石油王になったら、君は振り向いてくれるのかな

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
6 / 10

くっ、こんなところで……っ

しおりを挟む
 強い眼差しで見つめ返すと、先生が戸惑ったような声を出した。

「どうしても石油王になりたいのかね」
「石油王なんて無理よ、考え直しなさい」
「嫌だ! 俺は絶対に油田を掘り当ててみせる!」

 残念ながら理解してもらえなかったが、祐希は意見を曲げなかった。

 面談は長時間行われたけれど、祐希は一度として無理だとかやめるなどと言わずに、頑なに石油王になりたいと主張した。

(ここで諦めたら遠海くんに失望されて、二度と興味を持ってもらえない気がする。そんなのは嫌なんだ!)

 祐希は本気で石油王になろうと思っていて、諦める気だってさらさらない。

 けれど心のどこかで、石油王になんて薄々なれないのではないかという予感もあった。

 遠海の残したロックフェラーの本を読んで、石油王はあの時代だからこそなれたのだろうとも感じた。

 だからといって、二人に反対されたからと意見を曲げる気はない。祐希が遠海に抱く気持ちは、人に言われて変わるような軽いものじゃないのだ。

 三者面談は意見が割れたまま終わった。困ったように笑う先生と別れて、疲れた顔をした母の後をついていく。

 廊下を歩いている時に、会いたいと願っていた人物とすれ違う。遠海はチラリと祐希を見下ろすと、そのまま声もかけずに教室の方向へと去っていった。

(どうしたんだろう、こんな時間に。忘れ物でも取りに来たのかな。まさか俺のことを心配して……なーんて、あるわけないよね)

 もしもそうだとしたら飛び上がるほど嬉しいんだけどなと夢想する。学校を出るなり始まった母の小言を右から左へと聞き流した。




 祐希はスケジュールを組み立てながら唸っていた。どうやりくりしても時間が足りない……

 週六のバイトとサウジアラビア関係の勉強、更に学校の勉強をこなすとなると、もっと睡眠時間を削る他なかった。

 学校に通わないという選択肢はハナからない。遠海に会えなくなってしまうからだ。

 また失言を繰り返してしまいそうで、祐希からは話しかけられない。頬杖をついて少し丸まった背中を見つめるだけだけだ。それだけでも頑張る気力が湧いてきた。

(バイト資金を八月になるまで貯めて、サウジアラビアに行くんだ。夏休みの間に勝負をかける)

 幸い手元には三年前に取ったパスポートがある。親に反対されようと、止まる気なんて全くない。祐希は睡眠時間を削ってバイトと勉強に勤しんだ。

「……山、真山! おい、起きろ」
「ふぁ⁉︎」
「ちゃんと聞いてろよ、ここテスト範囲だからな」

 どうやら授業中に寝てしまっていたみたいだ。午後イチの国語の授業はまるで子守唄のようだと頭を描いて、必死でノートを取った。

 どうにも頭がふわふわして、文字が霞んで見える。

 授業が終わるなり席までやってきた翔太は、祐希の目の前でひらひらと手を振った。

「おーい、大丈夫か? うっわ、目の下の隈ヤバいな」
「そんなに目立つ?」
「ああ、真っ黒だ。最近つきあいも悪いし、本当にどうしたんだよ」
「ごめん、バイトが忙しくてさ。勉強にも手が抜けないし」
「バイトの時間減らせば?」

 それはできない、夏休みにサウジアラビアに出発するための資金が足りなくなってしまう。親からは反対されているから、金を借りられそうにもない。

 祐希は首を振ってノートをまとめはじめた。ため息をついた翔太は席を離れていく。

(ごめん翔太、それでもこればっかりは譲れないんだ)

 次は移動教室だと立ち上がる。急にめまいがして立っていられなくなり、目の前が急速に暗くなっていく。

 きゃあ、と隣にいた女子の悲鳴が聞こえる。誰かが支えてくれたような気がしたけれど、確かめる前に意識は閉ざされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

攻められない攻めと、受けたい受けの話

雨宮里玖
BL
恋人になったばかりの高月とのデート中に、高月の高校時代の友人である唯香に遭遇する。唯香は遠慮なく二人のデートを邪魔して高月にやたらと甘えるので、宮咲はヤキモキして——。 高月(19)大学一年生。宮咲の恋人。 宮咲(18)大学一年生。高月の恋人。 唯香(19)高月の友人。性格悪。 智江(18)高月、唯香の友人。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

処理中です...