【全57話完結】美醜反転世界では俺は超絶美人だそうです

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
23 / 57
第二章 王都パラヴェレとガドラン沼地の小さな故郷

23 メレの故郷のスープを飲んでみた

しおりを挟む

 村人との交流はろくになかった。俺も騒がれないようにとマントにくっついていたフードで顔を隠していたし、村人は戸の隙間から顔をのぞかせ、小屋を借りたらたちまちピシャリと戸を閉めてしまったからだ。

 銀貨を受け取るなり閉じられた扉に面食らっていると、メレが肩を竦めて苦笑した。

「まあ、こんなもんよ。会ってもらえて、宿を貸してもらえるだけまだいい方ね。ただでさえアタシ達の見た目や、才無しであることから倦厭されるし、旅人の中には悪人もいるもの。警戒されるのは当然よ」

 ふーん、そういうものなんだ。あんまりにも態度が悪いからびっくりしちゃったけど、確かに見ず知らずの人に宿を貸すんだもんね。

 悪人が来るかもって用心しておかないと、家の中に押入られたりしたら大変だ。

 気を取り直して借りた小屋に向かう。元は馬小屋だったみたいだけど、長いこと使われていなかったようだ。

 乾いた草の匂いと土の匂い、それに僅かに動物の匂いが染みついている。
 その匂いも風通しの良い開きっぱなしの小屋上部から、風が吹く度外へ流れ出ていった。

 よかった、あんまりにも臭かったら眠れないもんね。

 大きさはかなり広い。俺達は壁際の比較的綺麗な場所に放置された飼い葉を掻き集め、上からシーツをひいた。

 寝転がってみると地面のゴツゴツに直接当たることもなく、これならなんとか寝られそうだ。

「スバル、寝る前にこちらをお使いください」

 クロノスに手の平大の装置を渡される。卵状の楕円形で、上部に穴が空いていた。

「何これ?」
「ダニや噛みつき虫から身を守る魔道具です。この魔道具は魔力で作動するタイプですので、スバルの力をお借りしてもよろしいでしょうか? メイヴィルとヘルムートが相談もなく買ってきてしまいまして」
「全然お安い御用だよ! むしろ俺もクロノス達の魔力を借りないと何もできないし。使う必要がある時はいつでも言って」 

 クロノスは俺の言葉を受けて頭を下げた。

「ありがとうございます、スバルの心は海よりもなお広いのですね」
「そんなことないよ、大袈裟だなあ」

 両手を振って否定し、クロノスの頭を上げさせた。
 俺のやることなすこと、みんないい風に解釈してくれるのはありがたいけど、こそばゆい。慌てて話の方向を戻した。

「それで、どうやって使うの?」
「装置の下部から魔力を注いでみてください」

 俺は魔力を注ごうと意識を集中させるが、何も起こらない。
 ああ、まだ手を繋いでなかったんだった。やっぱり俺に魔力はないみたいだね。

 気を取り直して、クロノスの手を取る。途端に流れ込む魔力。

「わっ」

 魔力を注ぐと同時に、装置上部の穴から白い煙が湧き出した。もくもくと広がるそれは小屋の地面を覆い尽くす。

「これ、大丈夫なの?」
「使い方はあっていますよ。実際に使用するのは初めてですので、効果のほどはこれから検証が必要ですね」
「大丈夫よ、ちゃんと廉価品じゃなくてイエルト産の純正品を選んできたんだから!」

 メレは自信あり気ににんまり笑ってみせたが、ヘルはそれを見ることなく乱雑に寝転がり背を向ける。

「ちょっと! そんなに勢いよく寝転ぶと埃が舞うじゃない!」
「どうせ埃っぽいのは変わらねえよ。今日はテメェがメシ作んだろ、できたら起こせよ」

 ヘル、疲れたのかな? それともただ待ってるだけ? 気になって傍によって見ると、眼帯と反対側の片目がうっすら開く。

「なんだ……って、スバルか。おどかすんじゃねぇよ」

 いつもおどかしてるつもりはないんだけど、なぜかクロノスは俺が近づくとびっくりするよね。
 これからは声かけてから近づいた方がいいのかな。

「ヘル、疲れてない?」
「疲れてねぇ。……お前イエルトまで行くんだよな?」
「うん、そのつもりだよ?」
「そうか。……ま、なんとかなるか」

 ヘルはそう言って目を閉じてしまった。完全に休む態勢になっている。イエルトに何かあるのかな?
 ヘルはこれ以上話をする気がないみたいだ。

 俺は会話を諦めてクロノス達の方へ戻った。彼らは小屋の外の空き地で、簡単なスープを作ろうとしているところだった。

「あ、火が必要だね。メレの魔力を借りていい?」
「もちろんいいわよ、いつでも使いなさい」

 メレは恭しく芝居掛かった調子で手の平を差しだす。

「どうぞ、お姫ちゃん」
「姫じゃないよ!」
「うふふ、わかってるわよ。ちょっとやってみたかっただけ」

 全くもう。クスクス上機嫌に笑うメレに、俺も少し笑って手を差しだす。

 簡単に組まれた焚き火台の中心に火の玉を投げ込むと、しばらくしてパチパチと燃えはじめた。

 魔力を注ぐのを減らしても変わらず燃え続けるのを確認して、手を離す。
 メレは火の具合を見て、早速上に水の入った鍋を設置した。

「はー、やっぱり魔力が使えるってすごく便利よねえ。スバルちゃんが一緒に来てくれてよかったわあ」

 メレは楽しげに鍋をかき混ぜ、手で薬草や干し肉を千切りながらポイポイっと投げ入れていく。

 そんなに適当でいいの? というくらい適当に料理しているさまを見て、ちょっと心配になる。

 でも料理上手なクロノスが口を挟まずメレの好きに任せているんだし、大丈夫なのかな? 気になって、鍋の中を覗きこんでみた。

 えっ、このスープ、ピンク色なんだけど! 本当にこれ、食べられるの!?

 俺が慄いている様子を見て、クロノスが声をかけてきた。

「スバル、どうかしましたか?」
「いや、あの、メレのスープが予想外の色でビックリして……」
「ああ、これ? メグの実を入れたのよ。アタシの故郷では一般的な具材だけど、ここでは高くてなかなか買えなくて。だけどボスからもらったお金がたんまりあったからね、使っちゃった」

 ピンクのスープが一般的なんだね……カルチャーショックだよ……

 そしてスープは出来上がった。
ヘルも呼んできてみんなで夕御飯にする。
 他の民家からも美味しそうな匂いと煙が上がっていて、ちょうど村のみんなと御飯時が被ったみたいだった。

 木の器に盛りつけてあるそれをまじまじと見つめる。どこからどう見てもピンクだ。嗅いだことのない甘い匂いもする。

 横目でみんなを確認すると、メレは美味しさを噛み締めるように、クロノスは行儀よく、ヘルはかきこむようにスープをどんどん口に入れていた。

 覚悟を決めて、一口食べてみる。口の中にほのかな甘みと酸っぱさ、程よい塩辛さが広がった。癖の強い香辛料が舌を刺激し、それらが絶妙に組み合わさっている。

「美味しい! なにこれ? 何が入ってるの?」
「美味しいでしょ? さっき言ったメグの実でしょ、グラスコの葉にノモロの根っこ、それにヤギの肉が入ってるわ」

 うん、せっかく聞いたけどヤギ以外よくわかんないや。

 今までの料理が内実はどうであれ普通の洋食風だったから、俺はてっきり異世界でも食べ物は同じなんだと思ってた。実は違ったんだね。

「メレの故郷ですか、そういえば聞いたことがありませんね」

 クロノスが料理の腕に感心したように舌鼓を打ちながら問いかける。

 はっ、そういえばこの中で料理ができないのって、まさか俺だけ……!?
 うわあ、本気で料理練習しよう、みんなにばっかり御飯作りを任せるのは心苦しい。

 ヘルがチラリとメレに視線を送る。メレは何でもなさそうにクロノスの問いかけに答えた。

「そうね、言ってなかったわね。アタシはゼシア聖国の出身よ」
「そうですか、その髪と目の色からもしやとは思っていましたが」
「聞かないでいてくれたの? クロちゃんやっさしーい」
「今その優しさを発揮したことを後悔しました」
「えっ、なんでよ?」

 クロノスとメレが話している間ただ黙っていたヘルだったけど、会話が途切れて少ししてからポツリとメレに尋ねた。

「……もう、吹っ切れたのかよ」
「まあね。アンタは?」
「俺は元々気にしちゃいねえよ」
「ふふっ、嘘ばっかり」

 すかさずヘルはメレの脇腹に肘鉄を入れようとするが、メレはスープを頭上に抱えながら間一髪それを避けた。

「何すんのよ、こぼれるじゃない!」
「おかわり」
「欲しいなら口で言いなさいよ! 全く……」

 グチグチ文句を言いながらもスープを注いであげるメレ。
 メレはゼシア聖国出身なんだね、でも吹っ切れたとかって、なんのことだろう?

 自分もおかわりをしてスープを飲むメレに俺もおかわりをお願いしつつ、おずおずと話しかける。

「ねえ、メレ。何が吹っ切れたのかとかって、聞いてもいい?」
「つまんない話よ。容姿に恵まれず、唯一誇れる魔力を失って絶望のまま国を飛び出したオトコが、意地とプライドから復讐譚を企てて、それを成功させたってだけ」

 それは、もしかしてメレ自身の話なのかな。
 復讐譚っていうのは、レジスタンス活動のことで、恵まれた美人に復讐したかったってこと?
 自分が美人に化けて見返してやるっていうのも、そこに含まれているのかもしれない。

「でももう気が済んだから、意地を張るのはやめたの。これからは美人に生まれなかったことを後悔するんじゃなくて、アタシのままアタシの道を歩いて行くのよ」

 火に照らされた焦げ茶色の瞳の内側にも、赤々と炎が燃えていた。

「過去に何があったかは関係ないわ、これから何をするかが重要なのよ」

 そう言い切ったメレの横顔には何の陰りもなく、ただ静かで情熱的な決意だけがあった。
 内面から滲み出る焔は、メレの麗しい顔を更にイケメンに見せた。

 すごい、言ってる内容もかっこいいから、いつもよりイケメン度が五割増しに見える。
 見惚れていると、ヘルが茶化しに入ってきた。

「おい、お前女みてぇな喋り方してたら説得力ねえだろ」
「いいでしょ、これもアタシらしさだもの」
「よくねえ。一緒にいるとオカマ成分がスバルにうつるかもしれねぇ」
「アンタの粗暴さがうつる方が問題よ……って、だから蹴らないでちょうだい!」
「二人ともやめなさい、あまり騒ぐと村を追いだされますよ」

 みんな一日中歩いたのに元気だなあ。俺はもう疲れて眠いよ。

 俺がついもらした欠伸にクロノスがすぐに気づいて、早速火を消して身支度して、寝床につく流れとなった。

 ちなみに、イエルト産の虫除け魔道具のお陰で、虫は一匹も出なかったよ! やったね!
 それでは、おやすみなさーい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

処理中です...