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 進むにつれて暗く見えづらくなりはじめた通路に、俺は舌打ちを隠せなかった。

 カンテラを持ってきてたのに、こんなに空気が湿っていたら上手く火をつけられない。

 最初から暗ければ、カンテラに火を灯してから行ったのに……今更後悔しても後の祭りだ。

「キーファ、ちゃんとついてきてるか?」
「大丈夫だロイド……でもこれ、そろそろヤバくないか? 引き返すのも手だぞ」
「そうだよな……なんも見えねえし」

 視界が悪い中進むために、壁に手をついて歩いているので、手のひらにねっとりとした液体がついて気持ち悪い。

 やはりそう上手くダンジョン踏破とはいかねえか……ひき返そうかと頭によぎったその時だった。

「あれ? おいキーファ、あそこ……なんか光ってねえか?」
「どれどれ? んー……おお、たしかにそうかも」

 小部屋の奥にキラキラと光を発する何かがある。金色に見える気がするが、もしかしてお宝だろうか?

 むくりと物欲が頭をもたげて、俺はキーファを促した。

「よし、あれだけ手に入れてから帰ろう」
「……まあ、妥当なとこだな。そうするか」

 俺よりも頭の回るキーファの許可を得たので、意気揚々と小部屋につっこんでいく。

 モンスターの類は、小動物的な弱っちいのしか出てないので、少し油断していたかもしれない。

 キーファと二人で部屋に入ると、背後から扉の閉まる音が聞こえた。

「んなっ!?」
「チッ、罠部屋か! くっ、開けよ!!」

 キーファが急いで踵を返して扉を開けようとするが、びくともしない。俺も手をかけてみたが、壁に縫いつけられたかのように離れなかった。

「ダメだ、びくともしねえ」
「……出る方法を探そう。こういうダンジョンの罠部屋は、出るための条件を満たせば脱出できることが多い」
「そうか、じゃあ探してみよう」

 キーファと二人で身を寄せあいながら、真っ暗闇の中を手探りで奥に向かう。

 先ほどキラめいていた物の側に近づいてみると、その全容が見えてきた。

 ……それは、無数の触手を持つモンスターだった。キラキラしているのは、透けて見える体の内部に、光る成分が含まれているからのようだ。

「こいつ……! モンスターだ、気をつけろキーファ!」
「わかった! ロイド、倒せそうか!?」
「わかんねえ! でもやるっきゃねえ!!」

 俺が剣に手をかけると、すかさず触手が伸びてきた。暗闇で距離感がつかめなかったせいか、簡単に腕を捕らえられてしまう。

「うっ、やめろ! 離せ!」
「ロイド!」

 キーファもすかさず弓を構えたようだが、彼にも触手が襲いかかったようだ。

「くそっ、弓を奪われた!」
「なんだって!?」

 すわ絶対絶命のピンチかと頭に過ぎる。こんなところで終わるだなんて、そんなの認められねえよ!

 無茶苦茶に腕を振り回そうとするが、触手の腕は力強く、ろくに動かせない。

「うっ!?」
「うわっ! ぐっ……!」

 触手からチクリと針をぶっ刺された。そこから何かを血管内に注ぎこまれている。ふざけんじゃねえ、今すぐやめてくれ……!

「や、嫌だ! なんだ……!?」
「うぅ……体が、熱い……!」

 カッと首から上が逆上せて、妙に熱くなる。胸の鼓動がドクドクと早まって、頭がクラクラした。声から察するに、キーファも同じようなことをされてるっぽい。

 そして、どこからともなく頭の中に声が響いてきた。女とも男ともつかないが、艶やかで色っぽい声だ。

『勇敢な冒険者達よ……その鍛え抜かれた肉体を存分に使い、まぐわうのです……私が満足すれば、この部屋から解放して差し上げましょう……』

 声が終わると同時に、しゅるりと触手が離れていく。光っていたはずのモンスターの体も、暗闇に紛れて見えなくなる。
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