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ううう、嬉しいよう!
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視線の先には公園で遊ぶ親子連れがいて、両親が仲良く寄り添っている。
「恋だの愛だの、くだらないって思っていたんだ。親父があんなに落ちぶれたのは、母さんが亡くなってからだった。人を愛する気持ちは心を弱くする、そう思っていた」
遠海は真っすぐに祐希を見つめる。強い視線に、ドキリと心臓が高鳴った。
「でも、そうじゃないんだな。アンタを見ていて思ったよ。人を愛する気持ちは、何倍にも力を引き出してくれるんだ」
「そうだね。俺は遠海くんと出会ってから毎日に張り合いが出たし、苦しい時も遠海くんがきっと待っていてくれるから頑張ろうって、そう思えるんだ」
「そうか」
突然、遠海の指先が祐希の手に触れた。手汗をかいていないだろうかと猛烈に気になりながらも、初めての遠海からの身体接触に感動して身動きがとれない。
「いつまでも待たせて悪かったな」
「え、それはどういう……」
木陰の下まで手を引かれるままついていくと、遠海は軽く屈んで祐希の口を塞いだ。すぐ目の前に遠海の麗しい顔がある。
やっぱりまつ毛が長いなあなんて、ボヤける視界の中で現実から乖離した思考が流れていく。
触れあうだけのキスをして、遠海の顔は離れていった。
これは現実なのかと一瞬疑ったけれど、目の前にいる遠海からは息遣いを感じられて、繋いだままの手は熱くて汗ばんでいる。
間違いなく本当に起きたことだと理解した祐希は、夕日にも負けないくらいにぼぼぼっと頬に熱を昇らせた。
「と、ととっ、遠海くん……!」
「久遠って呼べよ、祐希」
「ひええカッコいいが過ぎる」
「この程度で驚いてんなよ、俺はもっとすごいことがしたいのに」
「すごいことぉ⁉︎」
「バカ、叫ぶな。周りに聞こえるだろ」
遠海はクシャッと祐希の頭を撫でると、照れ笑いをしながら祐希から更に一歩離れた。
「残念だけどそろそろ時間切れだ。バイトが終わったら電話するから、ちゃんと出ろよ」
「あ、またね……!」
遠海はサッと片手を上げるとカバンを担ぎなおし、足早に駆けていった。信じられない思いで唇を触ると、わずかにしっとりとしていた。
「うわー……っ!」
祐希はその場でしゃがみ込んで、木に手のひらを強く押し当てる。
(遠海くんが俺に、キスを……! それに、祐希って呼んでくれたし、久遠って呼べだって。もうそんなの)
愛の告白でしかないじゃないか。改めて思い至った祐希は、服が汚れるのも構わずに地面の上をゴロゴロと転げ回った。
「ママー見て、変なお兄ちゃんがいる」
「しっ、見ちゃいけませんよ」
「青春だなあ、そっとしておいてやろうな」
親子連れに注目されているのに気づいて、祐希はその場から走り去った。
その夜、散々ミスをしまくりながらもなんとかバイトを終えた祐希は、ベッドの上で正座待機をして、今か今かと遠海の電話を待っていた。
予想したよりも早くかかってきた電話で、改めて恋人になってくれるのかと問うと、若干上擦った声が返ってくる。
「そう言ったつもりだったんだが……ああ、肝心なことを伝えていなかったな。好きだ、祐希。俺の恋人になってくれないか」
「ひ……ふぇ、はいぃ……っひくっ!」
「な、泣いてるのか?」
「うっ、うわあああん!」
滅多なことでは諦めずへこたれず、泣かない祐希だが、この時ばかりは盛大に泣いた。
通話口でしゃくりあげる祐希の声はずいぶんと遠海を慌てさせたが、嬉し涙は長いこと止まらなかった。
「恋だの愛だの、くだらないって思っていたんだ。親父があんなに落ちぶれたのは、母さんが亡くなってからだった。人を愛する気持ちは心を弱くする、そう思っていた」
遠海は真っすぐに祐希を見つめる。強い視線に、ドキリと心臓が高鳴った。
「でも、そうじゃないんだな。アンタを見ていて思ったよ。人を愛する気持ちは、何倍にも力を引き出してくれるんだ」
「そうだね。俺は遠海くんと出会ってから毎日に張り合いが出たし、苦しい時も遠海くんがきっと待っていてくれるから頑張ろうって、そう思えるんだ」
「そうか」
突然、遠海の指先が祐希の手に触れた。手汗をかいていないだろうかと猛烈に気になりながらも、初めての遠海からの身体接触に感動して身動きがとれない。
「いつまでも待たせて悪かったな」
「え、それはどういう……」
木陰の下まで手を引かれるままついていくと、遠海は軽く屈んで祐希の口を塞いだ。すぐ目の前に遠海の麗しい顔がある。
やっぱりまつ毛が長いなあなんて、ボヤける視界の中で現実から乖離した思考が流れていく。
触れあうだけのキスをして、遠海の顔は離れていった。
これは現実なのかと一瞬疑ったけれど、目の前にいる遠海からは息遣いを感じられて、繋いだままの手は熱くて汗ばんでいる。
間違いなく本当に起きたことだと理解した祐希は、夕日にも負けないくらいにぼぼぼっと頬に熱を昇らせた。
「と、ととっ、遠海くん……!」
「久遠って呼べよ、祐希」
「ひええカッコいいが過ぎる」
「この程度で驚いてんなよ、俺はもっとすごいことがしたいのに」
「すごいことぉ⁉︎」
「バカ、叫ぶな。周りに聞こえるだろ」
遠海はクシャッと祐希の頭を撫でると、照れ笑いをしながら祐希から更に一歩離れた。
「残念だけどそろそろ時間切れだ。バイトが終わったら電話するから、ちゃんと出ろよ」
「あ、またね……!」
遠海はサッと片手を上げるとカバンを担ぎなおし、足早に駆けていった。信じられない思いで唇を触ると、わずかにしっとりとしていた。
「うわー……っ!」
祐希はその場でしゃがみ込んで、木に手のひらを強く押し当てる。
(遠海くんが俺に、キスを……! それに、祐希って呼んでくれたし、久遠って呼べだって。もうそんなの)
愛の告白でしかないじゃないか。改めて思い至った祐希は、服が汚れるのも構わずに地面の上をゴロゴロと転げ回った。
「ママー見て、変なお兄ちゃんがいる」
「しっ、見ちゃいけませんよ」
「青春だなあ、そっとしておいてやろうな」
親子連れに注目されているのに気づいて、祐希はその場から走り去った。
その夜、散々ミスをしまくりながらもなんとかバイトを終えた祐希は、ベッドの上で正座待機をして、今か今かと遠海の電話を待っていた。
予想したよりも早くかかってきた電話で、改めて恋人になってくれるのかと問うと、若干上擦った声が返ってくる。
「そう言ったつもりだったんだが……ああ、肝心なことを伝えていなかったな。好きだ、祐希。俺の恋人になってくれないか」
「ひ……ふぇ、はいぃ……っひくっ!」
「な、泣いてるのか?」
「うっ、うわあああん!」
滅多なことでは諦めずへこたれず、泣かない祐希だが、この時ばかりは盛大に泣いた。
通話口でしゃくりあげる祐希の声はずいぶんと遠海を慌てさせたが、嬉し涙は長いこと止まらなかった。
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