オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
19 / 43

昨日の報告

しおりを挟む
 ヒバリの声が聞こえて、パチリと目を覚ます。目の前に黄金の川が流れているように見えて、目をパチクリと瞬かせながら上の方に視線をやると、世にも美しい美貌の持ち主と目があった。

「おはよう白露、よく眠れたか?」
「琉麒……! おはよう、たくさん寝たよ」

 頬杖をついて白露を見下ろす琉麒は朝の光に照らされて、神々しさを感じるくらいに美しかった。朝の日差しを受けて輝く玻璃の瞳を見つめ返し、目の下の隈が復活しているのを発見する。

「あれ、琉麒は寝たの?」
「いや、昨晩は眠っていない」
「なんで⁉︎ ちゃんと寝ないと体に悪いよ?」

 驚愕に身を起こした白露を宥めるように、琉麒の大きな手のひらが肩を撫で下ろした。

「どうしても白露と触れあえる時間を作りたかったから、昨夜のうちに必要な仕事を前倒しで片付けたんだ」
「そんな……無理しないで、今夜はちゃんと寝よう?」
「できるように工夫してみよう」

 約束はできないのか、琉麒は苦笑しながら言葉を濁す。

(僕にも何か手伝えることがあればよかったのに)

 昨日半日文字を覚えようとしただけでは、仕事をするのに必要な知識量として全然足りないだろう。せめて今夜は琉麒に子守唄を歌って、しっかり睡眠をとってもらいたい。

 琉麒は白露の心配などつゆ知らず、華やかな笑顔を見せた。

「白露、おいで」

 白露のことを心から想っていると伝わってくるような笑みに、キュンと心が鷲掴みにされて腕の中に飛び込む。

 抱きこまれて髪を撫でられると、逸る気持ちが穏やかに凪いでいくのを感じた。琉麒の穏やかな声音が白露のパンダ耳を優しく撫でていく。

「君の話を聞かせて。昨日は昼餉の後どう過ごしたんだ?」
「あの後は、琉麒からもらった香を早速焚いたんだ」
「茉莉花の香か、気に入っただろうか?」
「いい匂いだったよ。でも僕は琉麒の匂いの方が好き」
「っ、そうか」

 琉麒は突然白露をぎゅっと抱きしめた。なんで急に力強く抱きしめられたんだろうと思いながらも、彼の魅惑的な香りがふわんと香り幸福な気持ちになる。

「その後は笹を食べたくなったんだけど、手持ちの葉っぱが枯れちゃってたから竹林に出かけたんだ。そうしたら、宇天っていう名前のかわいい男の子に会ってね」
「宇天? ああ、葉家の子息か」
「知り合いなの?」
「知り合い……そうだな。互いに知ってはいる」

 琉麒は言いづらそうに顔を背けた。なんだか気になる反応だけれど、聞いて白露にわかることだろうか。一瞬ためらった後でどういう知り合いなのか聞き返そうとすると、先に琉麒が話しはじめた。

「それで、その者がどうかしたのか?」
「華族の常識とか、オメガについて色々と教えてくれたんだ。面白い子だったからまた会えるといいな」

 琉麒は考えるように数秒黙りこみ、白露の顔を気遣わしげに見つめる。

「白露、あまり彼とは会わない方がいいかもしれない」
「なんで?」
「将来的に決裂する未来が私には見える……そもそも話があわないと思う」
「そんなことないよ、楽しく過ごせたしいい子だった。どうしてそんなことを言うの?」

 せっかく友達になれそうな子と知り合えたのに、色々教えてくれる親切な彼とこのまま会えなくなるのは嫌だった。

 それにいつも竹林にいると言っていたから、茶室の側に通えば必然的に彼とも遭遇することになる。新鮮で採りたての笹が食べられなくなるのは嫌だ。

 眉をハの字にしながら詰め寄ると、琉麒は流麗な眉根を寄せる。

「なんと言えば理解してもらえるのか……うん、そうだな」

 琉麒は白露の真っ直ぐな髪の毛先を弄びながら遠くに視線をやり、また白露の顔に焦点を戻した。

「君は私の仕事を手伝いたいと思ってくれているんだったね」
「そうだよ、手伝いたい! 今はまだ無理そうだけど」

 白露が呑気に寝ている間に、琉麒一人がこんなにも目の下に隈を作るまで働いているなんておかしなことだ。

 今夜は琉麒を子守唄で寝かせてから、遅くまで勉強しよう。琉麒を助けられるようになるには、まだまだ知識が必要だ。

 白露が勉強を頑張る計画を立てていると、琉麒は黒髪から手を離した。

「そうであれば、これも経験か……いいよ、葉家の息子との交流を許可しよう。ただし、けして一人で会ってはならない。付き人と護衛付きで外出するように」
「わかった」
「笹も自由にしてくれ。白露一人が食べる分には問題ないだろう」
「わあ、ありがとう!」

 宮庭に生えている竹笹は里の苦くてもったりした味とは違って、爽やかな風味があるんだよねえと、うっとり頬を緩める。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

既成事実さえあれば大丈夫

ふじの
BL
名家出身のオメガであるサミュエルは、第三王子に婚約を一方的に破棄された。名家とはいえ貧乏な家のためにも新しく誰かと番う必要がある。だがサミュエルは行き遅れなので、もはや選んでいる立場ではない。そうだ、既成事実さえあればどこかに嫁げるだろう。そう考えたサミュエルは、ヒート誘発薬を持って夜会に乗り込んだ。そこで出会った美丈夫のアルファ、ハリムと意気投合したが───。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...