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3 凛々しい妖精さん

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 アレッタは花の合間から顔を出した妖精に、視線が釘づけになった。

 かわいい、けどかっこいい! 男の子の花妖精さんだ。この温室では一度も見かけたことのない妖精さんだわ。

 宙を舞いアレッタの方へ近づいてくる花妖精は、白い花弁に紫のポイントが入った花弁の羽根を羽ばたかせていた。

 アッシュブロンドで真っ直ぐな長い髪をしている。凛々しく涼やかな目元をしていて、テオドール王子よりもよほどかっこいいとアレッタは思った。

 妖精さんにかっこいいなんて思ったの初めてだわ。アメジストみたいな紫の瞳も綺麗で素敵。

 彼は優雅に飛んでくると、アレッタの座るベンチの隣の席を指差した。

「こんにちは。隣に座ってもいいか?」

 かっこいいだけじゃなくて紳士だ。アレッタはにこりと笑って席を示した。

「どうぞ、妖精さん」

 アレッタがそう告げると、彼は小さな体でちょこんとベンチに腰かけた。アレッタの顔を見上げてくる様子がひたすらかわいい。

「ありがとう人間さん。俺はユスティニアン・レトゥ・アルストロメリアという。できれば名前で呼んでほしい。ユースでもユスティでもなんでもいい」

 妖精さんが真面目な顔でそんなことを伝えてくるので、アレッタもかわいがりたい気持ちを一旦封印してまともに返答する。

「ユースね。私はアレッタ・ユクシーよ。私のことはアレッタと呼んでちょうだい」
「アレッタ……古代語で小さな羽を表す言葉だ。妖精が見える君にふさわしい名前だな」
「そうなんだ? 知らなかった」

 アレッタの名前は亡き母が名づけた名前らしい。病弱な母とはあまり交流がなく、名前の由来を聞く前に亡くなってしまったから、アレッタは自分の名前がそんな意味を持つなんて知らなかった。

「ところでアレッタ、俺には先程の花妖精達の言葉が聞こえていたんだ。盗み聞きのようで正直心苦しいが、どうしても君に確かめたいことがある」

 えっ、そうなの? 恥ずかしいな、私変なこと話してなかったかな。
 アレッタは気になったけれど、下手に聞くと墓穴を掘りそうなので話の続きを促した。

「なあに?」

 ユースはごくりと唾を飲みこんで一呼吸置いた。なにやら緊張している様子だ。
 いったいなにをそんなに緊張しているんだろう?

「アレッタには今、心に想う人はいないのか?」
「想い人なんていないよ。そもそも私は今さっき婚約破棄されたところだし」
「その王子のことは? 実はまだ好きだったりしないのか」
「しないよ。そりゃ、初めてあったころはちょっとくらいはかっこいいなと思ったし、仲良くなろうと努力もしたけれど。でも好きじゃなかったよ。私のことを地味で陰気な田舎者って散々馬鹿にしてきたし」

 アレッタがそう言うと、ユースはなぜか目を輝かせた。

「そうか。ならそんな男のことはスッパリ忘れて、俺の恋人にならないか?」

 思いもよらない言葉にアレッタは目を見開いた。

 えっ? 私妖精の男の子に口説かれてる!

 今まで妖精さんから好かれたことは、男女を問わずたくさんあった。
 けれどどの妖精さんも大体居心地がいいらしい私の雰囲気に触れるだけで、満足して帰っていったのに。

 ユースはアレッタの手のひらに、その小さな手を重ねた。温かな温度がじわりと伝わってくる。

「アレッタ、どうしても君がいいんだ。駄目なら何故駄目か理由を教えてほしい。改善できることなら全力で努力する」

 真摯な申し出にきゅんと心臓が音をたてる。
 いきなり告白されてときめいたけれど、同時になぜ会ったばかりのアレッタにそんな風に言うのか、理由が気になった。率直に聞いてみることにする。

「どうしてユースは私のことをそんなに好いてくれてるの? 私達、今ここで今出会ったばかりじゃない?」

 ユースは自分の胸元に手を当てて、若干紅潮した顔でアレッタを見上げた。

「君を一目見た時に、俺の花嫁になってほしいと思ったんだ。こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ。俺は今、アレッタ……君に恋をしている」

 わあ……どうしよう。ちょっと本気でときめいちゃった。相手は妖精さんなのに。結婚なんてできないのに……できないはずよね?

 こんなに素敵でときめく告白をスパッと断る気持ちにはどうしてもなれなくて、アレッタはこんな風に提案してみた。

「うーん。じゃあ……ユースが人間みたいに大きくなったら結婚しよ?」

 アレッタの言葉をきくなりユースは文字通り跳び上がり、アレッタの顔の目の前に飛んできた。

「いいのか!?」

 その勢いにのけぞりつつも、アレッタは返答する。

「いいよ。私、人間といるより妖精といる方が好きなの。でも流石にこんなにちっちゃい旦那様だと、ちょっと頼りにするのはためらっちゃうじゃない? だから、大きくなったら、ね」

 ユースは嬉しさが抑えきれないといった様子で破顔した。

「わかった。それが君の願いなら、全力で実現する方法を考えよう」

 ちょっと早まったかな? とアレッタは思わないでもなかったが、もしこの妖精さんが大きくなった姿でもう一度告白してきたら、本当に恋人にしてほしくなりそうな予感もした。
 だってすごく凛々しくって素敵なんだもの。

 もしかして、マリー達が言っていたあの方って、この妖精さんのことなのかな?
 アレッタがマリー達の言葉を思い返していると、ユースはくるりと辺りを見渡した。

「この場所ならいけそうだな……アレッタ、早速だが一つ提案がある」
「ん? どうしたの?」
「妖精の国に興味はないか? アレッタに俺のことをよく知ってもらうためにも、一度妖精界にアレッタを連れていきたいんだ」

 妖精界? 妖精の国に行けるの? 人間の私が?
 思いもよらない言葉にびっくりして固まっている私を見て、ユースは遠慮がちに言葉を続けた。

「どうだ? 興味はないか?」
「ある! 行ってみたい!!」

 アレッタは食い気味で即答した。
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