婚約破棄されたら妖精王子に溺愛されました

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
37 / 41

37 父との和解

しおりを挟む
 ブライトンはユースに詰め寄るようにして問いかけた。

「そうだ、もしや貴殿は母の姉を知っているのか!?」
「直接言葉を交わしたことはございません。しかし記録によると、彼女も我が国の国民として五十年ほど前に水妖精の伴侶が登録したようで、今は村の水車番として活躍されています」
「なんと……なんということだ。母が生きていたら心から喜んだだろうに」

 昨日の夜の話からそこまで調べたんだ、ユースは本当に勤勉な方だわとアレッタは感心した。

「妖精に連れ去られた姉は酷い目にあっているに違いないと母から聞かされて育ってきたが、そうではなかったのだな」
「妖精は一度決めた伴侶を心から愛し、心変わりすることはありません。きっと今でもカレン嬢は水妖精の伴侶から愛され、仕事でも活躍し充実した毎日を過ごしておられると思います。ご希望でしたらお調べ致しますが」
「いや、いい。私も母の言葉は全て真実ではないと思っていたからな。今更私が彼女のことを知ってもどうにもなるまい。余生を大切に過ごしてほしいと願うばかりだ」

 余生って言い方は違うような……ああそうか、お父様は妖精が人間の五倍は生きるってことを知らないんだわ。

「お父様、私はユースと結婚して妖精になったとしても、お父様が許してくれるなら会いにきます。その、私が妖精になったら寿命が伸びて年をとらないように見えるので、そこを気にしないでもらえたら嬉しいのですが」
「なに、どういうことだ」

 疑問を口にする父に、アレッタは人間と妖精の違いをできるだけ詳しく話した。

 アレッタが妖精になっても見えなくはならないこと、人間界には頻繁に来ようと思えば来れること。けれど妖精になった後は魔力がない場所だと息苦しいらしいので、町に長く滞在はできないであろうことも伝える。

 父はしばらく額を指で押さえて考えこんでいたが、やがてゆっくりと顔を上げた。

「なるほど、話はわかった。お前達の結婚を認めよう」
「ほ、本当に? ありがとうございます、お父様!」

 ユースも嬉しそうに声を弾ませる。

「ありがとうございますユクシー卿。義父上ちちうえと呼ばせてもらっていいでしょうか」
「構わん。どうせいつか娘は嫁にやるものだ。勝手に消えていなくなるのは我慢がならんが、今お前達の仲を無理矢理引き裂いてアレッタをどこかに嫁がせるとしても、まともな嫁ぎ先はほとんどない」

 ブライトンは疲れたように自嘲する。アレッタがいなくなってからも色々と心労があったのだろう、前に見た時よりも白髪が増えている。

「最近の王家のやり方、貴族のあり様には思うところがある……これを機に貴族間の結びつきを強めるよりも、内政に力を入れるべきかもしれんな」

 父の変わり様に胸を痛めながらもわかってもらえたことに感動するアレッタを見て、ブライトンは眩しい物でも見るかのように目を細めた。

「アレッタ、好きな時に顔を見せるといい。今後は屋敷に花を絶やさず飾り、庭を花で埋めることを約束しよう」
「……っはい!」

 アレッタが胸の前で指を組むと、今度はブライトンは正面からユースを見つめた。

「ユスティニアンよ、貴殿に娘を託そう。妖精の目を持つこの子のことをわかってやれるのは、妖精である貴殿が適任だろう」
「はい。必ずやアレッタ嬢を幸せにしてみせます」

 ブライトンがユースに握手を求め、握手すると像が消えてしまうからと申し訳なさそうにユースが断る場面はあったものの、和やかに顔合わせが済んでアレッタは心からホッとした。

 不意に扉の外が騒がしくなる。ルーチェがパッと扉を振り向いて警戒を露わにした。

「……ったく、気がきかないわね。お姉様が帰ってきたのなら、どうしてもっと早く教えてくれないの? お父様! わたくしお姉様に伝えたいことがありますの、ここを開けてくださいませ!」
「なんだ、騒々しい。まだ話の途中だ」

 ブライトンが返事をすると、許可も得ないうちにレベッカが黒い髪を振り乱しながら部屋に乱入してくる。
 いつも派手ながらも綺麗に整えている化粧も今日はケバケバしすぎていて、アレッタは目の周りに塗りたくられた真っ赤なアイシャドウにギョッとした。

「レベッカ、どうしたのその顔……」

 レベッカはキッと姉を睨みつけて、一方的に言いたいことをぶちまけるために口を開いた。

「お姉様酷いですわ! ……っと、お客様がいらしていたの? まあ……」

 レベッカはユースの姿を見とめて言葉を切る。
 テオドール殿下よりも美しく凛々しいユースの顔に、ポカンと口を開けたまま見惚れて言葉も出ない様子だった。

 ハッと気を取り直したレベッカは、耳を赤くしながら髪を慌てて整えようとする。ちなみに頬は白粉を塗りたくりすぎて真っ白なままだった。

「し、失礼しました。わたくしはレベッカ・ユクシーと申します。はしたないところをお見せして申し訳ありません。まさかお客様がいらしているとは存じあげませんでしたわ。お父様のお客様ですの?」

 ユースは非常識なレベッカ相手にも丁寧に自己紹介をした。

「レベッカ嬢、私はユスティニアン・レトゥ・アルストロメリアと申します。この度はアレッタ嬢との結婚の許しをいただきにご挨拶に参りました」
「えっ? はっ?」

 レベッカは信じられない物を見るような顔でアレッタを凝視する。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。 第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。28日の更新で完結します。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...