石油王になったら、君は振り向いてくれるのかな

兎騎かなで

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一匹狼な彼を追いかけて

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 あっという間に入学式初日の連絡事項は終了し、席を立つ生徒達の中、遠海も億劫そうに立ち上がった。

「遠海くぅん」
「あ、待って! 私……」

 積極的な女子が声をかけるが、彼は目もくれずにカバンを肩に担いで去ってしまった。一連の様子を見守るだけだった祐希の肩を、翔太がポンと叩く。

「どうしたんだよ、行こうぜ」
「ああ、うん」

 翔太と漫画の話で盛り上がりながらも、心はずっとそわそわしていた。一度も笑うことのなかった彼の横顔が脳裏にチラついてしょうがない。

(もっと彼のことが知りたいな)

 主人公が壮絶なバトルを繰り広げてついに石油王になるまでを、延々と語り続ける翔太の声を話半分に聞きながら、同じクラスにいるうちに友達ぐらいにはなれるといいなと願った。

 けれどその願いは、贅沢すぎるのかもしれない。日が経つ毎にその思いは大きくなっていった。

 なぜかというと、遠海は誰とも関わるつもりがないようで、休み時間は一人で本を読んでいるし、昼休みも放課後もさっさと教室から姿を消してしまうのだ。

 極めつけに、話しかけてくる者への態度の冷たさったら、見ていられないほどだった。最初の一週間は積極的な女子が数人、彼に話しかけに行っていたのだが。

「うざい。話しかけるな」

 何を言われてもピシャリとそう言ってシャットアウトするものだから、女子達は「何あいつ、サイテー」と次第に相手をしなくなった。

 孤高の彼は入学から半月経った今日も放課後になると一人で席を立ち、どこかへと消えてしまった。後ろ姿を目で追いかけていると、翔太が声をかけてくる。

「よ。帰ろうぜ……まーた見てんの? そんなにアイツが気になるのか?」

 翔太にはとっくに遠海に興味があることを気づかれていた。恋心を抱いているとまでは打ち明けていないが、並々ならぬ好意を抱いていることはバレバレだろう。

「うん、すごく」
「そんなに気になるなら、直接声かけてみれば? 女子にはキツイ態度とってるから女嫌いなんだなーとは思うけど、男子とは必要最低限は話してたりするじゃん」

 確かに、プリントの提出などやむおえず話さなければならない時、遠海は必ず男子の係の人に声をかけている。女嫌いという線はありえるかもしれない。

「この時間はよく図書室にいるらしいって噂で聞いたぜ。会いにいってみれば」
「そうだね、行ってみようかな」
「そうしろよ。最近のお前、いくら石油王無双の話振っても乗ってこねえし、つまんないんだもん。さっさと気になることを片づけてこいって」

 背中を押されて、祐希は図書室に出向く勇気を固めた。

 図書室に来るのは初めてだ。しんと静まり返った室内には人の気配もほとんどない。緊張しながら足を進めると、窓際で一人本を読む遠海の姿が目に飛びこんできた。

(わあ……綺麗だなあ)

 窓越しに柔らかな光が室内に差し込んで、まるで遠海を祝福するかのように照らしている。

 俯く彼の長いまつ毛の影が頬にかかる様は、まるで一枚の絵画のように美しい光景だった。突っ立ったまま見惚れていると、彼は無表情で祐希を振り向く。

「お前、最近俺のことをよく見てるヤツだな。何か用か」
「ひあ⁉︎ あ、そのっ、ええっと」

 話しかけられた! しかも認知されていた! どうしよう、無視されるものだとすっかり思いこんでいたものだから、とっさに頭が回らない。

(用事、用件、伝えたいこと……)

 遠海に伝えたいことなんて、一つしかない。祐希は頭の中に浮かんだ言葉をそのまま彼に言った。

「好きです! 付き合ってください!」

 場に沈黙が満ちる。祐希の突然の大声に目を見開いた遠海は、眉間の皺を思いきり深めた。

「断る」

 (だよねー! やっちゃったよ! 何をやってるんだ俺は!)
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