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第二章 王都パラヴェレとガドラン沼地の小さな故郷
27 目指せ大道芸人!
しおりを挟むさて、俺達には五日間の自由時間ができたわけだけど、その間何をしていたかというとね。
まず、メレは持ってきた品物を売り歩いたみたい。思ってたより高く売れたみたいで、硬貨を数えてはニマニマしてたよ。
お金儲けに向いてる性格だよね、それこそメレの好きなファッションの服飾店を開いたら儲かりそうな気がする。
ヘルは朝起きると眠そうにしていて、夜はどこかに出かけていないことが多かった。
どこに行ったのか聞くと、飲みに行ってるとのこと。初日みたいに強いお酒の匂いがしないし、飲み過ぎてないみたいだからいいけど。
俺はあの後クロノスの魔力を借りて、早速大道芸の真似事をしてみた。
宿の裏手に丁度いい空き地があって、そこに落ちてた木の棒を使ってやってみたんだけど……
棒を片手で投げる、もう片手の棒も投げる。片手に五個づつ、一度に十個。
クロノスは俺の二の腕に、後ろから支えるみたいに触れている。
どうやら俺が触っていなくちゃいけないわけではなく、直に肌と肌が触れ合っていればどの部位でも魔力を引き出せるようだった。
それぞれ風の魔力でタイミングをばらつかせるかのように縦に浮き上がらせ、クルクルと棒一本一本を回転させる。
棒を繋げて大きな輪っかを作ったり、蛇のようにしなやかに動かしたり、自由自在だ。俺がイメージした通りに動いた。
最後にパラパラとトランプを一枚ずつ上から重ねるようなイメージで、木の棒を両手の平で受け止めた。
「思ったより簡単にできちゃったね」
「そうですね、あの大道芸の魔術師よりも優れているように見受けられましたが……スバルは今回のようなことは初めておこなったのでしたね?」
「うん、そうなんだけど……もしかして俺、魔力に関してはものすごく器用なのかも?」
二人して首を捻るが、平均値がよくわからないためどの程度できるのかよくわからない。
そこでメレを呼んでみた。俺の技を一通り見たメレは、とても情熱的で心のこもった拍手を長々と贈ってくれた。
「スバルちゃん!! アンタ一流の魔術師だわ! ここまでなめらかかつ繊細に魔力を使える人なんていないわよ、なんかもう、大道芸って域じゃないわね。これは芸術よ!!」
べた褒めだった。ある程度旅をしたこともあり、世間に詳しそうなメレが言うなら本当のことだろう。
これは……使えるかも?
「ねえクロノス、メレ。一つ相談なんだけど……」
街角の一角、スペースのある場所を見つけて仕掛けをこしらえる。と言っても、蓋の開いた木箱の上側を横に倒すように置いて、布をかけるだけだ。
道行く人にはこう見えているはず。華やかなひらひらローブを着たなかなかの美青年と、長いローブとフードで顔を隠した長身の男が、今から何やら楽しげなことをはじめようとしている、と。
「さあ寄って見てって~! メイちゃんのミラクル・パフォーマンスのお時間でーす! 助手のコロちゃんとお送りしま~す」
コロちゃんと呼ばれたローブ姿の男は静かに頭を下げた。その奥には赤い髪が隠されているが、きっと観客からは見えないだろう。
「ここになんの変哲もない木の棒がありまーす。これが、なんとぉ……と、飛んだー!」
メレもといメイちゃんが用意した木の棒が次々と空を舞い、様々な模様を描く。観客は驚きの声を上げて足を止める。
クロノスが手を空にかざすと、そこから火の輪が出現した。火の輪の間に、一直線に形を変えた木の棒が飛び込んでいく。
火の輪は鳥の姿に形を変えた。そして鳴き声をあげる動作をしてから木の棒に戦いをしかける。
「木の棒ちゃん、逃げて!」
メレのかけ声にあわせて、木の棒はするりするりと器用に逃げていたが、やがて追いつかれてしまい一本、また一本と燃え尽きていく。
最後に残った一本の木の棒と一騎打ちになり、火の鳥は大きな口を開けながら木の棒を飲みこまんと迫る。
木の棒は火の鳥へと果敢に向かって行き、火の鳥の喉に突き刺さる。
火の鳥は苦しみ出し、やがてその姿は空気に溶けてしまった。それと同時に木の棒も燃え尽きてしまった。相討ちだ。
観客はどよめきの声をあげた後、惜しみなく拍手をした。次々と正面に置いた皿の中におひねりが投げ込まれる。
「ありがとーっ! ありがとーねっ!」
メレが愛想よく手を振ると更におひねりの量が増えた。メレはそれを回収し、人が去ったところで通りを抜ける。
クロノスは脇の木箱を慎重に抱えてその姿を追いかけた。
「……うふふふふ。楽しいわねえ、笑いが止まらないわあ」
「メイヴィル、次はどこですか?」
「今度は南地区でやるわよ。魔力はまだあるのよね?」
「ええ……おそらくですが、もう少し大丈夫そうですね。スバル、どうですか?」
俺は木箱の中から答えた。
「大丈夫だよ! あと二回くらい同じことができそう」
「じゃ、次で最後ね」
俺が直接パフォーマンスをすると美人すぎて目立つとのことで、まあまあの美人に化けたメレと顔を隠したクロノスが表に出て、俺は木箱の中から二人の足にこっそり触れて魔術を使うことになった。
俺はあの魔術の光を、木箱一枚隔てても視認することができるらしい。驚きだ。
ついでにみんなの魔力量がどの程度減っているかもわかるようになった。
メレはまだ半分くらい魔力があるけど、クロノスはもう五分の一くらいしか残ってない。だから次で最後にしよう。
一日目、魔力でどんなことができるか試した俺達は、次の日から大道芸もどきを三日に渡り行った。
その結果……かなりの収入になりました。今回の装備代分くらいは賄えたかな?
なんせ元手が木の棒だからね、タダみたいなものだ。
ものすごく気前のいい貴族がポンと大金を投げ入れていったことがあって、それでここまで儲かったとも言える。
しつこくメレに話しかけてきていたから、ここらでやめておくのが丁度よさそうだ。
お屋敷に呼んで披露してほしかったみたいだけど、それをすると木箱の中に俺が隠れてることがバレるかもしれないしね。
俺がやってもいいけど……いや、やっぱりよくない。
下手にタイミングとか失敗して、俺が一人で二人分の魔力を使ってることがバレたら大変だ。
そもそも、なんでパフォーマンス中ずっと手を握ってるんだ、とか突っ込まれても上手い言い訳が思いつかない。
最後の公演も無事に終わり、拍手喝采をもらって宿に帰り着いた。
「いや~快感だわぁ、クセになりそう。まるでアタシが風の魔法を使ってるように見えたんじゃない? 面白かったわ~」
「合図にあわせて手を上げているだけでしたが、自分が起こした奇跡のように感じられましたからね。なかなか貴重な体験をしました」
俺はお金の工面ができたし、メレとクロノスには喜んでもらえたみたいだし、たくさんの人が夢中になって楽しんでくれた。やってよかったな。
メレはさっさと着替えて、今まで懐にしまっていた黄緑の縁のオシャレ眼鏡をかけて、硬貨の数を数えはじめた。
後で報酬を山分けしよっと。ここまで儲かるんだったら、ヘルも誘えばよかったなあ。ヘルにも魔力があるみたいだし……
「お前ら、何盛り上がってんだ?」
「ヘル! お帰りなさい」
今日は早く帰ってきたんだね。この四日くらいずっと夜見かけなかったから、久しぶりに会った気分だ。
「ちょっと見てみてヘル、じゃーん」
「あ?なんだこの大金」
メレが得意げにお金の入った巾着袋を広げた。
「この三日間、アタシ達で稼いだのよ! どう? 三日にしてはなかなかじゃない?」
「三日で……? おい! スバルに危ない橋渡らせたんじゃねーだろーな!? 詐欺か? 強盗か!?」
血相を変えて詰め寄るヘルを、メレは両手で押しとどめる。
「そんなわけないでしょ!? アンタは発想が物騒なのよ! これはね、スバルちゃんがアタシ達の魔力を使って、パフォーマンスして手に入れたお金なの! 正当な報酬よ、ねえスバルちゃん」
「そうだよ! それに俺が魔力を引き出してるってバレないように、二人とも協力してくれたんだ。危ないことなんて何もないよ」
「あるだろ」
「え?」
一瞬、ヘルは見たことのないくらい暗い目をしていた。その目が見えないように通り過ぎて、ベッドに乱暴にダイブするヘル。
「ヘルムート、まだ話の途中です」
「うるせえよ。気分わりぃ、俺は寝る」
そうしてまた頭からシーツを被ってしまった。三人で顔を見合わせて、少しヘルを一人にしてあげることにした。
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