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昨日の報告
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ヒバリの声が聞こえて、パチリと目を覚ます。目の前に黄金の川が流れているように見えて、目をパチクリと瞬かせながら上の方に視線をやると、世にも美しい美貌の持ち主と目があった。
「おはよう白露、よく眠れたか?」
「琉麒……! おはよう、たくさん寝たよ」
頬杖をついて白露を見下ろす琉麒は朝の光に照らされて、神々しさを感じるくらいに美しかった。朝の日差しを受けて輝く玻璃の瞳を見つめ返し、目の下の隈が復活しているのを発見する。
「あれ、琉麒は寝たの?」
「いや、昨晩は眠っていない」
「なんで⁉︎ ちゃんと寝ないと体に悪いよ?」
驚愕に身を起こした白露を宥めるように、琉麒の大きな手のひらが肩を撫で下ろした。
「どうしても白露と触れあえる時間を作りたかったから、昨夜のうちに必要な仕事を前倒しで片付けたんだ」
「そんな……無理しないで、今夜はちゃんと寝よう?」
「できるように工夫してみよう」
約束はできないのか、琉麒は苦笑しながら言葉を濁す。
(僕にも何か手伝えることがあればよかったのに)
昨日半日文字を覚えようとしただけでは、仕事をするのに必要な知識量として全然足りないだろう。せめて今夜は琉麒に子守唄を歌って、しっかり睡眠をとってもらいたい。
琉麒は白露の心配などつゆ知らず、華やかな笑顔を見せた。
「白露、おいで」
白露のことを心から想っていると伝わってくるような笑みに、キュンと心が鷲掴みにされて腕の中に飛び込む。
抱きこまれて髪を撫でられると、逸る気持ちが穏やかに凪いでいくのを感じた。琉麒の穏やかな声音が白露のパンダ耳を優しく撫でていく。
「君の話を聞かせて。昨日は昼餉の後どう過ごしたんだ?」
「あの後は、琉麒からもらった香を早速焚いたんだ」
「茉莉花の香か、気に入っただろうか?」
「いい匂いだったよ。でも僕は琉麒の匂いの方が好き」
「っ、そうか」
琉麒は突然白露をぎゅっと抱きしめた。なんで急に力強く抱きしめられたんだろうと思いながらも、彼の魅惑的な香りがふわんと香り幸福な気持ちになる。
「その後は笹を食べたくなったんだけど、手持ちの葉っぱが枯れちゃってたから竹林に出かけたんだ。そうしたら、宇天っていう名前のかわいい男の子に会ってね」
「宇天? ああ、葉家の子息か」
「知り合いなの?」
「知り合い……そうだな。互いに知ってはいる」
琉麒は言いづらそうに顔を背けた。なんだか気になる反応だけれど、聞いて白露にわかることだろうか。一瞬ためらった後でどういう知り合いなのか聞き返そうとすると、先に琉麒が話しはじめた。
「それで、その者がどうかしたのか?」
「華族の常識とか、オメガについて色々と教えてくれたんだ。面白い子だったからまた会えるといいな」
琉麒は考えるように数秒黙りこみ、白露の顔を気遣わしげに見つめる。
「白露、あまり彼とは会わない方がいいかもしれない」
「なんで?」
「将来的に決裂する未来が私には見える……そもそも話があわないと思う」
「そんなことないよ、楽しく過ごせたしいい子だった。どうしてそんなことを言うの?」
せっかく友達になれそうな子と知り合えたのに、色々教えてくれる親切な彼とこのまま会えなくなるのは嫌だった。
それにいつも竹林にいると言っていたから、茶室の側に通えば必然的に彼とも遭遇することになる。新鮮で採りたての笹が食べられなくなるのは嫌だ。
眉をハの字にしながら詰め寄ると、琉麒は流麗な眉根を寄せる。
「なんと言えば理解してもらえるのか……うん、そうだな」
琉麒は白露の真っ直ぐな髪の毛先を弄びながら遠くに視線をやり、また白露の顔に焦点を戻した。
「君は私の仕事を手伝いたいと思ってくれているんだったね」
「そうだよ、手伝いたい! 今はまだ無理そうだけど」
白露が呑気に寝ている間に、琉麒一人がこんなにも目の下に隈を作るまで働いているなんておかしなことだ。
今夜は琉麒を子守唄で寝かせてから、遅くまで勉強しよう。琉麒を助けられるようになるには、まだまだ知識が必要だ。
白露が勉強を頑張る計画を立てていると、琉麒は黒髪から手を離した。
「そうであれば、これも経験か……いいよ、葉家の息子との交流を許可しよう。ただし、けして一人で会ってはならない。付き人と護衛付きで外出するように」
「わかった」
「笹も自由にしてくれ。白露一人が食べる分には問題ないだろう」
「わあ、ありがとう!」
宮庭に生えている竹笹は里の苦くてもったりした味とは違って、爽やかな風味があるんだよねえと、うっとり頬を緩める。
「おはよう白露、よく眠れたか?」
「琉麒……! おはよう、たくさん寝たよ」
頬杖をついて白露を見下ろす琉麒は朝の光に照らされて、神々しさを感じるくらいに美しかった。朝の日差しを受けて輝く玻璃の瞳を見つめ返し、目の下の隈が復活しているのを発見する。
「あれ、琉麒は寝たの?」
「いや、昨晩は眠っていない」
「なんで⁉︎ ちゃんと寝ないと体に悪いよ?」
驚愕に身を起こした白露を宥めるように、琉麒の大きな手のひらが肩を撫で下ろした。
「どうしても白露と触れあえる時間を作りたかったから、昨夜のうちに必要な仕事を前倒しで片付けたんだ」
「そんな……無理しないで、今夜はちゃんと寝よう?」
「できるように工夫してみよう」
約束はできないのか、琉麒は苦笑しながら言葉を濁す。
(僕にも何か手伝えることがあればよかったのに)
昨日半日文字を覚えようとしただけでは、仕事をするのに必要な知識量として全然足りないだろう。せめて今夜は琉麒に子守唄を歌って、しっかり睡眠をとってもらいたい。
琉麒は白露の心配などつゆ知らず、華やかな笑顔を見せた。
「白露、おいで」
白露のことを心から想っていると伝わってくるような笑みに、キュンと心が鷲掴みにされて腕の中に飛び込む。
抱きこまれて髪を撫でられると、逸る気持ちが穏やかに凪いでいくのを感じた。琉麒の穏やかな声音が白露のパンダ耳を優しく撫でていく。
「君の話を聞かせて。昨日は昼餉の後どう過ごしたんだ?」
「あの後は、琉麒からもらった香を早速焚いたんだ」
「茉莉花の香か、気に入っただろうか?」
「いい匂いだったよ。でも僕は琉麒の匂いの方が好き」
「っ、そうか」
琉麒は突然白露をぎゅっと抱きしめた。なんで急に力強く抱きしめられたんだろうと思いながらも、彼の魅惑的な香りがふわんと香り幸福な気持ちになる。
「その後は笹を食べたくなったんだけど、手持ちの葉っぱが枯れちゃってたから竹林に出かけたんだ。そうしたら、宇天っていう名前のかわいい男の子に会ってね」
「宇天? ああ、葉家の子息か」
「知り合いなの?」
「知り合い……そうだな。互いに知ってはいる」
琉麒は言いづらそうに顔を背けた。なんだか気になる反応だけれど、聞いて白露にわかることだろうか。一瞬ためらった後でどういう知り合いなのか聞き返そうとすると、先に琉麒が話しはじめた。
「それで、その者がどうかしたのか?」
「華族の常識とか、オメガについて色々と教えてくれたんだ。面白い子だったからまた会えるといいな」
琉麒は考えるように数秒黙りこみ、白露の顔を気遣わしげに見つめる。
「白露、あまり彼とは会わない方がいいかもしれない」
「なんで?」
「将来的に決裂する未来が私には見える……そもそも話があわないと思う」
「そんなことないよ、楽しく過ごせたしいい子だった。どうしてそんなことを言うの?」
せっかく友達になれそうな子と知り合えたのに、色々教えてくれる親切な彼とこのまま会えなくなるのは嫌だった。
それにいつも竹林にいると言っていたから、茶室の側に通えば必然的に彼とも遭遇することになる。新鮮で採りたての笹が食べられなくなるのは嫌だ。
眉をハの字にしながら詰め寄ると、琉麒は流麗な眉根を寄せる。
「なんと言えば理解してもらえるのか……うん、そうだな」
琉麒は白露の真っ直ぐな髪の毛先を弄びながら遠くに視線をやり、また白露の顔に焦点を戻した。
「君は私の仕事を手伝いたいと思ってくれているんだったね」
「そうだよ、手伝いたい! 今はまだ無理そうだけど」
白露が呑気に寝ている間に、琉麒一人がこんなにも目の下に隈を作るまで働いているなんておかしなことだ。
今夜は琉麒を子守唄で寝かせてから、遅くまで勉強しよう。琉麒を助けられるようになるには、まだまだ知識が必要だ。
白露が勉強を頑張る計画を立てていると、琉麒は黒髪から手を離した。
「そうであれば、これも経験か……いいよ、葉家の息子との交流を許可しよう。ただし、けして一人で会ってはならない。付き人と護衛付きで外出するように」
「わかった」
「笹も自由にしてくれ。白露一人が食べる分には問題ないだろう」
「わあ、ありがとう!」
宮庭に生えている竹笹は里の苦くてもったりした味とは違って、爽やかな風味があるんだよねえと、うっとり頬を緩める。
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