婚約破棄されたら妖精王子に溺愛されました

兎騎かなで

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11 夜と光の大通り

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 アレッタは前回持ちこんだ枯草色のドレスが綺麗に染み抜きされていたので、それを着たいと申しでたのだが。マイムとルーチェの猛反対にあった。

「ダメダメ、絶対ダメー! せっかくのデートなんだからちゃんと綺麗にしよ?」
「アレッタ様、こちらの薄紫のドレスなどはいかがですか? 殿下の好きなお色である白も似合いそうですね」
「いいねいいね! あ、こっちの黄色とかもアリよりのアリじゃない?」

 マイムとルーチェの勢いに押されて、アレッタはなんとか勧められた中からドレスを選んだ。
薄紫のドレスが一番控えめな印象だったのでそれにしたのだが、着てみると意外に胸元が開いている。
 アレッタは焦ったが、マイムとルーチェはベタ褒めだった。

「いいよアレッタ! すごい似合う!」
「アレッタ様には大人っぽいデザインのドレスがよくお似合いになりますね」
「そうかな? 変じゃない?」
「大丈夫! 殿下にも見てもらおうよ」

 髪も整えてくれたマイムと別れて、アレッタとルーチェは再び執務室へ赴く。ちょうど仕事に区切りがついたらしいユースが部屋を出てきたところにバッタリ出くわした。

 ユースはアレッタを見て赤く頬を火照らせると、持っていた上着を肩にかけてくれた。
 肩もかなり出ているデザインで、少し心許なかったアレッタはユースにお礼を言う。

「ありがとうユース」
「アレッタ、とても似合っている。けれど少し魅力的すぎないか? 目のやり場に困ってしまうな」

 アレッタもつられて顔を赤くした。そんなアレッタ達の様子をルーチェがニッコニコで見守ってくるので、アレッタはこのまま穴の中に埋まりたくなった。

 上着をきっちり羽織ると胸元まで隠れたので、やっとアレッタとユースは普通に話すことができた。

「それでは行こうか」
「ええ」
「はいはーい、お供しますね!」

 妖精の国では馬車は一般的ではないらしい。ユースもルーチェも歩いて宮殿を出ていくので、アレッタもそれに倣う。
 時刻は昼をとうに過ぎ、黄色く染まりはじめた太陽が優しく花畑を照らしていた。

 あ、あそこにジェレミーがいる。彼はこちらを見て手を振ろうとしたが、ルーチェがいるのに気づいて即座に手を引っこめていた。

 花畑を下りると、しばらくは緑の街路樹が整えられたメルヘンな雰囲気の道が続いている。
 ルーチェはうきうきと弾む足取りで先を進みながら教えてくれた。

「夜と光の町にはね、光妖精が住んでいるんだ。光妖精の用意したランプがたくさんあって、それが夜になるとピカピカ光るの!」
「ランプ……ろうそくみたいなもの?」

 アレッタは夜の町にたくさん蝋燭が立てられているのを想像してみた。ユースが隣で首を横に振る。

「少し違うな。ろうそくは火により発光するが、ランプは光妖精の魔力により発光している」
「アレッタも見たらわかるよ、早くいこ!」
「そんなに焦ってもすぐに日は暮れないぞ」
「あ、そうだった!」

 賑やかなルーチェと一緒だと時間はすぐに過ぎ去って、もう町に着いたようだった。

 石畳に沿って可愛らしい丸いフォルムの家がいくつも建っている。どこまでも続くような町並みを、階段をたどりどんどん降りていく。

「わあ、いろんなお店があるのね」

 パン屋さんや果物屋さん等、アレッタの知っている店もあるが、知らない店もいくつもあった。
 光苔屋に、鱗粉屋って? どういうものを売っているのか気になってしまう。

「アレッタ、気になる店があるなら寄っていこう」
「そう? 見るだけなんて冷やかしにならない?」
「ならないさ。欲しいものがあれば俺にプレゼントさせてくれ」
「そんな、いいよ。見ているだけで楽しいの」

 アレッタが遠慮していると、ルーチェが声を上げた。

「あ、エストだ! それにソルもいる」

 ルーチェが指を指す先には、白黒のツートーンの髪の妖精と茶色い髪に金の目をした妖精がいた。

「あ、殿下。お久しぶりです」
「ソル、エストも久しぶりだな。変わりないか」
「なーんも。元気にやってます」
「変わりない、です」

 エストと呼ばれた少女は言葉少なに頷く。ソルは快活そうに笑い、アレッタに目を移した。

「隣の方はもしかして、ルーチェが言ってた殿下の恋人ですか?」
「そうなれたらいいと思っている」

 アレッタはぽぽぽと頬を染める。もしかして、新しい人と会うたびにこのやりとりが繰り返されるんだろうか。
 どうしよう、心臓がもたないよ。

 ソルはガタイのいい体を縮めて、アレッタに目線を合わせてくれた。
 あれ、この人も胸元にバッチがついてるわ。町の警備の方なのかな?

「あ、こんにちは、アレッタです」
「ようアレッタ、俺はソルだ。ルーチェが世話になったな」

 ん? ソル、ソル……どこかで聞いたような気がする。なんだっけ、つい最近聞いた気がするんだけど。
 ルーチェがピクリとソルの一言に反応した。

「違うからソル、お世話をしたのは私の方!」
「本当かぁ? ルーチェは早とちりが得意だからな、世話を焼いたつもりでありがた迷惑になってなきゃいいんだが」
「なってないってば!」

 腕を組んでフフンとルーチェを見下ろすソル。仲がよさそうだ。
 ユースがルーチェを庇い助け舟を出した。

「ソル。ルーチェはよくやってくれている。先ほどもアレッタが困っているところに通りがかり、彼女のために助けに入ってくれたんだ」
「でっしょ!? 殿下わかってるぅ! さすが妖精界一のスパダリ!」
「ふーん? 今回はお手柄ってことだな」
「今回はじゃないでしょ、いつもお手柄なの!」

 プリプリと怒るルーチェを見て、ソルは弾けるように笑った。
 ……あ、思い出した! ソルって、確かさっき会ったタウって名前の土妖精のお兄様だわ!

「ソル、先程私あなたの弟に会ったわ」
「ん? タウのことか?」
「そう、花と水の国にお兄さんがいると教えてくれたの。それで私を人間界から妖精界に送ってくれたんだ」
「おお、あいつ今人間界にいるのか! いつか行ってみたいってよく口にしてたもんな~、元気そうだったか?」
「ええ、とても」

 アレッタは苦笑する。元気ありあまり過ぎて私の話を聞く間もなく妖精界に飛ばしてくれたよ、とは言わないでおいた。

 それにしても、タウは私がいることでお兄さんが喜ぶって言ってたけど、いったいどういうことだろう?
 住んでる国の王子様の結婚話に喜ぶってことなのかな? ユースとソルは仲がよさそうだものね。

 アレッタか考えこんでいると、下からアレッタを見つめる視線とぶつかった。
 エストと呼ばれたツートーンの髪の少女が、アレッタになにか言いたげにしている。
 右半分が黒髪、左半分が白髪で、目の色も右が黒色で左が銀色だ。不思議な色彩に戸惑いながらもアレッタは彼女に問いかけた。

「……なに? どうしたの?」
「私、エストレアっていうの。よろしく」
「エストレア?」
「そう」
「アレッタよ」

 エストレアはこくりとうなづいて、手に持っていた飴をアレッタに差しだす。

「……飴、食べる?」
「いいの? ありがとう」
「殿下もどうぞ」
「ああ、いつもありがとう」

 ルーチェもちゃっかりエストから飴をもらい受けながら、茶々を入れた。

「エストまた飴買いに行ってたの? よく飽きないよね~」
「甘いものは正義だからね」

 とくに楽しそうでもなく淡々と口にしたエストレアは、赤く染まりはじめた空を見上げた。

「私、そろそろ行くね。日が暮れちゃう」
「おう、行くか。じゃーな殿下、アレッタ。いい夜を」
「ええ」
「そちらもな」

 ソルはルーチェの髪をひと撫でしてニヤリと口の端を吊り上げる。

「ルーチェも仕事がんばれよ?」
「あんたに言われるまでもないわ! さ、殿下、アレッタ行きましょ!」

 ルーチェが一人でずんずんと進んでいく。あれ、ルーチェなんだか顔が赤いような? 夕日のせいかな。

 アレッタは慌てて彼女を追いかけた。ユースもそれに続く。
 アレッタは穏やかに微笑むユースをチラリと横目で盗み見た。

 やっぱりユースはテオと全然違う……取り巻きと一緒に人を馬鹿にして楽しむような嫌な感じが全然ないし、町の人にも親しまれていて気さくな人なんだなあ……

 ふと、ユースがなにかに興味を引かれたようで足を止める。

「アレッタ、ルーチェ。この店に寄らないか?」
「いいですとも! 殿下の行くところならどこまでもお供しますよぉ!」

 ルーチェはやたらと元気に了承する。アレッタも頷いたのを確認して、ユースは店へと足を運んだ。

 これは……どういう店なの?
 看板には、毒々しい色のキノコの絵がデカデカと描かれていた。
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