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第一章 領主の屋敷と青嵐の導き
12 焦る領主とイケイケなメレ
しおりを挟むかくして、計画通り俺達は同じ部屋に案内された。
作戦はこうだ。夜中の人が少ない時間に用事を頼み人手を奪い、そのタイミングで門の前にいるヘルが騒ぎを起こす。
ならず者に扮したレジスタンスの仲間が更に絡んで門の前に人が集まったところで、屋敷の中に潜んでいた待機組が裏口を開けて、残りの仲間を屋敷内へと手引する。
そして俺達は……
楽しげな様子で部屋に俺達を両手に抱えてエスコートする領主。彼が部屋に入った瞬間、メレが素早く懐からナイフを取り出し領主の首に押し当てた。
「動かないで」
ピタリと首元に当たったナイフを見下ろした領主は、一拍置いて状況を把握し取り乱した。
「な、何!?」
「騒ぐのもダーメ。首の皮が切れちゃうわよ?」
「くっ!こんな手には屈せんぞ! 影よ!!」
天井からメレの手を目掛けて降ってくる刃。メレは領主の身体ごと左に引き寄せ刃を避けた。
メレの手袋が裂け、勢い余った手元が領主の首にナイフを滑らせた。首筋から血が滲む。
「やめなさいよ、間違えて領主サマの首を切り落としちゃうとこだったじゃないの」
「何をやっている! 無能者共めが!!」
領主は品性なく怒鳴り散らした。目をギラリと光らせると、銀色の光がメレ目がけて一斉に刃を向ける。
ヤバイ、このままだとメレが傷だらけになっちゃう!
実際に風の刃が矢のように身体に降り注ぐ前にメレの腕を掴んで、光の線を遮るように火の壁を作る。
顕現した風は火の壁に勢いを削がれ、メレの髪を勢いよく乱しただけだった。
それどころか、風のいたずらが領主の髪に降りかかり、彼の横髪を焦がす。
「ヒイッ!? な、なんだ、なにが起こった!? 魔法か!?」
領主が慌てふためくと同時に、屋敷の表門の方角から怒鳴り声が響いた。
「ここっ、こ、今度はなんだ!?」
みっともなく狼狽える領主を尻目に、裏手からも鬨の声が上がった。
屋敷内の空気がざわつき、悲鳴や雄叫びが遠くに飛び交う。
それはこの部屋の空気にも波及し、俺達にある種の高揚感を、領主達には焦燥感を与えたようだ。たじろぐような気配を感じる。
「手下に様子を見に行かせたら? アンタが後生大事に抱えているヒミツ、暴かれちゃうかもしれないわよ?」
「そのような口車には乗らんぞ! 早くこいつを始末せんか!!」
領主が吠えると、天井から人が降って来た。左右に二人づつ、メレの背後にも一人。背後の一人が刃を振るう。
俺はメレから魔力を引きだし、背後の影に火の玉を投げつけた。
影は怯んで後退する。そのまま左右に向けて火を噴出し、近づけないようにした。
影の誰かが水の球を放出してきたけれど、激しい炎の前では歯がたたないようで、すぐにかき消すことができた。
「スバルちゃん、ナイス! こっちよ!」
メレは懐から眼鏡を取り出し素早く装着すると、領主の身体を盾にしながら廊下を移動した。
俺はメレと並走しながら、近づこうとする影に火の球をお見舞いする。廊下の先にいる人を追い払うように炎を前方にも放出してやった。炎の大盤振る舞いだ。
「あはははっ、楽しいわね! いいわよ、じゃんじゃんやっちゃって!」
ナイフを投げつけられないように牽制しながら、メレは領主を引きずり無邪気な笑い声を上げる。
「やめっ、やめんか! い、痛たたた! 引っ張るでない!!」
領主はメレとは対照的に悲痛に叫んでいた。ちょっと可哀想だけど、素知らぬふりで走り続ける。
どんどん廊下を進むと、見知った人影が数人、廊下の角から現れた。
「はぁいボス! プレゼントよ!!」
「よおメヴィ。これはまた、豪華なラッピングまで引き連れて来たな」
ブルーリーさんは影から放たれたナイフを受け止めてそのまま投げ返す。ナイフは吸い込まれるように影の足に刺さった。すごい技術だ、歴戦の戦士みたい。
仲間も次々に武器を構え、影を迎え打つ。
「それも含めてアンタ達にあげるわ。アタシはもう十分ギャフンと言わせてやったから、後はボス達が好きにして」
「そうするぜ。メヴィは引き続き、スバルと共に屋敷内を撹乱させておいてくれ」
「まっかせなさい! 今なら何でもできる気がするわ」
ブルーリーさんに手を振ったメレは、ダメになった手袋を脱いで俺と手を繋いだ。
滑らかで長い指を持つ手が、恋人同士のように繋がれる。メレはそのまま俺を連れて駆けだした。
「行きましょ、スバルちゃん!」
メレは軽やかな足取りでナイフを持って先導する。
俺は非日常と恋人繋ぎの両方にドキドキしながら、人を見つけては火を吐いて追い払った。
その様子を見て、メレが歓声を上げる。
「炎がこんなにも自在に! すごいわスバルちゃん、最っ高よ!! またこんな光景を見られるなんて!」
舞い踊る炎に高揚し、チョコレート色の瞳がキラリと赤く光る。楽しそうにはしゃぐメレを見ていると、俺まで楽しくなってきた。
混乱する屋敷内を更に混沌の渦に陥れること数分。ドォンと大きな音が屋敷を揺らし、やがて木の燃える臭いと灰色の煙が窓から吐き出された。
廊下の窓から確認すると、三階の部屋から火の手が上がっているのが見えた。
「え、どうしたんだろう? 俺が火つけちゃった?」
「そうじゃないわ、あれは……魔法の暴発じゃないかしら。マシューがやらかしたか、領主の手下がヘマしたか……わからないけど、あの場所はマズイわね」
メレは眉を顰めると、俺の手をギュッと握りなおした。
「スバルちゃん、あそこまで上りましょ。様子を見に行くわよ」
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