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第四章 海へ

5☆

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 巽も自身の海パンの前部分を下ろしたらしく、直に剛直が尻に触れる。ギュッと足を閉じて抵抗した。

「郁巳さん、あくまでも私と会わないつもりなら」

 彼は低い声に色気を滲ませながら、とんでもないことを口にする。

「息子達に私達の関係をバラしますよ」
「な、あっ⁉︎」

 振り向いて文句を言おうとしたけれど、巽は僕の屹立を擦りあげる速度を上げた。グッと腹筋に力を入れて射精を堪える。

「や、めろ……っ」
「おや、そろそろ限界でしょうか」
「くぅ、あっ!」

 僕の様子を見てますます熱心に愛撫を施されて、前と同時に尻穴の縁も彼の熱杭で刺激される。

 もどかしい刺激に自ら腰を揺らしていると、いよいよ限界が見えてきた。目の前は岩場だし、すぐそこは遮る物のない海だ。

 こんなところでと思うのに、身体は正直で。鈴口をちゅぷりと指の腹で押された瞬間、僕は欲望を迸らせた。

「んんぅ……っ!」
「ふ、かわいい」

 高い声を揶揄するように耳元でささやかれて、カッと頬に熱が昇る。巽は僕を解放せずに、性液で濡れた手を尻の狭間に移動させた。

「や、そこはっ」

 遠慮なく指先を第一関節まで挿れられて、足がガクガク震えた。

「くぅ……っ」
「おや、ずいぶんと慎ましくなっていますね」
「当たり前だっ、触ってないんだから」

 しばらく入り口辺りを念入りに触っていた巽は、ふと思いついたように声を出す。

「これでは解すのに時間がかかって、大吾達に訝しく思われてしまいますね」
「あ、やだ……」

 大吾や和泉に見つかることを考えただけで、叫びだしたいほど恥ずかしい。ふるふると首を横に振ると、巽は意味深に微笑んだ。

「手加減してほしいですか?」

 必死で頷くと耳を齧られる。吐息が吹きかけられるだけでビクビクと腰が跳ねてしまい、頭がおかしくなりそうだった。

「でしたら今後は、私からの連絡を拒否しないでください。わかりましたね?」
「あ……そんな」

 まだ体内に残った指をぐるりと回されて、背筋がわななく。

「それとも、日が暮れるまでここで愛されたいですか」
「や、嫌だ」
「どちらがいいですか、郁巳さんに決定権を譲りますよ」

 そんなの、卑怯じゃないか。僕が断れないとわかっていて取引きしてくるなんて。唇を噛み締めながら黙っていると、精液で汚れていない方の手で唇を撫でられた。

「噛まないでください、傷がついてしまう」

 指先の動きは優しく、労りの気持ちがこもっていた。巽はいったい僕をどうしたいんだろう、追い詰めたいのか好きにしたいのか、それとも愛したいのか……

 僕は混乱しながらも、早くこんな危ない場所での行為を終わらせたくて、巽の要望を受け入れることにした。

「……わかった、ちゃんと連絡がきたら返事をするから」
「ええ、約束ですよ」

 巽は満足気な息を吐くと、手のひらに残ったままの僕の性液を内股に擦りつけた。ぬるりとした感触に肩をビクつかせながら足を閉じる。

「ぅえっ⁉︎ な、何を?」
「手加減してほしいのですよね? 素股にしましょう」
「素股っ? あ、なにっ」

 巽の雄が太腿の間に潜りこんできた。そのまま激しくピストンされる。なんでこんなことをされているんだと戸惑いながら、膝頭をグッと寄せて解放される時を願った。

「っ、ぁ」

 あ、これ……玉を後ろから突かれると、ゾクゾクするというか、怖いようないいような絶妙な気持ちにさせられる。

 ぬるぬるの内股に何度も腰を打ちつけられて、疑似セックスのような体験に頭が沸騰したみたいに興奮している。

 実際の気持ちよさはほとんどないのに、僕は気がついたら息を乱して、巽と一緒になって腰を振っていた。

「っく、郁巳、そろそろ出ます」
「あ、うん……っ」

 一際ガツガツと腰を揺らした巽は、一呼吸置いて白濁液を吐き出した。僕の股の間に放たれたそれは、内腿を伝ってふくらはぎへと落ちていく。

「うぅ、汚された……」
「大丈夫です、潮の匂いが情事の跡を消してくれます」

 情事の跡だって? 頸を手で押さえながら、恨みがましい目で巽を振り返る。

「首につけられたキスマークは消えないけどな」
「ああ、それはそうですね、すみません。ずいぶんと我慢していたもので、抑えがききませんでした」

 殊勝な面持ちで謝った巽は、やっと僕を解放してくれた。海パンを元に戻して、岩場の陰から出てそのまま海に飛びこむ。

 大きな水飛沫が上がったけれど、僕の気持ちはちっとも収まらなかった。はあ、また巽のペースに乗せられてしまった……!

 追いかけてくる巽を見上げると、焦ったように眉根を寄せている。

「郁巳さん? 泳ぎは得意ではないとおっしゃっていましたよね、大丈夫ですか?」
「ちょっとくらいなら平気。ここは足もつくし」
「だとしても、岩場は足を切るリスクが高いです。身体の汚れを落としたいのであれば、ビーチのシャワー室まで戻りましょう」

 それもそうかと、差し出された巽の手を素直に取って海から上がった。ホッとしたように薄い笑みを唇に乗せた巽を、意外だなあと見上げる。

(僕のちょっとした行動で、慌てたり安心したり忙しいヤツだ)

 いつだって余裕のある紳士に見えるのに、僕のすることにアタフタしているなんて、まるで……

「まったく、貴方といると退屈しませんね。まるで十代の頃に戻ったかのように、些細なことで一喜一憂してしまう」

 巽が自嘲するように告げた一言に、僕は目を見張った。考えていることがまるきり一緒だったからだ。

 恥じるように背を向けて歩き出す巽を追いかける。

「なあ、それって嫌じゃないか? 自分のペースを乱されて、知らないところに連れていかれるような怖さがあるっていうかさ」

 岩場の飛び石の手前で手を差し出してくれた巽は、僕の手を取ってクスリと悪戯っぽく笑った。

「そうですね、怖いです。けれどそれ以上に楽しみでもあります」
「楽しみ?」
「ええ。この怖さを乗り越えた先に、きっと素晴らしい未来が待っているのだろうと思うとね。楽しみでなりませんよ」

 繋がれた手をしばらくそのままにしながら、僕は彼の言葉の意味を考えこんでいた。
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