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34 借りたものは返す主義です
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グオオオォ……と低く響く欠伸を終えて、俺達を見つめるダークレイ。大きな尻尾がひとつ動いた。
「なんだ、詫びでも入れにきたのか?」
「そうなんだ。カリオスを暴走させちゃったのは俺のせいだから……悪かった」
「フン。たいそうしつこい男であった。仕方なく我が折れてやったのだ、負けたわけではないからな?」
「わかってるって」
ドシンドシンと尻尾を床に打ちつけて不機嫌さを表すダークレイ。そこですかさずニギリ草のフルコースを目の前に並べてみた。ドドンと並べられた大量のご馳走に、ピタリと尻尾の動きが止まる。
「ほう、これは?」
「迷惑かけたみたいだから、そのお詫び。たっくさん作ったから、遠慮なく食べてくれよ」
ドラゴンサイズでも満腹になるまで食べられるようにと思って、井戸サイズ口径の大鍋五つ分もの料理を用意してみた。
ダークレイはフンフンと鼻をならすと、上機嫌でそれを受け取った。
「これしきの詫びで気はおさまらんが、食べ物に罪はないからな。これは我が受け取ることにしよう」
「美味しかったらまた作るよ。ほら、回数券をつけとくな」
「こちらもご査収ください」
カリオスが私財の代わりとして持ち歩いていた宝石も、袋から出して並べる。ダークレイはそれも尻尾をぶんぶん振りながら受けとった。
「ふむ。我も意地を張って悪かったな。これで手落ちとするとしよう」
「ありがとうございます」
「また遊びにこいよ、いつでも歓迎するからさー」
「よいぞ。気が向いたらな」
心尽くしの品に満足したダークレイに、ご近所お詫び用のクッキーを渡して帰路に着いた。
「レーシア王国にはなにかした方がいいかなー?」
「別にいいですよ、もう追い出された国ですし。下手に顔を出す方が混乱を招くことでしょう」
「んー、まあそうか」
「ああ、でも一つだけ心残りがありますね」
「なに?」
「ツカサと僕の分の衣装を作ったでしょう。あれの受け取りがまだです」
「そっか。ならそれだけパパッと受け取りに行っちゃう? 黒髪に変装していけば大丈夫だろ、あの時もカリオスとはバレなかったし」
ということで、またカリオスの髪の色を黒に変えて、衣装店に服を受け取りに行った。
春になり、ますます人通りの増えた商店街を歩く。
勇者カリオスだとバレやしないか内心ドキドキしたが、やはり黒髪だとパッと見た時の雰囲気が変わるのか、見咎められることはなかった。
注文してから三ヶ月ほど経っていたが、衣装は問題なく受け取ることができた。
「無事に受け取れましたね」
「なあなあ、これそもそもなんで注文したんだ?」
「もちろん、ツカサを着飾ってみたいからですが」
さも当たり前みたいな顔をしてそんなことを言うカリオス。おいおい、本当にそれだけの理由で衣装をフルオーダーしたのか? 金の使い方が間違ってるぞ。
「えー、もったいない」
「なにももったいないことなどありませんよ。僕にとっては貴方を着飾れるということ、それだけで大金をかける価値があります……あわよくば、勇者としてパーティーなどに呼ばれた際に、パートナーとして出席してほしいとの思いもありましたが」
「ほら、やっぱり別の目的もあるじゃん」
「そちらはあくまでついでの理由です」
店を後にしながら二人で話をしていると、紺色のドレスを着た貴婦人がこちらに歩み寄ってきた。
「あの、もし……貴方、もしかして」
ほとんど金に近い茶色の髪と、若草色の瞳のご婦人はカリオスの顔を見るなり、アッと声を出しそうになったが、すかさず口元を手で覆った。
彼女は周りをキョロキョロ見渡してから、小声で問いかけた。
「……カリオス兄様?」
「人違いです」
カリオスがこちらを振り向き、俺の耳元へ飛んでくださいと囁いてくる。
「待って! 待たないと兄様がお尻をハチに刺されて真っ赤に腫れあがって、痛くてしばらく椅子に座れなくなった話をするわよ。それなのにやせ我慢して座って、お尻の皮が剥けてぴえんぴえん泣いた話を」
そりゃ大変だ。その後どうなったのか聞いてみたいな、カリオスの妹さんよ。
「もう話してるじゃないですか。ツカサ、耳を貸さないで。一刻も早く帰りましょう」
「他にも面白いエピソードあんの?」
「ツカサ!?」
まさか話に乗るとは思っていなかったのだろう、カリオスはびっくり仰天している。
いやだってお前さんさ、家族との縁が切れようが切れまいがどうでもいいみたいに思ってたみたいだけど、向こうさんはそうじゃなさそうだからさ?
やっぱり俺としては、死なれた後にもっと関わっておけばってなるのが嫌なわけ。そんな人間ごまんと見てきたから、カリオスには同じ思いをしてほしくないよなー。
と、いうことだから。大人しく話を聞いておこうぜ?
ご婦人がにっこりと笑う。大人っぽい服装と髪型に惑わされるが、そうして笑うと年相応に幼い印象だ。おそらく十台後半か、二十代になったばかりの年なんじゃないかな。
「貴方、話がわかる方のようね。ぜひ協力してほしいわ。お兄様の幼い頃のおもしろーいお話も教えてあげる」
「やったね。楽しみだ。ささ、カリオスも行くぞ」
「嫌です」
「こんな話もあるわ。お兄様が馬の肥溜めに魚を……」
「シャーリー、本当に話したいのはもっと別のことだろう? 大人しく聞くからその話を口にするのはやめなさい」
「あら、そう? ではこの話はまた今度ね」
クスッとイタズラっぽく笑うシャーリー。なかなか強かな性格をしているようだ。
シャーリーは護衛を引き連れながら、こっちと手招きする。俺とカリオスは顔を見合わせて苦笑すると、大人しく着いていった。
「なんだ、詫びでも入れにきたのか?」
「そうなんだ。カリオスを暴走させちゃったのは俺のせいだから……悪かった」
「フン。たいそうしつこい男であった。仕方なく我が折れてやったのだ、負けたわけではないからな?」
「わかってるって」
ドシンドシンと尻尾を床に打ちつけて不機嫌さを表すダークレイ。そこですかさずニギリ草のフルコースを目の前に並べてみた。ドドンと並べられた大量のご馳走に、ピタリと尻尾の動きが止まる。
「ほう、これは?」
「迷惑かけたみたいだから、そのお詫び。たっくさん作ったから、遠慮なく食べてくれよ」
ドラゴンサイズでも満腹になるまで食べられるようにと思って、井戸サイズ口径の大鍋五つ分もの料理を用意してみた。
ダークレイはフンフンと鼻をならすと、上機嫌でそれを受け取った。
「これしきの詫びで気はおさまらんが、食べ物に罪はないからな。これは我が受け取ることにしよう」
「美味しかったらまた作るよ。ほら、回数券をつけとくな」
「こちらもご査収ください」
カリオスが私財の代わりとして持ち歩いていた宝石も、袋から出して並べる。ダークレイはそれも尻尾をぶんぶん振りながら受けとった。
「ふむ。我も意地を張って悪かったな。これで手落ちとするとしよう」
「ありがとうございます」
「また遊びにこいよ、いつでも歓迎するからさー」
「よいぞ。気が向いたらな」
心尽くしの品に満足したダークレイに、ご近所お詫び用のクッキーを渡して帰路に着いた。
「レーシア王国にはなにかした方がいいかなー?」
「別にいいですよ、もう追い出された国ですし。下手に顔を出す方が混乱を招くことでしょう」
「んー、まあそうか」
「ああ、でも一つだけ心残りがありますね」
「なに?」
「ツカサと僕の分の衣装を作ったでしょう。あれの受け取りがまだです」
「そっか。ならそれだけパパッと受け取りに行っちゃう? 黒髪に変装していけば大丈夫だろ、あの時もカリオスとはバレなかったし」
ということで、またカリオスの髪の色を黒に変えて、衣装店に服を受け取りに行った。
春になり、ますます人通りの増えた商店街を歩く。
勇者カリオスだとバレやしないか内心ドキドキしたが、やはり黒髪だとパッと見た時の雰囲気が変わるのか、見咎められることはなかった。
注文してから三ヶ月ほど経っていたが、衣装は問題なく受け取ることができた。
「無事に受け取れましたね」
「なあなあ、これそもそもなんで注文したんだ?」
「もちろん、ツカサを着飾ってみたいからですが」
さも当たり前みたいな顔をしてそんなことを言うカリオス。おいおい、本当にそれだけの理由で衣装をフルオーダーしたのか? 金の使い方が間違ってるぞ。
「えー、もったいない」
「なにももったいないことなどありませんよ。僕にとっては貴方を着飾れるということ、それだけで大金をかける価値があります……あわよくば、勇者としてパーティーなどに呼ばれた際に、パートナーとして出席してほしいとの思いもありましたが」
「ほら、やっぱり別の目的もあるじゃん」
「そちらはあくまでついでの理由です」
店を後にしながら二人で話をしていると、紺色のドレスを着た貴婦人がこちらに歩み寄ってきた。
「あの、もし……貴方、もしかして」
ほとんど金に近い茶色の髪と、若草色の瞳のご婦人はカリオスの顔を見るなり、アッと声を出しそうになったが、すかさず口元を手で覆った。
彼女は周りをキョロキョロ見渡してから、小声で問いかけた。
「……カリオス兄様?」
「人違いです」
カリオスがこちらを振り向き、俺の耳元へ飛んでくださいと囁いてくる。
「待って! 待たないと兄様がお尻をハチに刺されて真っ赤に腫れあがって、痛くてしばらく椅子に座れなくなった話をするわよ。それなのにやせ我慢して座って、お尻の皮が剥けてぴえんぴえん泣いた話を」
そりゃ大変だ。その後どうなったのか聞いてみたいな、カリオスの妹さんよ。
「もう話してるじゃないですか。ツカサ、耳を貸さないで。一刻も早く帰りましょう」
「他にも面白いエピソードあんの?」
「ツカサ!?」
まさか話に乗るとは思っていなかったのだろう、カリオスはびっくり仰天している。
いやだってお前さんさ、家族との縁が切れようが切れまいがどうでもいいみたいに思ってたみたいだけど、向こうさんはそうじゃなさそうだからさ?
やっぱり俺としては、死なれた後にもっと関わっておけばってなるのが嫌なわけ。そんな人間ごまんと見てきたから、カリオスには同じ思いをしてほしくないよなー。
と、いうことだから。大人しく話を聞いておこうぜ?
ご婦人がにっこりと笑う。大人っぽい服装と髪型に惑わされるが、そうして笑うと年相応に幼い印象だ。おそらく十台後半か、二十代になったばかりの年なんじゃないかな。
「貴方、話がわかる方のようね。ぜひ協力してほしいわ。お兄様の幼い頃のおもしろーいお話も教えてあげる」
「やったね。楽しみだ。ささ、カリオスも行くぞ」
「嫌です」
「こんな話もあるわ。お兄様が馬の肥溜めに魚を……」
「シャーリー、本当に話したいのはもっと別のことだろう? 大人しく聞くからその話を口にするのはやめなさい」
「あら、そう? ではこの話はまた今度ね」
クスッとイタズラっぽく笑うシャーリー。なかなか強かな性格をしているようだ。
シャーリーは護衛を引き連れながら、こっちと手招きする。俺とカリオスは顔を見合わせて苦笑すると、大人しく着いていった。
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