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第三章 魔獣遭遇とゼシア聖国での恋騒動
33 あ、あれってデートだったの!?
しおりを挟むクロノスの家に戻ると、すでにメレは起きていた。赤いフリルシャツと黒い細身のパンツを身につけている、大変オシャレで似合っております。
「おはようスバルちゃん、クロちゃん。あら、二人でデートでもしてきたの? いいわね~、今度アタシとも行きましょうよー」
メレが茶化しながら俺の腕を組もうとするが、クロノスにガードされた。
「おはようございますメイヴィル。あいにくまだデートは終わっていませんので、邪魔をしないでいただけますか?」
「アタシがいたらもう二人きりのデートじゃないでしょ? 相変わらず露骨ねえ」
メレはお手上げとでも言いたげに両手を上げる。そしてふと何かに気づいたかのように、クロノスと目をあわせた。
「ん、あら? クロちゃん、スバルちゃんとデートをしてきたの?」
「ええ、そうですよ」
「そうなの? スバルちゃん」
「えっと、そう……なのかな?」
チラリとクロノスを下から見上げるようにうかがうと、クロノスはスッと目を細めて薄っすらと口元に笑みを乗せた。
「そうであったのなら嬉しいと思っておりますが」
はにかむような口調で告げられて、じわじわと顔に熱が昇る。メレは大袈裟に目を丸くした。
「どういう風の吹きまわしかしら、アタシもうかうかしてらんないわねぇ。ね、スバルちゃん?」
「な、なんのことかなー?」
「照れ屋さんねぇ、そういうところも可愛いわ」
て、照れてるというより困ってるんだけど! 必死に自分を誤魔化してたけど、やっぱり気のせいなんかじゃなかった!
いつの間にか、俺がモテモテみたいな状況になってるよね!?
待って、みんな目を覚まして! ありえないよこんなチビデブ……じゃなかったんだった、美人だからあり得るのか……でも心が追いつかない!
突きつけられた現実に驚愕して百面相していると、クロノスがさりげなく話題を逸らした。
「ヘルムートは? まだ寝ていますか」
「寝てるわよ、野営の時はあんまり寝れなかったみたいだから、疲れが溜まってたんでしょうね。ま、いい匂いがしたら起きるんじゃない?」
そう言ってメレは鍋を両手に掲げた。朝はメレが作ってくれるらしい。
「本当はヘルが作る番だけど、ま、いいわ。スバルちゃん、手伝ってくれる?」
「うん!」
メレに教わりながら食事を作っていると、ヘルが起きた。寝ている時までつけたままの眼帯がちょっとズレていたのを直して、俺の手元を覗きこんできた。
「……よお。お前が料理してんのか」
「おはようヘル。メレの手伝いだけどね」
「スバルの手料理か……」
「ちょっと。アタシが主に料理してるんだけど?」
なんだか機嫌良さそうなヘルは、メレの文句も耳に入らない様子で、シーツを適当に丸めはじめた。
「アンタの番だったけど特別に作ってあげたわよ、感謝なさい」
「誰も頼んでねえだろ、起こせよ」
「まっ、減らない口ね」
そんなこんなで少し個性的な朝食を食べ終わり、村長とトッドに挨拶をして村を出た。
村長はつぶらな瞳のおじいちゃんだった。客人が珍しいらしく、ゆっくりしていけばいいと引き止められたが、クロノスによるともう用事は済んだとのこと。
メレはともかくヘルが先に行きたそうにしていたし、俺もずっとここにいてもすることがないので、というのが理由だ。
沼地は行きと打って代わって楽な行程だった。なにせヘルの魔力を使えば快適に歩けるからね。
ヘルの莫大な魔力量は沼地を渡り終えても半分以上残っていた。半日近く使い続けてこれって、すごいことじゃない? メレも驚いていた。
「すごいわね、魔力量だけで言ったらどこぞの王族並みじゃない?」
「こんなにあっても使えねえんじゃ意味ねぇだろーがよ」
「今はスバルちゃんに使ってもらえるじゃないの」
「……まあな」
ヘルが色んな思いのこもっていそうな目で俺を見つめてくる。麗しい顔にどぎまぎしながらも、なんとか曖昧に笑ってみせた。
「次はどちらのルートを通るので?」
「ちょっと待ちなさい、今地図を確認するわ。ここが現在地で……ここに道があるでしょ? この道を南下して国境を越えるわ」
メレの指した道は南南東に伸びていた。俺達は道から少し西に逸れた場所にいるようだ。
「国境って、俺達は越えることができるの?」
「別に大丈夫よ、旅人や行商人の行き来は奨励されてるわ。売り物のカエルの干物を商品として見せて、適当に朗らかに挨拶しとけばいいのよ」
それならよかった、身分証なんて持ってないしね。
「道沿いに行けば村があるわ。今夜はもう遅いけど、明日からは村に泊まれるように移動するわよ」
その日は道の近くまで行ってテントを張って寝た。なんでも器用にこなすクロノスと、意外にも手際よく骨組みを組み立てるメレ。
必然的にヘルが料理当番になる。
「スバルもやるか? 料理覚えたいんだろ?」
「うん! ありがとうヘル」
「べっ、別に礼を言われることじゃねえよ、お前が手伝ってくれればその分俺の手間が減るっていうか、つまり俺のためなんだからな!」
ツンデレなヘルに内心ほっこりしながら完成させた料理は、今日はどこも焦がすことなく美味しくできた。俺の料理の腕も上がってきたかな?
クロノスが布をひいてくれた場所に座る。木の器と木のスプーンをうやうやしく差し出してくれて、照れながらも受け取った。
「ありがとう、クロノス」
「いえ。熱いのでお気をつけください」
木のお玉で鍋をかき混ぜる姿も、あくまでエレガント。すごいなあ、どうやったらこんな所作を身につけることができるんだろう。ご両親の躾がよかったのかな。
所作といえば、メレも上品なんだよね。クロノスと比べると、女性っぽい滑らかな仕草だから、女兄弟とかいたのかな?
「ねえメレ、次に行くゼシア聖国ってメレの生まれ故郷なんだよね?通りがけがてら、メレも里帰りしていく?」
「んー、アタシは別にいいわ。今更あわせる顔もないしね……自由に元気に生きてればいいって向こうも思ってるわよ」
「そうなの? 俺はメレの家族ってどんなのか興味あったんだけど……お姉さんとかいそうだなと思ってさ」
「あら? アタシのことが気になるの?」
メレはにんまり笑って俺にずずいっと顔を近づけてくる。そ、そんなに接近されたら心臓が跳ねちゃう。
「アタシはスバルちゃんの方が気になるわぁ。どこ出身とか、どういう生まれなのかとか。ね、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? アタシとスバルちゃんの仲じゃない」
遠慮なく距離を詰めてくるメレの後ろ襟を、ヘルがグイッと引っ張って引き離す。
「テメェとスバルの間には何の仲も進展してねーよ。気安く近づくんじゃねぇ」
「まっ、酷い言い草ね!?」
そのままいつもの言い争いになってしまって、俺の話もうやむやになった。
うーん、人に自分の事情を話せない状態で、相手のことを聞くのはよろしくなかったね。薮蛇になるところだった。危ない危ない。
村や小さな町を経由しながら、だんだん国境へと近づいていく。そんな中で今日の寝床になりそうな小さな村にたどり着いたんだけど、なんだか様子がおかしかった。
空気がピリピリしているというか、なんとなく不穏な雰囲気だ。妙に静まりかえっていて、俺達の足音ばかりがやけに目立ってしまう。
よくよく観察してみると、俺たちに向ける視線が冷たいというよりは、何か心配事があって警戒し、疲労しているといった様子だった。
「なにかトラブルでもあったのでしょうか」
「……こいつらの事情にかまけてる時間はねぇ。とっとと村を出るぞ」
「でもこの次の村っていうと、結構遠いわよ? ま、あんまりいい雰囲気じゃないから出た方がいいとは思うけど」
「わかってんならとっとと行くぞ」
やたらと村を出たがるヘルにつられるように足を速めようとすると、道に立ち塞がるように村人が現れた。
「……ようこそ、旅のお方。私はこの村の村長じゃ。お主らを歓迎しよう」
気配を消すようにしてのそりと歩み寄ってきた白ひげの老人の目は、笑っているのに笑っていないように見える。なんとなく不気味で、俺は無意識に一歩後ずさっていた。
クロノスが俺の姿を隠すように、さりげなく立ち位置を変える。そうして気配を殺しながら、クロノスはじっと村長の出方を見ていた。
愛想のいいメレが代表して、一歩前に進み出る。
「あら、旅人相手に気前がいいのね。でも結構よ、どうしても次の村に早めに到着しなきゃいけないから、このまま夕暮れになるまで先を急ごうと思ってるの」
ごめんなさいね、と断り文句を告げるメレに、なおも村長は言い募る。
「何もない村じゃが、ちょっとした酒と食事、暖かな寝床を提供しよう。だから、一つ話を聞いてくれんか」
「断る。テメェらのケツはテメェらで拭え」
ヘルが乱暴に言い捨てると、村長は地面に崩れ落ちるように跪いた。周りにいた何人かが村長の側に駆け寄ってくる。
「お願いします、お願いします……! なにとぞ、なにとぞ、話だけでもどうか……!!」
「知るか。見ず知らずのやつらにくれてやるほど、安い命じゃねえんだよ」
ヘルは一つ舌打ちすると、俺達に着いてくるよう顎をしゃくりながら歩き去る。
俺は村長を気にしつつも、ヘルの言った命という言葉に事の重大さを覚え、黙ってヘルの後をついていった。
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