上 下
29 / 41
第四章 海へ

6☆

しおりを挟む
 海の家の側にあるシャワー室で身体の汚れを落とした後、息子達の待つパラソルの元へと戻った。

 二人は莉緒さんと会話をしているようだ。美男子二人を前にして、莉緒さんは目の色を変えている。

「えー、そうなんだ、受験生……若いねー」
「この旅行が終わったら、また受験勉強に全力で取りかかる予定なんです。なあ、大吾?」
「そうだな。一緒に勉強しよう」
「ふふ、二人は仲がいいのね」
「ええまあ。つきあってるんで」

 大吾がサラリと告げた発言に、莉緒さんは固まっていた。そこに僕が戻ると再起動して、なぜかしなを作りはじめる。

「あら、お兄さんも戻ってきたみたい」
「あ、父さん」
「ととと、父さん⁉︎」

 あんぐりと口を開けた莉緒さんを、後ろから現れた彼女の兄が回収していった。

「ほら、これに懲りたらナンパはやめとけ」
「絶対おかしいわよ、あんな大きな子がいるなんて! あの涼しげ美男、いってて三十くらいじゃないの?」

 悪かったな、童顔で……顔をしかめていると、巽はしたり顔で頷いた。

「確かに郁巳さんは若く見えますよね。そういうところも素敵です」
「ハイハイ」

 軽く流して旅館へと戻った。風呂で汗を流した後、四人で食堂に集まって食事に舌鼓を打っていると、なぜか和泉がそわそわしている気配を感じて首を捻る。

「どうしたんだ和泉。何か食べられない物でもあったか」
「いや、そういうんじゃないよ。ちょっと考え事」

 なんだろう、歯切れの悪い和泉なんて珍しい。普段滅多に隠し事なんてしないタイプだけど、よっぽど言いにくいことでもあったのだろうか。

 親子二人で部屋に戻って、寝間着代わりの浴衣に着替えて寛いでいると、和泉が突然思い出したように立ち上がった。

「わ、大変! 僕どうしても大吾に今日中に伝えたいことがあったんだ、今から行ってくる!」
「え? 和泉?」

 呼び止める前に和泉はそそくさと部屋を出ていってしまった。なんなんだ、一体……まあそのうち戻ってくるだろうと判断して、窓の外の景色を眺めた。

 暗い海からは波音が絶えず流れこんでくる。波の音を聞いていると、昼間巽に岩陰に連れ込まれたことを連鎖的に思い出してしまった。

 もちろん、その時された行為のことも細部まで……

「……っ」

 ずくりと腰が疼く。いや、腰というよりも、お腹の底が疼いているというべきか。彼のことを思い出さないようにしていた時は、ここまで切なくならなかったのに、どうして。

 思い出しただけで身体が反応しそうになり、慌ててカーテンを閉めた。あの時、本当はナカを突いてほしかったのだろうか……いやそんなはずは。

 理性では欲望を否定できるのに、身体は巽を求めているのか、後孔を締めつけていやらしい気持ちになってしまう。

「はあ……水でも飲んで落ち着こう」

 ペットボトルの蓋を開けて、ぬるくなった水を胃の中に流しこむ。一息ついていると、部屋をノックされた。和泉が戻ってきたのだろうか。

 さてはアイツ、急いで出たからカードキーを持ち忘れたな。仕方ないなと思いながら扉を開けると、そこに立っていたのは浴衣姿の巽だった。

「え、なんで」

 小さめの鞄を小脇に抱えた彼は、フッと苦笑するように笑った。

「実は、息子達に部屋を追い出されてしまいましてね。入れてもらっていいですか」
「どういうことだ?」
「話の続きは部屋の中でしましょう」

 追い出されたにしては余裕そうな表情の巽だったが、廊下でする話でもないだろうと部屋の中に入れてやった。

 座布団に座らせてお茶を淹れてやる。礼を告げる巽の隣に座った。

「それで、どうしたんだ」

 彼は顎に手を当てて、思案げな素振りを見せた。

「高校最後の夏の思い出だから、どうしても二人で夜を過ごしたいと大吾に懇願されましてね。そういうことなら仕方がないと、協力することにしました」
「え、まじか」

 アイツら、二人きりの部屋でナニをするつもりなんだ。流石に文句を言ってやろうと立ち上がろうとすると、巽に腕を引かれた。

「郁巳さん、そういうわけなので、今晩は私達も熱い夜を過ごしましょう」
「はあっ?」

 部屋を乗っ取られたというのにむしろ楽しそうな巽に面食らっていると、誘うように腰を撫でられる。待て待て待て、こんな展開は予想外だ!

「ちょ、正気か!? もしも和泉が忘れ物でも取りにきたら……」
「その心配はいりませんよ。大吾と共にいたいとお願いされた時、部屋を貸す代わりに父親の泊まる部屋には決して入らないよう言い含めておいたので」
「な、なんて理由を説明したんだっ?」
「海で泳いで疲れたから休息の邪魔をしないでほしいと告げたら、納得していましたよ」
「休息って言ったなら、ちゃんと休め……ひっ!」

 浮かせた腰の下に手を入れられ、両手で尻を揉まれた。狭間を指で押し広げられる。

「一月ぶりに郁巳さんに触れられたというのに、みすみすチャンスを逃すつもりはありませんよ」

 ギラギラと欲望に濡れた視線を受けて、僕は咄嗟に背を向けて逃げ出そうとした。腰に手を回されて阻まれ、後ろから覆い被さるようにして抱きしめられる。

「やっ、離せよ!」
「郁巳さん、昼間は中途半端にしかお構いできませんでしたし、今晩は心ゆくまで愛して差し上げます」
「いやいやいや、そんな変な気は使わなくていいから!」

 遠慮するっていうのに、巽の手は無遠慮に浴衣の中へと潜り込んできた。合わせ目から手を差し入れられて、乳首を軽くつねられる。

 淡く滲んだ快感を前にして、僕は身をくねらせて逃れようとしたけれど、指先はしつこく追いかけてきて何度も尖りを押されてなぶられる。

「あ、やめろったら」
「やめろとおっしゃる割には声が甘いですよ。もう感じていらっしゃるんですね、敏感だな」
「ぁっ!」

 耳を犯すような低音が流し込まれて胸元に刺激を加えられ続けると、むくむくと陰茎が固くなっていくのを自覚した。身体は巽に与えられた快感を覚えているのか、少し弄られただけで昂ってしまう。

「私と会わない間に、体が疼いたりしませんでした?」
「な、なんてことを、聞くんだ……!」
「ふふ、そうだったらいいなという願望ですよ。あなたのココは……」

 巽は浴衣をかき分け太腿の隙間に手を突っ込むと、下着越しに軽く勃ち上がったモノを掴んだ。ひゅっと喉が鳴る。

「私を求めてヌいたのでしょうか」
「しっ、してない!」
「そうなんですか? どうでしょうね、貴方の口は思ってもいないことを言う時があるようですし」
「本当だってば! お前と会っていない時は、こんなに感じたりムラムラしたりしない……あ!」

 ぎゅっとちょうどいい力具合で屹立を握られて、じゅわっと滲み出た快感に反応して声が出てしまう。巽は声を高揚させて情熱的にささやいてきた。

「私と会っている時だけいやらしい気分になるんですか、郁巳さん」
「え、ちが……」

 違うと否定しようとして、途中で言葉が止まる。言われてみればそうかもしれないと抵抗を忘れたその隙を逃さず、巽は器用に僕のパンツを半分ほどずりおろし陰茎を露出させた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

処理中です...