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対抗戦予選

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 赤い鍵が隠されているはずの十一階層まで、一息に降りた。

 ダンジョン内の地図は、既に頭に入れてある。リベルタ侯爵が鍵を隠すならここだろうかと、目星をつけた場所を順繰りに回っていく。

「早く見つけたいっスね、ボス!」
「そうだね。テオ、頼りにしてるよ」
「はい、がんばります!」

 彼は犬耳をピンと尖らせながら、スンスンと匂いを嗅ぎまわり、安全を確認していた。

 テオが索敵し、罠と敵チームの気配を事前に察知してくれているから、まだ誰とも出会わず済んでいる。

 出場チームは全部で三十八組もいるから、いくらダンジョン内が広くても、どこかで潰しあいが起こるのは必須だろう。

 ライバルが減っていてくれればいいなと、不謹慎なことを願いつつ先を急いだ。

 幸い、ここらの敵はイツキとカイル君にかかれば、相手にならない。レジオットも上手く雷魔法を使って、モンスターの動きを邪魔している。

 俺は魔月鏡を守るため、周囲に気を配りながらレイピアと円盾を構えて、慎重な足運びでついていった。

 コケて鏡が割れるとか、本気でシャレにならないからね。胸元から場所を変えても失格だから、荷物に包んで守るなんてこともできやしない。

 十一階層を練り歩いて、袋小路になった場所や、岩が多く死角があるスポットなど、目星をつけた場所を順々に探す。

 四ヶ所目のハズレ目星の場所にたどり着いて、みんなにバレないように唇を噛みしめた。ここにもない。早くしないと……

 俺は頭を振って、思考を切り替えようと試みる。リベルタ侯爵の意味深なアドバイスから、十一階層に鍵が置いてあるだろうと重点的に探してみたが、当てが外れたのだろうか。

 いや、待て。彼は十一ではなく、一だけに強くアクセントを置いて発音していた。

 一……最初、先頭……もしや、赤い鍵エリアの一番最奥に設置されている、なんてことはないだろうか。

 そうかもしれない。闇雲に探すよりは、赤い鍵がありそうな場所を当たる方がいいだろう。

 パーティメンバーを動揺させないよう、俺は平静を装って方針変えを宣言した。

「浅層側は粗方探索されているようだ。いっそ二十階層まで進んでひき返す方が、勝率が高そうだね。一気に駆け降りよう」
「わかりました、ボス!」
「いきます」

 部下達もやる気十分だ。イツキは小柄で体力がない分、少し息を切らしているが大丈夫だろうか。

「大丈夫? イツキ。少し休憩をとろうか?」
「このくらい平気だ。行こうぜ」

 カイル君も、イツキのがんばりを止める気配がなかったので、このまま行かせてもらおう。一気に階層を駆け降りた。





 二十階層は、大量の小猿と一匹の大猿がセットになった、ボス部屋になっている。

 ボスがいる気配が、扉越しにも感じられる。まだ誰もこんな奥にまで、降りてきていないようだ。

「どうするんだ? 入って調べるか?」

 イツキが扉の奥をのぞいた後、すぐ後ろにいる俺に尋ねた。身長差のせいで上目遣いになっている、かわいい……じゃなくて、今は鍵を探さないと。

「ボス部屋に鍵を設置するかなあ……」

 イツキの後ろから部屋の中を確認してみるが、ボス猿が邪魔であまりよく見えない。一緒に顔を出したレジオットが、部屋の奥の方を指さした。

「あそこ、なにか赤く光っていませんか」

 イツキとレジオットの視線の先をたどると、赤い金属反射光を発見した。あのダンジョンに溶けこまない不自然な赤色、間違いないよ。

「でかしたよレジオット、あれが鍵で間違いなさそうだ」

 まずは第一関門突破だ。たった六個しかない赤い鍵を、他チームから逃れて見つけるのは難しい。ここで見つけられたことは、大きなアドバンテージとなるだろう。

 鍵を回収するために、速やかにボスを始末してしまおう。戦うのは俺じゃないけどね。鏡を破損するわけにいかないから、俺は防御に徹するよ。

 早速テオが俺の意を汲んで、部屋の中に飛びこむ。カイル君もほとんど同時にスルリと部屋に侵入し、大猿の腕を斬りつけた。

「イツキ、小猿共は任せた」

 ちぇ、かっこつけちゃって。カイル君ほどの腕前じゃなくても、俺だって頑張ればここのボスくらいは倒せるのにな。

 カイル君が大猿を相手にしているうちに、テオが小猿の気を引き、レジオットが電撃を浴びせる。

「うわーっ! 数の暴力がキツいっス!」
「テオ、そこから動かないで」

 痺れて動けなくなった小猿達の急所を狙って、イツキが土魔法で石礫を生成し、撃ち抜いた。いやあ、相変わらず制御が抜群に上手い。

 イツキが攻撃した小猿達は、次々に砂へと化していく。百発百中だね、痺れるう。

 カイル君もなんなく大猿を仕留めていた。みんなのスマートな戦いっぷりに、思わず拍手をしてしまったよ。

「素晴らしいよ君達! さて、鍵を拾おうか」

 急いで赤い鍵へと歩み寄り、鍵を手にいれた。鏡と同じくらいの長さのそれを、早速魔月鏡に登録しようとした時、ふと背後から敵意を感じた。

 部屋の入り口を振り返りながら飛びのく。ガッ、と鋭い金属音が、俺のさっきまで立っていた場所から鳴り響く。

 カランと転がったそれは、投げナイフだった。俺に当たることはなかったが、テオの足元まで飛んでいって彼を驚かせた。

「ぎゃーっ!? なんだ、誰っスか!?」
「チッ、当たらなかったか」

 大型獣人をひき連れながら現れたのは、眠たげな目蓋が特徴のロバート・タルモだった。
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