオは、今度城に呼んで俺にご先祖様とその友人であるニホンジンの肖像画を見せてやろうと言ってくれた。
ありがとうございます、お城とか緊張するけど、ぜひ見てみたい。
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気がつけばもう夕方だったので、俺達も再会の約束だけして宿に戻ることにする。
「昴くん、それに他のみんなも。また遊びにきておくれ」
「はい、近いうちに絶対行きます!」
クロノスとアルトは一瞬見つめ合い、アルトは片腕を上げた。
「……また来い」
「……はい」
クロノスは会釈をすると、俺の側にいつものように控えた。
「クロノス、もう少し話したいことがあったんじゃない? 大丈夫?」
「問題ありませんよ、我が君。私の居場所は貴方の隣ですから」
そう言って涼しげな雰囲気を緩めてフワリと笑うので、つられて笑い返した。俺を見つめる瞳が優しく揺れていて、温かさが伝わってくるかのようだ。
そうだね、俺もまだまだ隆臣さんと話し足りないし、またクロノスも一緒に隆臣さん宅を訪ねたらいいか。
「……行くぞ」
ヘルが俺の背を軽く叩いて前へと促す。さりげなく俺を気にかけて見守ってくれていることが、その手のひらから感じられた。
先を歩いていたメレが、夕日色に髪を染めながら振り向く。
「スバルちゃんよかったわね、無事にイグチと会えたじゃない。宿に戻って、これからのことをゆっくり考えましょうか」
メレはいつもの柔らかな笑みをたたえている。甘やかなその瞳には、俺への好意が雄弁に乗せられていた。
これから……そうだね、隆臣さんにも会えたし、俺は先延ばしにしていた答えを出さなくちゃならない。いつまでもみんなを待たせているのも心苦しいし。
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