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ゆっくりやっていこう

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 一生懸命考えて、白露はやっと琉麒がしてほしそうなことを思いついた。顔から火が出そうになりながらも、勇気を出して口を開く。

「あ、あの! 僕、閨事をもっと頑張るよ」
「突然なにを言い出すんだ、白露」
「ひゃっ」

 琉麒は白露を膝抱きにして運び寝台の端に下ろすと、素足を手にとり足の甲へと口づけた。

「な、なななにを!」

 足を引っ込めて胸の前で膝を抱えると、琉麒は悪戯っぽく微笑む。

「これしきのことで真っ赤になっているのだから、無理をしなくていい」
「でも……」

 だったら他に、なにができるというのだろう。琉麒のために何かしたい、彼を幸せにしたいのに、どうすればいいのかわからなかった。

 瞳を伏せると、琉麒は白露の隣に腰かけて竹細工を持っていないほうの手を取る。

「私は急ぎすぎていたように思う。白露、君の身体が大人になるのを待つよ。ゆっくりやっていこう」
「え、だってそんな……僕が番になれないと、色々と困るんじゃないの?」
「問題ない。周囲はなにかと煩く言ってくるかもしれないが、そのような意見に構わなくてよい。私は白露のゆったりとした雰囲気が好きだよ。君はそのままでいいんだ」
「そう、かな……」
「ああ。とても癒される。君の歌声も好きだ、遥か昔に母の腕に抱かれていた時のような安らかな気分になれる」
「琉麒のお母さんって」

 今まで気にしたことはなかったけれど、皇城内にいるのだろうか。だとすると挨拶しにいくべきなのではと内心冷や汗をかいていると、琉麒はことも無さげに告げた。

「元皇帝と共に南の領地で暮らしている。番が見つかったと書状は出したから、そのうち会いに来るだろう。その時は挨拶してやってくれ」

 実際にご両親と会う日までに発情期が来ていなかったらどうしようと脳裏によぎったが、琉麒は気にしないと言ってくれているのだからいつまでもうじうじしているのは違う気がした。コクリと頷く。

「わかった」
「さて、わかってくれたなら私の望みをもう一度伝えてもいいかな」
「そんなに竹細工を編むところを見たいの? 別に面白くもなんともないよ?」
「ああ、見てみたい。白露が私を想って編んでくれるのかと思うと、いつまでも見ていたくなる」
「そんな……」

 せっかく頬の熱が引いてきていたのに、また赤くなってしまっただろう。琉麒は白露を見つめながら目を細めて微笑む。視線から逃げるようにして、白露は寝台から降りて竹細工を床に置いた。

「そこまで見たいと言ってくれるなら、作るよ」

 竹ひごを中心から順に巻きつけ、竹骨の間を隙間なく埋めていく。琉麒も寝台から降りて、しゃがみ込みながら竹カゴが大きくなっていく様を見つめてくる。

 美しく丈夫に編むことを意識しながら、心を込めて編んだ。部屋の中には竹が擦れる乾いた音がカサカサ、シュッと響いている。

 琉麒がカゴを使う時に手に引っかからないように、長く使えるようにと工夫しながら編んだ。新しい竹ひごを手にとり、竹骨を折り曲げてカゴの形に整えていく。

 色あいを変えて模様を作りながら、黙々と手を動かし続ける。

 カゴ部分が編み上がったら、余った竹骨を切り取り縁を作ってカゴに編み込み糸で結ぶ。一通り仕上がりを確認してから立ち上がった。

「できた」
「どれ、見せてくれないか」
「え、あ」

 さっきまで素足で触っていた物を、琉麒は躊躇なく取り上げてしまう。本当に気にしていないようだ。白露の方が不敬ではないかとそわそわしてしまった。

「竹細工とはこのようにして作る物なのだな。素朴な美しさがある」
「あ、ありがとう」

 竹かごをひっくり返したり指先でなぞったりした後、琉麒は胸の前に竹かごを抱えてしまった。

「このままもらっていいだろうか」
「ちょっと待って」

 さすがにそのまま渡すには抵抗感がありすぎるため、清潔な布で全体を拭きとった。

 丁寧に心を込めて作ったから、いつも以上にいい物ができたと思う。ためらいながらも手渡すと、彼は目を細めて微笑みながら竹かごを両手で受けとった。

「ありがとう、白露。執務室に置かせてもらうよ。そうすれば君が側にいない時も存在を感じられる」
「ええ、そんな……いいの?」

 皇帝に庶民の使う竹かごなど持たせたのは誰だと、責められたりしないだろうか。琉麒は力強く首を縦に振った。

「誰にも文句など言わせるものか。この際、皇帝の番が竹細工を愛用しているからと流行らせてしまえばいい」
「でも僕は、まだ正式な番じゃないから」
「ああ、今すぐにできないのが残念だ。白露にはこんな素晴らしい特技があるのだと、皆に知らしめたいのに」

 それはさすがに知られたくない。制作風景を見せたら琉麒以外の華族獣人は絶対に引くだろう。

 けれど竹細工の魅力を知ってもらえると想像したら、口元が自然と綻んだ。

「軽くて持ち運びやすいし、それに長持ちするんだ。出来立ては竹のいい香りが残ってるんだよ。みんなに竹のいいところを知ってもらえるのは嬉しいな」
「ああ、いつか必ず実現させよう」

 琉麒が口にすると夢物語ではなく、いつか本当に叶うことのように思える。

 白露が番として認められるように、竹細工も認められたらいいなと、琉麒と同じ夢を見たくなった。
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