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1 突然の婚約破棄
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「アレッタ・ユクシー。俺は真実の愛を見つけた。お前との婚約を破棄する!」
アレッタはやっぱりそうなったかという思いでいっぱいだった。
最近、カロリーナ様をいつも連れ歩いていたものね。
テオドール殿下に腰を抱かれたカロリーナ様は、アレッタを見ておろおろしている。なぜあなたがそんなに焦っているの?
ガーデンパーティーに呼び出されたテオドール殿下のお友達の方々は、みんなこうなることを知っていたみたい。せせら笑う声が背後から聞こえた。
アレッタはなるべく動揺が声に出ないように気をつけながら答えた。
「そうですか。このことは陛下や父は了承されているのですか?」
「陛下には認められた。お前の父親にも、婚約破棄すると書いた陛下直筆の書状が届くように既に手配してある」
アレッタの目の前が暗くなる。
あんなに苦手な社交をがんばって、妖精さんと会うのもなるべく我慢して王家に連なる者として恥じないよう、たくさん勉強したのに。
あの努力は全て無駄になってしまったのね。
「カロリーナは侯爵家の娘のお前と違って公爵家生まれだしな。お前の父から是非にと言われて婚約者にしてやったが、カロリーナの方がどう考えても王族の一員として相応しいだろう」
「テオ殿下、そんなにハッキリ口にされてはアレッタ様が傷ついてしまいますわ」
テオドールにぴったりとはりついたカロリーナが、口先だけでアレッタを気遣う。
「カロリーナは優しいな。しかしこんな陰気な女に気を遣わなくてもいいんだぞ? 美しいだけでなく優しいなんて、俺の婚約者は素晴らしいな」
「まあ、テオ殿下ったら」
カロリーナはかわいらしく頬を染めた。輝く金の髪に澄んだ青の瞳は、明るい茶色の髪と落ち着いた印象のグリーンの瞳のアレッタとは全然違う。
ピンク色のドレスも、ふんわりとしたフリルがたっぷり縫いつけられている最新の流行の型だった。カロリーナの人形のように可愛らしい容姿に恐ろしく似合ってる。
アレッタにはこんな可愛らしいドレスは着こなせる自信がない。
テオドール殿下は私のことを、陰気で地味な女っていつも罵っていたものね。こういう女らしくてキラキラした方がお好みだったのね。
銀の髪と金の髪の二人が寄り添っていると、そこだけ光の妖精が舞い降りたかのように見えた。
周りのみんなも同じように思ったのか、口々に二人がお似合いだと褒め称える。
「テオドール様はご自身に相応しい方を見つけられたようだな」
「カロリーナ嬢は王太子后のシルビア様になんとなく似ているな、守ってさしあげたくなる」
男性陣が口々にカロリーナを褒める。カロリーナの愛らしい容姿は男性受けがいいようだ。
王都で慣れない社交をがんばって、少しは仲良くなれたと思っていた伯爵家のご令嬢もこのパーティーに参加していた。アレッタを見て目を細め噂している。
「それに比べてアレッタ様の見た目もドレスのセンスも地味ですこと。いくら妖精が見える瞳をお持ちになっているからって、社交のひとつも満足にこなせないようですから第二王子の婚約者にはふさわしくありませんわよね」
「そうよねえ。妖精の瞳の持ち主だからってもてはやされた時代は終わりましたのよ。妖精の魔法なんて気まぐれだし的外れな時もあって、なんの役にも立たないことも多いらしいですし」
どっと笑い声が上がる。アレッタはキュッと唇を噛み締めた。
私のことを馬鹿にするのは構わないわ。でも妖精さんを馬鹿にしないで!
そう言ってもさらに笑いを誘うだけだとわかっているから、唇を引き結んで嘲笑に耐えた。
「そういう訳だからアレッタ、役立たずのお前との縁はこれっきりだ。俺はカロリーナを友に紹介するのでもうお前に構っている暇はない、さっさと田舎の領地でもどこへなりとでも去るがいい」
「あ、待ってテオ殿下、私アレッタ様とお話したいことがあるんです。アレッタ様~?」
アレッタはカロリーナの甘えるような声を振りきり、ガーデンパーティーの会場から抜けだした。
もう一秒だってこんなところにいたくない。ここで王子に時間を割くより早く妖精さんに会いたい。
焦っていたせいで誰かとぶつかり、その拍子に飲み物がアレッタのドレスの足元にかけられた。紅茶の茶色っぽいシミがドレスにじっとりと染みこむ。
「あっ」
「失礼、ドレスに飲み物がかかってしまった。だがまあ枯草色のドレスだし、目立たなくていいな」
「はははっ、地味なドレスを着ていてよかったなアレッタ嬢」
殿下の取り巻きがアレッタの地味さをバカにして笑った。アレッタは無視してすり抜ける。
ここで何を言ってもテオドール殿下に馬鹿にされて終わりだから。
ガーデンパーティーの会場を抜けて、庭の奥の方にある温室へと移動する。
ここは王族とそれに連なる者専用の温室だから、婚約破棄されたアレッタがここに来れるのも最後だろう。
来られなくなる前にどうしてもあの子達に会っておきたい。
心を許せる人がいない中で優しくしてくれたあの子達に、せめてお別れを伝えたい。
温室に入るとホッとする。ここにはほとんど誰も来ない、ここでならアレッタは素の自分を出すことができた。
咲き誇る色とりどりの花の間を抜けて、ひときわ綺麗な花のオブジェとベンチがある空間に歩を進める。
ベンチに座ると、ふわりふわりと花の間から妖精が姿を現した。
「アレッタ、こんにちは!」
「今日は私達に会いにきてくれたの?」
「そうなんでしょアレッタ、久しぶりねー!」
華やかなオレンジ色の髪の、三つ子みたいに似ている妖精がアレッタの前に次々とやってくる。
「マリー、リリー、ポピー! 久しぶり!」
アレッタは先程までの固い表情を一変させ、笑顔になった。
アレッタはやっぱりそうなったかという思いでいっぱいだった。
最近、カロリーナ様をいつも連れ歩いていたものね。
テオドール殿下に腰を抱かれたカロリーナ様は、アレッタを見ておろおろしている。なぜあなたがそんなに焦っているの?
ガーデンパーティーに呼び出されたテオドール殿下のお友達の方々は、みんなこうなることを知っていたみたい。せせら笑う声が背後から聞こえた。
アレッタはなるべく動揺が声に出ないように気をつけながら答えた。
「そうですか。このことは陛下や父は了承されているのですか?」
「陛下には認められた。お前の父親にも、婚約破棄すると書いた陛下直筆の書状が届くように既に手配してある」
アレッタの目の前が暗くなる。
あんなに苦手な社交をがんばって、妖精さんと会うのもなるべく我慢して王家に連なる者として恥じないよう、たくさん勉強したのに。
あの努力は全て無駄になってしまったのね。
「カロリーナは侯爵家の娘のお前と違って公爵家生まれだしな。お前の父から是非にと言われて婚約者にしてやったが、カロリーナの方がどう考えても王族の一員として相応しいだろう」
「テオ殿下、そんなにハッキリ口にされてはアレッタ様が傷ついてしまいますわ」
テオドールにぴったりとはりついたカロリーナが、口先だけでアレッタを気遣う。
「カロリーナは優しいな。しかしこんな陰気な女に気を遣わなくてもいいんだぞ? 美しいだけでなく優しいなんて、俺の婚約者は素晴らしいな」
「まあ、テオ殿下ったら」
カロリーナはかわいらしく頬を染めた。輝く金の髪に澄んだ青の瞳は、明るい茶色の髪と落ち着いた印象のグリーンの瞳のアレッタとは全然違う。
ピンク色のドレスも、ふんわりとしたフリルがたっぷり縫いつけられている最新の流行の型だった。カロリーナの人形のように可愛らしい容姿に恐ろしく似合ってる。
アレッタにはこんな可愛らしいドレスは着こなせる自信がない。
テオドール殿下は私のことを、陰気で地味な女っていつも罵っていたものね。こういう女らしくてキラキラした方がお好みだったのね。
銀の髪と金の髪の二人が寄り添っていると、そこだけ光の妖精が舞い降りたかのように見えた。
周りのみんなも同じように思ったのか、口々に二人がお似合いだと褒め称える。
「テオドール様はご自身に相応しい方を見つけられたようだな」
「カロリーナ嬢は王太子后のシルビア様になんとなく似ているな、守ってさしあげたくなる」
男性陣が口々にカロリーナを褒める。カロリーナの愛らしい容姿は男性受けがいいようだ。
王都で慣れない社交をがんばって、少しは仲良くなれたと思っていた伯爵家のご令嬢もこのパーティーに参加していた。アレッタを見て目を細め噂している。
「それに比べてアレッタ様の見た目もドレスのセンスも地味ですこと。いくら妖精が見える瞳をお持ちになっているからって、社交のひとつも満足にこなせないようですから第二王子の婚約者にはふさわしくありませんわよね」
「そうよねえ。妖精の瞳の持ち主だからってもてはやされた時代は終わりましたのよ。妖精の魔法なんて気まぐれだし的外れな時もあって、なんの役にも立たないことも多いらしいですし」
どっと笑い声が上がる。アレッタはキュッと唇を噛み締めた。
私のことを馬鹿にするのは構わないわ。でも妖精さんを馬鹿にしないで!
そう言ってもさらに笑いを誘うだけだとわかっているから、唇を引き結んで嘲笑に耐えた。
「そういう訳だからアレッタ、役立たずのお前との縁はこれっきりだ。俺はカロリーナを友に紹介するのでもうお前に構っている暇はない、さっさと田舎の領地でもどこへなりとでも去るがいい」
「あ、待ってテオ殿下、私アレッタ様とお話したいことがあるんです。アレッタ様~?」
アレッタはカロリーナの甘えるような声を振りきり、ガーデンパーティーの会場から抜けだした。
もう一秒だってこんなところにいたくない。ここで王子に時間を割くより早く妖精さんに会いたい。
焦っていたせいで誰かとぶつかり、その拍子に飲み物がアレッタのドレスの足元にかけられた。紅茶の茶色っぽいシミがドレスにじっとりと染みこむ。
「あっ」
「失礼、ドレスに飲み物がかかってしまった。だがまあ枯草色のドレスだし、目立たなくていいな」
「はははっ、地味なドレスを着ていてよかったなアレッタ嬢」
殿下の取り巻きがアレッタの地味さをバカにして笑った。アレッタは無視してすり抜ける。
ここで何を言ってもテオドール殿下に馬鹿にされて終わりだから。
ガーデンパーティーの会場を抜けて、庭の奥の方にある温室へと移動する。
ここは王族とそれに連なる者専用の温室だから、婚約破棄されたアレッタがここに来れるのも最後だろう。
来られなくなる前にどうしてもあの子達に会っておきたい。
心を許せる人がいない中で優しくしてくれたあの子達に、せめてお別れを伝えたい。
温室に入るとホッとする。ここにはほとんど誰も来ない、ここでならアレッタは素の自分を出すことができた。
咲き誇る色とりどりの花の間を抜けて、ひときわ綺麗な花のオブジェとベンチがある空間に歩を進める。
ベンチに座ると、ふわりふわりと花の間から妖精が姿を現した。
「アレッタ、こんにちは!」
「今日は私達に会いにきてくれたの?」
「そうなんでしょアレッタ、久しぶりねー!」
華やかなオレンジ色の髪の、三つ子みたいに似ている妖精がアレッタの前に次々とやってくる。
「マリー、リリー、ポピー! 久しぶり!」
アレッタは先程までの固い表情を一変させ、笑顔になった。
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