【全57話完結】美醜反転世界では俺は超絶美人だそうです

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
16 / 57
第一章 領主の屋敷と青嵐の導き

16 魔法は隠そう

しおりを挟む

 アジトに戻ると、昼食を食べるには早い中途半端な時間だった。

「二階で休憩しましょ。お茶を淹れてあげるわね」

 メレは手際よく、いい香りのするお茶を淹れてくれる。

「はい、スバルちゃんどうぞ」
「ありがとう」

 カップを受け取り、華やかな花の香りがするハーブティーを啜る。暖かい液体が喉を滑り落ちる感覚に、ホッと一息ついた。

「ねえメレ、形見かもしれない物ってどんなやつなの?」
「それはクロちゃんが起きてからのお楽しみよ。でも、そうねえ。もし形見じゃなかったとしても、きっと喜んでくれるんじゃないかしら?」

 何なんだろう、気になる。気になるけど、聞いても教えてくれなさそうだ。ここは大人しくクロノスさんを待つことにしよう。

「これで作戦は終わったんだよね? この後、青嵐の導きのみんなはどうするんだろう?」
「そうねぇ、ボスのことだからちゃんと考えてるんじゃない? アタシは目的を果たしたから抜けるけどね」
「そうなの?」

 メレはクスリと笑う。

「そうよー、領主をぎゃふんと言わせて、世の中顔や血筋だけが全てじゃないって証明できたわけだしね。今後は、アタシの夢のために行動するつもりよ。スバルちゃんは?」
「俺? 俺は先のこととか全然考えてなかったや」
「ふーん? まあ、まだ数日はアジトにいるでしょうし、その間に考えたらいいわ」

 メレの長い指がカップを口元に運ぶ様を見つめながら、俺はボンヤリと考える。

 今後、かあ。目の前のことに必死だったから、急にそんなこと言われても戸惑っちゃうな。

 日本に帰る方法とかもわかんないし。
 そんなに絶対に帰りたいってわけでもないけどね、ここの生活も悪くないし。
 両親に無事だよって手紙くらい出せたらいいなあ、とは思うけど。

 父さん達元気かな。俺んちは農家なんだけど、今年は雨が多いから野菜が駄目にならないか心配してたなあ。
 上京してくるまで改造に改造を重ね使ってた、林の中の秘密基地はまだ無事だろうか。

 とりとめもないことを考えていたら、背後からゴソゴソと人の気配を感じた。

 振り向くと、クロノスさんが気だるげに額を押さえながら、ヘルの部屋から出てきたところだった。

「クロノスさん!」
「アンタ今頃起きたの? 遅すぎよ」

 いつもより乱れた服装で頭を振りながら、クロノスさんは心なしか焦った表情で俺達に問いかけた。

「スバル、メイヴィル、屋敷は焼け落ちていませんか? それに、領主はどうなりました?」
「まずは顔を洗って、頭をハッキリさせてきなさい。話はそれからね」

 フラフラとした足取りで洗い場へ向かうクロノスさんは、数分後にはパリッとした服装で戻ってきた。
 まだ顔色は悪いけれど、瞳はしっかりと焦点をメレに合わせている。

「説明をお願いします」
「ええ。クロちゃん、どこまで覚えてるのかしら?」
「消火活動をしていたところまでですね。いつの間にここへ戻ってきたのでしょうか」
「じゃあ、そこから話をするわね」

 あの後火が消し止められ、ついさっき領主が伯爵によって身柄を確保された話をすると、クロノスさんは少し瞳を伏せた。

「そう、でしたか。私がいないうちに全て終わってしまったようですね」
「ちゃんと起こしてあげようとはしたのよ? でもアンタ、ビンタまでしてもピクリともしないんだもの」
「ああ、通りで頬がヒリヒリ痛むわけです」
「悪かったわね!」
「いえ」

 クロノスさんは一瞬じとりとメレに視線を向けたけれど、本気で怒っているわけではなさそうだった。
 それより、ことの顛末を見送れなかったことを後悔しているよう。

 クロノスさんの盛大な寝坊の原因に一つ思い当たることがあって、俺はクロノスさんにおずおずと声をかけた。

「あのさ、クロノスさん。クロノスさんが起きれなかったの、俺のせいかもしれないんだ。加減がわからなくて、クロノスさんを魔力切れにしちゃったみたいで……それで回復するのに時間がかかったんだと思う。ごめんね」
「魔力切れ? どういうことでしょう?」

 クロノスさんは思いがけないことを聞いたというかのように目を見張った。

「俺さ、触れた人の魔力を引き出して、魔法を使えるみたいなんだ」
「それは……」

 クロノスさんは考えあぐねて、結局言葉を飲み込んでしまったらしい。
 やつれてもなお美しい顔には、にわかには信じられないと書かれているように思えた。

「まあ、信じられないわよね。スバルちゃん、実際に見せてあげたら?」
「そうするよ。クロノスさん、ちょっといい?」

 俺はクロノスさんの腕を取り、魔力を吸い上げた。病み上がりだからちょっとだけ。
 手のひらの上に風の渦を作ると、クロノスさんは首を傾げた。

「これでわかった?」
「いえ、その……スバルは風の属性の魔力の持ち主だと思っていたのですが」
「違うよ! これ、クロノスさんの魔力だから」
「私の、魔力?」

 クロノスさんは目を見開いて風のミニ竜巻を凝視した。
 メレは魔力を引き出される感覚がわかったみたいだけど……ああそうか、クロノスさんはそもそも魔法を使ったことがないんだもんね。
 それじゃ、実感もわかないはずだ。

「それで、こっちがメレの魔力だよ」

 今度はメレの手を取り、手のひらの上に小さな火の玉を出した。クロノスさんはだんだんと理解が追いついたらしく、目を見開いて俺の手のひらの上を穴が空くほど見つめた。

「人は、一つの属性の魔素しか内包することができないはずですが……スバル、貴方はどのようにして、この奇跡を実現されているのでしょうか」
「うーん、俺にもよくわからないんだよね。でも、なぜか使い方はわかるんだ」

 そもそも魔力なんて、地球の人類には備わってないはずだしね?
 自分の中にもさっぱり魔力を感じないし。

 クロノスさんは知らず知らずのうちに詰めていた息を吐き出し、呼吸を整えた。

「すみません、取り乱しました。とても稀な能力ですね、才無しとなった者が大挙して、スバルに教えを請いに来そうです」
「それは困るなあ、俺にもどうやってやってるのか説明できないのに」
「そうね、スバルちゃんの能力は貴重で、才無しとなった人から妬まれそうだし隠した方がいいわ」

 俺達はこれ以上俺の体質の情報を広めないことで同意した。なんか有名になったら、ろくなことにならない予感がするしね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

処理中です...