17 / 43
オメガの華族
しおりを挟む
体つきも華奢だと全身に視線を巡らせ、宇天のほっそりとした首に、高級そうな白い首輪が巻かれていることに気がついた。
「君もオメガなの?」
「そうさ。白露もでしょう? こっちに座って話そうよ」
自分以外のオメガに初めて出会った白露は、俄然この少年に興味が湧いた。いそいそと竹の腰掛けに座ろうとして、魅音に止められる。
「白露様、みだりに初対面の方のお隣に座るのはおやめになった方がよろしいかと」
「そうなの?」
宇天は魅音の訴えを聞いてムッと唇を尖らせた。
「付き人風情が、上流華族であるボクのすることに口を出さないでくれる?」
「申し訳ありません、ですが……」
魅音はためらうように口をつぐんだ。白露は宇天を観察する。帯も衿も銀糸が縫い込まれた高価そうな深衣を着ていた。背後には付き人もこっそり立っていて、わがままな主人ですみませんと言いたげな表情で頭を下げてくる。
宇天は瞳を怒らせて腕を組んでいる。白露はこそっと魅音に耳打ちした。
「彼は本当に華族の人で、危ない人とか不審者じゃないんだよね?」
「はい、それは間違いございません」
「だったら、少しだけお話させて。僕も宇天の話を聞いてみたいんだ。どうしてもダメだったら無理にとは言わないけど」
猫の耳が忙しなく動いて、魅音は狐護衛に目配せをした。護衛が眉をしかめながらも頷くと、魅音も渋々といった様子で許可を出してくれる。
(なんだろう、僕が他の人と関わるのはいけないことなんだろうか)
とにかく今回は話してもいいのだろうと判断して宇天の隣に座った。テン獣人の少年は面白くなさそうに魅音と護衛に視線をやった。
「キミの付き人は随分と過保護なんだね」
「僕が物知らずだから心配してくれているんだよ」
「笹の葉っぱを城内庭園で食べるくらいだものね、相当な世間知らずだ!」
宇天は笑いが堪えきれないといった様子でお腹を押さえた。もっと勉強しなきゃなあと白露は困ったように頬を掻く。ふわふわの黄色い尻尾を機嫌よさそうに振りながら、宇天は目を細めた。
「ねえ。ボクが皇都華族の常識を教えてあげようか」
「ほんと? 助かるよ!」
嬉しくて満面の笑みで返答すると、宇天は満更でもなさそうにふふんとほくそ笑んだ。彼の話は白露にとって全く知らない世界の出来事のようで、とても興味深い。
特に白露の興味を引いたのはオメガについての話だ。宇天にはもう発情期がきているらしい。宇天は足をぶらぶら遊ばせながら大袈裟に嘆く。
「発情期ってすごく辛いよねえ。オメガに生まれたからにはしょうがないことだけど、抑制剤を飲むと体が怠くて仕方がないし、飲まなかったらしたくてたまらなくなって、他のことに集中できなくなるから困ったものだよね」
「そうなんだ。僕はまだ発情期が来ていないからよくわからないけど、大変そうだなあ」
宇天は大きな目をさらにまん丸に見開いて、驚きを示した。
「まだ来てないの⁉︎ 変なのー、キミはボクより年上に見えるけど」
「やっぱり変だよね」
白露は苦笑しながら俯いた。身体はなんともないし、発情期になると大変そうだから成り行きに任せればいいかなと思っていたけれど、変だと言われると気になってくる。
(琉麒も僕と番になるためには発情期が来ないといけないって言っていたから、早く来るといいな)
どうすれば発情期が来るんだろう。白露は宇天の首輪を見下ろしながら尋ねた。
「宇天が発情期になった時はどんな感じだった?」
「どんなって、他のオメガと大体一緒だと思うけど? 最近怠いな、体も暑いし病気かなって部屋で休んでいたら、だんだんエッチなことがしたくてたまらなくなってきたんだ。抑制剤を飲んだらすぐ治ったけどね」
事もなさげに告げられて、白露は宇天のことが羨ましくなった。もしも普通のオメガだったなら、今頃琉麒とも番になれていたかもしれないのに。
眉根を下げて考えこんでいると、宇天は軽い調子で励ましてくれた。
「まあそのうち来るんじゃない? 気にしすぎるのもよくないから、自分磨きでもしてればいいと思う。後生畏るべしって言うでしょ?」
「えっ、なんて?」
また知らない言葉だ、華族の使うことわざだろうか。宇天は怪訝そうな顔をしながらも教えてくれた。
「忘れちゃったの? 若者には無限の可能性があるけど、それが開花するとは限らないからちゃんと頑張ろうねって意味でしょ」
「そうなんだ、勉強になるなあ」
白露が関心していると、宇天はえっへんと胸を張って誇らし気に語った。
「オメガたるもの華族言葉に精通し、芸事に秀でていなくてはね。ボクは笙の他に琴も習っているよ」
「すごいね、僕は楽器なんて弾いたことない」
「キミの家ってどういう教育をしてるの。教師を雇うお金もなかったわけ?」
華族は教師から楽器を習うものなんだと内心驚きながら、白露がただの庶民だと知って話をしてもらえなくなったら困るので、ぼかしながら伝えた。
「誰かに伝承とか簡単な計算を習うことはあったけど、教える専門家の人から習ったことはないよ」
「かわいそう、すごく貧乏なんだね。家が没落中なの? その割にはいい服を着ているけれど」
宇天の視線が銀の刺繍に移る。白露も腕を伸ばして柄を見た。
「君もオメガなの?」
「そうさ。白露もでしょう? こっちに座って話そうよ」
自分以外のオメガに初めて出会った白露は、俄然この少年に興味が湧いた。いそいそと竹の腰掛けに座ろうとして、魅音に止められる。
「白露様、みだりに初対面の方のお隣に座るのはおやめになった方がよろしいかと」
「そうなの?」
宇天は魅音の訴えを聞いてムッと唇を尖らせた。
「付き人風情が、上流華族であるボクのすることに口を出さないでくれる?」
「申し訳ありません、ですが……」
魅音はためらうように口をつぐんだ。白露は宇天を観察する。帯も衿も銀糸が縫い込まれた高価そうな深衣を着ていた。背後には付き人もこっそり立っていて、わがままな主人ですみませんと言いたげな表情で頭を下げてくる。
宇天は瞳を怒らせて腕を組んでいる。白露はこそっと魅音に耳打ちした。
「彼は本当に華族の人で、危ない人とか不審者じゃないんだよね?」
「はい、それは間違いございません」
「だったら、少しだけお話させて。僕も宇天の話を聞いてみたいんだ。どうしてもダメだったら無理にとは言わないけど」
猫の耳が忙しなく動いて、魅音は狐護衛に目配せをした。護衛が眉をしかめながらも頷くと、魅音も渋々といった様子で許可を出してくれる。
(なんだろう、僕が他の人と関わるのはいけないことなんだろうか)
とにかく今回は話してもいいのだろうと判断して宇天の隣に座った。テン獣人の少年は面白くなさそうに魅音と護衛に視線をやった。
「キミの付き人は随分と過保護なんだね」
「僕が物知らずだから心配してくれているんだよ」
「笹の葉っぱを城内庭園で食べるくらいだものね、相当な世間知らずだ!」
宇天は笑いが堪えきれないといった様子でお腹を押さえた。もっと勉強しなきゃなあと白露は困ったように頬を掻く。ふわふわの黄色い尻尾を機嫌よさそうに振りながら、宇天は目を細めた。
「ねえ。ボクが皇都華族の常識を教えてあげようか」
「ほんと? 助かるよ!」
嬉しくて満面の笑みで返答すると、宇天は満更でもなさそうにふふんとほくそ笑んだ。彼の話は白露にとって全く知らない世界の出来事のようで、とても興味深い。
特に白露の興味を引いたのはオメガについての話だ。宇天にはもう発情期がきているらしい。宇天は足をぶらぶら遊ばせながら大袈裟に嘆く。
「発情期ってすごく辛いよねえ。オメガに生まれたからにはしょうがないことだけど、抑制剤を飲むと体が怠くて仕方がないし、飲まなかったらしたくてたまらなくなって、他のことに集中できなくなるから困ったものだよね」
「そうなんだ。僕はまだ発情期が来ていないからよくわからないけど、大変そうだなあ」
宇天は大きな目をさらにまん丸に見開いて、驚きを示した。
「まだ来てないの⁉︎ 変なのー、キミはボクより年上に見えるけど」
「やっぱり変だよね」
白露は苦笑しながら俯いた。身体はなんともないし、発情期になると大変そうだから成り行きに任せればいいかなと思っていたけれど、変だと言われると気になってくる。
(琉麒も僕と番になるためには発情期が来ないといけないって言っていたから、早く来るといいな)
どうすれば発情期が来るんだろう。白露は宇天の首輪を見下ろしながら尋ねた。
「宇天が発情期になった時はどんな感じだった?」
「どんなって、他のオメガと大体一緒だと思うけど? 最近怠いな、体も暑いし病気かなって部屋で休んでいたら、だんだんエッチなことがしたくてたまらなくなってきたんだ。抑制剤を飲んだらすぐ治ったけどね」
事もなさげに告げられて、白露は宇天のことが羨ましくなった。もしも普通のオメガだったなら、今頃琉麒とも番になれていたかもしれないのに。
眉根を下げて考えこんでいると、宇天は軽い調子で励ましてくれた。
「まあそのうち来るんじゃない? 気にしすぎるのもよくないから、自分磨きでもしてればいいと思う。後生畏るべしって言うでしょ?」
「えっ、なんて?」
また知らない言葉だ、華族の使うことわざだろうか。宇天は怪訝そうな顔をしながらも教えてくれた。
「忘れちゃったの? 若者には無限の可能性があるけど、それが開花するとは限らないからちゃんと頑張ろうねって意味でしょ」
「そうなんだ、勉強になるなあ」
白露が関心していると、宇天はえっへんと胸を張って誇らし気に語った。
「オメガたるもの華族言葉に精通し、芸事に秀でていなくてはね。ボクは笙の他に琴も習っているよ」
「すごいね、僕は楽器なんて弾いたことない」
「キミの家ってどういう教育をしてるの。教師を雇うお金もなかったわけ?」
華族は教師から楽器を習うものなんだと内心驚きながら、白露がただの庶民だと知って話をしてもらえなくなったら困るので、ぼかしながら伝えた。
「誰かに伝承とか簡単な計算を習うことはあったけど、教える専門家の人から習ったことはないよ」
「かわいそう、すごく貧乏なんだね。家が没落中なの? その割にはいい服を着ているけれど」
宇天の視線が銀の刺繍に移る。白露も腕を伸ばして柄を見た。
371
あなたにおすすめの小説
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している
逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」
「……もう、俺を追いかけるな」
中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。
あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。
誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。
どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。
そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。
『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』
『K』と名乗る謎の太客。
【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる