【全57話完結】美醜反転世界では俺は超絶美人だそうです

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
35 / 57
第三章 魔獣遭遇とゼシア聖国での恋騒動

35 ゼシア聖国に着いたよ

しおりを挟む

 暖かい気候、照りつける太陽。無事に国境を越えた俺達は、ゼシア聖国の城下町、マルセにきていた。

 大きな活火山の裾野に寄り添うようにして存在するこの町の山側へ行けば、噴気孔から常時煙を噴き出しているのが見える。

 聖ゼシア山はこの国の人達から聖山として崇められていて、神が喜ぶとされている祭事をなによりも大切にしているらしい。
 なんでも戦いの神だそうで、決闘制度もあるんだって。武術大会とかありそうだ。

 道にはトロピカルな雰囲気の花が多く、道行く人の髪は赤茶、オレンジなんかが中心で目に明るい。時々ピンクの髪の人もいた。

 物珍しさから視線があっちこっちぶれる俺を、クロノスがさりげなく誘導してくれたおかげで、なんとか宿にたどり着くことができた。

「暑い、だるい、俺は寝る」

 ヘルは苛立たしげに単語をぶつ切りにして述べると、さっさと部屋に引っこんでしまった。

「まったく、しょーがないヤツねぇ。スバルちゃん、クロちゃん。アンタ達はどうする?」
「俺はちょっと町並みを見て回りたいな。面白いものがいっぱいありそうだし」

 わくわくしながら俺が告げると、メレは手を叩いて喜んだ。

「そうしましょ! アタシが案内してあげるわ」
「では、私も同行しますね」

 すかさず名乗りを上げたクロノスに、メレは心配半分、からかい半分といった調子で顔を覗き込んだ。

「あらぁ、クロちゃんも疲れてなーい? アタシは慣れてるし、スバルちゃんも元気いっぱいってカンジだけど、北の国から来た人にはこの気候は辛いってよく聞くわよー?」
「心配には及びません。行くなら早く行ってしまいましょう」

 クロノスは涼しい顔でそう答えたので、メレはそれ以上つっこむことなく肩を竦めた。

 クロノスは今日も上から下までバッチリ黒い燕尾服できめている。本当に暑くないのかな、俺なんてマントの下は半袖だよ?

「クロノスすごいね、暑くないんだ」
「多少不快ですが、それほどでもありません」
「いつまでそんなことを言ってられるかしらね? まあいいわ、出かけましょうか」

 ゼシア聖国は海にも近いらしく、高温多湿な気候だ。日本の夏と一緒だね。
 けど市場で売ってるものを見ると、それより南国っぽいものが多かった。

 マンゴーのような見た目で皮が茶色い果実とか、ゴツゴツした黄色の皮のヤシの実サイズのフルーツを興味深く観察する。

 あっ、忘れもしないあのピンク色、この前メレが作ってくれたスープの材料だ! 名前なんだったっけ、メレの実じゃなくて、えーとえーと、め、メグの実だ!!

「あれ! メグの実じゃない?」
「そうよ、よく覚えてたわね。あのスープ好評だったし、ちょっと仕入れておこうかしら」

 メレは手慣れた様子で現地の人と会話する。ん、あれ? もしかして話してる言葉がいつもと違う……?

 言葉はほとんど一緒なんだけど、ちょっと訛ってるというか、アクセントが違うというか。俺の耳には関西弁のように聞こえた。

「おおきに! あんさんようけうてくれたから、一つサービスしたるわ!」
「ほんまにぃ、うち嬉しいわぁ」

 お、おう……メレが関西弁話してるよ。メレの人懐っこい雰囲気にバッチリ似合ってる。

「ねえクロノス、ここの人達は少し言葉が違うんだね」
「ええ、そうですね。基本的にどの国へ行ってもマーツェロの言葉は通じますが、細かなニュアンスや訛りは異なります。上流階級の人間であれば、ゼシア聖国内でも訛りなく話すようですが。今のメイヴィルは下町言葉を話しているようです」

 頭の中に地図を思い浮かべてみる。大きなマーツェロ王国、その南東に太めのトカゲの尻尾のようにくっついたゼシア王国、北の端にあるククルード帝国。
 マーツェロが地理的にも大きさ的にも言葉の面でも、中心的な国なんだね。

「文字もほぼ一緒ですが、イエルトのものは大きな違いがありますね。カクカクしています」
「カクカク?」
「直線的で画数が多いのです」

 ローマ字と漢字みたいな感じかな。前にクロノスの日記を見たことを思い出した。二種類の文字があったけど、確か厳重に隠されていた方はカクカクした文字だったように思う。

「お待たせ、買ってきたわよ! そろそろカフェで休憩しましょうか」

 気遣い上手のメレは丁度いいタイミングで休憩を申し出てくれた。メレは勝手知ったるといった様子で、表通りから少し離れた静かなカフェに案内してくれた。

「ここのコーヒーが絶品なのよ。きっとスバルちゃんもクロちゃんも気にいると思うわ、苦いのは平気よね?」
「ええ、むしろ好みです」
「俺はミルクと砂糖があると丁度いいかな」
「それじゃ、その方向で頼んじゃうわね。ちなみに何回も通うとちょっとずつ隠しメニューを教えてくれたりするのよ。何回来ても飽きない、いい店だわぁ」

 メレ、絶対この町の出身だよね? 旅慣れてるだけじゃ今のセリフ出てこないよね?

 ああ聞いてみたい、聞いてみたいけどそうしたら俺の事情にも興味を持たれて薮蛇になるし……

「マスター、今日のオススメはなんなん?」
「お前さんえらい久々やなぁ、グアテラの豆がいい具合やで」
「ほんならうちら、それにするわぁ」

 なんて悩んでる間に、メレはさっさと注文してしまった。
 メレの女言葉もここでなら目立たないんだね。

 やがて運ばれてきたコーヒーは、華やかで香ばしい香りを放っていた。クロノスが一口飲んで、ほう……と恍惚のため息を吐く。

「これは……美味しいですね。心身の奥底まで染み渡るようです」
「いいでしょ? スバルちゃんもどうぞ、召し上がれ」
「あ、ありがとう」

 メレが手ずから砂糖とミルクを足してくれたそれを受け取り、口に含む。芳醇な苦味が柔らかなミルクと仄かな甘味に合わさって、すごく美味しい。いくらでも飲めそうだ。

「美味しいよ! 流石メレのオススメだね」
「そうでしょー? うふふ、コーヒー豆も仕入れておかなくちゃね。イエルト人にもウケがいいといいけど。ま、売れなかったらアタシ達で飲みましょうか」

 こんなところでも商売のことを考えてるなんて、メレは本当にいい店主になれそうだね。

 ファッションとオシャレ眼鏡の店を立ち上げるための初期資金も、順調に溜まってるみたいだし、俺もイエルトでの新生活に備えて貯金をはじめたほうがいいかな?

「ねえクロノス、どう思う? まだお金あるし、働くのはイエルトに着いてからでいいかなあ」
「……」

クロノスはカップを片手に持って目を閉じたまま、微動だにしない。

「クロノス?」
「っ、申し訳ありませんスバル、私を呼びましたか?」

 ハッと目を開けて取り乱すクロノス。珍しいね、疲れてるのかな? よく見たら顔色も悪いし。
 メレも同じことを思ったらしく、こう申し出た。

「アンタ、疲れてるんじゃない? 休んでなさいよ。アタシはちょっと、コーヒー豆の店を見てくるわ」
「コーヒー豆の店?」

 なにそれ、いい匂いが漂っていそう。本格的なコーヒー豆のお店って、今までに行ったことないから気になる。

「スバルちゃんも来る? 試飲させてって頼めばさせてくれるわよ」
「うん、そうしたいけど……クロノスが心配だし、どうしようかな」

 疲れてボーッとしてるクロノスを一人にするのは……と俺が悩んでいると、クロノスは淡く微笑んだ。

「私のことはお気になさらず。スバルをメイヴィルに任せるのは不本意ですが……」
「あら、アタシがスバルちゃんを危険な目にあわせるわけがないって、わかってるでしょ?」
「危険といっても、色々種類があるのですが……特にこの国特有の危険が」

 クロノスは気になることを呟きつつ、しばらく考え込んでいる。
 この国特有の危険……? いったいなんなんだろう。

「もちろん、アタシがちゃーんとついてるわよ。スバルちゃんを一人にするわけないわ」

 一人になったら危ないのかな? それなら俺、気をつけるよ!
 メレの自身ありげな様子に、渋々クロノスは承諾した。

「仕方ありません、途中で体調を崩せばスバルの迷惑になりかねませんし……先に宿に戻ることにします」
「だったら途中まで一緒に行こうか?」
「お気遣いなく。どうぞスバルは楽しんでいらして下さい。くれぐれもメイヴィルから離れないで下さいね、約束ですよ」

 クロノスは真っ白い顔で儚げな笑みを浮かべながら、南国色の町を一人宿へと戻って行った。

「だ、大丈夫かな?」
「ちゃんと歩けてるし、問題ないわよ。さ、スバルちゃん? お手をどうぞ」
「え?」

 メレは艶やかに、からかうように笑った。

「万が一はぐれたら大変だもの。アタシとも手を繋いでくれるわよね、お姫ちゃん?」
「だから俺は姫じゃないってば!」
「知ってるわ、でも、アタシにとってはお姫様みたいに大切にしたいコなの。わかってくれるかしら?」

 二人きりになった途端にさっそく口説き文句がきて、俺は頬を染めて口をパクパクさせるので精一杯だ。

「わかってくれるなら、ほら、この手を握ってちょうだい?」

 俺の手を、まるで見て貴婦人の白魚の手を扱うかのように取り上げて、一瞬ギュッと力強く握るメレ。

「さ、行きましょ?」

 ……帰り着くまで心臓が持つかな。
 不安になりながらも、戻らない頬の赤みを隠すためにうつむきつつ、メレと仲良くお手手繋いで町に繰り出した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

処理中です...