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俺たちの冒険はこれからだ!
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祐希は週六でシフトを入れていた夜間バイトを辞めた。
もはやサウジアラビアに行く意味はないし、夜のバイトはどうしても睡眠時間が足りなくなってしまう。
代わりに土日だけ飲食のアルバイトをして、来たるべき起業の日に備えた。空いた時間は学校の勉強とビジネスの勉強に充てて、遠海と作戦会議をして過ごす。
遠海は読書家なだけあって、起業の仕方やビジネス書、マーケティングの本まで一通り履修済みらしかった。高校生であっても起業して収入を得ることができるらしい。
「俺達の冒険はこれからだ!」
「冒険か、やってやろうじゃねえか」
吹っ切れた遠海は意外にもノリがよく、祐希が突拍子もない案を出すと鋭い切り口のツッコミで乗ってきてくれて、それもまた楽しかった。
夏休み前のテストは遠海との勉強会のおかげで見事高得点を取ることができて、両親はホッと肩の力を抜いた。
「よかったわ祐希。夜のバイトもやめてくれたことだし、石油王なんて馬鹿なことを言っていないで、これからは真面目に勉強してくれるのね」
「うん、石油王になるのはやめたんだ。代わりに、〇〇王と呼ばれるような立派な事業を起こすことにしたからね」
「なにっ⁉︎ 祐希、危ないことじゃないだろうな? 父さんにも話を聞かせてくれ」
やはり両親の説得は難航したが、石油王になるよりはよほど実現性がありそうなプランを根気よく説明すると、最後にはやるだけやってみなさいとゴーサインが出た。
祐希と遠海が手がけようと思っているのは、新しいアプリの開発だ。最近流行りのAIにアプリの基礎部分を作らせて、それをより使う人が求めるような形に落とし込んでいく。
祐希は夏休みの間、アラビア語の代わりにプログラミング言語を学んだ。図書館での作業中、隣には遠海がいて彼も本を読んで勉強している。
チラリと横に視線を向けると、そこに遠海がいる。もうそれだけで祐希は幸せで嬉しくて、気分は絶好調だった。
さりげなく盗み見たつもりなのに、彼は目ざとく祐希の視線に気づく。
「真山、また俺を見ていたのか」
「あ、バレた? だって遠海くん、かっこいいからさ。つい見たくなっちゃうんだ」
「お前の見た目は平凡だよな」
「えー、そうだけど。でも中身は根性あるよ」
「知ってる。それに見慣れると、案外悪くねえなって思う」
(悪くないって、どういう意味で言ったんだろう)
ちょっとでも好意的に思ってくれてるといいなと切に願う。クスッと笑った遠海は本を閉じて机の上に置くと、頬杖をついて祐希を流し見た。
「そんなに俺のかっこいい姿を見たいなら、来週あたり海でも行くか」
「海! 遠海くんの水着姿⁉︎ 見たい、見たすぎる!」
思わず欲望がアクセル全開な発言をしてしまうと、遠海は呆れたような視線を投げかけてきた。
「注目すべきはそこじゃないだろ……いや、お前にとってはそこなのか?」
「あ、わかった。遠海くんは泳ぐのが上手なんだね」
「まあな」
「ますます気になるー! ぜひ行こう、海!」
大興奮する祐希の鼻を、遠海はぎゅむっと摘んだ。
「騒ぎすぎだ。もう出よう」
図書館の外は夕暮れ時にもかかわらず、まだまだ茹だるような暑さが続いている。この後は遠海も祐希もバイトの予定だ。
まだ一緒にいたいなと切ない気分になりながら、物悲しい気分をより強めるひぐらしの声を、聞くとはなしに聞いていた。
「親父がさ、また働きはじめたんだ」
ポツリと、呟くようにして遠海が話しはじめる。静かに頷いて美しい顔を眺めた。
「母さんの遺品を取り上げられたのが堪えたみたいで、今度こそ心を入れ替えてギャンブルも辞めると言っていた」
「よかったね。親父さんが稼いでくれるなら、俺達も事業に集中できそうだ」
「どこまで信じられるかわからねえけどな」
遠海は自嘲するように告げると、遠くに視線を投げた。
もはやサウジアラビアに行く意味はないし、夜のバイトはどうしても睡眠時間が足りなくなってしまう。
代わりに土日だけ飲食のアルバイトをして、来たるべき起業の日に備えた。空いた時間は学校の勉強とビジネスの勉強に充てて、遠海と作戦会議をして過ごす。
遠海は読書家なだけあって、起業の仕方やビジネス書、マーケティングの本まで一通り履修済みらしかった。高校生であっても起業して収入を得ることができるらしい。
「俺達の冒険はこれからだ!」
「冒険か、やってやろうじゃねえか」
吹っ切れた遠海は意外にもノリがよく、祐希が突拍子もない案を出すと鋭い切り口のツッコミで乗ってきてくれて、それもまた楽しかった。
夏休み前のテストは遠海との勉強会のおかげで見事高得点を取ることができて、両親はホッと肩の力を抜いた。
「よかったわ祐希。夜のバイトもやめてくれたことだし、石油王なんて馬鹿なことを言っていないで、これからは真面目に勉強してくれるのね」
「うん、石油王になるのはやめたんだ。代わりに、〇〇王と呼ばれるような立派な事業を起こすことにしたからね」
「なにっ⁉︎ 祐希、危ないことじゃないだろうな? 父さんにも話を聞かせてくれ」
やはり両親の説得は難航したが、石油王になるよりはよほど実現性がありそうなプランを根気よく説明すると、最後にはやるだけやってみなさいとゴーサインが出た。
祐希と遠海が手がけようと思っているのは、新しいアプリの開発だ。最近流行りのAIにアプリの基礎部分を作らせて、それをより使う人が求めるような形に落とし込んでいく。
祐希は夏休みの間、アラビア語の代わりにプログラミング言語を学んだ。図書館での作業中、隣には遠海がいて彼も本を読んで勉強している。
チラリと横に視線を向けると、そこに遠海がいる。もうそれだけで祐希は幸せで嬉しくて、気分は絶好調だった。
さりげなく盗み見たつもりなのに、彼は目ざとく祐希の視線に気づく。
「真山、また俺を見ていたのか」
「あ、バレた? だって遠海くん、かっこいいからさ。つい見たくなっちゃうんだ」
「お前の見た目は平凡だよな」
「えー、そうだけど。でも中身は根性あるよ」
「知ってる。それに見慣れると、案外悪くねえなって思う」
(悪くないって、どういう意味で言ったんだろう)
ちょっとでも好意的に思ってくれてるといいなと切に願う。クスッと笑った遠海は本を閉じて机の上に置くと、頬杖をついて祐希を流し見た。
「そんなに俺のかっこいい姿を見たいなら、来週あたり海でも行くか」
「海! 遠海くんの水着姿⁉︎ 見たい、見たすぎる!」
思わず欲望がアクセル全開な発言をしてしまうと、遠海は呆れたような視線を投げかけてきた。
「注目すべきはそこじゃないだろ……いや、お前にとってはそこなのか?」
「あ、わかった。遠海くんは泳ぐのが上手なんだね」
「まあな」
「ますます気になるー! ぜひ行こう、海!」
大興奮する祐希の鼻を、遠海はぎゅむっと摘んだ。
「騒ぎすぎだ。もう出よう」
図書館の外は夕暮れ時にもかかわらず、まだまだ茹だるような暑さが続いている。この後は遠海も祐希もバイトの予定だ。
まだ一緒にいたいなと切ない気分になりながら、物悲しい気分をより強めるひぐらしの声を、聞くとはなしに聞いていた。
「親父がさ、また働きはじめたんだ」
ポツリと、呟くようにして遠海が話しはじめる。静かに頷いて美しい顔を眺めた。
「母さんの遺品を取り上げられたのが堪えたみたいで、今度こそ心を入れ替えてギャンブルも辞めると言っていた」
「よかったね。親父さんが稼いでくれるなら、俺達も事業に集中できそうだ」
「どこまで信じられるかわからねえけどな」
遠海は自嘲するように告げると、遠くに視線を投げた。
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