オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで

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手作りの竹皿

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 ここは里で暮らしていた環境とは違いすぎて、なにをするにしても勝手が違う。少しずつ慣れていくしかないのはわかっているけれど、どうしても足元が落ち着かない。

 この後追いかけて彼に会いにいこうかと考えた時に、身体の異変に気づいた。

「……ん」

 なんだか怠い気がする。風邪を引きそうになっているせいかもしれないと思い、急いで体を拭いて寝衣を身につけた。

 琉麒に甘噛みされたところが熱く感じて、手のひらで押さえながら寝台に横になる。さっき気をやったばかりだというのに、下腹部が疼くような心地がした。

(なんだろう……発情期が近いのかな)

 そうだったらいいなと願いながら、無理矢理目を閉じる。疲れていた白露はすぐに寝入ってしまった。茉莉花の匂いだけが、部屋の中に満ちていた。

*****

 次の日の朝も琉麒は部屋に帰っていなかったようだ。会いにいきたいけれど、仕事の邪魔はしたくない。

 発情期が来たんじゃないかと期待したが、朝起きた時にムラムラしたりしなかったし体の怠さも治まっていた。ガッカリした気分を誤魔化すようにして、白露は勉強に打ち込んだ。

 午前中に書物と睨めっこしていたせいか、目の奥がジンジン痛む。魅音から午後は息抜きをしたらどうですかと提案されたので、竹林に向かうことにした。

(そうだ。竹皿が確か、まだ一枚余っていたような)

 荷物の底をごそごそと漁り、竹皿を引っ張りだす。宇天に会えたらいろいろ教えてもらえたお礼に受けとってほしいなと思い、持っていくことにした。

(宇天はよく竹林にいるって聞いてるから、きっと竹が好きなはず)

 喜んでもらえたら嬉しいと、頬を緩める。竹皿を布で丁寧に包んだ。

「魅音、竹林に行くからついてきてくれる?」
「……かしこまりました」

 魅音は不安げに眉根を寄せているけれど、なにをそんなに心配することがあるのだろう。首を傾げながら魅音と護衛を連れて茶室の側まで向かう。

 すると雲まで突き抜けるような鮮やかな和音が耳に飛び込んできた。音の発生源には笙を口元に構えた白髪のテン獣人がいる。

「わあ、すごい……」

 宇天が抱えられるくらいの大きさの楽器なのに、どこからあんなに大きな音が出るんだろう。典雅な音色を響かせていた宇天は白露の姿を見つけると、演奏を止めて楽器を小脇に抱えて手を振る。

「やあ、来たんだね」
「お邪魔して大丈夫だった?」
「別にいいよ。そろそろ練習をやめて帰ろうかと思っていたところさ」
「それなら間に合ってよかった。また会えて嬉しいよ」

 目をパチクリさせた宇天は、照れたようにそっぽを向く。

「ボクは会えなくてもどっちでもよかったけどね。よかったね白露、ボクに会えて」
「うん」

 白露が素直に肯定すると、宇天は頬を桃色に染めて眉根を寄せた。

(照れてるのかな、かわいいなあ)

 ニコニコしながら見守っていると、宇天は誤魔化すように咳払いをして話題を変えた。

「んんっ、ところでボクに会いたかったってことは、なにか用事でもあるの?」
「ううん、単純にまたお話してみたかっただけなんだけれど」
「ふうん。まあ、ちょっとくらいならつきあってあげてもいいよ。座れば?」

 竹製の長椅子に腰掛けた白露はさっそく布を解いて、隣に座る宇天に竹皿を差し出した。

「はい、これあげる」
「なにこれ」

 宇天は竹皿の端を指先でつまみ上げながら、首を傾げて眉をひそめた。

「竹皿だよ、見たことない?」
「竹? ええ、これ竹でできてるの?」

 宇天はぽいっと白露に皿を投げ返した。困惑しながらも慌てて受け取る。

「宇天?」
「いらない。竹皿なんて、庶民が使うものじゃないか」
「あ……」
「あのね、ボクがそんなものもらって喜ぶと思った? ボクがもらって嬉しいのは宝玉に絹、金銀細工と伽羅のお香だから。まったく、覚えておいてよね」

 華族は竹皿なんてみすぼらしい物を使わないらしい。白露はしゅんと肩を落とす。

「ごめん」
「……別に。ボクを馬鹿にしたわけじゃないんでしょ? だったらいいよ、次から贈り物をくれる時はちゃんとボクの好みを反映してよね」
「わかった」

 喜んでもらうつもりが、呆れさせてしまった。うつむいて反省していると、宇天は何度か白露と竹林に忙しなく視線を往復させてから、上擦った声で話しだした。

「ところで、今日の首輪はなかなか素敵だね。この前のよりも似合ってるよ」
「ありがとう。婚約者……が、くれたんだ」

 琉麒のことを婚約者だと言っていいものか一瞬迷ったが、そのような関係であっているはずだと思い、そう口にしてみた。宇天は検分するようにまじまじと白露の首輪に顔を寄せる。

「この色、ボクの好きな人の目の色とそっくりだ」
「えっ、そうなの? 偶然だね」
「こんなに綺麗な青色の瞳をした華族はなかなかいないよ? それにこの首輪の色も、麒麟角の色そのもの……」

 ドキッと胸が変な音を立てた。

「ねえ、ひょっとしてキミの番って皇帝様だったりしないよね?」

 白露は喉まで肯定の言葉が出かかったが、すんでのところで言葉を飲み込んだ。危ない、まだ正式にお披露目できないって言われているんだった。
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