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本戦

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 生きた心地がしない程だった大揺れは、だんだんと小さく弱くなっていく。やがて地面が静止すると、俺達は身を起こした。

「なんだったんだ、いったい」
「すんごい揺れだったっスよ! もう死んだかと思いました……っ!!」
「怖い……何が起こって……?」

 テオとレジオットは、顔を引きつらせて怯えている。俺は気合を入れるためにパンと頬を叩き、二人に視線を順繰りに当てた。

「呆けている暇はないよ、足を動かそう。早くここから脱出するんだ!」
「は、はい!」

 二人は足がもつれそうになりながらも、懸命についてきた。少し距離を稼いだ頃に、魔通話が光りはじめた。すぐに応答する。

「ヴァレリオ!? 大丈夫?」
「クイン、無事だったか! よかった、誰も怪我はしていないか?」

 ヴァレリオの声を耳で拾って、胸の中に安堵の気持ちが満ちる。

「みんな平気だよ! 君達は?」
「実は、問題が起こった。応援を頼んでもいいだろうか」
「なんだって!?」

 詳しく話を聞いたところによると、ヴァレリオ達は十分な数のポーションを持ってきていたが、敵が予想以上に手強く、すでに使い果たしてしまっていた。

 怪我をした仲間を庇いつつ先に進んでいた時、俺からの通話を受けて即座に道をひき返した。現在は五十階層にいるらしい。

 道が悪く、仲間が一人転落しそうになった。それをヴァレリオが庇った瞬間に、あの地震が起こったそうだ。

 その結果ヴァレリオは受け身をとれず、強かに腕を岩に打ちつけてしまったらしい。

「俺の腕骨は折れているようだ。この階層で俺と、もう一人の精鋭が戦えないとなると、帰還が難しいと判断した」
「俺達が向かうよ、そこで待っていて」
「いや、クインは帰ってくれ。そして応援を呼んできてほしい」
「はあ?」

 なにを寝ぼけたこと言ってるのかな、君は。

「はやく脱出しないと、ダンジョンが崩壊したり、閉じこめられたりするかもしれないんだよ!? 応援なんて呼んでいる時間はない!」
「それでもだ、貴方を危険な場所に呼びたくはない」
「わがまま言ってる場合じゃないから! 俺だって! 君が死ぬかもしれないのに、一人で安全な場所に逃げかえるなんて、絶対に嫌だ!!」

 テオとレジオットが、俺の叫び声に目を点にしているのを見て、ハッと我にかえる。こんなに大声を出したのなんて、いつぶりだろう。

 ダメだ、平常心を心がけないと。一度深呼吸をして気持ちを整えている間、ヴァレリオも思うところがあったのか、返答はなかった。

 深呼吸を終えると落ちついた声を心がけて、ヴァレリオに語りかける。

「君が止めても俺は行くよ。ヴァレリオに無事に帰ってきてほしいんだ。そのためなら危険でも降りる」

 俺はわざと茶化すようにして、笑い声を魔道話に吹きこんだ。余裕がある風に聞こえるように意識しながら、話を続ける。

「俺には心強い味方がいるって言ったでしょう? メンバーが二人足りなくなっても、この程度のダンジョンなら楽勝さ」
「クイン、強がらなくていい。俺は救助を待つ」
「まだそんな世迷い事を言ってるんだ? いいから君はそこで大人しく待っていることだね」
「クイン」

 通話が切られそうな気配を感じたのか、ヴァレリオが急くように俺の愛称を呼んだ。

「なに?」

 ヴァレリオは数秒ためらった後に、迷いの混じる声音で俺に問いかける。

「……いいのか? 君を頼っても」
「もちろん。最初からそう言ってるじゃないか。俺が助けにいくから、君達はそこで待っていてね」

 通話を切って、テオとレジオットの様子をうかがう。二人は緊張の面持ちで、俺の言葉を待っていた。

「二人とも、話を聞いていたかな? これからもう一度引きかえすことになる。悪いけど、俺についてきてほしい」
「いいっスよ!」

 テオは快諾してくれた。彼は犬耳をピンと尖らせながら、尻尾を振ってやる気をアピールする。

「ヴァレリオの旦那は、ボスにとってぜひとも助けたい相手なんっスね? それなら俺は協力しますよ!」
「僕も……行きます」

 レジオットも固い表情ながらも、ハッキリと自分の意見を告げた。ああ、俺は本当に、いい部下を持ったものだなあ。

「ありがとう、二人とも。さっさと救助をして、無事に地上に戻ろう」
「わかりました、ボス!」
「がんばります」

 テオは疲労が蓄積されているはずなのに、驚きの集中力を発揮して、巧みにモンスターの気配を探り罠もろとも避けた。

 どうしても進路を進む上で倒さなければいけない敵は、俺のレイピアとレジオットの魔法で退けた。

「レジオット、魔力残量はあとどのくらいあるかな」
「半分くらいでしょうか」

 最後まで魔力が保つだろうか……流石にテオと二人では、ボスが復活していたら倒せる気はしないなあ……

 俺の心配は杞憂に終わった。ボスは復活していなかったし、なんならモンスターの数も極端に少ない。

 拍子抜けするくらいに簡単に、四十九階層まで戻ってこれた。ヴァレリオが待つ五十階層まで、目と鼻の先だ。

 小休憩をとってから、五十階層へと降りていく。あれからダンジョンが揺れる気配はなく、不可解なほどに静かだ。

「モンスターも、ほとんどいないみたいっスね……」
「テオ、ヴァレリオの匂いは覚えているよね? どこにいるかわかる?」
「えっと……はい、こっちッス!」

 ダンジョンの異変の一種なのか、土埃も舞っておらず、先を見渡しながら安全に進むことができた。

 レジオットが目を凝らして、通路の先に広がる空間を指差した。

「クインシー様! あそこに誰かいます」
「あれは……ヴァレリオ!」

 右腕の袖口を血の色に染めた彼を見つけた瞬間、俺は駆けだした。
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