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「童貞乙」
思わず振り向いた。隣のクラスの男子が、もう一人の男子をからかっている。
「なんだ、よかった……」
俺の話じゃなかったのか。ついドキリとしてしまった。先日初めてできた彼女に、何もできないまま振られたばかりだったから。
千草くんって、一緒にいても楽しくないよね……元カノの言葉を思いだしてうつむくと、背後から衝撃があった。
「なーに暗い顔してんの?」
「翔也!」
友達の荻窪翔也が声をかけてきた。クラスの中でもモテる方である陽キャの翔也は、明るく染めた髪にピアスをしている。
黒髪で可もなく不可もないモブ顔の俺とは、趣味が一緒で仲良くなった。
コミュ障を患っている俺にとっては、貴重なソシャゲ仲間の一人だ。
「あれ、今日は彼女と一緒じゃないのか?」
「……」
「どした?」
「フラれた……」
「お、マジか。ご愁傷様ー」
軽い雰囲気で翔也が肩を叩いてきた。他人事だと思って……俺は、本気でショックなのに。
「こういう時は気晴らしするに限るって! な、今日こそは俺ん家に寄ってけよ。一緒にイベントボスを倒そうぜ」
「そんな気分じゃない……」
「まあまあまあ、いいから行こうぜ」
翔也は俺の背を押して、放課後の高校から抜けだす。翔也の家は学校から近いと聞いていたが、まだ一度も行ったことはない。
たった五分も歩かないうちに着いた一戸建てを見上げて呆然としていると、鍵を開けた翔也に入れよと呼ばれる。
「俺ん家、今日親いないから。気楽にしてろよ」
「そうなんだ……お邪魔します」
翔也は後ろ手に玄関の鍵をかけて、自分の部屋へと俺を案内する。
「千草、牛乳と紅茶と麦茶だったらどれ飲みたい?」
「紅茶」
「おっけ。適当に座って、漫画でも読みながら待ってて」
翔也の部屋は片づいていた。全体的に青と濃紺でまとめられた、クールな印象の部屋だ。
ゲーミングパソコンがドンと部屋の端に居座り、本棚には使わなくなった教科書と一緒に、漫画がたっぷり収納されている。
ベッドの横にローテーブルがあり、クッションが床に二つ置いてあった。
そのうちの一つに座って、巨人に立ち向かう漫画を読みはじめる。
読み始めたはいいものの、絵とふきだしのセリフに意識が向かない。脳裏をよぎるのは元カノのことばかり。
綺麗な薄茶に染めた髪、垂れ目で庇護欲をさそう瞳が印象的な、神崎百合香ちゃん……
告白してつきあってもらえた時は有頂天だったのに、まさかの二週間でどん底の気分を味わうなんて予想していなかった。
「うう、神崎さん……」
せめて名前を呼べるような関係になりたかった。できればそれ以上、キスとか触りあいっことかエッチも……したかったなあ。
嘆いていると、階下からお茶のおぼんを持った翔也が戻ってきた。
思わず振り向いた。隣のクラスの男子が、もう一人の男子をからかっている。
「なんだ、よかった……」
俺の話じゃなかったのか。ついドキリとしてしまった。先日初めてできた彼女に、何もできないまま振られたばかりだったから。
千草くんって、一緒にいても楽しくないよね……元カノの言葉を思いだしてうつむくと、背後から衝撃があった。
「なーに暗い顔してんの?」
「翔也!」
友達の荻窪翔也が声をかけてきた。クラスの中でもモテる方である陽キャの翔也は、明るく染めた髪にピアスをしている。
黒髪で可もなく不可もないモブ顔の俺とは、趣味が一緒で仲良くなった。
コミュ障を患っている俺にとっては、貴重なソシャゲ仲間の一人だ。
「あれ、今日は彼女と一緒じゃないのか?」
「……」
「どした?」
「フラれた……」
「お、マジか。ご愁傷様ー」
軽い雰囲気で翔也が肩を叩いてきた。他人事だと思って……俺は、本気でショックなのに。
「こういう時は気晴らしするに限るって! な、今日こそは俺ん家に寄ってけよ。一緒にイベントボスを倒そうぜ」
「そんな気分じゃない……」
「まあまあまあ、いいから行こうぜ」
翔也は俺の背を押して、放課後の高校から抜けだす。翔也の家は学校から近いと聞いていたが、まだ一度も行ったことはない。
たった五分も歩かないうちに着いた一戸建てを見上げて呆然としていると、鍵を開けた翔也に入れよと呼ばれる。
「俺ん家、今日親いないから。気楽にしてろよ」
「そうなんだ……お邪魔します」
翔也は後ろ手に玄関の鍵をかけて、自分の部屋へと俺を案内する。
「千草、牛乳と紅茶と麦茶だったらどれ飲みたい?」
「紅茶」
「おっけ。適当に座って、漫画でも読みながら待ってて」
翔也の部屋は片づいていた。全体的に青と濃紺でまとめられた、クールな印象の部屋だ。
ゲーミングパソコンがドンと部屋の端に居座り、本棚には使わなくなった教科書と一緒に、漫画がたっぷり収納されている。
ベッドの横にローテーブルがあり、クッションが床に二つ置いてあった。
そのうちの一つに座って、巨人に立ち向かう漫画を読みはじめる。
読み始めたはいいものの、絵とふきだしのセリフに意識が向かない。脳裏をよぎるのは元カノのことばかり。
綺麗な薄茶に染めた髪、垂れ目で庇護欲をさそう瞳が印象的な、神崎百合香ちゃん……
告白してつきあってもらえた時は有頂天だったのに、まさかの二週間でどん底の気分を味わうなんて予想していなかった。
「うう、神崎さん……」
せめて名前を呼べるような関係になりたかった。できればそれ以上、キスとか触りあいっことかエッチも……したかったなあ。
嘆いていると、階下からお茶のおぼんを持った翔也が戻ってきた。
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