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対抗戦予選

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 ヴァレリオは低い声音で、俺に語りかけた。

「俺は貴方を直接攻撃するつもりはない。正々堂々、実力で勝負して貴方を伴侶に迎える」
「……別に俺を攻撃するのだって、ルール違反なわけじゃないよ?」

 欠損や障害となるような大怪我をさせた場合、問答無用で失格となるが、動きを阻害したりアイテムを破損させたりする程度の妨害は、ルール上許可されている。

 ヴァレリオは険しい顔つきで、首を横に振った。

「俺が貴方を攻撃したくないんだ」
「そんなことで、俺に勝てると思ってる? 見くびられたものだなあ。いいよ、そっちがそのつもりなら、俺も君には直接仕掛けない。対等な勝負をしようじゃないか」

 挑むような目で不敵に笑いかけると、ヴァレリオも納得したように頷いた。

「貴方がそう望むなら、対等な勝負をしよう」
「後で後悔する羽目になっても知らないよ」
「後悔などしないさ。必ず勝つからな」

 自信に溢れたヴァレリオは、先程と同じように輝かしい存在に思えた。なんでこの人、俺のことが好きなんだろうなあ。本気で気になってきた。

 彼は玄関扉の前で、ピタリと立ち止まった。

「クインシー」
「なに?」
「今夜貴方と会えてよかった。招待を嬉しく思う」
「うん……俺もまあ、君と過ごすのは悪くなかったよ」

 断ろうかと思ったけれど、結局のところ楽しい時間を過ごせたんじゃないかな。謎は増えたけど。

「クインシー」
「なに二回も呼んでるのさ」

 彼は突然俺の背を抱き、耳元で囁いた。

「愛している」

 切なさと真摯さが混じった声音に、まるで体の奥まで貫ぬかれたように錯覚する。俺は一瞬言葉に詰まったものの、勝ち気な態度をとり繕って言い返した。

「……っ、知ってるよ」
「ああ、覚えていてくれ。予選が終わったらまた、改めてデートに誘わせてくれ」
「君が俺に勝ったら考えてあげてもいいけど、そう上手くいくと思わないことだね」

 俺が強気な口調で返答すると、彼は一つ頷いて、年末の挨拶を言い残して去っていった。

「愛している、か……」

 どうして俺は、ヴァレリオのことを思いだせないんだろうか。何がきっかけで、アイツは俺のことを好きになったんだろう。

 とっても気になってきちゃったな。小さい頃はほとんど領地から出たことがなかったから、領地にいる誰かなら事情を知っているだろうか。

「手紙、書こうかな」

 領地に手紙が届いて返信が帰ってくる頃には、予選が終わっていそうだ。手紙だけ書いたら予選に集中しようと決めて、俺は自室に戻った。





 対抗戦予選の初日は、目が醒めるような晴天だった。一般人が通れないよう封鎖されたダンジョン前には、対抗戦参加者の貴族と、そのパーティメンバーが集まっている。

 大型獣人ばかりで、むさ苦しくって嫌になっちゃうなあ。見れば、イツキも同じことを考えていそうな、ゲンナリとした顔をしていた。

 そういえば、今朝父様から魔道話がかかってきたんだけど、あの人タイミング悪すぎだよね。

 これから対抗戦の予選だからまたね、あと婚約を受ける気はないからって言い捨てて、速攻で通話を切ってしまった。

 うちの父様なら、俺の意思を完全に無視して婚約を進めることはないだろうから、予選が終わったらまたかけ直すのでいいや。

「そこにいるのはクインシー様でしょうか」
「ん? ああ、セルリアン。去年ぶりだね」

 声をかけられ振り返ると、使いこまれた様子のない軽装を身につけたセルリアンが、長い銀髪を風に棚引かせていた。

「そうですね。今年もたくさんの幸福が、訪れる年となりますように」

 新年の挨拶を終えると、彼はスッと去っていった。やはり掴みどころのない性格の人だよなあ、さっぱりしててつきあいやすくはあるけど。

 辺りを確認していると、ヴァレリオを見つけてしまった。騎士服と外套に身を包んだ彼は、パーティメンバーと何か話しあっている。

 メンバーの中に一人、鼠獣人がいた。彼が例のネズミ勇者か。灰色髪でイツキよりも小さい彼は、態度が堂々としていて、自分の実力に自信があるみたいだ。

 そうこうしているうちに、護衛を引き連れたレオンハルト殿下が姿を見せた。傍らにはリベルタ侯爵もつき従っている。

 殿下の側にいたトビアスが膝をつこうとすると、燃えるような赤毛の獅子王子は、手を上げてトビアスを制した。

「そのままでよい。みな顔を上げてくれ」

 全員の注目を集めたレオンハルト殿下は、高らかに告げる。

「勇敢な戦士達よ、よくぞ集まった。新たな年の幕開けとなる、領地対抗戦をはじめよう。お前達の活躍に期待している。私がしかと勝負の行方を見届けよう」

 ついにはじまった。とにかく予選では、上位六名のうちに入らなければ。そうでないと、その時点で婚約が決定してしまう可能性は限りなく高い。

「各チームの指揮官は、リベルタ侯爵から魔月鏡を受け取ってくれ。これは参加証も兼ねており、破損すると失格になるので注意したまえ」

 リベルタ侯爵が、去年の対抗戦で順位が高かった順に名を呼んでいく。俺は十番目に魔月鏡を賜わった。

 胸元に飾られたそれは、拳より少し小さい楕円形の鏡だった。誤ってどこかにぶつかったら割れてしまいそうな、繊細な作りをしている。

 侯爵と視線を交わすと、がんばれよとでも言うように、彼は目尻の皺を深くしてニヤリと笑った。頷きを返す。

 全員に鏡がいき渡ると、殿下が俺達に声をかける。

「鍵を手に入れたら鏡にかざすことで、入手できたと登録される。三つの鍵を登録したら、地上に向かってくれ」

 前回の対抗戦で上位だった者から順に、ダンジョン内へ入る権利が与えられた。俺達は十番目にダンジョンに飛びこむ。

 この時点で既に、鍵を見つけているチームもいるかもしれない。俺は、はやる気持ちを抑えて、努めて冷静に提案した。

「さあ、行くよ。他のチームとの接敵を避けつつ、鍵がありそうだと目星をつけた場所を、近い順から回っていこう」

 ヴァレリオは、五番目にダンジョン内へと侵入を果たしている。俺達も急がないとね。
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