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17 お帰りください

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 カリオスとは当分会えないな、あんなマネをしてどんな顔して会えと……そう思っていた時期が俺にもありました。

 ヤツの行動力は俺の想像以上にすごかった。ぐいぐいくる。

 ……気持ちの上では気まずくても、別にカリオスと今後ずっと会いたくないわけじゃないからさ、普通にリビングとかで出くわすわけよ。

 そしたら、さりげなく避けようとする俺を腕の中に抱きとめながら、濃厚なキスをされたりしちゃうんだな、これが。

 この前もソファーの上で抜きあいっこがはじまってしまい、明るい中で扱きあうのは刺激的すぎて目に毒だった。

 俺もさあ、強く拒否でもできればやめてくれそうなもんだが、困ったことにカリオスに触られるのは嫌じゃない。それどころかとても気持ちいい。あー困った。

 ずるずると流されてはいるものの、尻穴の純潔は守りぬいている。まだ尻を差し出せるほど覚悟が決まっていない……そもそも自分の気持ちもわかっていないし。

 好きと言えるか怪しいのに体ばっかり気持ちよくされちゃって……最近は翻弄されっぱなしだ。
 
 今日も昼食後にリビングでくつろいでいたら、ひょいと簡単に抱き上げられそうになって足をジタバタして抗議する。

「待てって、待ってカリオス。俺は今食べた物を消化している最中なの」
「では膝の上に乗せて撫でるだけにしましょうか」
「変な気持ちになるからダメ」
「どこがどう変になるんですか? 貴方のことならなんでも知りたい、教えてくださいツカサ」

 好奇心からか、それとも悪戯心からかキラキラと瞳が輝いている。すんげー楽しそうだな!?

 カリオスの剣だこのある手が、俺の肩から腰までをゆっくりと撫で下ろす。直接的な性感帯を触られたわけでもないのに、俺の心はざわついてカリオスの手の動きを逐一気にしてしまう。

「……っ」

 腰から脇腹へと、今度は胸の方に登ってきた手をむんずと掴んで引き剥がす。

「だ、だからダメだってば」
「む、強情ですね」

 俺だっていつもいつも流されてばかりじゃいられないんだ! 今日は断固拒否! する!!

「カリオスに触られると、体がなんかうずうずするし落ち着かないし、胸が切なくなるからダメだ」
「それは遠回しに触ってほしいというお誘いですか?」
「なんでそうなる!? 違うって、とにかく下ろして」

 カリオスは観念したように腕を下ろした。俺は素早く彼の膝の上から脱出する。

「ふう……」
「あと一押しというところでしょうか」
「ん? なんか言った?」
「いえ、なにも」

 やけににこやかな笑顔で俺を煙に巻くカリオス。よくわからんが、断られたのに機嫌がよさそうで不気味だな?

「ん?」

 領域内の少し奥の方に、人間が入った気配を感知した。
 時々人間が来ることはあっても、自動で道に迷わせお帰りいただけるよう、全自動迷子システムを搭載しているので、大体の人間は惑わされて帰るようになっているのだが。

 カリオスとか、それに次ぐ程度に能力がある人間であれば、このシステムをぶっちぎって奥へと侵入してくることがある。
 んー、誰だ? 見てみるか。

「どうしたんです? ツカサ」
「侵入者だ。カリオスも見たい?」
「見れるんですか? ぜひ」

 カリオスを連れて映画鑑賞部屋へと飛ぶと、スクリーンに森の情報を映しだす。黒髪の魔術師、赤髪の剣士、茶髪の弓師の三人が、何やら地図を見ながら話しあっている。

 茶髪の弓師が赤髪の剣士を見上げる。その表情はどことなく不安そうだ。

「本当にこの方向であってるんだよね?」
「迷いの森の深層はどうなっているかわからない、ここからは手探りだ」

 赤髪の剣士が固い表情で首を横に振るのを見た黒髪の魔法使いが、ローブのポケットに手を突っこみながら悪態をつく。

「あのボケ手間ァかけさせやがって、見つけたらただじゃすまさねぇ」
「やめときなジョルド、君前にケンカ売ってボコボコにされたの忘れたの?」
「ケッ」

 三人の姿を見て、カリオスは驚きの声を上げた。

「おや、彼らは」
「知り合いか?」
「知り合いと言われればそうですが、もう二度と関わり合いになりたくない赤の他人です」
「……ひょっとして、元旅仲間?」

 カリオスは苦々しい表情で頷いた。へー、なんで今頃になって、カリオスのことを追いかけてきたんだろうな?

 意図が知りたいので、もう少しの間彼らを森から追い出さずに見守ることにする。

 ジョルドと呼ばれた黒髪の魔術師は、シャクレた顎をさらに前へ突き出し不満そうにぼやいた。

「あの変態顔だけ冷血野郎め、とっとと高慢ちきな姫さまに手篭めにされてりゃ、俺様達がこうも骨を折るこたなかったのによ、クソ」
「カリオス君にはどうしても会いたい人がいるみたいだったからね、仕方がないよ。僕だってラウルと離れ離れになったら、一目散に駆けつけるもん」
「俺も同じことをするだろう、リヨーテ」
「ケッ、爆ぜろ」

 剣士と弓師が二人だけの世界を作っている中、魔術師はリア充を呪った。

 その後も聞くに耐えない耳障りな文句を延々と垂れ流すジョルドから視線を外し、しばし考える。

 んーと、つまりなんだ? カリオスを連れ戻して、姫さまとやらの元に連れていきたいんだな、こいつらは。
 ろくでもなさそうだから問答無用で追いだしちゃってよさそうだけど、一応カリオスの知人らしいからお伺いをたてておくか。

「姫さまに呼ばれてるらしいけど」
「お断りします」

 即答だった。にべもない。

「ああ、そう……じゃ、こいつらにもお引き取り願っちゃっていいかな?」
「ぜひお願いします」

 力強く言いきられたので、遠慮なく森の外に飛ばしておく。ついでに迷子システムから防衛システムに切り替えておく。これで入ってこれんだろ。

 でもなー、防衛システムにしておくと一々森に接触されるだけで認識しちゃうからうざったいんだよなあ……アラーム切ってもいいけど、万が一億が一突破された時に後片づけが面倒だ。いっそのこと少しの間城をあけるか。

 外でいろいろ観光とかして気を逸らしてれば、チクチクされてもそんなに気にならなさそう。

「よし、旅行に行こう」
「いきなり何を言いだすんですか」
「カリオスも行く?」
「貴方が行くならどこまでもお供します」

 こうして急遽、旅行に行くことになった。
 最近の世界情勢とか技術革新とかついでに見ておくのも楽しそうだし、城にいてもカリオスに襲われてたじたじになるだけだし、ちょうどいいだろう。

 我ながら素晴らしいアイディアじゃん。嬉々として鞄に荷物を詰めこんで、そういや必要ないわと気づいて全部元の位置に戻した。
 俺ってば神様だから、食べ物は好きに出せるし、服とかテントとかは既に異空間に腐るほど収納してあるんだったわ。

 あ、でもこれだけは持っていきたいと、交換日記と日記帳を異空間に収納する。旅をしながら旅の連れと交換日記をするなんてシュールかもしれないが、できれば毎日続けたいんだ。

 遠足に浮かれる小学生みたいで恥ずかしいなと思いつつ、旅支度を整えたカリオスと森の外へ出発した。
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