【全57話完結】美醜反転世界では俺は超絶美人だそうです

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
26 / 57
第二章 王都パラヴェレとガドラン沼地の小さな故郷

26 クロノスの故郷に行こう!

しおりを挟む

 ゼトはクロノスがレジスタンスに所属して領主を捕らえ、俺が主になった経緯まで聞くと、感心したように長いため息をついた。

「はー、そうかよ。主とか貴族とか、俺には理解できない世界だな。まあそれで上手くいってるんならいいか」
「ええ。スバルが主でいてくれて、私はこの上なく幸せです」
「てか俺にまで敬語使うなよ、ムズムズするわ」
「性分ですので」
「性分って、ガキの頃はそんな話し方してなかったクセに……まあ、頑固なところは変わってないってことか」

 ゼトはまかないを平らげると、感慨深げにぽつりと呟くように告げた。

「まあ、お前が幸せならよかったぜ。クレイラのおじさんは気の毒だったけどな……トッドもお前ら親子がどうなったのか気にしてたぞ」
「そうでしたか……」
「一度顔見せに行ってやれよ、また会えたら渡したいものがあるって言ってたんだ」

 クロノスは黙りこんで何か考えているようだった。ひょっとして、行きたいのに俺に遠慮してる?

「クロノス、村までトッドに会いに行こうよ!」
「そうですね、そうしたいのは山々ですが……ガドラン沼地を超えるには専用の装備が必要で、それにはある程度の金額が必要になります。私の所持金は村を素通りするならイエルトに着くまで保ちますが、装備を揃えるとなるとこの先厳しくなりますね」
「それって、俺達二人分の報奨金を足しても足りない?」
「足りない訳ではありませんが、旅の途中で何が起こるかわかりません。ギリギリまで使い込んでしまうことは、避けた方がいいでしょう」

 ああ、そうだよね……お金の問題があったんだ。
 でもここで行かなかったら次いつ行けるかわからないし、絶対行った方がいいと思うんだよなあ。

「大丈夫よ、いざとなれば旅の途中で働けばいいんだし。もし働き口が見つからないなら、アタシがおごってあげてもいいわよ!」

 メレが得意げに胸を張る。頼もしい発言だ。

「えっ、いいの?」
「お金には困ってないわ。こう見えてアタシ、商才があるのよ。実は前の町で仕入れた品を王都で売るために用意してきてるの。その利益で装備品代は十分賄えると思うわ」

 なんて素敵な才能だろう。しかもそれをクロノスのために使ってくれるなんて、メレは仲間思いなんだなあ。一緒に旅に出てよかった。

「メレ、本当にいいの? ありがとう! 太っ腹だね!」

 心から賞賛すると、メレは珍しく頬を赤らめて照れた。

「ふ、太っ腹だなんてスバルちゃんそんな、お世辞が過ぎるわよぉ~!! でも嬉しいわあ、ありがとねっ」

 ……ん? なんでそこ照れたの?? 太っ腹って……
 俺のぷよぷよお腹を見下ろして、ああ、もしかして美人関係の褒め言葉かと思う。

 すごくかっこいいね! みたいな意味で捉えられたのかな? まあ、喜んでいるならわざわざ訂正しなくていっか。

「メイヴィル、さすがにそれでは申し訳なさすぎます。私が後ほど工面しますので、せっかくの申し出ですが遠慮致します」
「遠慮しなくていいわよ? そもそもアンタのためってだけで提案してるんじゃないもの。あの沼地には貴重で高価なアマドクガエルも生息してるし、そんな辺鄙な場所に住む人達がどうやって自給自足してるかこの目で確かめてみたいじゃない。上手くいけばまた一儲けできるかもしれないし? だから気にすることないのよ」

 そう言ってウインクをするメレ。堂に入ってて決まってるなあと見惚れていると、ゼトはうげ、という顔をした。

 な、なんで? すごく様になるよね? 男前のウインク。
 あ、男前じゃないんだっけ、ゼトにとっては、筋肉隆々ヒゲボーボーのオカマがウインクしてる、的な見え方をしたのかな。

 ちなみにクロノスは無表情だった。慣れてるのかな。

「……ありがとうございます、ですが、お金は私がなんとかして稼ぎます。これ以上借りを作るわけにはいきませんので」
「そう? 残念。せっかくクロちゃんに恩を売れるチャンスだったのに」

 満更でもなさそうにメレは言う。実はただの親切心ってわけじゃなかったのかな、でもなんだかんだいってメレは優しいし……わざとクロノスが気にしないように、そういう言い方してるのかもね。

 そろそろ店も混んできて、ゼトはまた食べに来いよと声をかけて仕事に戻ってしまった。俺達も店を後にする。

 宿は四人で一部屋とった。ヘルはまだ帰ってきておらず、俺達は軽くシャワーを浴びて明日に備えて早めに就寝した。





「あー、だりぃ……」
「飲みすぎたの? 馬鹿ねえ」

 翌朝。ヘルは二日酔いで撃沈していた。ベッドに突っ伏して青い顔をしている。

「テメェみてえなザルと一緒にすんじゃねえ……俺はお前とは違って人並みに酔うんだよ」
「それがわかってたならどうして飲み過ぎたのよ。大体アンタが人並みなわけないでしょ、樽一つ飲み干しても平然としてるのに。よっぽど酷い飲み方したんじゃないの?」
「あー、うるせえ……頭に響く、喋るんじゃねえ」
「もう、横暴ね」

 メレは肩を竦めた。処置なし、とでも言いたげだ。
 どうしたんだろう、青嵐の導き解散パーティの時はお酒を水のように飲んでも酔わなかったのに、無茶するほど飲むってことは何かあったんだろうか。

「ヘル、大丈夫? 何か辛いことでもあった?」
「……なんもねーよ。いいから寝かせてくれ」

 そのまま寝ようとするヘルに、クロノスが一声かける。

「待って下さい。諸事情により次の目的地が私の故郷の村となりました。沼を越える必要があり、そのための装備を整える予定ですが、ヘルムートは同行しますか?」
「俺はスバルを諦めねえ。地の果てだってついてってやらあ。……金がいるなら報奨金から適当に出しとけ、まだメレが預かってる」

 ヘルはそれだけ言うと布団を頭から被ってしまった。白銀の髪がシーツに隠れて見えなくなる。

「仕方ありませんね。ヘルムートの分もついでに買っておきましょうか」

 沼を越えるための装備は特殊な防具店に行かないと揃わない。耐毒、耐水、防汚機能がついてないとまともに歩けない土地なんだそうだ。

 しかし防具店の親父さんによると今は在庫がないらしい。一通り親父さんと話したクロノスは俺達と相談する。

「取り寄せには五日ほどかかるそうです」
「他じゃ見ないし待つしかないわね、それで手を打ちましょ。で、値段は?」

 耳をそばだてて聞いたそれは、俺が想像していた額よりはるかに高かった。庶民の約二月分の生活費に相当する額だ。
 三つも機能をつけるためにたくさん魔導刺繍をしているから、その分お値段が跳ね上がるんだね。

 うわあ……俺の報奨金、半分吹っ飛んじゃうや。
 今着てる旅の服にも大分使ったから、残り少ないかも……これは、お金を稼ぐ方法を考えなきゃ駄目だね。

「スバルちゃん、一緒にスバルちゃんの分も買っちゃうけど、本当にいいのね?」
「うん、お願い!」

 予想してたより随分高かったけど、買えるのであれば買わないという選択肢はない。

 だってクロノスの久しぶりの里帰りだもん、それに心配してる人だっているんだし、顔見せて安心させてあげなくちゃ。

 メレは優しげに目を細めて微笑した。

「全然躊躇いがないのね……アタシ、スバルちゃんのそういうとこ好きよ」

 イケメンからの、好きいただきました!
 外見を褒められるのは実感なさすぎて困っちゃうけど、内面を褒められるのって嬉しいなあ。
 心がじわじわと温かくなる。

「俺もメレの人に親切なとこ、好きだよ!」

 褒め返すと、メレは何故か眉根を下げて苦笑した。なんで?

「伝わってないわね、まあいいけど……アタシは別に親切じゃないわよ、結構打算的なんだから」
「でも今回のこと、クロノスのためっていう理由もあるでしょ?」
「えー?別にー、そんなことないわよー?」

 そっと視線を逸らすメレ。怪しい。

「この度は私の事情に巻き込み申し訳ありません」

 店を出たところで、クロノスが俺達に深々と頭を下げた。

「やだクロちゃん、そんなに畏まらないで? 気になるなら沼地で高級カエル取りたいから手伝いなさい、それでチャラよ」
「そうそう、俺もクロノスにはいつも色々やってもらってるし。このくらい当然だよ!それでも気になるなら後で魔法の練習に付き合ってね!」

 メイヴィルの真似をして軽い調子を心がけると、クロノスは顔を上げて苦笑した。

「スバル、メイヴィル……ありがとうございます。それでは、アマドクガエルの捕獲容器を買っていきましょうか。スバルは買い物の後に時間を設けますので、好きに魔力をお使い下さい」
「やったあ! 俺、昨日の大道芸みたいなやつ、やってみたかったんだよね」
「あれは難しいと思うわよ~? お手並み拝見ね」
「がんばってみる。クロノスが魔力切れで倒れない程度に」
「魔力切れですか、感覚を掴みたいのでもう一度その寸前まで追い込んでいただきたいものですが」
「ええっ!? 危険じゃない? 今度にしようよ」

 わいわい言いながら、俺達は王都の人混みに紛れていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

処理中です...