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対抗戦予選
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イツキは恥じらいながら、答えになっていないような返事をした。
「あー……その、まあ」
珍しくたじろいでいるイツキを、カイル君が片腕でさらうようにして抱き寄せた。
「イツキは俺のものだ」
「待てって、こんなところでくっつくな」
カイル君を押しのけようとするイツキ。しかしその顔には、恥ずかしいけれどカイル君が庇ってくれて嬉しいと、ハッキリ書いてある。わあ、辛い。
「あはは、二人の世界は二人きりの時に構築してね」
本当に、やめてくれないとそろそろ泣いちゃうよ? 俺の願いを聞き入れたのか、二人は少しだけ距離を空けて座り直した。
……最後にもう一回だけ、イツキの耳を触りたかったなあ。絶対に無理だってわかっているから、せめてもの思いで手を差しだした。
「はい、握手」
「え、なんでだ」
「二人がつきあった記念に、んー……俺からの祝福的な感じかな」
戸惑っているイツキを、テオが固唾をのんで見守っている。テオの様子を見て何を思ったのか、イツキは俺の手をとってくれた。
小さい手だった。滑らかな指は少年のようで、俺は壊れ物を扱うような気持ちで、そっとその手を握った。自然と笑みを浮かべてしまう。
「イツキ……幸せになってね」
「あ、ありがとな」
「もしカイル君に愛想をつかしたら、俺が懲らしめるからいつでも言って」
「おい豹野郎、誰が何をするって?」
カイル君が後ろから文句を言って、俺とイツキの手を外させた。
まったくもう、心が狭いんだから。そんなんで愛想つかされても知らないよ? と思ったが、イツキは満更でもなさそうだ。
これ以上二人の側にいたら、砂糖を吐いてしまいそうだ。吐くのは辛そうだしやりたくないので、こういう場合は逃げだすに限る。
「じゃあ、俺もちょっと休むよ。イツキ達も休んでくれ。テオは見張りをよろしくね」
「わかりました、ボス……!」
なぜか誇らしげな顔をしているテオが、感極まった声で呟いた。
「ご立派でしたよ……!」
イツキとカイル君が連れだって、奥の窪みに移動していくのを待ってから、小声で返事を返した。
もはや何も装えていない顔を見られたくなくて、目元を手で覆う。
「全然だよ……未練たらたらなんだ、みっともないなあ」
「そうは見えなかったですって。イツキの旦那を想って身を引くボスは、めちゃくちゃカッコよかったですよ!」
「そうかな? はは……」
なんとも言えない、胸にポッカリ穴が空いたような気持ちを抱えながらも、同時にスッキリと心が晴れたようにも感じた。
今は開いた傷口のように心が痛むけれど、きっと前を向いて歩いていける日がくると、希望が持てた。
*
青い鍵が見つからない。一日がかりで探しても見つからず、俺は再び焦燥感で胸がいっぱいになっていた。
今生き残っているチームはどのくらいいて、誰が鍵を手に入れているのか。切実に知りたい。
他チームにあえて接触し、情報を得るべきか……いや、リスクが高すぎる。俺のように、ライバルは潰しておくべきと考える貴族が多数だろう。
ヴァレリオのチームからは攻撃されないだろうが、わざわざ予選の最中に顔をあわせたくはない。気が散ってしまうし、そもそも探すのも手間だ。
魔道話も邸に置いてきた。最近ずっと連絡を取りあっていた相手と急に話さなくなると、寂しい気がするね。
……あーもう、だからアイツのことを考えている場合じゃないんだってば。
昨日はなんの成果も得られなかったけど、今日こそ鍵を手に入れるんだ。そのために、俺は思いきった方向転換をした。
「青い鍵はいったん諦めて、黄色い鍵を探しにいこうと思う」
「えっ、青い鍵はいいんっスか?」
俺は腕組みながら、自分の考えを述べる。
「よくはないよ。でも昨日あれだけ探しても見つからなかったからね。作戦を変更する必要がある」
「そうか、わかった。今から三十一階層まで降りればいいんだな」
イツキは話が早いね、その通りだよ。俺は頷きを返して、彼の意見を肯定した。
「そうだね。モンスターは任せたよ、イツキ、カイル君。それにレジオットも」
「ああ」
「フン」
「わかりました」
一人ムカつく返事をしたけど、俺は大人だから流してあげることにした。
三十一階層へ降りると、土埃が常時視界を遮りはじめる。他チームが潜んでいても、これでは気づきにくいだろう。
「うう……匂いが分かりづらくなってきたっス」
「鍵があっても、見落とさないか心配」
テオとレジオットが不安そうに辺りを見渡している。イツキが励ますように彼らに笑いかけながら、俺に話を振ってきた。
「大丈夫だ、クインシーがなんとかしてくれるだろ。な?」
いいねそのフリ、俺が彼らの不安を払拭してあげよう。チームの士気管理も、俺の大事な仕事だからね。
「イツキに期待されてる……!? わかったよ、俺に任せておいて」
サービスでウインクまで飛ばすと、カイル君が苦虫を噛み潰したような顔で、イツキの視界を遮った。
「変な念を飛ばすな、イツキが汚れる」
「汚してない、ウインクしただけだから! 失礼だなー、まったくもう」
俺達のやりとりを見て、テオとレジオットがつられたように笑った。いいよ、いくらでも笑えばいいさ。
さっきから視界の悪い中、テオは緊張している。階層を降りるにつれて、えげつない罠が増えてきているんだ。
一歩間違えれば命を落とす罠が、そこら中にある状態だからね。緊張してしまうのはわかるよ。
だけどずっと気を張りつめていたら、疲れ果てた頃に致命的なミスを犯しかねない。適度にリラックスさせてあげないと。
レジオットもイツキも、ずっと魔法を使い続けていたら魔力不足で倒れかねない。敵が単体の時は、まだ余裕がありそうなカイル君に倒してもらうことにしよう。
彼は俺の指示を嫌そうにしていたが、イツキに無理をさせるつもりはないらしく、淡々と敵を屠っていた。
時々相性の悪いモンスターに遭遇すると、チッと舌打ちしながら炎や氷の魔法を繰りだしている。
悪魔は魔法が使えていいよなあ、俺も魔法が使えたら、もしかしたらイツキは……いや、もうやめよう。イツキのことは諦めるって決めたんだ。
揺れるイツキの魅惑の垂れ耳から、がんばって目を逸らしてダンジョンの奥へと進む。
「あー……その、まあ」
珍しくたじろいでいるイツキを、カイル君が片腕でさらうようにして抱き寄せた。
「イツキは俺のものだ」
「待てって、こんなところでくっつくな」
カイル君を押しのけようとするイツキ。しかしその顔には、恥ずかしいけれどカイル君が庇ってくれて嬉しいと、ハッキリ書いてある。わあ、辛い。
「あはは、二人の世界は二人きりの時に構築してね」
本当に、やめてくれないとそろそろ泣いちゃうよ? 俺の願いを聞き入れたのか、二人は少しだけ距離を空けて座り直した。
……最後にもう一回だけ、イツキの耳を触りたかったなあ。絶対に無理だってわかっているから、せめてもの思いで手を差しだした。
「はい、握手」
「え、なんでだ」
「二人がつきあった記念に、んー……俺からの祝福的な感じかな」
戸惑っているイツキを、テオが固唾をのんで見守っている。テオの様子を見て何を思ったのか、イツキは俺の手をとってくれた。
小さい手だった。滑らかな指は少年のようで、俺は壊れ物を扱うような気持ちで、そっとその手を握った。自然と笑みを浮かべてしまう。
「イツキ……幸せになってね」
「あ、ありがとな」
「もしカイル君に愛想をつかしたら、俺が懲らしめるからいつでも言って」
「おい豹野郎、誰が何をするって?」
カイル君が後ろから文句を言って、俺とイツキの手を外させた。
まったくもう、心が狭いんだから。そんなんで愛想つかされても知らないよ? と思ったが、イツキは満更でもなさそうだ。
これ以上二人の側にいたら、砂糖を吐いてしまいそうだ。吐くのは辛そうだしやりたくないので、こういう場合は逃げだすに限る。
「じゃあ、俺もちょっと休むよ。イツキ達も休んでくれ。テオは見張りをよろしくね」
「わかりました、ボス……!」
なぜか誇らしげな顔をしているテオが、感極まった声で呟いた。
「ご立派でしたよ……!」
イツキとカイル君が連れだって、奥の窪みに移動していくのを待ってから、小声で返事を返した。
もはや何も装えていない顔を見られたくなくて、目元を手で覆う。
「全然だよ……未練たらたらなんだ、みっともないなあ」
「そうは見えなかったですって。イツキの旦那を想って身を引くボスは、めちゃくちゃカッコよかったですよ!」
「そうかな? はは……」
なんとも言えない、胸にポッカリ穴が空いたような気持ちを抱えながらも、同時にスッキリと心が晴れたようにも感じた。
今は開いた傷口のように心が痛むけれど、きっと前を向いて歩いていける日がくると、希望が持てた。
*
青い鍵が見つからない。一日がかりで探しても見つからず、俺は再び焦燥感で胸がいっぱいになっていた。
今生き残っているチームはどのくらいいて、誰が鍵を手に入れているのか。切実に知りたい。
他チームにあえて接触し、情報を得るべきか……いや、リスクが高すぎる。俺のように、ライバルは潰しておくべきと考える貴族が多数だろう。
ヴァレリオのチームからは攻撃されないだろうが、わざわざ予選の最中に顔をあわせたくはない。気が散ってしまうし、そもそも探すのも手間だ。
魔道話も邸に置いてきた。最近ずっと連絡を取りあっていた相手と急に話さなくなると、寂しい気がするね。
……あーもう、だからアイツのことを考えている場合じゃないんだってば。
昨日はなんの成果も得られなかったけど、今日こそ鍵を手に入れるんだ。そのために、俺は思いきった方向転換をした。
「青い鍵はいったん諦めて、黄色い鍵を探しにいこうと思う」
「えっ、青い鍵はいいんっスか?」
俺は腕組みながら、自分の考えを述べる。
「よくはないよ。でも昨日あれだけ探しても見つからなかったからね。作戦を変更する必要がある」
「そうか、わかった。今から三十一階層まで降りればいいんだな」
イツキは話が早いね、その通りだよ。俺は頷きを返して、彼の意見を肯定した。
「そうだね。モンスターは任せたよ、イツキ、カイル君。それにレジオットも」
「ああ」
「フン」
「わかりました」
一人ムカつく返事をしたけど、俺は大人だから流してあげることにした。
三十一階層へ降りると、土埃が常時視界を遮りはじめる。他チームが潜んでいても、これでは気づきにくいだろう。
「うう……匂いが分かりづらくなってきたっス」
「鍵があっても、見落とさないか心配」
テオとレジオットが不安そうに辺りを見渡している。イツキが励ますように彼らに笑いかけながら、俺に話を振ってきた。
「大丈夫だ、クインシーがなんとかしてくれるだろ。な?」
いいねそのフリ、俺が彼らの不安を払拭してあげよう。チームの士気管理も、俺の大事な仕事だからね。
「イツキに期待されてる……!? わかったよ、俺に任せておいて」
サービスでウインクまで飛ばすと、カイル君が苦虫を噛み潰したような顔で、イツキの視界を遮った。
「変な念を飛ばすな、イツキが汚れる」
「汚してない、ウインクしただけだから! 失礼だなー、まったくもう」
俺達のやりとりを見て、テオとレジオットがつられたように笑った。いいよ、いくらでも笑えばいいさ。
さっきから視界の悪い中、テオは緊張している。階層を降りるにつれて、えげつない罠が増えてきているんだ。
一歩間違えれば命を落とす罠が、そこら中にある状態だからね。緊張してしまうのはわかるよ。
だけどずっと気を張りつめていたら、疲れ果てた頃に致命的なミスを犯しかねない。適度にリラックスさせてあげないと。
レジオットもイツキも、ずっと魔法を使い続けていたら魔力不足で倒れかねない。敵が単体の時は、まだ余裕がありそうなカイル君に倒してもらうことにしよう。
彼は俺の指示を嫌そうにしていたが、イツキに無理をさせるつもりはないらしく、淡々と敵を屠っていた。
時々相性の悪いモンスターに遭遇すると、チッと舌打ちしながら炎や氷の魔法を繰りだしている。
悪魔は魔法が使えていいよなあ、俺も魔法が使えたら、もしかしたらイツキは……いや、もうやめよう。イツキのことは諦めるって決めたんだ。
揺れるイツキの魅惑の垂れ耳から、がんばって目を逸らしてダンジョンの奥へと進む。
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