石油王になったら、君は振り向いてくれるのかな

兎騎かなで

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保健室での真相語り

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 ぼんやりと目を開くと、白い天井とカーテンレールが目に飛び込んでくる。どうやらここは保健室のようだ。

 シーツに手をつき起き上がりながら辺りを見渡すと、信じられない人物がベッド脇に腰掛けて本を読んでいた。

「と、遠海くん!」
「起きたか」

 パタリと本を閉じた彼は、不機嫌そうに祐希の顔をのぞきこんできた。寝癖がついているかもと、両手で髪を押さえる。

 どうしよう、顔に熱が昇って下がらない。

「保健室の先生が、過労だと言っていた」
「あ……そうなんだ」

 予想通りだけれど、まさか倒れるほど具合が悪い自覚はなかったため間抜けな声が出た。

 遠海は呑気な祐希の様子を見て、ますます怪訝そうに目を細める。

「お前、なんでそこまで頑張るんだよ」
「だって、遠海くんのことが好きだから!」

 彼のための行いを誰に反対されようと、これだけはどうしても変えられない。

 遠海に出会ったことで、祐希は世の中には一目惚れという現象が本当にあると知った。

 好きな人のためなら、どんなに大変で困難なことでも、がんばりたくなるということも。

「俺のどこを見てそんなに好きになったって言うんだ。何も知らないくせに」
「そう、だけど……でもだからこそ、知りたいんだよ。少しでも遠海くんに近づきたくてたまらないんだ」
「……くだらない。愛とか恋とか、浮かれてるんじゃねえよ」

 吐き捨てるように告げた遠海は、どこか傷ついているように見えた。もしかして、過去に恋愛関係で裏切られたことでもあるのだろうか。

 彼の痛みを和らげてあげたい。身を乗り出して宣言した。

「俺は必ず、サウジアラビアに行くから! 見てて遠海くん、俺の想いは本物だって証明するよ」

 遠海はそうじゃないとでも言いたげに、ため息をついた。

「なんでそんなにサウジアラビアにこだわるんだよ」
「だって、石油王になりたいから……」
「石油の埋蔵量世界一はベネズエラだろ」
「なっ! 俺はスペイン語を勉強するべきだったのか!」
「じゃなくて」

 突然顎を掴まれて、真正面から視線を合わせられた。待って近いすごい綺麗と慄いていると、彼は低い声で告げる。

「アンタが知るべきなのは、俺のことだろ? さっき知りたいって言ったのは嘘だったのか?」
「やばい嬉しすぎて死ぬ顎クイはきゅんがすぎる……っ知りたいですー!」

 顔を真っ赤にしながら小声で叫ぶと、遠海は祐希の顎を解放した。

「お前の熱意に免じて特別に教えてやる。これを知っても同じような態度をとれるかどうか、見ものだな」

 遠海は腕を組みながら、フッと口の端を吊り上げて笑った。

(初めて笑ったところが見れた、感動……!)

 皮肉げな笑いも尊いと内心拝みながら、彼の言葉に全力で耳を傾ける。しばしためらった後、遠海は口を開いた。

「……俺の親はどうしようもないクズで、稼いだ金を全てギャンブルにつぎ込むようなヤツなんだが」

 のっけから重いと驚きつつも、話の邪魔をしないように呼吸すら潜めた。

「最近、ついに借金までするようになっちまった。消費者金融から手当たり次第に借りていたみたいで、利息が膨らんで五百万円の負債となっていた」
「わあ……」
「引いたか? どうだ、俺と関わるのが嫌になってきただろう」

 借金をしたのは遠海の親であり遠海自身ではないし、その程度で好きの気持ちが揺らぐことはない。

「別にならないよ。困ってるなら、俺が稼いだ金は遠海くんにあげる!」

 思っていた反応と違ったのか、遠海は面食らった。一瞬ポカンと口を開いた後、誤魔化すように咳払いをする。

「そんなことをされても嬉しくない。それに借金を返す必要もないんだ。つい先日、親父に自己破産の手続きを取らせたからな」

 なんでも自己破産をすることで、借金を返済しなくてもよくなるらしい。そのかわり日常生活を送る上で必要最低限の荷物だけしか持てない。

(遠海くんも、大事な物を捨てる羽目になったんじゃないかな)

 心配でハラハラと気を揉んでいたが、遠海は強気な口調で父親を罵っていた。

「親父は母親との思い出の品を最後まで惜しんでいたが、自業自得だ。アイツもこれで少しは反省すればいい」
「遠海くんの家、大変そうだね」

 そんな状況なら確かに、恋愛する暇がないというのも頷ける。
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