3 / 41
3 凛々しい妖精さん
しおりを挟む
アレッタは花の合間から顔を出した妖精に、視線が釘づけになった。
かわいい、けどかっこいい! 男の子の花妖精さんだ。この温室では一度も見かけたことのない妖精さんだわ。
宙を舞いアレッタの方へ近づいてくる花妖精は、白い花弁に紫のポイントが入った花弁の羽根を羽ばたかせていた。
アッシュブロンドで真っ直ぐな長い髪をしている。凛々しく涼やかな目元をしていて、テオドール王子よりもよほどかっこいいとアレッタは思った。
妖精さんにかっこいいなんて思ったの初めてだわ。アメジストみたいな紫の瞳も綺麗で素敵。
彼は優雅に飛んでくると、アレッタの座るベンチの隣の席を指差した。
「こんにちは。隣に座ってもいいか?」
かっこいいだけじゃなくて紳士だ。アレッタはにこりと笑って席を示した。
「どうぞ、妖精さん」
アレッタがそう告げると、彼は小さな体でちょこんとベンチに腰かけた。アレッタの顔を見上げてくる様子がひたすらかわいい。
「ありがとう人間さん。俺はユスティニアン・レトゥ・アルストロメリアという。できれば名前で呼んでほしい。ユースでもユスティでもなんでもいい」
妖精さんが真面目な顔でそんなことを伝えてくるので、アレッタもかわいがりたい気持ちを一旦封印してまともに返答する。
「ユースね。私はアレッタ・ユクシーよ。私のことはアレッタと呼んでちょうだい」
「アレッタ……古代語で小さな羽を表す言葉だ。妖精が見える君にふさわしい名前だな」
「そうなんだ? 知らなかった」
アレッタの名前は亡き母が名づけた名前らしい。病弱な母とはあまり交流がなく、名前の由来を聞く前に亡くなってしまったから、アレッタは自分の名前がそんな意味を持つなんて知らなかった。
「ところでアレッタ、俺には先程の花妖精達の言葉が聞こえていたんだ。盗み聞きのようで正直心苦しいが、どうしても君に確かめたいことがある」
えっ、そうなの? 恥ずかしいな、私変なこと話してなかったかな。
アレッタは気になったけれど、下手に聞くと墓穴を掘りそうなので話の続きを促した。
「なあに?」
ユースはごくりと唾を飲みこんで一呼吸置いた。なにやら緊張している様子だ。
いったいなにをそんなに緊張しているんだろう?
「アレッタには今、心に想う人はいないのか?」
「想い人なんていないよ。そもそも私は今さっき婚約破棄されたところだし」
「その王子のことは? 実はまだ好きだったりしないのか」
「しないよ。そりゃ、初めてあったころはちょっとくらいはかっこいいなと思ったし、仲良くなろうと努力もしたけれど。でも好きじゃなかったよ。私のことを地味で陰気な田舎者って散々馬鹿にしてきたし」
アレッタがそう言うと、ユースはなぜか目を輝かせた。
「そうか。ならそんな男のことはスッパリ忘れて、俺の恋人にならないか?」
思いもよらない言葉にアレッタは目を見開いた。
えっ? 私妖精の男の子に口説かれてる!
今まで妖精さんから好かれたことは、男女を問わずたくさんあった。
けれどどの妖精さんも大体居心地がいいらしい私の雰囲気に触れるだけで、満足して帰っていったのに。
ユースはアレッタの手のひらに、その小さな手を重ねた。温かな温度がじわりと伝わってくる。
「アレッタ、どうしても君がいいんだ。駄目なら何故駄目か理由を教えてほしい。改善できることなら全力で努力する」
真摯な申し出にきゅんと心臓が音をたてる。
いきなり告白されてときめいたけれど、同時になぜ会ったばかりのアレッタにそんな風に言うのか、理由が気になった。率直に聞いてみることにする。
「どうしてユースは私のことをそんなに好いてくれてるの? 私達、今ここで今出会ったばかりじゃない?」
ユースは自分の胸元に手を当てて、若干紅潮した顔でアレッタを見上げた。
「君を一目見た時に、俺の花嫁になってほしいと思ったんだ。こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ。俺は今、アレッタ……君に恋をしている」
わあ……どうしよう。ちょっと本気でときめいちゃった。相手は妖精さんなのに。結婚なんてできないのに……できないはずよね?
こんなに素敵でときめく告白をスパッと断る気持ちにはどうしてもなれなくて、アレッタはこんな風に提案してみた。
「うーん。じゃあ……ユースが人間みたいに大きくなったら結婚しよ?」
アレッタの言葉をきくなりユースは文字通り跳び上がり、アレッタの顔の目の前に飛んできた。
「いいのか!?」
その勢いにのけぞりつつも、アレッタは返答する。
「いいよ。私、人間といるより妖精といる方が好きなの。でも流石にこんなにちっちゃい旦那様だと、ちょっと頼りにするのはためらっちゃうじゃない? だから、大きくなったら、ね」
ユースは嬉しさが抑えきれないといった様子で破顔した。
「わかった。それが君の願いなら、全力で実現する方法を考えよう」
ちょっと早まったかな? とアレッタは思わないでもなかったが、もしこの妖精さんが大きくなった姿でもう一度告白してきたら、本当に恋人にしてほしくなりそうな予感もした。
だってすごく凛々しくって素敵なんだもの。
もしかして、マリー達が言っていたあの方って、この妖精さんのことなのかな?
アレッタがマリー達の言葉を思い返していると、ユースはくるりと辺りを見渡した。
「この場所ならいけそうだな……アレッタ、早速だが一つ提案がある」
「ん? どうしたの?」
「妖精の国に興味はないか? アレッタに俺のことをよく知ってもらうためにも、一度妖精界にアレッタを連れていきたいんだ」
妖精界? 妖精の国に行けるの? 人間の私が?
思いもよらない言葉にびっくりして固まっている私を見て、ユースは遠慮がちに言葉を続けた。
「どうだ? 興味はないか?」
「ある! 行ってみたい!!」
アレッタは食い気味で即答した。
かわいい、けどかっこいい! 男の子の花妖精さんだ。この温室では一度も見かけたことのない妖精さんだわ。
宙を舞いアレッタの方へ近づいてくる花妖精は、白い花弁に紫のポイントが入った花弁の羽根を羽ばたかせていた。
アッシュブロンドで真っ直ぐな長い髪をしている。凛々しく涼やかな目元をしていて、テオドール王子よりもよほどかっこいいとアレッタは思った。
妖精さんにかっこいいなんて思ったの初めてだわ。アメジストみたいな紫の瞳も綺麗で素敵。
彼は優雅に飛んでくると、アレッタの座るベンチの隣の席を指差した。
「こんにちは。隣に座ってもいいか?」
かっこいいだけじゃなくて紳士だ。アレッタはにこりと笑って席を示した。
「どうぞ、妖精さん」
アレッタがそう告げると、彼は小さな体でちょこんとベンチに腰かけた。アレッタの顔を見上げてくる様子がひたすらかわいい。
「ありがとう人間さん。俺はユスティニアン・レトゥ・アルストロメリアという。できれば名前で呼んでほしい。ユースでもユスティでもなんでもいい」
妖精さんが真面目な顔でそんなことを伝えてくるので、アレッタもかわいがりたい気持ちを一旦封印してまともに返答する。
「ユースね。私はアレッタ・ユクシーよ。私のことはアレッタと呼んでちょうだい」
「アレッタ……古代語で小さな羽を表す言葉だ。妖精が見える君にふさわしい名前だな」
「そうなんだ? 知らなかった」
アレッタの名前は亡き母が名づけた名前らしい。病弱な母とはあまり交流がなく、名前の由来を聞く前に亡くなってしまったから、アレッタは自分の名前がそんな意味を持つなんて知らなかった。
「ところでアレッタ、俺には先程の花妖精達の言葉が聞こえていたんだ。盗み聞きのようで正直心苦しいが、どうしても君に確かめたいことがある」
えっ、そうなの? 恥ずかしいな、私変なこと話してなかったかな。
アレッタは気になったけれど、下手に聞くと墓穴を掘りそうなので話の続きを促した。
「なあに?」
ユースはごくりと唾を飲みこんで一呼吸置いた。なにやら緊張している様子だ。
いったいなにをそんなに緊張しているんだろう?
「アレッタには今、心に想う人はいないのか?」
「想い人なんていないよ。そもそも私は今さっき婚約破棄されたところだし」
「その王子のことは? 実はまだ好きだったりしないのか」
「しないよ。そりゃ、初めてあったころはちょっとくらいはかっこいいなと思ったし、仲良くなろうと努力もしたけれど。でも好きじゃなかったよ。私のことを地味で陰気な田舎者って散々馬鹿にしてきたし」
アレッタがそう言うと、ユースはなぜか目を輝かせた。
「そうか。ならそんな男のことはスッパリ忘れて、俺の恋人にならないか?」
思いもよらない言葉にアレッタは目を見開いた。
えっ? 私妖精の男の子に口説かれてる!
今まで妖精さんから好かれたことは、男女を問わずたくさんあった。
けれどどの妖精さんも大体居心地がいいらしい私の雰囲気に触れるだけで、満足して帰っていったのに。
ユースはアレッタの手のひらに、その小さな手を重ねた。温かな温度がじわりと伝わってくる。
「アレッタ、どうしても君がいいんだ。駄目なら何故駄目か理由を教えてほしい。改善できることなら全力で努力する」
真摯な申し出にきゅんと心臓が音をたてる。
いきなり告白されてときめいたけれど、同時になぜ会ったばかりのアレッタにそんな風に言うのか、理由が気になった。率直に聞いてみることにする。
「どうしてユースは私のことをそんなに好いてくれてるの? 私達、今ここで今出会ったばかりじゃない?」
ユースは自分の胸元に手を当てて、若干紅潮した顔でアレッタを見上げた。
「君を一目見た時に、俺の花嫁になってほしいと思ったんだ。こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ。俺は今、アレッタ……君に恋をしている」
わあ……どうしよう。ちょっと本気でときめいちゃった。相手は妖精さんなのに。結婚なんてできないのに……できないはずよね?
こんなに素敵でときめく告白をスパッと断る気持ちにはどうしてもなれなくて、アレッタはこんな風に提案してみた。
「うーん。じゃあ……ユースが人間みたいに大きくなったら結婚しよ?」
アレッタの言葉をきくなりユースは文字通り跳び上がり、アレッタの顔の目の前に飛んできた。
「いいのか!?」
その勢いにのけぞりつつも、アレッタは返答する。
「いいよ。私、人間といるより妖精といる方が好きなの。でも流石にこんなにちっちゃい旦那様だと、ちょっと頼りにするのはためらっちゃうじゃない? だから、大きくなったら、ね」
ユースは嬉しさが抑えきれないといった様子で破顔した。
「わかった。それが君の願いなら、全力で実現する方法を考えよう」
ちょっと早まったかな? とアレッタは思わないでもなかったが、もしこの妖精さんが大きくなった姿でもう一度告白してきたら、本当に恋人にしてほしくなりそうな予感もした。
だってすごく凛々しくって素敵なんだもの。
もしかして、マリー達が言っていたあの方って、この妖精さんのことなのかな?
アレッタがマリー達の言葉を思い返していると、ユースはくるりと辺りを見渡した。
「この場所ならいけそうだな……アレッタ、早速だが一つ提案がある」
「ん? どうしたの?」
「妖精の国に興味はないか? アレッタに俺のことをよく知ってもらうためにも、一度妖精界にアレッタを連れていきたいんだ」
妖精界? 妖精の国に行けるの? 人間の私が?
思いもよらない言葉にびっくりして固まっている私を見て、ユースは遠慮がちに言葉を続けた。
「どうだ? 興味はないか?」
「ある! 行ってみたい!!」
アレッタは食い気味で即答した。
28
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜
長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。
朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。
禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。
――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。
不思議な言葉を残して立ち去った男。
その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。
※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。
嫌われ者の【白豚令嬢】の巻き戻り。二度目の人生は失敗しませんわ!
大福金
ファンタジー
コミカライズスタートしました♡♡作画は甲羅まる先生です。
目が覚めると私は牢屋で寝ていた。意味が分からない……。
どうやら私は何故か、悪事を働き処刑される寸前の白豚令嬢【ソフィア・グレイドル】に生まれ変わっていた。
何で?そんな事が?
処刑台の上で首を切り落とされる寸前で神様がいきなり現れ、『魂を入れる体を間違えた』と言われた。
ちょっと待って?!
続いて神様は、追い打ちをかける様に絶望的な言葉を言った。
魂が体に定着し、私はソフィア・グレイドルとして生きるしかない
と……
え?
この先は首を切り落とされ死ぬだけですけど?
神様は五歳から人生をやり直して見ないかと提案してくれた。
お詫びとして色々なチート能力も付けてくれたし?
このやり直し!絶対に成功させて幸せな老後を送るんだから!
ソフィアに待ち受ける数々のフラグをへし折り時にはザマァしてみたり……幸せな未来の為に頑張ります。
そんな新たなソフィアが皆から知らない内に愛されて行くお話。
実はこの世界、主人公ソフィアは全く知らないが、乙女ゲームの世界なのである。
ヒロインも登場しイベントフラグが立ちますが、ソフィアは知らずにゲームのフラグをも力ずくでへし折ります。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる