オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで

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愛の告白と賭けの提案

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 心配させてしまったと心苦しくなっていると、彼は強い眼差しで白露の双黒の瞳を見据える。

「白露、聞かせてくれ。まさか他に番いたい相手ができたのか?」
「そんな人いないよ!」
「だったらなぜ、私に別のオメガと番えなどと言うのだ。私は白露以外の人を番に迎える気はさらさらないよ。白露だけだ、私の心をこんなにもかき乱すのは」

 琉麒の想いを聞いて嬉しいと騒ぎだす気持ちを無理矢理押し込めて、自分の考えを口にする。

「僕は出来損ないのオメガだから、琉麒が望むように赤ちゃんを産んであげることができない……きっと違うオメガと番う方が、幸せになれると思ったんだ」

 白露の言葉を受けて、琉麒は苦しげに眉を潜める。絞り出すように言葉を発した。

「君は私が子孫欲しさに君と番いたいのだろうと、そう思っているのか?」

 そういえば、琉麒の口から直接子どもを産んでほしいと聞いたことはないような気がする。

 宇天は麒麟獣人の子どもを産みたいと言っていたし、秀兎からはアルファ華族に嫁いだオメガは子どもを産むのが仕事だと一般論を教えられた。

 最初の触れ合いでも子を成すだとかそんな話題が出たから、そのせいで当然琉麒も子どもを望んでいるのだろうと勘違いしたのかもしれない……

 恐る恐る琉麒の表情をうかがうと、彼は自重するようにフッと苦笑した。

「確かに、出会った当初はその想いが強かった。私は皇帝の地位を継いだ者として、子孫を残す責任がある。そう考えて番探しをしていたからな」

 やっぱり子どもを産んでほしいと思っているのかと泣きそうな気分になっていると、琉麒は白露に言い聞かせるように頬に手を添えながら話を続けた。

「けれど、実際に君と出会ってからは義務感など吹き飛んでしまった。早く君を番にしたい、繋がりたいとそればかりが頭を占拠して、何も知らない君に無理を強いてしまったね」
「無理だなんて! 違うよ、びっくりしたけど嫌じゃなかったんだ」

 琉麒はホッとしたように口元を緩めると、柔らかな手つきで白露を抱きしめる。

「側にいてくれ、白露。例え番になれなくても、子どもが産めなくても、君のことを想う気持ちは変わらない。愛しているんだ」
「琉、麒……」

 喉がつっかえて上手く応えられない。彼の言葉は白露の胸の奥底にまで響いて、身体中が歓喜に震えだす。

 嬉しくて愛しくて、どうにかなってしまいそうだ。皇帝の番として失格である自分が、彼の申し出を真に受けてしまってもいいのだろうか。

(琉麒のためには、離れた方がいいのかもしれない……でも)

 側にいてほしいと懇願されて、白露もそうしたいと心から願ってしまった。琉麒の肩に手を回して彼の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、もう二度と離れたくないと思ってしまう。

「こんな僕でも、いいの?」
「君がいいんだ。白露」
「だって、番になれないんだよ?」

 今は番になれなくてもいい、子どももいらないとそう思っていたとしても、将来後悔する日が来るかもしれない。琉麒に辛い思いをさせたくないと、白露は肩口に顔を擦りつけた。

「あくまでもそこが気になるのか……そうであれば、一つ提案がある」
「なに?」

 白露が顔を上げると、琉麒は文机の上に積まれた書簡に目線を当てていた。

「君がいなくなった後、拐われた線と自主的に出ていった線と、両方を踏まえて調査をした。自主的に出ていったなら、気にしているのは体質のはずだと思った」

 当たっていると頷くと、彼は少しだけ微笑む。

「あ、でも拐われたのも本当なんだ」
「なんだって?」

 葉家の所業を告げると、琉麒はすぐさま手紙を書きつけ部屋の外に使用人を呼んだ。すぐに用事を済ませて、部屋へと戻ってくる。

「話の途中だったね。そう、過去の特殊オメガ資料やパンダ獣人の生態を参考にしながら、夜通し考えていたんだ。そうしたら、気になる記述を見つけてね」
「気になる記述?」
「過去にはどうやら、頸を噛まれることで初めて発情期を迎えたオメガがいたらしいんだ。本来は発情期を迎えていないオメガを噛むと、後に後遺症が発生したり上手く番が成立しないことがあると聞いているから、存在は知りつつも白露には伝えていなかったのだが」

 琉麒は白露の顔に視線を戻して、頸に指先を這わせた。

「白露がどうしても私と番になることにこだわるのであれば、賭けになるが試してみるか?」

 心配そうに告げる琉麒からは、白露をがっかりさせたくないという配慮の気持ちが滲み出ているように見えた。試したからといって必ず番になれるとは限らないし、それどころか後遺症が発生する可能性があるのを危険視しているのだろう。

 それでも構わなかった。琉麒と番になれる可能性が少しでもあるなら、白露は迷わずにその道を選ぶ。

 青玻璃の瞳を見据えて宣言した。

「僕の頸を噛んで、琉麒」

 琉麒が好きだ。ずっと一緒にいたい、そのための権利がほしい。だって白露には琉麒の隣で胸を張って立てるだけの教養も芸事の腕も、番だという立場も何もかもがないのだ。

 甘やかされているだけじゃなくて、琉麒のために何かしたい。そのためなら多少怖くたって乗り越えられる。

 決意の宿った黒い瞳を見つめた琉麒は、スッと形のいい目を細めると白露の頸に顔を寄せた。
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